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ホンダが手放しで乗れるパーソナルモビリティ「ユニワン」を事業化 新ジャンル「目的地で利用するモビリティ」とは?
2025年9月10日 00:00
- 2025年9月8日 実施
UNI-ONEは目的地で利用するモビリティ
本田技研工業は9月8日、ハンズフリーパーソナルモビリティ「UNI-ONE(ユニワン)」の事業化を発表。9月24日の発売に先駆け、都内で発表・試乗会を実施した。
UNI-ONEは、自宅から職場、自宅からリゾート地などといったA地点からB地点へ移動するための乗り物ではなく、アミューズメント施設、公共施設など、あくまでクルマや飛行機、電車などで移動した後の「目的地で利用するモビリティ」としてホンダは位置づけている。
当面は日本国内の法人向け販売のみで、価格は3年契約の場合、10台未満は1台12万円、10台以上は1台10万円。6年契約の場合、10台未満は1台9万円、10台以上は1台8万円。また、期間限定のイベントなどで利用する「短期レンタルサービス」も用意していて、1日1台5万5000円の設定。
料金には搭乗者・物損の保険も含まれている。2030年までの5年間で限定1000台としていて、売り上げ目標は2030年までに40億円としている。
移動だけでなくDXを使った新体験、作業員の疲労軽減、リハビリ利用なども
今回の事業化決定について、本田技研工業 新規事業開発部 UNI-ONE事業ドメイン 事業責任者 中原大輔氏は、「ホンダは地上から空、そして宇宙へと、多種多様なモビリティにチャレンジしておりますが、UNI-ONEはより人に身近なモビリティとして、自由な移動の実現に挑戦してきました。ホンダの持つ四輪、二輪のモーター技術やバッテリ技術に加え、人型ロボットASIMO(アシモ)の開発で培った高度な制御技術を融合した革新的な製品です。また、UNI-ONEの事業が目指す姿は、ボーダレスな社会の実現です。今までできなかったことが、UNI-ONEのテクノロジーによってできることで、生活の可能性を広げていきたい、UNI-ONEを通して家族や友人との外出機会を増やし、社会参加の促進につなげたい、そんな思いで事業を開始します」とあいさつ。
UNI-ONEの特徴については「大きく3つある」と中原氏。1つ目は、ハンドル操作やジョイスティック操作などが一切不要で、座ったまま体重移動だけで全方位に移動できること。これで自転車にまだ乗れない小さな子供や、運転免許証を返納した高齢者も乗れるという。
2つ目は、自動車などはセンサーを付けて人を避ける設計思想だが、UNI-ONEに同じようにセンサーを付けたら人混みの中では動けなくなってしまう。そこで逆転の発想で、人とぶつかっても安全な設計思想で作り、あえてセンサーを付けていないという。
3つ目は坂道に対する技術。傾斜があっても平坦と同じようにバランスをとり、坂道の途中でのUターンも可能。下り坂でもスピードが出ることなく、非常に安定した形で下りられるという。
これらの特徴は他のモビリティにはない要素となり、中原氏は「人より速くは移動できませんが、目的地の中で人と一緒に会話をしながら、もしくは手をつなぎながら移動でき、歩行の疲労度を軽減できるのもUNI-ONEの価値の1つです」と説明する。
さらに、発展形としてはDX技術と融合させることで、AR(拡張現実)グラスをかけながら水中や宇宙空間を移動しているような体験提供や、施設の警備員や清掃員のような徒歩移動が多い仕事の疲労軽減、加えてリハビリなどへの利用も考慮しているという。
人間のパートナーや相棒になるポニーのようなロボット
続いて開発責任者の小橋慎一郎氏が、UNI-ONE開発にかける思いを紹介してくれた。小橋氏は「開発をはじめた原点にあるのは、人間が乗る単なるモビリティではなく、人間のパートナーや相棒になるような乗り物を作りたい。馬は昔から人や荷物を運んできましたし、道案内や追従だけじゃなくて、例えば障害物も避けてくれる、そういった人と共に暮らせる、人混在空間でも活躍できるような、小さなポニーのようなロボットを作りたいと思いました」と強調。
また、開発経緯については、「まず立ち乗りスタイルのモデルを、人型ロボットASIMOのシステムを流用して開発しました。その後、着座スタイルの方が乗り降りしやすいと分かってきて、 2013年に“UNI-CUB β(ユニキャブベータ)”という形で実証実験を開始。体重移動による移動や両手が自由になる、目線が立位に近いところなど非常に好評でした。しかし、子供や高齢の方からの乗りたいという声とか、導入先から倒れないようにしてほしい。倒れない方が安心して使えるといった声をいただき、UNI-CUBに補助輪を付けてみたりと、粘り強く開発を続けてきました」と、長い開発の苦労を振り返った。
開発で特に大事にしていたポイントについて小橋氏は、「人の歩行と同じ感覚で、特別な操作をしないで移動できることです。その基盤となるのが、立ったり歩く時と同じ“倒立振子の原理”で、開発チームはこれを徹底的に解析して、歩行感覚に近い固有周波数を導き出しました」と、開発の核となる部分を説明。
また、このUNI-ONEの動きを生み出すのが“人協調バランス制御”で、ASIMOで培ったバランス制御と人とモビリティがループで結ばれているのがポイントだという。UNI-ONEに乗っている人が歩いてる感覚で歩行に近い動きをすると、内蔵センサーやコンピューターが速さや方向といった動きの意図を推定。その意図を推定した通りに車輪があたかも歩行しているかのように動くという。
また、もう1つのコア技術が全方位駆動を可能にする「Omni Traction Drive System(オムニ・トラクション・ドライブ・システム)」で、実証実験を行なってきたUNI-CUB βにも搭載しているが、UNI-ONEではモーターとギアをユニット化し、2つのOmni Traction Drive Systemを搭載。このOmni Traction Drive Systemを平行に2つ搭載したことで、走破性や安定性が大幅に向上したという。
さらにUNI-ONEは「ハイポジション」と「ローポジション」という2モードに変形でき、UNI-CUB βの特徴だった目線が高いところや手が自由になる移動をしっかりと継承。さらに「ローポジション」を設けることで、座面が低くて静的に安定するので、子供から高齢者、車いすユーザーも簡単に乗り降りできるほか、急な操作やシステム異常が起こった際には、自動的に「ローポジション」に変形することで、転倒リスクを防げるように仕上げている。
なお、2023年のジャパンモビリティショーに出展していたモデルと外観はほどんど同じだが、実は内部構造がまったく異なっていて、現在の最新モデルは、坂道の途中でも「ハイポジション」と「ローポジション」の変形ができるように進化しているほか、航続時間の20%延長や、セーフティ作動時の着地音を小さくするなど細かい改良が重ねられている。
また、旧モデルは2025年1月に公道走行が可能になる国交省の「移動用小型車」の型式認定を取得していて、新型モデルも7月1日に取得。歩行者扱いとなり歩道を走行でき、利用シーンのさらなる拡大が期待されるという。
誰が乗っても違和感やストレスを感じないデザイン
最後にデザイン責任者の金森聡史氏が登壇。「UNI-ONEは所有するものではなく、インフラの中で使用するモビリティとして、どうあるべきかを考えました。四輪や二輪と違い所有欲を満たすものではないですし、不特定多数の人が乗るので違和感やストレスのない存在であることを目指しました。また、人混みでも埋もれないと同時に悪目立ちをしないことも大事な要素でした」とデザイン性の難しさについて言及した。
スタイリングでは、立っている人と同様に乗っても自然体に見えること、昇降した際の浮遊感や先進感など新しさで“ちょっと乗ってみたい”と思われると同時に危険性を感じない安心感があること、ASIMOのアイコニック要素を取り入れることでホンダロボティクスらしさを感じられること、これら大きく3つの要素を込めたという。
また、外装は無地のためキャンバスとしても利用可能。すでに「ジャパンモビリティショー」や「大阪・関西万博」などでは、外装をラッピングしたUNI-ONEが導入されたほか、今後も東京2025世界陸上でもお目見えする。
実際にUNI-ONEの導入を決めたサンリオエンターテイメントの声
サンリオエンターテイメントは、サンリオグループの中でテーマパーク事業を担っている企業で、東京都多摩市にあるサンリオキャラクターをモチーフとした屋内型テーマパーク「サンリオピューロランド」は1990年に開園。また、大分県にある「ハーモニーランド」は光と風を感じる屋外型テーマパークで1991年に開園。今年と来年にかけて35周年を迎える記念年となっている。
サンリオエンターテイメント代表取締役社長の小巻亜矢氏は、今回のUNI-ONEの導入の経緯について、「ハーモニーランドは敷地面積が42haと非常に広大ですが、テーマパーク部分は8ha程度で、まだまだ今後いろいろと開発できる可能性があると、現在エンタメリゾート化に向けて動いております。このエンタメリゾート化について1年半ほどディスカッションをしてますが、サンリオの理念である“みんな仲良く”を本当に実現できる場所にしたいと考えております」と説明。
続けて、「ディスカッション進めながら地元である大分県のいろいろな施設を視察させてもらったのですが、その中の1つにホンダ太陽さんがあったのですが、障がいのある方も健常といわれる方も、施設の面もマインドの面も、さまざまな面でみんなのいろいろな働き方が実現している。本当に私たちが尊敬すべき、そして参考にすべき施設でした」と振り返った。
そのつながりからUNI-ONE試作機を試乗する機会を得た小巻氏は、「バリアフリーの枠を越えた社会性と経済性の両立を体現する新しい観光モデルを目指している中で、新しい移動手段としてUNI-ONEの導入を決定しました。来場者へのレンタルをはじめ、スタッフ業務への導入、さらにアトラクションとしてのエンターテイメント活用の可能性など、幅広い展開を検討しています」と、今後の展望を語ってくれた。