アラサー女の東海岸一人暮らし

ワシントンDCに住む女の考えごと

独り身女へのプレッシャーinアメリカ

 

日本社会に暮らし、日本企業に勤めていると、20代後半を過ぎて結婚をしていない人間に対するプレッシャーがとても強いと感じる。特に、女性でこのプレッシャーを感じたことのない人なんていないんじゃないだろうか。

私個人としては、結婚願望はあるものの、仕事も趣味もとても楽しいので、結婚したいと思える人がいつかいればしたいかな~くらいのスタンスだ。それでも日本にいた頃は、親や会社や社会からの「早く結婚しろプレッシャー(さらに言えば、結婚できないのは人格に問題があるからだという謎の決めつけ)」を浴びすぎて辟易していた。

周りでも「海外に比べて日本はこういったプレッシャーが強いから生きづらい」といったような意見をよく聞いた。海外は個人主義だから個人の決定が尊重されるけれど、日本は集団主義というか集団の構成員に同質性を求めるから皆と同じようにしなければいけなくて、社会から結婚することを押し付けられているというようなもの。

だからアメリカに赴任している間は少しはラクになるのかなと思ったが、しばらく暮らしてみて、別にそんなことはないような気がしてきたので、このエントリで書いてみる。

 

アメリカと日本では、プレッシャーの種類が違う。

まず、「早く結婚しないの?」といった言動(これをマリッジハラスメントと言うらしい。)については、アメリカではたしかに正面きっては行われてないように思う。

最近こんな記事を読んだけど、これは妥当だと思う。

特にリベラルを自称する人が多い都市部では、結婚という形をとらないカップルが多いのもあるし、同性愛者も多いし、不用意に結婚プレッシャーをかけるような言葉は意識的に控えられている印象だ。

 

でも、その代わりにあるのが、パートナーハラスメントとラブハラスメントだ。

 

アメリカは個人主義だけど、一方で強固なカップル文化/パートナー文化が存在する。

高校のプロムパーティー(卒業パーティー)にカップルで参加してダンスするというのがすでにそれを表しているが、同僚の家でのホームパーティーや会社のクリスマスパーティーなどでも、基本はパートナーを連れて参加することになっている。仕事終わりや休日に出かけるときも、もちろん(恋愛関係にない)同性の友人と遊ぶこともあるが、だいたいはカップルで出かけるのが基本で、社会の最小構成単位は1人ではなく2人組なのである。

アメリカ人の友達から聞いた話で、印象的なものがある。

「先週友達の結婚式のパーティに出たら、新婦の親戚らしき女性がいたんだけど、その人の夫は海軍で、『彼は今艦に乗ってるから今日は来れない』と言ったの。そうしたら、みんな口々に“Thank you for your service.(兵役お疲れ様です、国のためにありがとう)”ってその奥さんに言いながら握手しだしたの。めっちゃアメリカっぽくない?!」

彼女はアメリカ外に住んでいた期間が長いので、アメリカの文化や習慣を冷静に見ているのだが、このエピソードがめっちゃアメリカっぽいポイントは2つある。

まず1つは、日本では想像できないくらい軍人が尊敬されているということ。”Thank you for your service”というセリフを、至るところでよく耳にする。バーで、電車で、居合わせて話した相手が軍人だとわかると、ほぼ100%このセリフが出てくる。軍人に対するリスペクトは精神的なものだけでなく、博物館の入場料でもスポーツチケットでも大抵のものは軍人向けのディスカウントがある。相手が軍人だとわかると、食事をおごらせてくれという人が普通にいる。野球を見に行けば、1試合に1回は必ず軍人が登場してカメラの前で手を振って、観客が総立ちで拍手を送る。これはすごくアメリカらしい。

そしてもう1つsoアメリカンなのは、女性自身が軍属というわけではないのに、お礼を言われていること。たしかに軍人の夫が国のために働けるのはパートナーである彼女のサポートがあるゆえかもしれないけど、妻まで周りからの感謝の対象になるかというとちょっと違う気がする。しかしアメリカでは、何かの表彰式などで夫婦のどちらかが表彰されるときも、必ず配偶者もしくはパートナーも、一緒に壇上にあがるのだ。私はこういう光景を見るたびに、「受賞したのはカップルのうち片方なのになぜだろう」と奇妙に思っているけれど、大多数のアメリカ人は違和感を抱かない。

 

これについて、興味深い考察を見つけたので、一部を引用する。

jisin.jp

 

”根本的に、人が何かの仕事に打ち込めば打ち込むほど、アメリカ社会はその人物だけでなく、その妻をも含め非常に温かく見つめるというのが、彼らの思考法のポイントです"
"さらに踏み込んだ分析をすれば、「社会で大成功することと素晴らしい結婚とでは、どちらがより大切なのか?と問えば、アメリカ社会は間違いなく、素晴らしい結婚に軍配を上げます。それこそが、「アメリカ社会=個人主義社会=夫婦主義社会」の根底をなす考え方と言える"

 

まさにその通りですごく納得する。とにかく何をするにもパートナーが1セットなのだ。
日本の"結婚してはじめて一人前"とはまた違うけど、パートナーがいないということは社会の構成単位として欠けた状態であるという前提は、アメリカにも強くあると思う。“一人前の人は当然にパートナーがいるものだ”といったような雰囲気。そのため、他の海外ではわからないが少なくともアメリカでは、パートナーハラスメントに近いものが存在する。

 

LOVE至上主義

 また、ラブハラスメントというべきものも存在する。それは、LOVEに対する絶対視があるから。

男も女も老いも若きもLOVEに対する憧れを強く持っていて、LOVEこそが価値の最上位にくるものだと盲目的に信じている。このLOVEって、日本語でいう「愛」とは微妙に違う気がする。愛よりは恋に近くてもっと情熱的な感じで、相手に尽くす要素が含まれているというか。

みんな、人生には常にLOVEが必要だと心の底から信じこんでいる(だから夫婦間でもLOVEがなくなると即離婚するわけで、それが高い離婚率につながっているのだと思うが)。イタリアとかフランスが情熱の国だとかアモーレの国だというのはいろいろなイメージでよく知られているが、アメリカがここまでLOVE重視の国だとは住むまでは全然知らなかった。

だからLOVEを交わすパートナーがいない人は、LOVEを絶対視するアメリカ人からしたらとても可哀想な存在なのだ。嫌味でもマウンティングでもなく、本気でLOVEのない人生なんて有り得ないと思っている。

「結婚しているの?」「パートナーはいるの?」と訊かれて「いない」と答えると、120%「お気の毒に……」という様子を見せられる。私だって愛されることも愛することも素晴らしいとは思うけど、別に常にパートナーがいなくたって人生は楽しいので、余計なお世話だなという感じだ。でもこの問答を繰り返すたびに、だんだん自分のほうがおかしいんじゃないだろうかと思い始めてくる。彼らも悪気がないわけだし、別に気にする必要はないのかもしれない。でも、あまりにみんながみんなこの価値観なので、疲労を感じる。

 

アメリカで「パートナーがいたほうがいい」「LOVEのある人生じゃないと」と言われるたびに、私はいつも反論することにしている。

「そんなこと言ったってアメリカの離婚率は50%超えてるじゃないですか。半分以上の人が失敗しているのに、なぜそれをそんなに薦めるの?」

 アメリカの離婚率は統計にもよるけどどれも50%を超えている(日本は33%くらい)。半分以上の結婚は失敗に終わっているということだ。離婚件数が日本に比べて多いからか、離婚自体が結構カジュアルな存在だ。会話の中でも「前の奥さんとの子供がこの前誕生日で~」とか「今日はstepmother/stepfatherと会う」とかよく聞く。

個人的には、「そんなに結婚に失敗するカップルが多いのであれば、パートナー選びには慎重にならないと」というような考え方になるのでは?と思うのだが、これが日本人とアメリカ人のメンタリティの差で、アメリカでは「半分以上の人が失敗しているんだから、自分が失敗してもなんとかなるってことだ。とりあえず結婚してみよう」という考える人が多いようだ。

 

ちなみに私の反論に対しても、だいたいこう返ってくる。

「LOVEがなくなったらまた新しいLOVEを探せばよい」

そうだった……。アメリカ人は個人主義かつ夫婦主義であるとともに、超絶楽観的なんだった……と思わされる。

 

日常生活の生きづらさ

他人から日々受けるパートナーハラスメント、ラブハラスメント以外にも、日常生活において、独りで居づらさを感じる場面は多い。

レストランに入るとき、入口で人数を聞かれて「One」と言うと、「Pardon?」と聞き返される。たいして高級なレストランでなくても、だ。一人で食事をしている人(特に女性)などほとんど見かけない。食事の量がめちゃくちゃ多いので一人では食べきれないというのもあるのかもしれないが……。

映画やコンサートを見に行っても、一人で来ている客はいない(以前記事に書きました→http://dcdemorouhi.hatenablog.com/entry/2017/03/02/103945)。
ホテルもツインベッドの部屋が極端に少ないのは、同じベッドで寝る間柄での旅行が主流であることの証拠だろう。まあ一つのベッドに同衾できない人間とは部屋も別にする、というのが欧米ホテルの基本的な考え方というのもあると思うけれど。
スポーツのチケットも1枚だけで買うと高くて、2枚以上の購入だと席1席あたりの値段が下がる。
皿だってクッションだって、偶数セットでばかり売っている。

そして、治安の問題もある。

住んでいる場所によっても違うだろうけれど、総じて治安はよくない。日没以降に女が一人で行動するのは危険だ。会社が終わって駅に向かって歩いているだけであやしい人にしつこく言い寄られたり、物乞いにしつこく金銭を要求されたりする。私の働くワシントンDCにはダウンタウンのど真ん中にスポーツスタジアムがあって、アイスホッケーとバスケの試合を頻繁にやっている。でもその周囲は夕方以降かなり治安が悪くて、女1人での観戦はかなり危ない。女2人だとしてもかなり怖いと思う。そういうときに、「ああ一緒に歩いてくれる男性がいたら」と心から思ってしまう。

「怖くて首都のど真ん中のスポーツチームを応援しに行くことができない」というのは、日本からきた当初、結構衝撃なことだった。東京ドームにジャイアンツの試合見に行くことを、治安のせいで躊躇するってことだ。そんな治安状態の中で住んでいると、安心して日々を過ごすためには彼氏が必要だ、という考えになってくる。

日本の、特に東京が、治安もよいし独り身に優しすぎる地域なのもあるのだろう。女1人でレストランに行こうが映画を見ようがスポーツ観戦に行こうがバーで飲んでようが、誰も気にしないし、何の不安もなく行動することができる。そういう場所でしか暮らしたことのない私にとっては、アメリカもかなり生きづらいのだ。

別にアメリカの文化を否定するわけではない。素晴らしい点もたくさんある。ただ、海外が日本に比べて生きやすいかというと別にそんなことはなくて、きっとどこに住もうが隣の芝は青いのでは、ということが言いたかったのでした。

 

なお、アメリカでもミレニアル世代は結婚しなくなってきている、という分析がある。

toyokeizai.net

経済的な理由とか、同棲でもOKだとかもあるけれど、やっぱりある意味でパートナーさえいれば、社会から変に心配されないので済むので、必ずしも結婚という形を取らなくてよい、というのも理由にあるのだろうなと思う。

 

※ちなみにLOVEが必要云々に対して「とうらぶ(刀剣乱舞)があるのでラブは間に合ってます」と言っていたら、一部のオタクアメリカ人には大ウケした。