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ダンロップ、サステナブル原材料比を49%まで高めたBEVカート向けウェットタイヤ公開 植物由来の「もみ殻シリカ」国内初採用
2025年9月16日 10:20
- 2025年9月14日 開催
ダンロップ(住友ゴム工業)は9月14日、東京都江東区青海にある「CITY CIRCUIT TOKYO BAY(シティサーキット東京ベイ)」で開催された「2025年 JAF全日本カート選手権 EV部門 第5戦・第6戦」の会場で、参戦各チームに供給しているBEVカート向けウェットタイヤの新製品を公開した。
2022年からスタートした全日本カート選手権 EV部門にダンロップはワンメイクタイヤ供給を行なっており、2023年10月からは各チームに供給するドライタイヤとしてサステナブル原材料を43%使用した「サステイナブルレースタイヤ」を投入。新たに開発したウェットタイヤでは、トレッド面に使用するゴムに植物由来の「もみ殻シリカ」を新たに採用して、サステナブル原材料比を49%まで高めている。
「もみ殻シリカ」を新たに配合してサステイナブル原材料比率を約49%に向上
タイヤ説明会では住友ゴム工業 モータースポーツ部 課長代理 佐藤洋平氏と同タイヤ事業本部 材料開発本部 材料第四部 課長 鳥田一哉氏の2人が登壇。司会者からの質問に答えるスタイルで解説を行なっていった。
BEVカート向けとなる新しいウェットタイヤの概要については佐藤氏が説明。従来からダンロップのカート向けタイヤではトレッド面、サイドウォール、ビードワイヤーなどにサステイナブル原材料を使っており、ドライタイヤでは約43%、ウェットタイヤの従来品では約15%の比率となっていた。新たなウェットタイヤではウェットグリップを高めるために配合されているシリカにもみ殻シリカを採用したことで、サステイナブル原材料の比率をほぼ半分の約49%まで引き上げている。また、サステイナブル原材料比率を大きく高めつつ、走行性能の面でも従来品と同等レベルにあることも確認しているという。
もみ殻シリカの具体的な解説は鳥田氏が担当。シリカの主成分はケイ素となっており、無機物のケイ素は土壌などにも豊富に含まれているが、米の精米工程で出るもみ殻にもケイ素が豊富に含まれている。もみ殻は農地の土壌改良のほか、燃焼させて熱源としても利用されており、燃焼後に残る「もみ殻灰」は埋め立てなどで廃棄されている。
しかし、近年になってもみ殻灰からシリカを生成する技術が確立されたことで、住友ゴムでは欧州市場で販売するファルケンブランドの「ZIEX ZE320」にもみ殻シリカを採用して販売。欧州ではユーザーの環境意識が高いことに加え、政府などによる規制が厳しいケースもあって市場として成り立っているという。一方、日本国内向けとしては今回のBEVカート向けウェットタイヤが初採用となっている。
また、モータースポーツ分野でのサステナブル材料開発を推進しており、前出のカート用タイヤのほかにも2023年3月にサステイナブル原材料比率38%を実現したSUPER GT・GT500クラス向けタイヤを開発し、同年12月にはサステイナブル原材料比率を76%まで向上させたタイヤを「Modulo Nakajima Racing」の64号車に装着し、「Honda Racing THANKS DAY 2023」で実施されたデモンストレーションレースで走行を披露している。
この取り組みはさらに進化を続けており、8月に開催された「2025 AUTOBACS SUPER GT Round4 FUJI GT SPRINT RACE」で、ダンロップ初の「資源循環型カーボンブラック」を採用したレース用タイヤをGT300クラスの6チームに供給。この結果、チャーリー・ファグ選手がドライブする777号車「D'station Vantage GT3」が2日間に分けて行なわれたレース1/レース2のいずれも優勝を果たし、さらに続く第5戦「2025 AUTOBACS SUPER GT Round5 SUZUKA GT 300km RACE」でも61号車「SUBARU BRZ R&D SPORT」(井口卓人選手/山内英輝選手)が2位表彰台を獲得。タイヤ開発の最前線となるモータースポーツの世界で実績を残し、環境負荷の低減を目指したタイヤでも従来型のタイヤに劣らぬ戦闘力を発揮できることを世に示した。
資源循環型カーボンブラックは1月からスタートした三菱ケミカルとの協業で生み出された資源循環の取り組みの1つ。従来からあるタイヤ製造では化石素材である石炭をコークス炉で油にしてカーボンブラックを得ていたが、資源循環型カーボンブラックではタイヤの製造工程で発生するゴム片などを再生材料として三菱ケミカルに提供。コークス炉に投入してケミカルリサイクルの処理を行なってカーボンブラックを作り上げる。
今後はレース用タイヤに続き、乗用車向け製品でも採用してサーキュラーエコノミーの実現に貢献していきたいと鳥田氏から意気込みが語られた。
鳥田氏は住友ゴムが続けてきたサステナブル原材料開発の取り組みをふり返り、バイオマス原材料などを利用する世界初の「100%石油外天然資源タイヤ」として「エナセーブ 100」を2013年11月に発売。バイオマス原材料に加えて廃プラスチック、廃タイヤなどを活用するリサイクル原材料の使用比率も高めていき、2030年にはタイヤ製品のサステナブル原材料比率を40%、2050年には100%にする計画で材料開発を推進しており、「非常に高い目標だと考えていますが、サステナブルな社会の実現に貢献するため、頑張って進めていこうと考えています」と語った。
このほか、2023年3月に発表したタイヤ事業における独自のサーキュラーエコノミー構想「TOWANOWA(トワノワ)」の概要についても説明。サーキュラーエコノミーの実現を目指す青い「サステナブルリング」と、バリューチェーンの各プロセスで得られるデータを連携させ、新たな価値を提供するオレンジの「データリング」を融合させて、新たな価値をユーザーに提供してタイヤビジネスに“永遠の輪”を生み出し、持続可能な社会に安心と喜びを提供して貢献していくと述べた。
女性レーシングドライバー4人によるトークショーも実施
新製品説明会に続き、住友ゴムが女性のモータースポーツ活動を応援している「DUNLOP Enjoy Motorsports Women’s Challenge」のトークショーも行なわれ、ゲストとして佐藤久実選手、及川紗利亜選手、永井歩夢選手、瀬イオナ選手の4人がステージに登壇した。
佐藤久実選手が運転に親しむようになったきっかけは、大学の入学式当日に自動車部に所属していた女性の先輩に勧誘されて入部し、レーシングスーツとヘルメットさえ持参すれば参加できるというレースに参戦したことでレースにのめり込んでいくようになったと説明。卒業後は普通に就職するつもりで内定をもらっていたが、「就職したらもうレースはできなくなる」と思い直して就職をドタキャン。そこからレースチームに所属してその後の活躍に続いているという。
当時目指していた夢としては、フォーミュラレースは遠い夢のまた夢と感じたことからハコ(市販車)のトップカテゴリーレースで活躍したいと考え、努力の末に当時の国内レースでトップカテゴリーとなっていた「全日本ツーリングカー選手権」に参戦することができたが、参戦翌年でレース自体がなくなってしまい残念な体験をしたとのエピソードも語った。
永井歩夢選手は子供のころからモトクロスレースで競技に参加していて、4輪車でのレースにも親近感を持っていて、家族でレンタルカートを利用する機会などもあったという。そこからX(当時はTwitter)の投稿でドライバーオーディションを見つけて「募集してるってことは、誰でもレーサーになれるんだ」と感じてオーディションに応募。今から7年ほど前の当時はまだ女性ドライバーも少なく、「この人数(15人ほど)の中なら活躍できるかも」と感じたことも続けていくきっかけになったとコメントした。
レースなどに興味がある女性の向けたコメントを質問され、及川紗利亜選手は自身もKYOJO CUPにドライバーオーディションを経て参戦するようになったが、2024年シーズンと比較して参戦チームが減ってしまい、レース参戦したいと考える女性ドライバーは多くいるのに参戦の機会が減ってしまっていると現状を紹介。女性ドライバーがレース参戦する入口をもっと増やしていけるような活動を、自身もレースで活躍しながらすそ野を広げていきたいと述べた。
また、瀬イオナ選手も走りたいと思っている女性は多いと感じているので、その思いに対して周辺がサポートする体制や環境作りをしていくことが非常に重要だと説明。女性のモータースポーツ活動を広げていくために協力してくれる人がどんどん増えてほしいと語った。
また、トークショー中に登壇したゲストから、女性ドライバー同士の戦いの場である「KYOJO CUP」が2025年シーズンから大きくレースフォーマットを変え、従来までの「VITA-01」によるレースが富士チャンピオンレース「FCR-VITA」内の「KYOJO VITAクラス」に変更されたことで女性ドライバーがレース参戦する間口が狭くなってしまったように感じているとの指摘が出たことから、会場に足を運んでステージを見守っていた住友ゴム工業 モータースポーツ部 部長 斉脇泉氏が急きょ登壇することになった。
斉脇部長は「KYOJO VITAの復活については関谷(正徳)さん、富士スピードウェイさんと相談して何かできないかと考えていて、今日も関谷さんが来ていたのでその話もしていました。具体的に詰めていきたいと思います」とコメント。
さらに「皆さんも言っていたように、すそ野が広がらないとトップが輝かないという考えには私たちも賛同するところで、モータースポーツは『走る実験室』と言われて先行技術の開発やプロモーションなどにも利用されますが、その点でもすそ野が広がらなければ意味を成さないと思います。その部分で、女性の参加拡大というとことはまだやれていないとことで、伸びしろがいくらでもあると考えているので、そこをわれわれも注力していきたいと思います」。
「今日はEVカートのレースですが、そのほかにもVITAやラリー、ジムカーナ、2輪ではモトクロスの話も出ましたが、モトクロス向けのタイヤもわれわれはモータースポーツの取り組みとしてやっていますので、そういったところを使ってすそ野を広げて、皆さんが輝けるように微力を尽くしていきたいと思います」と語った。
このほか、10月の「ピンクリボン月間」に合わせ、住友ゴムが取り組んでいる乳がんの早期発見・早期治療を呼びかける「ピンクリボン運動」のPRも実施。10月18日、19日に開催される「2025 AUTOBACS SUPER GT Round7 AUTOPOLIS GT 3Hours RACE」では、ダンロップタイヤ装着マシンに貼られる黄色い「DUNLOP」ステッカーや会場に掲げられるのぼりなどがピンクをベースとする特別仕様に変更されることも発表された。
BEVカート「TOM'S EVK-22」や全日本ラリーの「DL WPMS GR ヤリスDAT」なども展示
会場のダンロップブース前ではダンロップタイヤ装着車両の展示も行なわれ、全日本カート選手権 EV部門のBEVカート車両は子供が座って記念撮影するシーンなども見られた。
JAF全日本カート選手権 EV部門では三村壮太郎選手が第5戦・第6戦の両レースで優勝
JAF全日本カート選手権 EV部門 第5戦・第6戦では、両レースでゼッケン19番 三村壮太郎選手(ITOCHU ENEX WECARS TEAM IMPUL)が優勝を果たしている。
JAF全日本カート選手権 EV部門の会場となっているシティサーキット東京ベイは、かつてトヨタ自動車のテーマパーク「MEGA WEB(メガウェブ)」があった跡地を利用しており、東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ)の青海駅に隣接する観光地のお台場で、このレースでは観戦にチケットなどの購入も不要。レースの合間に行なわれるグリッドウォークも同じく無料となっており、選手たちと身近に触れ合えるということもあって、レース開始前には多くの人がコース周辺に陣取ってBEVカートの走りを観戦していた。