道徳的動物日記

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2016-01-01から1年間の記事一覧

メモ:死がもたらす危害の「時間的利益相対説」

ジェフ・マクマーン(Jeff McMhan)が著書『Ethics of Killing(殺すことの倫理学)』で主張している「時間的利益相対説(Time-Relative Interest Account)」についてのメモ。とはいえ、『Ethics of Killing』は現在手元にないので、デビッド・ドゥグラツィ…

「動物の権利と先住民の権利」 by ウィル・キムリッカ、スー・ドナルドソン

政治哲学者のウィル・キムリッカとスー・ドナルドソンの共著『人と動物の政治共同体(現代:Zoopolis)』の邦訳が発売されたが、何週間か前にAmazonに予約したというのにまだ届かないので、代わりにキムリッカとドナルドソンが無料で公開している論文「動物…

読書メモ:デール・ジェイミーソンの環境倫理学入門

Ethics and the Environment: An Introduction (Cambridge Applied Ethics) 作者: Dale Jamieson 出版社/メーカー: Cambridge University Press 発売日: 2008/01/24 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 先日に読んでいた本。著者のデール…

「限界事例の議論」に関する、ゲイリー・ヴァーナーの議論

道徳的地位やパーソン論に関する議論では「限界事例の議論(Argument from Marginal Cases)」がよく出てくる。 「人間はパーソンであるが動物はパーソンではない」と論じるとき、人間がパーソンである理由として「過去・現在・未来に渡って自分が存在すると…

メモ・二層功利主義とはなんぞや

R・M・ヘアが『道徳的に考えること』にて論じている「二層功利主義」という考え方を、『道徳的に考えること』や他のヘアの著作を読み解きながら書かれたゲイリー・ヴァーナーの著作『Pesonhood, Ethics, and Animal Cognition: Situating Animals in Hare's …

メモ・功利主義と思考実験、功利主義と直観

・功利主義に対してよくある批判が、「ある犯罪によって社会不安が起こり暴動が起こりそうになっており、暴動が起こると確実に何人以上かが死ぬ。政府には犯人を特定して捕まえることができないが、無実とわかっている一人の男を犯人だということにして処刑…

「共感の罠」 by ピーター・シンガー

www.project-syndicate.org 今回紹介するのは倫理学者ピーター・シンガーが先日にProject Syndicateに発表した記事。心理学者ポール・ブルームの新刊の書評的な記事である。 「共感の罠」 by ピーター・シンガー バラク・オバマがアメリカ大統領として選出さ…

メモ・道徳的地位と道徳的重要性、なぜパーソンの生は特別な道徳的重要性を持つのか

davitrice.hatenadiary.jp 前回の記事の付け足し、補足的な内容。書き終わってから気付いたが、前回では「人格」「準-人格」と訳していたところを「パーソン」「準-パーソン」と訳してしまった。直すのめんどくさいのでそのままにしておく。意味は一緒。 パ…

「捕鯨に対する文化的偏見?」 by ピーター・シンガー

www.project-syndicate.org 今回紹介するのは、倫理学者のピーター・シンガーが2008年の1月に Project Syndicate に発表した、「Hypocrisy on the High Seas?(公海上の偽善?)」という記事。2016年に発売されたシンガーの倫理学エッセイ集である…

『動物と、ポストモダニズムの限界』 by ゲイリー・シュタイナー

哲学者のゲイリー・シュタイナー(Gary Steiner)が、本人の著書『Animals and the Limits of Postmodernism(動物と、ポストモダニズムの限界)』について短く解説している記事を紹介する。 私はポストモダニズムにはあまり詳しくないのだが、いくつかの本…

科学的知識に基づいた動物倫理:ゲイリー・ヴァーナーのパーソン論

動物について言及する倫理学的主張の多くは「人間だけでなく動物も道徳的地位を持つ」「人間だけでなく動物も道徳的配慮の対象になる」と主張するが、「人間と動物は全く全く同じ道徳的地位を持つ」とは主張しない。例えば人間と猫を比較する場合には、多く…

ペット動物の去勢に関する倫理

猫や犬などのペット動物に去勢・不妊手術を行うことは日本でも一般に行われているし、動物愛護協会も各都道府県の獣医師会も環境省も支持しているようだ*1。だが、インターネットやメディアではペット動物に去勢・不妊手術を行うことへの反対意見を見かける…

オルタナ右翼とソーシャル・ジャスティス・ウォーリアー

quillette.com Quilletteというサイトに掲載された記事を紹介。 「社会正義左翼とオルタナ右翼:我らの分断された新世界」 by ベン・シックススミス あなたが猫の写真や料理のレシピやヌード写真以外のことをインターネットで調べた経験があるなら、現代政治…

19世紀アメリカにおける子供の権利と動物の権利

humanitiesctr.cas2.lehigh.edu 前回に引き続き、動物愛護運動の歴史を書いた本に関する記事を紹介。 「政治的なケアと、子供と動物に対する配慮:歴史的視点」 (前略) 「感傷と野蛮:アメリカの歴史における動物と子供の境界を崩す」と題された講演の冒頭…

イギリスにおける動物愛護運動の歴史

www.csmonitor.com クリスチャン・サイエンス・モニター誌に掲載された書評を紹介する。 書評:『動物たちのために』 by ランディ・ドティンガ (Randy Dotinga) 数世紀前のイギリスで行われていた動物たちに対するショッキングな虐待は、歴史からは忘れら…

動物倫理・功利主義における「置き換え可能性」の議論

www.irishtimes.com 今回紹介するのは The Irish TImes というサイトに掲載された、功利主義系の倫理学者タティアナ・ヴィサクのインタビュー記事。ピーター・シンガーの『実践の倫理』などでも取り上げられている、動物や人間の生命の「置き換え可能性(rep…

アメリカにおける動物愛護運動の歴史

www.csmonitor.com 今回紹介するのは、2014年の4月にクリスチャン・サイエンス・モニター誌のホームページに掲載された、アメリカの歴史家 ダイアン・ビアーズ(Diane Beers) へのインタビュー記事。 ビアーズはアメリカの動物愛護運動の歴史について…

退行的左翼とイスラム教

www.wikiwand.com togetter.com 上にリンクを貼った記事などでも紹介されたり言及されたりしているが、近頃の英語圏の無神論者や反PC界隈のメディアやブログ等を読んでいると、 Regressive Left 退行的左翼 という言葉を目にする機会がある。 退行的左翼に…

実用的な道徳理論としての功利主義 (『モラル・トライブズ』の著者へのインタビュー記事)

news.harvard.edu Havard gazette というサイトに掲載された、心理学者兼道徳哲学者のジョシュア・グリーンのインタビュー記事について、後半だけ紹介。省略箇所に合わせてちょっと意訳もしている。これだけじゃなんのことかわからない人も多いと思うので気…

「アイデンティティ・リベラリズムの終焉」by マーク・リラ 

http://www.nytimes.com/2016/11/20/opinion/sunday/the-end-of-identity-liberalism.html 今回紹介するのは、ニューヨークタイムスに掲載されたマーク・リラ(Mark Lilla)の記事。リラは政治科学者兼歴史学者であるらしく、政治的立場としては左派であるよ…

「ブルキニを禁止する?」 by ピーター・シンガー

www.project-syndicate.org 今回紹介するのは倫理学者のピーター・シンガーが2016年の9月に Project Syndicate に発表した記事。最近はドナルド・トランプ当選に関連してジョナサン・ハイト等による多文化主義について批判的な記事を翻訳していたが、こ…

トランプ当選とかアイデンティティ・ポリティクスとかに関する適当な備忘録

・ 以下の記事のなかで、会田弘継は以下の発言をしている。 synodos.jp よくトランプ現象は人口が減っていく白人たちの雄叫びというように解釈されますが、それも短絡的な考え方ではないかと私は思っています。たしかに、トランプだけ見ずにサンダースの方も…

トランプ現象と多文化主義 (ジョナサン・ハイトのインタビュー記事)

www.vox.com 今回紹介するのは、 Vox という web サイトに掲載された、社会心理学者のジョナサン・ハイト(Jonathan Haidt 、文中では JH)へのインタビュー記事。ドナルド・トランプが大統領に当選した一週間後に発表された記事だが、記事の内容としては、…

「ドナルド・トランプと、社会科学の失敗」 by ユリ・ハリス

quillette.com 今回紹介するのは Quillette というサイトに掲載された、ユリ・ハリス(Uri Harris)という経済学者?の記事。アメリカ大統領選挙にてドナルド・トランプが勝利した理由について社会科学的に分析している記事…ではなくて、トランプの大統領当選…

「なぜ動物を食べることに罪悪感を抱かないのか?」

theconversation.com 今回紹介するのは、心理学者のキャロライン・スペンス(Caroline Spence)という人が2015年にオーストラリアの Conversation 誌に掲載誌した記事。社会心理学の論文が色々と参照されている。 「なぜ私たちは動物を食べることにもっ…

「工場畜産は人類史上最大の罪の一つだ」 by ユヴァル・ノア・ハラリ

www.theguardian.com 今回紹介するのは歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)がイギリスのGuardian誌に掲載した記事。 最近邦訳が出たハラリの著書『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福( "Sapiens: A Brief History of Humankind" )…

「分裂したアメリカ政治を乗り越える方法」 by ジョナサン・ハイト、ラヴィ・アイヤー

www.wsj.com 社会心理学者のジョナサン・ハイトとラヴィ・アイヤーが2016年の11月4日にウォール・ストリート・ジャーナルに発表された記事。ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプとの大統領選の結果が出る数日前に発表された記事だが、選挙の結…

ピーター・シンガーと資本主義

theconcourse.deadspin.com 今回は、Concourseというwebサイトに掲載された「革命は行ってもよいだろうか?世界一の倫理学者に訊いてみた」というタイトルの記事を軽く紹介したい。 記事の冒頭では、現代のアメリカにおける富裕層と貧困層との間の圧倒的な格…

「長い目で見れば、戦争は人類を安全にして豊かにしてきた」by イアン・モリス

www.washingtonpost.com 今回紹介するのは、2014年の4月に歴史家のイアン・モリス(Ian Morris)が Wshington Post に発表した記事で、自著『War! What is Good For ? : The Role of Conflict in Civilization, from Primates to Robots』 で行っている…

「なぜヨーロッパが世界を征服したのか?」  by フィリップ・T・ホフマン

www.foreignaffairs.com 今回紹介するのは、歴史学と経済学の教授であるフィリップ・T・ホフマン(Philip T Hoffman)が2015年の10月に Foreign Affairs に掲載した記事。同年に発売された自著の 『Why Did Europe Conquer the World ?(なぜヨーロッ…