再びカワイイ区、というよりそれを報じる産経の話

えーと最初に、これは本当に新聞記事なんでしょうか。「少数の偏った意見により、市政をねじ曲げることができる現行の市男女共同参画推進条例は明らかに不当」「意味の分からない主張を振りかざす少数のジェンダーフリー勢力が市政を好きなように揺さぶることができる制度」とか、個人的な偏見と感情と政治的主張とをむき出しにしたこの文章が本当に「記事」として新聞に掲載されているのでしょうか。
残念ながら、産経新聞の現物を目にする機会がほとんどない九州においては、それを確認することが困難です。一応、数年前から九州・山口地域でも産経新聞が販売されるようになったらしく、現在でもテレビCMは見かけるのですが。まあ、期間限定キャンペーンといいながら販売開始当初から現在まで、「6ヶ月以上の購読契約で櫻井よしこのサイン本プレゼントを続けているようですから、その程度の部数なのでしょう。

ところで、この「記事」(のタイトル)を最初に目にしたとき、違和感を覚えました。「一転存続へ」。「一転」とは、デジタル大辞泉によれば「ありさまががらりと変わること」。ですから、このタイトルではカワイイ区事業は廃止されるはずであったかのように読めます。しかし、福岡市男女共同参画審議会の答申は次のとおりです。

(1)「カワイイ区」事業については、「カワイイ」という言葉に対する市民の多様な受け取り方にも配慮し、広報等の見直しを行うこと。
(2)行政広報物だけでなく、新たな事業を実施する場合においても、男女共同参画部署の助言をいれながら、その視点から望ましいものとするよう周知徹底すること。
(3)「カワイイ区」事業が、男女共同参画の視点に資する事業として展開することを期待する。

一般的な読解力があれば、この答申が事業の廃止を求めるものではないことは明らかだろうと思います。実際、他社の報道は次のようなものでした(消えている記事もあるので見出しと本文の抜粋のみ)。

  • 「カワイイ区」事業見直しを答申 福岡市の審議会(日本経済新聞)

答申はカワイイ区事業について「男女共同参画の視点で展開することを期待する」と指摘。HPなどの「福岡は女性がカワイイ」といった表現を改めるよう求めた。

  • 「カワイイ区、容姿連想見直しを」市審議会が答申へ(読売新聞)

福岡市のホームページ(HP)上の仮想区「カワイイ区」について、事業内容を検討していた市男女共同参画審議会は21日、女性の容姿を連想させる表現を市に改めるよう求める答申案をまとめた。

答申書案は、「カワイイ区」という名称や、HP上の「カワイイ」という表現について「容姿をイメージするような表現であり、十分な配慮を欠いていた」などと指摘。不適切な表現を改め、市の男女共同参画担当部署の助言を受けて事業を進めるよう求めた。

  • 福岡「カワイイ区」消滅? 「差別助長」苦情受け見直し(朝日新聞)

福岡市がPRのために設けた仮想区「カワイイ区」がなくなるかもしれない。市民から「男女差別を助長する」との苦情があり、高島宗一郎市長の諮問機関である市男女共同参画審議会が、事業の見直しを答申する方針を固めたからだ。

答申書案はホームページ内の「福岡は女性がカワイイ」などの部分が、容姿をイメージする表現だと指摘し、不適切な表現は改めるよう要求。「女性にも男性にも生き生きと暮らせるような『カワイイ区』であると理解されるように表現する必要がある」とした。

この中で、「廃止」を匂わせているのは朝日新聞のみです(またお前らか)。それでも一応、クエスチョンマークをつけたり、「かもしれない」をつけたりして断言は避けています。スポーツ紙であるスポニチでさえ、答申書の内容をきちんと報道しています。

それが、産経の別の記事ではこうです。

  • 「カワイイ区」廃止へ 「男女差別助長」の声 福岡市

福岡市がインターネット上に設けた仮想行政区「カワイイ区」に「男女差別を助長する」などの苦情が寄せられたとして、市長の諮問機関「市男女共同参画審議会」(藤井千佐子会長、18人)は21日、「カワイイという言葉の受け取り方に配慮し、広報の見直しを行うこと」とする報告をまとめた。これにより、高島宗一郎市長が肝いりで設けたカワイイ区はわずか半年間で廃区は避けられない見通しとなった。

この記者は答申書も読んでないのかよ、と思ったのですが、よく見ると「廃止は避けられない〜」の直前に「『広報の見直しを行うこと』とする報告をまとめた」とありますし、最後の段にも「カワイイ区の廃止を主張する意見も出ていたが、最終的に見直しを求めることで一致したという」とまで書いてあります。これらの記事に関わった記者やデスクは答申書を読んでいないわけではなく、日本語の能力に著しく欠けているのでしょうか。それとも、「偏った少数のジェンダーフリー論者によって市政がねじ曲げられた」ということにした方が自分たちに都合がいいから、見たものを見なかったことにしているのでしょうか。いずれにしても報道人として失格ではないですかね。産経の記者/デスクとしては大合格かもしれませんけど。

さらに産経の別の記事でこんな気になる表現が。

  • 「問題にするのはどうか」 カワイイ区 福岡商議所・末吉会頭

また、カワイイ区の区長を務めていたAKB48のメンバー、篠田麻里子さんも退任したことについて「福岡のPRに貢献していたのに残念。本来の趣旨が曲げられている」と不快感を示した。

私はこの文を読んで「え? 篠田麻里子がホントにこんなこと言ったの?」と思ってしまったのですが、スポニチの記事を読んで意味が分かりました。

AKB48の篠田麻里子(26)が区長を退く事態に「福岡のPRにつながっていたのに残念」と述べた。

事実報道においても日本語の表現においても、産経新聞はスポーツ紙以下ということで。