「私は、昨年(1999年)、地元のある親御さんから、こんな気になる話を聞いたのであります。東京に少年たちがタレントとして活躍しているジャニーズ事務所という芸能プロダクションがあるのですが、そこに所属する少年たちの間で喫煙や飲酒が堂々とまかり通っておるというのであります。他にもいろいろな問題があります。私も耳を疑ったのですが、ジャニーズ事務所の社長であるジャニー喜多川さんがタレントの少年たちに性的ないたずらをしているという話も聞きました」――。
これは2000年4月13日、第147回国会の衆議院「青少年問題に関する特別委員会」で、質問に立った自由民主党の阪上善秀衆議院議員(当時、故人)の言葉だ(資料、https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=114704582X00520000413&spkNum=147#s147)。
警察の対応のまずさが事件を大きくした
この国会の議事録は、英BBCがジャニーズ問題を報じたドキュメンタリー番組を放送してから、ネットニュースなどでも取り上げられていたので、ご存じの方もいるであろう。
連日連夜ジャニー喜多川氏とジャニーズ事務所による児童虐待問題に関する様々な報道と、意見と、バッシングが飛び交っている今、改めて当時の議事録を読めば読むほど、「なぜ、大人たちは子供たちをもっと守れなかったのか」とじくじたる思いになる。大人が一歩踏み出しさえすれば、虐待の拡大を止めるチャンスは何度もあった。もし、このとき、厚生省(当時は省庁統合前)が、労働省(同)が、警察庁が動いていれば、ジャニーズの問題に加えて、予備校や中学校などでも起きていた女子児童に対する児童虐待なども防ぐことができた。そう思えてならない。
そこで今回は、子供の将来に大きな心理的影響を及ぼす「児童虐待」という犯罪から、どうすれば子供を守ることができるのか? ということについて、皆さんと共に考えてみたい。
まずは冒頭に記載した議事録の概要を紹介する。引用部分が少々長くなるが、本コラムをお読みの人たちにこそ、知ってもらいたい内容なのでご了承ください(省庁名、政党名、肩書などは当時のママ。一部、抜粋・補足した部分があります)。
「きょうは、青少年問題特別委員会の各会派の理事の皆様方に御理解をいただきまして質問の順序を繰り上げていただきまして、心から感謝を申し上げます」と述べ、最初に質問に立った改革クラブの石田勝之氏によると、児童虐待の報道が後を絶たない状況から、1999年に同委員会を設置。メンバーが様々な見地から問題に取り組んだ結果、当時の児童福祉法に多くの不備や課題があるとの結論に至ったという。
ところが、厚生省は否定的で、99年11月の委員会で「児童福祉法の改正は当面必要がない」との見解を示した。石田氏が厚生省児童家庭局長の真野章氏に、その理由を問うシーンから特別委員会は始まっている。
その後、質問に立ったのが阪上氏だった。
「本題に入る前に」とエクスキューズ(弁明)をした上で、当時、話題を集めていた新潟の女性監禁事件、埼玉県の桶川市で起こった女子大生刺殺事件などを取り上げ、「警察の対応のまずさゆえに事件を大きくしてしまったという報道は目に余るものがある」と指摘。その対応措置として、警察庁が都道府県警察宛てに発出した「困りごと相談業務の強化に係る実施要領について」という局長通達を、「いかに実現するのか、予算措置は大丈夫なのか」と、警察庁生活安全局長の黒澤正和氏に質問。続いて、厚生省が児童福祉法の改正に消極的なことの真意を、再び真野氏に尋ねた。
これに真野氏が、石田氏に答えたことを再度繰り返した後、阪上氏は「ジャニーズ問題」について様々な法律を示しながら、それぞれの省庁の参考人に質問している。
「昨年(99年)、地元のある親御さんから、気になる話を聞いた。ジャニーズ事務所という芸能プロダクションに所属する少年たちの間で、喫煙や飲酒が堂々とまかり通っておるという。他にもいろいろな問題があり、耳を疑ったが、ジャニーズ事務所の社長であるジャニー喜多川さんがタレントの少年たちに性的ないたずらをしているという話だ。
ジャニーズ事務所についての説明なし
その親御さんのお子さんがジャニーズ事務所に関係しており、お子さんだけでなく、子供の友達からもジャニーズ事務所の体験談をたくさん聞いたという。(中略)
かなり以前からこの問題は活字になっていて、最近も文藝春秋社発行の週刊文春で、10回にわたり、この問題が掲載されておる。(中略)
ジャニーズ事務所の人気や社会的影響力の大きさを考慮したとき、教育的な見地から、どうしても看過できない、多くの疑問を抱きましたから、あえて問題を提起させていただきたい」
こう切り出した阪上氏が最初に質問したのは、労働省労働基準局長の野寺康幸氏だ。
<深夜労働・平日労働について>
阪上:「労働基準法では、満15歳未満の児童は労働者として使用してはならないとし、満15歳以上18歳未満の年少者は、午後10時から午前5時までは使用してはならないと定められている。(中略)これらの規定について、ジャニーズ事務所の実態を労働基準監督署は把握しているのか。実態調査を過去にされたと聞いているが、本当か」
野寺:「一般的に専属契約という形の契約かつ報酬が一般の所得水準の数倍で、税法上も事業所得という形で課税されているなどの理由から、タレントは一般的には労働者とは見なしていないケースが多い、ジャニーズ事務所については、告発などの形ではないが、問題があるようなら今後必要な調査を的確にやりたい」
阪上:「昨年(99年)12月に、大手プロダクションのホリプロ所属のタレントが深夜(の時間帯の番組に)出演し、ホリプロは摘発されてジャニーズ事務所は許されるというのはおかしいのではないか。
ジャニーズ事務所に対する報道がある以上、事務所の実態調査を行い、必要な指導を行うべきだ。平成10年(98年)あるいは11年(99年)に実態調査に入ったと聞いているが、その後の指導監督はどうなっているか?」
野寺氏はこれに対し、ホリプロが摘発された理由は述べたが、ジャニーズ事務所の調査などについての説明はなかった。
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