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アニメ「僧侶と交わる色欲の夜に…」応援上映イベントに行ってきた話

突然ですが、「僧侶と交わる色欲の夜に…」という漫画をご存知でしょうか。

今年1月に書いた記事でも触れましたが、TL(ティーンズラブ)界で2015年に爆発的な"僧侶ブーム"を巻き起こした大ヒット作品です。

*ティーンズラブ…少女漫画的な絵柄と人物設定でありながら、具体的かつ直接的な性的表現が物語の中で展開される女性向けの商業漫画(基本的に全年齢)

僧侶と交わる色欲の夜に…(Clair TL comics)

スマホ広告界でも一世を風靡したので、ご覧になったことがある方も多いかと思います。

 

2017年4月、この「僧侶と交わる~」はなんとTOKYO MXでのアニメ化を果たしました。

TL作品として初のアニメ化、しかも地上波!5分枠のショートアニメとはいえこれは衝撃的です。事件です。何があったんだTOKYO MX。

YouTubeで1話が見られますので、お時間のある方はぜひこれだけでもご覧いただきたい。原作とはまた違って非常にシュールな、独特の味わいがある作品となっています。


【僧侶と交わる色欲の夜に・・・】第1話「僧侶の前に…俺だって男だよ」【公式】

このアニメが面白いのは、性的描写の規制度(つまりエロ度)によって1話ごとに3パターンが存在することです。

まずは地上波版(全年齢)。YouTubeなどに上がっているのもこれですね。

次にR-15版。これはアニメ専門チャンネルAT-Xにてゾーニングをかけた上で放送。

そして肝心の(?)R-18版。これはコミックフェスタ / アニメZoneにて有料で配信されています。パッケージもこの3バージョンでそれぞれ発売される様子。

詳しくは後で触れますが、この構造自体が非常に興味深く(男性向け深夜アニメではBDでの「規制解除」などままある手法かとは思いますが)、同時に制作現場では最大の苦労ポイントでもあったようです。

 

さてこのアニメ僧侶、放送中もチラホラとは話題になっていましたが、この度放送終了を記念してなんと「応援上映イベント」の開催が決定!

次クールから始まる「スカートの中はケダモノでした。」(これも2016年売れに売れたTLが原作。僧侶と同じ星雲社です)の第1話先行上映も兼ねたトークイベント、なんと現役僧侶も登壇予定(仏教界、あまりにも懐が深い…)、さらに木魚持ち込みOK(!??)とのことで、

 まあ、行きますよね。これは。さすがに。

色々と戸惑いながらとりあえずチケットを購入。

イベント当日が近づいてくる中、「キンブレ(サイリウム)はあるけどやっぱ木魚も要るかな…」と思い始め、「ていうか木魚ってどこで買えるの?」と検索してみたら何のことはない、Amazonに沢山ありました。しかも安い。ちゃんとしたものは流石に1万円超えるようですが、玩具っぽいものなら1,000円前後からある。

どうでもいいけど五七五ですね。

お急ぎ便で我が家にやってきた木魚を前に、どうしていいか分からなかったのでとりあえず読経してみました。

祖父がゴリゴリの浄土真宗だったので私が唯一唱えられる正信偈です。原作で九条くん(主人公と愛し合うイケメン僧侶)が唱えているのもこれでした。(※厳密には「お経」ではないらしい)

ひとしきり読経して心が凪いだので、応援上映の予習をすることに。公式が親切に予習動画をアップしてくれているのですが、

いや木魚のタイミング難しすぎる。 かろうじてエンディング曲だけはリズムに合わせればいいので簡単そうですが、壁ドンの「ドン!」の一瞬に合わせて「ポン!」はあまりにも難易度が高い。太鼓の達人ハードモードか?

まあ当日その場の流れに任せよう…ということで練習は早々に断念。

 

そして迎えた当日、木魚とキンブレを紙袋に詰めていざ新宿ロフトプラスワンへ。

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まさかこの2つを一緒に持ち歩く日がくるとは。

会場に着くと、なんと満員御礼!ざっと見た感じ男:女=2:8くらいで女性(20代~30代が中心?)が多かったですが、最前列は男性が占めていたりと意外な感じ。

ばっちりキンブレを携えている人も多く、原作の熱心なファンというよりは応援上映が好きな層・イベント慣れした層が多そうな印象。

そしてマイ木魚を手元にスタンバイしている人の多さ!4割くらいは木魚持参だったのでは。

 

コラボメニューにも狂気を感じます。

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「白いとろとろした液体に棒を添えて(飲むヨーグルト)」………

イベントが始まり司会(NoGodというヴィジュアル系バンドのボーカルの方だそうです)が登場すると、拍手とともに一斉に鳴り響く木魚!大勢が同時に叩いているのに全く耳障りじゃない、むしろポクポクと可愛らしくて心落ち着く音色。

司会「ありがとうございます。今日に限っては、木魚は拍手と同じでございます!ぜひ拍手したくなったら叩いてくださいね」

そう、これは今回の最大の発見なんですが、木魚という道具(楽器?)、応援上映にめちゃくちゃ向いているんですよね。

そもそも「読経しながら叩く」ことを前提に作られているので、誰かが喋っている時に叩いても全く邪魔にならない。沢山重ねてもうるさくない。

カラオケで誰かが歌っている時にタンバリンとかマラカスを鳴らすとその音が大きすぎて歌声が聞こえづらくなってしまうことがありますが、ああいうことが一切発生しないんですよ。

加えて、圧倒的に「間が持つ」。

応援上映の経験がある方は分かるかと思いますが、実は「何かを見ながら大きな声を出して応援する」というのは、かなりの場慣れと度胸を必要とする高度なスキルです。まだ応援がこなれていない(or 熟練した参加者がいない)段階の応援上映では、あまり盛り上がらないまま終わってしまうケースも多い。

さらにどんなに応援向きのコンテンツでも「ここはどうしても盛り下がってしまう、応援しづらい」という箇所が出てくるわけで、まさに今回のアニメでも「ちょっとHなシーンにどう対応すればいいんだ!?みんな無言になっちゃったら超気まずくない!?『下手くそー!』とか叫ぶわけにもいかないし…」というのが最大の懸念点だったのです。

しかし今回、我々には木魚がありました。応援初心者で声を出す勇気がなくても木魚を叩けば参加できるし、Hなシーンで気まずくなってもとにかく木魚をポクポクすればいい。もはや盤石。盛り上がらないわけがない。

木魚、最強の応援グッズかもしれない。(同じような音が出れば木魚でなくてもいいんだとは思いますが)

 

というわけで本編の応援上映は予想以上に盛り上がりました。

上述の通りこのアニメには地上波版と年齢制限版がありまして、地上波版では過激な性的シーンの代わりに「TERA劇場」という止め絵のショートコント的なもの(↑に貼った応援予習動画の前半のような)が流れます。

R-18版に本気を出した結果、地上波版の第2話はほとんど全部がTERA劇場という衝撃の事態になっているのですが、このTERA劇場の存在がまた応援向きなんですよね。

2人の仲が盛り上がる→キス&何やかんやが始まり「ヒュ~!!」期待の木魚連打→地上波版なので突如差し込まれるTERA劇場「あぁ~~~!(がっかり)」 という完璧な様式美ができあがり、これを1話ごとに12回繰り返すことになったのはかなり笑ってしまいました。

エンディング(5分アニメなのでたったの20秒)が毎回流れるのも良くて、リズムに乗って木魚を叩くスーパー木魚タイムが定期的に挟まれるので空気がだれない。メリハリが保てる。

どこまでが意図されたものか分かりませんが、応援イベントとしては大成功だったと思います。

僧侶が主人公の耳にキスするシーンで「がんばれー!」という声援を聞いた時は、私たちはあらゆる体験をシェアし続けて、ついに人の性的営みを応援するステージに来てしまったんだな…と謎の感慨を覚えました。

 

そして、アニメ僧侶の監督を務めた荒木英樹さん・現役僧侶の千田匡真さん・原作の担当編集さんによるトークショーへ。

色々と面白いお話やQ&Aがありましたが、特に興味深かった所だけ抜粋。(※メモからの書き起こしなので正確でない可能性があります)

Q: 改めて本編の一挙上映を見て、どう思われましたか?

荒木監督:普段は主に男性向けのアダルトアニメを作っている(ので規制シーンを入れることはない)が、こうして地上波版を通して見てみると、「規制用のTERA劇場が入ることで逆にエロくなるんだな」と感じた。見せないエロさ。これから普通にアダルトを作る上でも考えていくべきテーマかもしれない。

Q: エロシーンを「TERA劇場」で差し替えるというアイデアはどこから?

荒木監督:今回協力してくれた制作会社・セブンの過去作品(『おくさまが生徒会長!』)で同様のやり方をしていたので、それを採用した。「とりあえず普段通りやってください、放送できない部分は後で考えましょう」と言われていたので、その順序で作っていた。規制版を含め計3パターン作ることになり、そこが一番大変だった。

 この辺りに関連してなのですが、今回の監督が男性向けアダルトアニメで有名な方であるというのを知った時、個人的には「ああ、道理で!」と思いました。

R-18版もほぼ全話観たのですが、エロシーンの描き方が完全に「男性向けR-18アニメの文法」なんですよね(そんなに詳しくはないですが)。作画・動かし方・塗り方・構図などなど、「TLの忠実なアニメ化」というよりは「TLの内容を男性向けエロアニメの文法で描いている」印象が強かった。端的に言うとエロ観がちょっと違う。

原作には「九条くん(僧侶)の弟に襲われちゃう」というシーンがあり、アニメではそれが九条くんとの絡みに変わってたりしたんですが、当て馬的男性に襲われるシーンはTLにおいては超重要なのでこの辺りを改変したのもちょっと目線が違うな~という気がしました。

まあこれまで女性向けR-18アニメ市場というものがほぼ存在しなかったわけなので今回のアニメ化にあたってまずは男性向けで経験豊富な方を監督に、というのは当然でしょうし、もし今後もこの流れが続くのであれば、より色々な表現方法が模索されていくのかなとは思います。引き続き見ていきたいところ。

Q: 「仏教」という題材を扱う上での工夫など

千田僧侶:日本には全部で13の宗派がある。今回のアニメは木魚や座禅、袈裟の掛け方などを見る限り2宗派くらいがミックスされているのかな?と。

荒木監督:制作側として、宗教を題材にするというのはすごくリスクが高いこと。適当なことをやってはいけないし、逆に適当なことをやるならば完全に嘘・フィクションにしなくてはいけない。
今回は完全フィクションとして、木魚もストーリー中では使わない(※マスコット的に出すのみ)、お寺も本堂は見せない、など特定できないようにしていたつもりではあった。

担当さん:原作も一応「ファンタジー宗派」にしているつもり。

ここも興味深かった。確かに、木魚はマスコット的存在(??)としてTERA劇場に出てきたり性描写を隠すマークとして使われてたりしたんですが、ストーリー中には登場してないんですね。

 

そして僧侶トークショーの後は、「スカケダ」こと「スカートの中はケダモノでした。」の第1話先行上映&原作・アニメの担当さんによるトークでさらに盛り上がり、最後は「一本締め」ならぬ「一ポク締め」にてイベントは終了。

 

そんなわけで我が家にやってきた木魚を時折ポクポク叩き、心を鎮めながらこの記事を書いています。「全く正しくない木魚の使い方をしてしまった…」という仏様に対する罪悪感はありますが、木魚の音、本当に心が安らぐので自宅用にもオススメです。

規制やゾーニングなど色々と課題はあると思いますが、果たしてこういった人気TLをアニメ化する流れが定番になっていくのか、そして木魚に似た何かを叩く応援上映が一般的になる日がくるのか等々、今後も引き続きゆるく観測していきたいと思います。