試乗レポート
いよいよ発売日が決定!! SKYACTIV-Xエンジン搭載「MAZDA3」公道試乗
メルセデス・ベンツも量産できなかった新世代ガソリンエンジンの走りは?
2019年11月25日 11:30
理想的な内燃機関としてマツダが開発を進めてきた「SKYACTIV-X」エンジン。待望のパワートレーンがMAZDA3に搭載され、12月5日に発売されることが決定した。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンのよいところを伸ばすことで意のままに操れる出力&トルク特性と、優れた燃費数値を両立させることがSKYACTIV-Xの目的だ。
さかのぼること2年、筆者は2017年10月にマツダの美祢試験場で開催された「SKYACTIV-Xプロトタイプ取材会」に参加し試乗を行なっている。そして今回、ついに第7世代商品群第1弾であるMAZDA3のファストバックボディに搭載されたSKYACTIV-X搭載車を公道で試乗することができた。まさに待望の瞬間なのだが、残念ながら取材時間の関係で用意された6速ATのFFモデルは撮影時間を差し引きして20分間、6速MTの4WDモデルに至っては10分間と限られた時間であったことを最初にお断りしておきたい。
SKYACTIV-Xはなにが違う?
さて、ここからはSKYACTIV-Xのメカニズムを概要として簡単に紹介しつつ、通常の2.0リッターエンジンとの乗り味はどう違うのか述べたいと思う。
SKYACTIV-Xの正体とは何か? ズバリ言えば、マツダが独自に開発した燃焼メカニズム「SPCCI/スパークコントロールドコンプレッションイグニッション」と「24V系マイルドハイブリッドシステム」を組み合わせた未曾有の内燃機関+電動化の新世代パワートレーン、となる。
このSKYACTIV-Xはガソリンエンジンでありながら理想的な空燃比(14.7:1)の2倍以上の希薄燃焼(最大で36.8:1)と、ディーゼルエンジンに近い圧縮着火(これをCIと呼ぶ)燃焼を制御する技術を組み合わせ、さらにマイルドハイブリッドシステムとの相乗効果により動力性能と燃費性能を大きく引き上げる。
燃焼行程において、空気をたくさん採り入れて圧縮着火(CI)燃焼させる点はディーゼルエンジンに近いが、ディーゼルエンジンにはないスパークプラグによる点火を制御因子(≒小さな火種)として圧縮着火(CI)燃焼を行なっている点が大きく違う。
MAZDA3に搭載されたSKYACTIV-X第1弾は直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴エンジンで「HF-VPH」型を名乗り、SPCCI化により132kW(180PS)/6000rpm、224Nm(22.8kgfm)/3000rpmを発揮する。ベースとなったのは、MAZDA3の一部グレードにも搭載されているSKYACTIV-G「PE-VPS」型だ。一般的な火花点火(SI)燃焼を行なうこちらのスペックは115kW(156PS)/6000rpm、199Nm(20.3kgfm)/4000rpmで、ボア×ストロークは83.5×91.2のロングストロークタイプ、圧縮比は13.0だ。
つまり、SKYACTIV-XはSPCCI化によって出力を24PS(約15.3%)、トルクでは25Nm(約12.5%)それぞれ向上させている。さらに燃費数値は2WDの場合、WLTC値で15.8km/L→17.2km/Lへと約8.8%伸ばした。また、ボア×ストロークは同じだが圧縮比は15.0まで高められた。これはMAZDA3にも搭載される1.8リッターディーゼルのSKYACTIV-Dよりも0.2上回る値だ。
ちなみにベースの2.0リッターエンジンはレギュラーガソリン仕様だが、SKYACTIV-Xではスペックを重視するためハイオク仕様へと変更されている。「燃料代の差額は燃費数値の向上分でカバーできると考えています」(マツダ広報部)という。
さて、そのSPCCIだが冒頭のSKYACTIV-Xプロトタイプ取材会が開催された当時、「革新的な内燃機関とは過給エンジンのことなのか?」というちょっとした誤解があった。今回のMAZDA3が搭載するSKYACTIV-Xにも採用されているエアサプライ、いわゆる“スーパーチャージャー”が誤解の要因だ。
前述した理想的な空燃費比の2倍以上で希薄燃焼(リーンバーン)させるためには、空気を大量に採り入れる必要がある。つまり、SPCCIにはリーンバーン化を促進するために外部から空気のみを供給する(=追加燃料は噴射しない)エアサプライパーツが不可欠なのだ。
SKYACTIV-Xに採用されたスーパーチャージャーはルーツ型でエンジン前方に配置した。スーパーチャージャーにはルーツ型よりも高効率なリショルム型があるが、SPCCIでは燃料を追加で噴射しないため、過給時に求められる内部圧縮が必要ない。そのため低回転型で制御がしやすく安定した応答性能が得られるルーツ型が採用されたのだろう。ちなみに、燃料電池車のFCスタックでも大量の空気を必要とするが、ホンダ「クラリティ FUEL CELL」では電動ターボチャージャーを、その前身の「FCXクラリティ」ではリショルム型スーパーチャージャーをそれぞれ採用している。
SKYACTIV-X搭載のMAZDA3を試乗
まずステアリングを握ったのは6速MT/4WDモデルだ。じつはこのモデルこそ現時点におけるSKYACTIV-X搭載車のよいところをたくさん表現できていると筆者には感じられた。もっともこれは私的な感覚だけではなく、「現時点におけるSKYACTIV-Xのセットアップは6速MT/4WDモデルがもっとも完成度が高い」(MAZDA3開発技術者)という裏付けもある。
6速MTのセレクトストローク(横方向)は一般的な長さだが、シフトストローク(前後方向)は短く、愛車であるND型ロードスターに近い。感触もよくて、入口に誘うとスッと吸い込まれて気持ちがいい。MAZDA3ではシートを新設計しているが目的の1つに骨盤を起こすことが含まれる。分かりやすく言えば骨盤がしっかりと起きて固定されるため体幹がぶれにくくなる。よってシフト操作からクラッチ操作、そしてアクセル&ブレーキ操作、最終的にはステアリング操作含めたすべてが正しい姿勢のまま行なえるから長時間の運転でも疲れにくい。もっとも今回は疲労するほど試乗できなかったのでその点の評価は後日に譲るが……。
1000rpmほどでクラッチミート。アクセルレスポンスは過敏ではない。そこから徐々にアクセルを踏み込むと約1300rpmからスーパーチャージャーの電磁クラッチが入りSPCCIの燃焼準備に入る。燃焼状態が火花点火であるSIからSPCCIへ変更されたことはセンターモニター画面で「システム作動状態」を示すシリンダーのグラフィックがグリーン表示されるため視覚の上でも確認できる。
2速、3速とシフトアップしていくとベースのSKYACTIV-G「PE-VPS」型を搭載するMAZDA3よりも確実に力強く加速していくことが分かる。ここはマイルドハイブリッドシステムが効果を発揮する部分でもある。そのままじんわりアクセルを踏み続けていくと、ほどなくしてSPCCIとなったことによる力強さも加わってくる。とはいえ、燃料を追加で噴射する過給エンジンのようなダイナミックさはなく、あくまでもエンジン全体に余裕がうまれ車体(試乗車は1480kg)が150~200kg程度軽くなったかのような動きになる、といったイメージだ。
SPCCIの上限は車両負荷や燃焼状態にもよるものの5000rpm程度(SKYACTIV-X開発者)とのことだが、1速でゆっくりアクセルを踏み込んだ場合は6000rpmあたりまでSPCCIを示すグリーン表示がなされていた。スーパーチャージャーの電磁クラッチがON/OFFとなる度に車内には「カチッ」という音が入り込むのもSKYACTIV-Xの特徴だ。
粘るエンジン特性に好感を抱いた。SKYACTIV-X(6速MTモデル)の最終減速比は欧州仕様のMAZDA3から7%ローギヤード化され加速方向に振られているが、ノッキング直前のノンスナッチ速度付近での“粘り気”はまさしくディーゼルエンジンのそれに近く、そこからの再加速はSIエンジンと比較して体感的には20%程度力強く感じられた。これだけで、渋滞路でのクラッチワークがずいぶんと楽になるだろう。
SKYACTIV-Xに含まれるマイルドハイブリッドシステムはなんと6速MTにも関与する! シフトアップ直後のエンジン回転はなるべく素早く落ちてくれたほうがリズミカルな変速がしやすい。そのためSKYACTIV-Xでは変速時にオルタネーターの回生負荷をエンジンに与えることで、その分エンジン回転低下を早期化している。当然、回生しているため極僅かだが変速するたびに充電が行なわれるわけだ。シフト操作で回生→充電、加えてシフトフィールの向上を狙うとはいかにもマツダらしいカラクリだと感心した次第。
さらによかったのはエンジン音。ベースのSIエンジンは下から上まで同じトーンの音質だが、SPCCIのSKYACTIV-Xは3000rpm前後でちょっと図太い音が加わり、さらに4700rpm以降となると今度は高い音域がそれに加わる。元のエンジン音に低音と高音が加わったハーモニーは格別で、試乗中、何度も高回転域を楽しんでしまったほど。こうしたエンジン音の質的向上は、プロトタイプから大きく進化した部分だ。高回転域の振動もグッと押さえ込まれ足裏に感じるフロアの微振動も急激には増えなかった。
乗り味はどうか? ここは後に試乗した6速AT/FFモデルと大きく異なる部分で、比較論でいえば筆者はこの6速MT/4WDモデルの設定が好みだ。FFと4WDのサスペンション形式は同じで車両重量にしても4WD化は60kg増と限定的であるため、ここまでの違いを体感すると思わなかったが、実際、両モデルを同じ道で同じように走らせてみると明らかな違いがあった。
違いといえば、タイヤだ。「SKYACTIV ビークルアーキテクチャー」では専用タイヤが用いられているが、その空気圧はプロトタイプの230kPaから、同サイズのタイヤながら前輪/260kPa、後輪/250kPaへと高められた。筆者はそのプロトタイプで低めの空気圧によるメリットとデメリットを指摘していたが、MAZDA3では車体全体のマッチングを図った上で高められたようだ。
今回はSKYACTIV-Xのほか、1.5リッターの6速AT/FFモデルのファストバック、1.8リッターSKYACTIV-Dの6速AT/4WDモデルのステアリングも握ることができた。こちらもともに10分間程度の試乗だったのだが、正直、荒削りな部分が目立ってしまった……。ただ、試乗時間が短かったため、これについてはもう少し試乗距離を伸ばし分析してからレポートしたいと思う。
こうして世に送り出されたSKYACTIV-Xは素晴らしい将来性を持った内燃機関だ。メルセデス・ベンツも2007年に予混合圧縮着火(HCCI)を行なう内燃機関「DIESOTTO」をプロトタイプ「F700」に搭載したものの最終的には量産化できなかった。一方で、SKYACTIV-Xにも燃費数値のさらなる向上や、パワーの上乗せなど課題が残る。
でも筆者は、こうした荒削りなところがあることを承知の上で、運動性能と環境性能の両面を向上させるパワートレーンSKYACTIV-Xをいち早く市場へ導入したことに最大限の敬意を表したい。ここはロータリーエンジンを2012年まで量産(RX-8)し続けてきたマツダだからこそできた偉業だ。また、同様にドライバーの体感値として荒削りな部分が残るSKYACTIV ビークルアーキテクチャーにしても、2012年発売の「CX-5」から続く第6世代商品群がそうであるように、この先は熟成が進むはずだ。このご時世、内燃機関に対する新しい技術を送り出した勇気に拍手を送りたい。マツダには実用量産化されたSKYACTIV-Xをユーザーと一緒になって大切に育んで頂きたいと考えています。