『ポーの一族』などで知られる萩尾望都は、日本の漫画界に大きな影響を与えてきた
写真提供: 小学館

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ル・モンド(フランス)

ル・モンド(フランス)

Text by Pauline Croquet

日本の漫画が人気なフランスだが、いわゆる少女漫画の作品はまだあまり知られていない。そんななか、フランスで1月末に開催されたアングレーム国際漫画祭に合わせ、大規模な萩尾望都回顧展がアングレーム市美術館で開催された(2024年3月17日まで)。これを受け、仏紙「ル・モンド」がオンラインで萩尾にインタビューをしている。

戦後日本の漫画界の立役者


萩尾望都の50年以上に及ぶ創作活動から生まれた作品の数々に目を通すと、痛感することがある。それは、フランスが世界有数の日本漫画消費国を自負するわりに、日本の漫画の受容においてすっぽりと抜け落ちてしまっている部分があることだ。

これは萩尾だけに限った話ではないが、フランスでは、日本の著名女性漫画家の作品の多くが出版されていないのだ。1972~76年に描かれた萩尾の初期の名作『ポーの一族』のフランス語版が出版されたのは、2023年に過ぎない。

1949年生まれの萩尾望都は、70年代に日本の少女漫画を刷新した世代の代表的漫画家の一人だ。暗いトーンのSF作品や恋愛物語、ファンタジーを通して、萩尾は「第九芸術」と呼ぶべき漫画という芸術を一変させ、それまでの古典的なコマ割りを打ち砕いた。

ボーイズラブや美少年を主人公とする物語の礎も築き、それは当時の若い日本人女性や後続のアーティストに強い影響を与えた。そのようなフィクションが、いまはまったく珍しいものではなくなった所以である。


「親子関係」が頻繁に描かれるワケ


──漫画に熱中するきっかけとなった作品は何でしたか。

幼稚園の頃からいろいろな漫画を読み、そのすべてに感動し、次から次へとどんどん読んでいきました。

幼稚園や小学生の頃だと手塚治虫先生の『リボンの騎士』があったのを覚えていますし、『赤胴鈴之助』も読みましたね。タイトルはあまり覚えていませんけれど、読む漫画すべてが好きでした。両親の話によれば、3歳からペラペラの紙に鉛筆で、お人形の絵を描いていたそうです。

漫画家になるのはハードルが高いのではないかと思っていましたが、高校2年生だった17歳のとき、手塚治虫先生の『新選組』を読んだんです。それに非常にショックを受けまして、もう『新選組』が頭を離れない。こんなにショックを受けたのだから、誰かにこのショックを返したい。そのためには作品を描くしかないと思って、漫画家になろうと決心しました。

──そうした漫画への情熱を、周囲の人はどう受け止めましたか。

両親はとても勤勉な人たちで、漫画はくだらないものだと思っていました。だから私がどんどん漫画にのめりこむと、「早くやめなさい」と叱られたものです。それなので、親から隠れて学校の教室や友達の家で漫画を描いたり、読んだりしていました。

絵はだいたい独学ですけれど、17歳のときにプロの漫画家になろうと決めてからは「ちゃんと絵の勉強をしなければいけないな」と思って、福岡のデザイン学校に2年間行かせてもらいました。

でも、親には「漫画家になりたいから」とは言っていません。学校では服を縫うことも教えていたので「洋裁を習いたいから」と言って行かせてもらいました。

──ご家族は最終的には漫画家という仕事を理解してくれましたか。

漫画で成功しても、両親は漫画をくだらないものだと考えていたので、長いあいだ理解してくれませんでした。

だけど2010年に、日本のNHKが『ゲゲゲの女房』という漫画家のドラマを放送したんです。母はそのドラマを観て、漫画家の生活は大変だけど真面目だと知ったようでした。

「『ゲゲゲの女房』を観ていたら、水木しげるさんが一所懸命漫画を描いていた。それを見て、お前があんな風に一所懸命描いていたことがやっとわかったよ。すみませんでした」と、私に初めて謝ってくれたんです。そのとき母は84歳で、私は61歳でした。

──先生の作品では、親の支配から解放されたくて、登場人物が父親や母親を殺すこともあります。先生にとって漫画は、親の支配から解放されるためのものだったのですか。

はい、そうです。抑圧からの解放ですね。
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