自民党政権になると0歳児保育はなくなるのか?

NPO法人フローレンスの駒崎さんのエントリが話題になっている。

自民党中長期政策体系「日本再興」第六分科会「教育」の内容についてである。このエントリへの反応として、自民党に批判的なものも多くある一方で、「無くすとは書いてない」「『父母ともに育児休業を活用』『家庭保育支援を強化する』だからいいじゃないか」「『原則』であって『例外を認めない』とは言ってない」等の意見もみられる。実際のところはどうであろうか。
確かに件のPDFファイルには「0歳児保育をなくす」とは書いていない。しかし、山谷えり子が「今、ゼロ歳時の保育に月に50〜60万円かかっているんですよ。(中略)それなら、企業に月に10万円あげるから、母親にもっと育児休業を取らせてあげる政策があってもいい」とか「ゼロ歳児保育にかけるお金は、家の中でしっかりと赤ちゃんを育てていらっしゃるお母さんに、児童手当てとして何倍も支給すればいい」と言っていたり、下村博文が「極端な例では、0歳児保育の場合、赤ちゃん1人につき税金投入額は月 66万円、つまり1人の0歳児に年間700万円もの税金をかけているのです。むしろ直接母親に20万円をお渡しして、家庭で教育をし、必要があれば公的機関がフォローする」と言っているように、現在0歳児保育にかかってる費用を家庭保育(あるいは企業)への補助に移行しようというのであって、0歳児保育は現行のままで家庭保育への補助を手厚くしようというものでないことは明白である*1。しかも、「父母ともに」とある割には2人が言及しているのはいずれも「母親」である。
また、育児休業を「活用」ということは、少なくとも現段階では、原則最低1年間である現行制度を前提としていると思われ、その場合には当然駒崎さんがブログに書いているような事態が生じる可能性が高い。そもそも、育児休業を取りたくても取れない、もっと長く取りたいけれど取れない理由は、単に育児休業中の収入が減るからではない。育児休業を取ることによって職場に迷惑がかかることや、その後の雇用の継続や処遇に不安を感じるからという面も大きい。それは0歳児保育の代わりにお金を支給するだけでは当然不十分で、企業への規制を強くする必要があるが、果たして自民党がそんなことをするだろうか。そもそも、育児休業等に関する企業への助成はすでにあるのだが、以前ある社労士さんに聞いた話では、多くの中小企業はその存在を知らないし、知っていても手続きが面倒で利用しない、とのことであった。「企業に月10万円あげる制度」を作ったところで、手続きが煩雑であれば利用は伸びないだろうし、手続きを簡素化すれば自民党が大嫌いな(いや、ある意味大好きな?)不正受給の問題が出てくるだろう。
それに、「あくまでも原則」という意見もあるが、上述のように「家の中でしっかりと赤ちゃんを育てていらっしゃるお母さん」とか、「働く女性の支援だけでなく、働きたいけれども、子どもが小さなときは専業主婦で頑張っている女性への支援」などといっている議員や政党が、0歳児を預けて仕事をする母親(夫婦や家庭ではなく)を単なる「例外」ではなく「規範から逸脱するもの」と位置づけるだろうという懸念もある。
以上のように考えると、「0歳児保育がなくなる」は言い過ぎだろうが、0歳児保育の縮小を目論んでいること、家庭保育の担当者として母親が想定されていることはまず間違いないだろうという気がする。少なくとも、現行の制度はそのままで家庭保育支援をさらに充実する、というのは「0歳児保育がなくなる」以上にありそうもないことだと思える。

*1:ちなみに、「0歳児保育に月50〜60万」という数字の恣意性については、「博多連々」のkirikoさんによって指摘されている。