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スズキ、技術戦略説明会2025 新たな軽量化・パワートレーンの進化などについて鈴木俊宏社長らが説明
2025年9月11日 06:00
- 2025年9月9日 開催
技術戦略の発表と同時に行動理念も変更。「エネルギー極少化」「本質価値極大化」を目指す
スズキは9月9日、「技術戦略説明会2025」を開催。同日に発表された「10年先を見据えた『技術戦略2025』」について、スズキ 代表取締役社長 鈴木俊宏氏が説明した。
鈴木社長はまず、2024年の技術戦略説明会で発表した技術戦略2024について振り返り、エネルギー極少化の取り組みの進捗について報告した。
軽量化は100kgの目標に対して80kgの軽量化のめどが立ち、カーボンニュートラル燃料対応技術についてはインドで投入が開始され、バイオエタノールをガソリンに約20%混合したE20燃料対応車両は二輪・四輪ともに全モデルが対応済みとなり、FFV(Flexible Fuel Vehicle:フレックス燃料車)は二輪・四輪ともに今年度内に投入予定とし、濃度85%のバイオエタノールにまで対応するとした。
バッテリリーンなBEV/HEVについては、新型「eビターラ」やインドで発表した「e-ACCESS」を例として挙げ、eビターラにはSDVライトの考え方を適用していると紹介。
サーキュラーエコノミーの進捗については「リサイクルを容易にする材料統合」「容易に分解できる易分解設計」「軽量化のSライトプロジェクトと連携して樹脂部品の減量」「再生プラスチックの活用」「回収スキームの構築」を進め、近い将来に計画を立てて製品に投入する予定とした。
カーボンニュートラルに向けては、鈴鹿8時間耐久ロードレースに「チームスズキCNチャレンジ」として参戦。100%サステナブル燃料を使用し、タイヤ、オイル、カウル、ブレーキをはじめとした部品にはサステナブルな材料を用いたマシンで、トラブルに見舞われながらも総合33位で完走した。
バイオガス事業もインドで着々と進められ、CNG車はマルチスズキの販売の3台に1台を占めるほど普及が進んでいるとのことで、インドの酪農組合とともに建設したバイオガスの生産プラントを、2025年から順次稼働を開始するとした。
加えて、製造領域でも「スズキ・スマートファクトリー」を名付けたプロジェクトを進め、湖西工場の新塗装工場では“熱気は上に冷気は下に”という原理に従ったゾーニングを行ない、エネルギー効率を高くするとともに、使用エネルギーを大幅に削減しているとのこと。
鈴木社長は行動理念についても触れ、3現主義の「現場・現物・現実」に「原理・原則」を加えた「3現・2原」に新しくすると紹介。原理は自然の摂理であるものの、現場・現物・現実をとらえる解像度が高まれば、これまで以上に深く探求することで原理に一歩ずつ近づけると考え、見えてきた原理をその時代や周囲の状況も踏まえて整理し、原則としてアップデートする取り組みを続け、問題解決のレベルを上げるため、「現場・現物・現実・原理・原則」を実践していくとした。
最後に鈴木社長は「行動理念のもと、スズキの目指す姿はあらゆる人々のYour Sideに立ち、生活に密着したインフラモビリティになっていくことです。あらゆる場面で人に寄り添い、本質価値を提供する技術を一つひとつ積み上げていくことが使命と考えています。お客さまの感じる本質価値を極大化する技術を作り、人生のあらゆるシーンに寄り添うモビリティをご提供していきます。スズキの技術戦略は、地球に寄り添う技術哲学『エネルギーの極少化』で技術を磨き、人に寄り添う技術でモビリティの本質価値を極大化し、By Your Sideで日々の移動における社会課題を解決する製品、サービスをご提供してまいります。これからのスズキにご期待ください」と述べた。
軽量化、パワートレーンなど、今後の技術開発スケジュールは?
続けて、スズキ 取締役副社長 技術統括 加藤勝弘氏が技術戦略2025に基づいた具体的な技術開発について説明した。
まず、Sライトプロジェクトでは、主に車両構造進化に関するところで先行開発車を2030年までに完了させ、Sライト技術を盛り込んだ商品を軽自動車から投入し、A/B/Cセグメントに順次展開していく計画であると紹介。
パワートレーンに関しては、エネルギー効率、エネルギー密度の観点に加え、環境、資源を踏まえ、バイオガスやバイオエタノールなどのカーボンニュートラル燃料を使う高効率な内燃機関の開発を1つの軸としつつ、電動化技術、それを組み合わせたハイブリッド技術をもう1つの軸として、マルチパスウェイの技術方針は今後も変えずに進めていくとのこと。
内燃機関は、高効率化に向けて高速燃焼、高圧縮比化、ミラーサイクルなどの燃焼効率を向上する技術を開発するとともに、ハイブリッド専用エンジンであるDHE(Dedicated Hybrid Engine)の開発や、バイオ燃料などカーボンニュートラル燃料への対応を実施。2025年にインドで発売予定の新型「ビクトリス」のCNG仕様では、これまで荷室に搭載していたタンクを床下に配置するなど、使い勝手を向上させることでバイオガス普及に貢献するクルマ作りが進められている。
また、軽い小さいクルマ向けとした48Vハイブリッドスーパーエネチャージは、フィジビリティ・スタディが完了し、次の開発段階に進んでいるとのこと。合わせて、シリーズハイブリッドの開発も進められており、クルマのサイズや用途に合わせて、シリーズハイブリッドからPHEVまで、システム共通化と高効率化の達成目標を置きながら、効率よく、ちょうどいい航続距離を、安全安心な電池で実現するバッテリリーンな電動化システムを開発していくとした。
e-Axleとバッテリについては、第1世代から、2030年には第2世代、2035年には次世代へと技術を進化させ、将来のモビリティ社会にちょうど合うバッテリリーンな電動化技術を育てていく。
SDVライトは、「お客さまにちょうどいい高性能電装品の実現手段」といい、あっても使わないような過剰な機能とするのではなく、“ちょうどいい”を目指すとのこと。第1弾として、eビターラにSDVライトを適用し、統合ディスプレイシステム、サーバー連携ナビゲーションシステム、第3世代のスズキコネクトなどBセグメントとしてちょうどいい機能を提供している。
今後、予防安全性に関しては、高価になりがちな安全機能をECU(電子制御ユニット)統合などの手法でコストダウンしながら提供するアプローチとして、インテリジェントカメラのADAS機能を順次統合し、手ごろな価格で高い安全性能(NCAP性能)を実現していく。
自動車の装飾ランプは、モデルごとの魅力や個性を大切に設計しつつ、ヘッドライトの機能集約と軽量化を図るほか、ディスプレイモジュールの一体化、市場と車格に対してちょうどいいデジタルコクピット、AIを活用した音声操作の導入、スズキコネクトのサービス拡充やコスト最適化なども検討していく。
同時に電子プラットフォームの更新も進め、将来必要とされる要件に対応できる電子プラットフォームを「小・少・軽・短・美」の低コスト、適切なサイズで開発していく。
サーキュラーエコノミーの取り組みに関しては、具体例としてELV法でスポットの当たっている樹脂部品の取り組みを紹介。車両軽量化のSライトプロジェクトと連携して樹脂部品の減量を行なっており、再生プラスチックの利用率を向上させているほか、回収スキームを構築するなど回収率向上に向けた方法を検討しているとのこと。
さらに新しくCO2を吸い取る技術となるカーボンネガティブ(CN)技術に取り組んでいることも紹介。CO2を回収する装置を既存のクルマに後付けし、クルマからの排出ガス中に含まれるCO2を捕集してためておき、植物にCO2を供給することで植物の成長促進に寄与できないかという、回収したCO2を農業に生かそうとするもので、まだ実験室レベルの段階としながらも、今後も技術を進歩させていきたいと語った。
加藤氏はさらに「次世代のモビリティ社会における課題に対するスズキの技術戦略」として、高齢化が進んだことに起因する免許返納による移動制限や、公共交通の地域格差、労働人口の減少による物流や工場内運送など現場での人手不足の深刻化、新興国での交通渋滞や事故の増加など、自動車メーカーだからこそ解決しなければならない問題として、「クルマの本質価値の極大化」を技術戦略として追加したことを紹介。
ちょうどいい機能でちょうどいい価格を実現する「Easy to buy」、操作はわかりやすく、安全なドライブを実現する「Easy&Safety drive」、移動だけじゃない楽しさを実現する「Waku Waku drive」、価格以上の価値を実現する「High value」、自動搬送や公共交通の利便性を高める「新モビリティ」、人生に寄り添うモビリティを目指す「サステナブルユース」の6つの視点で取り組みを進めていくとした。
これについて加藤氏は「クルマは人の暮らしに寄り添い、人生そのものに寄り添う存在であり、生涯のパートナーです。サステナブルユースという考え方は、まさにその思いを形にしたものです。人生のあらゆる瞬間に寄り添い続けるハイバリューな製品をお届けする。それが私たちが考える本質価値の極大化であり、これらはすべてが『小・少・軽・短・美』の理念にひもづいた私たちの目指すものです」と述べた。
最後に、モビリティ社会の課題解決に向けたスズキの技術戦略を実現するために、チームスズキが一丸となることが重要と話し、人の熱量を極大化する活動となる「スズキ未来R&Dプロジェクト」で技術者たちの熱量を極大化し、チーム力を上げていく活動を進めていると紹介。プロジェクトを主導している技術部門に所属する若手から中堅のコアメンバー10名を紹介した。
加藤氏は「スズキの技術戦略は、エネルギーの極少化技術で地球環境、資源課題を解決し、本質価値の極大化で人に寄り添う、人生のパートナーとなるモビリティをお届けする。地球に寄り添い、人に寄り添う、Right×Light Mobile Tech(ライトライト モビルテック)。スズキは世界中の人々に移動の自由を提供し続ける会社であり続けたい、Right×Light Mobile Techがスズキの技術戦略です」と総括した。
軽量化目標を100kgから120kgに変更する可能性も示唆
なお、質疑応答ではSライトプロジェクトで軽量化を行なう中で、過去の「アルト」を研究していた際の発見として、過去のアルトのサイズでも十分な広さを感じられることが再認識されたといい、二輪、四輪、マリンの部門を超えたアイデア出しや、NVH(騒音・振動・ハーシュネス)対策の技術進化によって、ノイズパッドなどの不要な部品を削減することによって、100kgではなく120kgの軽量化が可能ではないかという期待が鈴木社長から述べられた。
また、パワートレーンの将来的な比率などについては、地域によって異なる電力事情や燃料供給事情、顧客の経済状況を考慮して投入するとして、マルチパスウェイの技術方針は変えないということを鈴木社長は強調。2030年度の内燃機関における電動化率は約57%と予測されているとして、顧客が「買える価格」で提供することを重視していると説明した。
さらに、軽自動車規格について問われた鈴木社長は、日本の軽自動車の規格はグローバルにも通用するサイズであり、生活に密着したモビリティとして優れた機能を持っていると評価し、「ガラパゴス」と揶揄されることもあったものの、スズキでは徹底的にこの規格を極めていく方針であると述べた。