インプレッション
発売直前の日産「セレナ e-POWER」(車両形式:DAA-HC27)に速攻試乗!
ノート e-POWERとの違いは? ミニサーキットでその実力を試してきた
2018年2月28日 10:00
セレナに待望の「e-POWER」登場
日産自動車の稼ぎ頭であるミニバン「セレナ」に待望の「e-POWER」が加わった。現在、乗用車のハイブリッドシステムでは「シリーズ式」「パラレル式」「シリーズ/パラレル式」の3タイプが主流だが、e-POWERはこのうちシリーズ式ハイブリッドに該当する。シリーズ式は内燃機関であるエンジンを回転させ、発電用モーターを駆動してバッテリーに蓄電、そして蓄えた電力を使って駆動用モーターを介してタイヤを回転させることから、電動駆動車としても位置付けられる。日産ではこの一連をe-POWERと分かりやすくネーミングした。
「ノート e-POWERと基本的には同じシステムをセレナ e-POWERにも搭載しています」(日産自動車・車両商品性実験グループ主担 菊池東寿氏)とのことだが、エンジンやモーターの性能向上に加えてバッテリー容量の拡大が図られるなど、かなり大がかりな手が加えられている。さらに走行モードとして、ノート e-POWERにはないバッテリーの充電容量を90%程度に保つ「チャージモード」と、エアコンの作動によらずエンジンを停止して可能な限りEV走行を行なう「マナーモード」(最大約2.7kmのEV走行が可能)も追加された。これらの変更はノート e-POWERから540kg増加した車両重量(1760kg/試乗車)に加えて、コンパクトカーのノート(全高1520mm)から背高のミニバン(同1865mm)というボディ形状の違いから、前面投影面積が大幅に増えたことへの対処だ。
チャージモードやマナーモードは、早朝や夜間走行時におけるエンジン始動時の外部騒音に配慮したもの。e-POWERのシリーズ式は主に4つの要因(エンジン温度/触媒温度/ブレーキ用の負圧状態/バッテリー容量)でエンジンが自動的に始動するわけだが、エンジン停止状態から通常のアイドリング領域である800rpm前後を飛び越えて1500-1600rpmへと一気に回転数が上がることから車外騒音が大きくなる。両モードは、家族でのドライブともなれば渋滞を避けるために深夜早朝の移動開始となることが多いミニバンの使われ方に配慮した設計といえる。
モーター駆動による優秀な加速性能
今回はそのセレナの主力グレードとなる「e-POWER ハイウェイスター V」に試乗した。とはいえ、発売前のタイミングでありナンバープレートが装着されていない状況だったので、クローズドコース(1周約1kmのミニサーキットをショートカットした状態)のみの走行となった。ミニバンでのサーキット走行に疑問を抱く読者もおられるだろうが、多人数乗車を目的に設計されたミニバンであるからして、サーキットでタイムを削るような走りはしていない。サーキット走行の目的は、e-POWERの得意とする加減速を安全に、かつ複数回に渡りテストするためにある。よって、最高速は60km/h程度にしながら各コーナーもアウト・イン・アウトのレコードラインはとらず、一般道路でのカーブを普通に曲がるイメージで走行している。
試乗時間の都合で合計10周程度の走行となったが、それでもe-POWERとミニバンの相性がよいことはしっかりと確認できた。最も感心したのは、やはりモーター駆動による優秀な加速性能だ。ここで優秀としたのは、スポーツカーのような素早い加速を意味するのではなく、アクセルペダルのゆったりとした踏み込みに対してどこまでも伸びていくような、人の感覚にマッチする安定した躍度(時間あたりの加速度変化)を生み出せるという点。同じくシリーズ式ハイブリッドモデルを用意する本田技研工業「オデッセイ」や「ステップワゴン」でもこうした気持ちよさは同様に体感できる部分であり、低速域からとても滑らかで力強く、同時に緻密なコントロールを可能にする電動駆動の大きな魅力として挙げられる。また、こうした気持ちよさは新世代クリーンディーゼルに代表される豊かな低~中速トルク特性を示す内燃機関であっても上まわることはできない領域で、これに慣れ親しむと電動パワートレーンから本当に離れられなくなる。
e-POWERの特徴は、加速性能だけでなく減速性能にも見てとれる。アクセルペダルを離した際に駆動用モーターの回生機能により生み出される強めの減速度(最大減速度0.14G程度)によって、日常走行時におけるアクセルペダル→ブレーキペダルへの踏み換え回数を大きく減らすことができるのだ。日産ではこれを「e-POWER Drive」としてノート e-POWERから導入。また、EV(電気自動車)「リーフ」では回生機能に4輪へのブレーキ制御も併用した「e-Pedal」として最大減速度0.2G程度を発生させることができる。ちなみにブレーキペダルを踏まない場合でも、回生機能により減速度が0.07G(おおむね一般車両でブレーキペダルにジワッと足を載せた際に体感する最初の減速度)を上まわると自動的にブレーキランプが点灯する。
ノートとセレナのe-POWERにはどのような違いがあるのか? まずはエンジンスペックで比較する。両車とも同じ型式の直列3気筒1.2リッター「HR12DE」を搭載するが、ノートが最高出力58kW(79PS)/5400rpm、最大トルク103Nm(10.5kgm)/3600-5200rpmであるのに対して、セレナは62kW(84PS)/6000rpm、103Nm(10.5kgm)/3200-5200rpmと5PSの出力アップと高回転化、さらに最大トルク発生回転領域の下限値を400rpm低めている。これにより、低~高エンジン回転領域まで安定した発電性能を保ちながら、オイルクーラーを追加することで車重増加に起因するエンジン付加の増大にも対処した。
モーターは「EM57」と型式はノート(やリーフ)と同じながら、各車で性能は分けられた。ノートが最高出力80kW(109PS)/3008-10000rpm、254Nm(25.9kgm)/0-3008rpmであるのに対して、セレナは100kW(136PS)/回転数未公表、320Nm(32.6kgm)/回転数未公表と、27PS/66Nm高められている。このことから、スペック上のモーター性能はどちらかというとリーフに近い。バッテリー容量はノートの1.5kWhから1.8kWhへと20%高められ、EV走行可能距離を伸ばしている。
まずは1人でコースイン。「スマート」「エコ」「ノーマル」の3つの走行モードを適宜切り替えながら走行フィールを確認する。アクセルペダルを離すと減速度が発生するe-POWER Drive走行ができるのはスマート/エコの両モードで、減速度は両モードとも同じ値を示す。加速度はスマートがエコを33%程度上まわる(日産発表の資料より)から、1人で気持ちよく走らせるにはスマートモードが最適だ。走行時のエンジンマネージメントは基本的にはノート e-POWERと同じ。車両負荷の違いによりエンジン始動ポイントは異なる部分があるが、急加速時にはエンジンをすぐさま始動させ、発電用モーターと駆動用モーターの両方に電力を供給して加速力を増強する。もっとも、エンジン音は急激な高まりをみせ(5000rpm近いか!?)3気筒独特のビート音が景気よく入り込むが、フロントウィンドウに遮音フィルムを挟み込んだり、前部バルクヘッド側のセンターカーペットを4層構造にしたりするなど、ガソリン車のセレナに対して25もの部材を追加して遮音効果を高めて対処した。
気になったのは多人数乗車時(今回はドライバー/2列目1人/3列目1人の成人男性3名)のe-POWER Driveによる減速性能だ。カーブに差し掛かった際には、アクセルペダルをハーフスロットル状態にして戻しながら減速度をスムーズに微調整しつつ、回生ブレーキだけの減速度では足りなくなると判断した場合にはブレーキペダルに足を踏み換えるわけだが、この一連の動きの連携にはちょっとした特徴がある。
e-POWER Driveの機構上、アクセルペダルからブレーキペダルに足を踏み換えている間も車速に応じた減速度を継続的に生み出しているが、その状態からドライバーがブレーキペダルを踏むことで得られる、上乗せされた減速度とのマッチングがうまくかみ合わない領域がある。端的に表現すると、ドライバーが想い描いた減速度を一発で探り出すことができないのだ。
e-POWER Driveでは緻密な回生コントロールで一定の減速度が保たれているのだが、どうやらその減速度の発生具合が(ACC[アダプティブ・クルーズ・コントロール]による文字通りの超リニアな減速フィールに近く)人工的で、実際の道路環境における速度調整にはそぐわないであろう一面が垣間見えた。クルマ、バイク、自転車などとの混合交通となる一般道路では、前走車や自車周囲の車両の動きや乗員の快適性への配慮、さらにはカーブの曲率を見ながら微調整することが多くなるからだ。これを補うには、アクセルペダルでの減速度コントロール時間を長くしてサッとブレーキペダルに踏み換えるか、e-POWER Driveが機能しないノーマルモードで走行すればよい。この点を前出の菊池東寿氏に伺うと、「軽量コンパクトなノート e-POWERに乗られているユーザーの方からはそういった御意見は一切いただいておりません」とのことだった。やはり筆者の考えすぎか……。
しかし、セレナはノートと比べて重心位置が高く、ロールセンターを最適化したとしてもミニバンはロールの絶対量が増大する傾向にあることから、すべての乗員がさらに快適に過ごせるように、現状から一歩踏み込んだ最適化があってもよいのではないか。大型トラックや大型観光バスのドライバーでもある筆者にはそう感じられた。
e-POWER Driveは大いなる可能性を秘めている。この技術を昇華していけば、いわゆる「ペダル踏み間違い事故」への抑制効果も期待できるだろう。だからこそ、アクセルペダルは踏み込みやすさだけでなく、戻しながらのハーフスロットルを維持しやすいよう形状にも徹底的にこだわっていただきたい。その上で、先の減速度コントロールに対しては非線形度合いの最適化を期待したい。そうなると、やはりブレーキは負圧の課題をクリアするためにもECB(電子制御ブレーキ)化すべきか……。いずれにしろ、この先に開催されるであろう公道における試乗の場では、実際の交通環境のなかでe-POWER、そしてe-POWER Driveの実力を再確認してみたい。