ホームカミングの 科学技術講演会に参加

 

こんにちは。

 

先日、出身大学の「ホームカミング」の日がありました。
ご存じかと思いますが、ホームカミングとは、卒業生やその家族、教職員OBなどを母校に招待して行われる、大学などのイベントのことです。
キャンパス全体を使い、学部や学科毎に、それぞれの研究成果の発表会や テーマを設定したパネル・ディスカッションなどが行われ、また、飲食の出店なども出ます。


筆者は、出身学科の「同窓会総会」に参加し、また その直後の 学科開催の講演会に参加しました。

 

「同窓会総会」の中身は、よくある年間の活動報告とか会計報告で、やや退屈なのは毎年のことですが、毎年 その後に行われる講演会が楽しみで参加します。

 

今年は、宇宙開発のJAXAのプロジェクトマネジャー(全体責任者)や、タスクリーダ(実行指揮責任者)の方々をJAXAから お招きし、小型月着陸実証プロジェクト(愛称:SLIM) について講演をいただきました。

お話の主な内容は、次のようなものでした。
筆者が聴いた (また映像で観た)講演の内容を、質問形式に整理し直して掲載します。

 

 

1.プロジェクトの時期と内容は?
 今年2024年1月20日に、JAXAが打ち上げて着陸させた「小型月着陸実証機(愛称:SLIM) 」にて、月面の目標地点に対して ± 10m以内という高い精度でのピンポイント着陸を成功させた。

2.今回の成功には、どんな意義がありますか?
 地球の生い立ち(地球の誕生)のメカニズムを解明するためには、月のマントルの成分の組成を知って地球と比較検証する必要があるとされています。しかし、月のマントルはフレッシュなクレーターの近くでしか採取できないことが既にわかっていました。 フレッシュなクレーターは、月面の限られた場所にしか存在しないので、探査採取機を、フレッシュなクレーターのすぐ近くに ピンポイントで着陸させる技術が どうしても必要でした。目標値としては、狙った着地ポイントの100m四方の範囲内に降りる技術を開発して実証する必要があった。
その精度での着陸技術は、これまで世界のどの国でもまだ確立されていなかった。
今回、それに成功した。

 

3.SLIMの成功以前の、各国の着陸地点精度は、どれくらいでしたか?
 これまでの月着陸機の着陸精度は、数キロ~数十キロメートルの誤差がありました。
月の表面にて、探査機を着陸させたあとで、そのような長い距離を水平に移動させることはできないのです。

 

4.今回の実際のSLIMの着陸の精度は、どれくらいでしたか?
 10m以内は間違いないですが、推定 3~4m程度の誤差であった可能性が高いとJAXAは考えています。

 

5.SLIMの計画は、いつ頃からありましたか?
 構想企画は、20年間からあった。宇宙開発というのは、それくらい息の長い仕事です。

 

6.探査機SLIMは、どれくらいの大きさですか?
 大きさ縦横高さそれぞれ2m程度。重量は 満タン状態の燃料込みで約700kgです。

 

7.月の周回軌道に入ってから、着陸地点までの飛び方は?
 狙った着陸地点の800km手前から着陸体制に入る必要があります。東京ドームに着陸させることに例えると、かなり離れた札幌あたりで もう着陸態勢に入ることに相当します。
機体は無人の超小型で、限られた燃料や設備しかないので、無駄にしないためには非常に周到な計算のもとでの着陸準備が要ります。

 

8.そのような高精度の着陸のために、今回、どのような新しい技術を使いましたか?
 画像航法という航法を新しく開発し、成功させました。SLIMが航行中に観測した月面のクレーター画像から特徴を抽出し、(過去のプロジェクトでの「かぐや」等が撮影していて保有している) クレーターマップと比較する「点群マッチングアルゴリズム」を 画像照合航法として開発し、それを使いました。

 

9.着陸地点の上空50mから、垂直に着陸するための技術やポイントは?
 上空50mからの「垂直降下」のために、着陸レーダを新たに開発して使用しました。
SLIM探査機は、2メートル立方程度の小さな機体です。クレーターの縁などの大きな岩に機体の足を掛けた着陸になると、転倒する危険性が高い。したがって、目的地の上空から障害物を検知する機能がどうしても必要でした。それが新開発のレーダでした。

 

10.実際の着陸はうまく行きましたか?
 SLIM探査機のメインエンジン2基のうち一つが偶発的に壊れました。そのため、態勢が斜めになり、また搭載部品であるノズルが月面に落下してしまいました。 機体は東に倒れた姿勢で着地しました。
 それでも、かつてない誤差数m~10m以内での超高精度のピンポイント着陸成功という画期的な成果には 何ら変わりはありません。

 

11.SLIMに搭載しているコンピュータは、どのようなグレードのものですか?
 宇宙や月面は、非常に過酷な環境です。家庭用のPCや業務用のサーバなどで使われているコンピュータは、宇宙では全く使いものになりません。太陽光が直接当たる場所では約100~130度C、惑星などの影に隠れる場合はマイナス120度Cなど、温度差が240度以上にもなります。また、非常に高い「放射線 耐性」が要ります。このような過酷な環境で使えるコンピュータとなると、恵まれた環境である地球上で使われているコンピュータと比べると、どうしても低い処理能力しか出せません。現実には、SLIM探査機のオンボードのコンピュータは、特殊なFPGAくらいに相当し、家のパソコンの数十分の1くらいの性能です。こういった極めて特殊な部品を仕立てて使いこなし、その上で 複雑なアルゴリズムを働かせなければならないところに、宇宙開発の機器の難しさや苦労があります。

 

《筆者感想》

「無人での月面着陸」という、今となっては比較的 地味とも思える領域で、このようなフロンティアが残っていたとは知らず、また、その困難な精度技術の開拓で日本のJAXAが先頭を走っているという話は、たいへんインパクトがありました。

 

 サイエンスは面白いです。こういったことに触れる機会を、これからも できるだけ多く持ちたいと思いました。

 

最後に、JAXAから来てくださった講演者の方々の写真を。

 

 

ではまた。