動画に登場するジェネシスホールディングスの藤岡淳一社長、Shiftall(シフト―ル)の岩佐琢磨CEO(最高経営責任者)がともに語っているように、深センだけでなく中国全体がデジタル技術とインターネットを背景にここ数年で長足の進歩を遂げている。1990年代から2010年ごろまでの急成長を支えてきたのは先進国からの下請けやキャッチアップ、コピーだが、ここ10年ほどの発展は新しいテクノロジートレンドに合わせて、中国の企業が進化した結果だ。

 動画で言及されているDJIのドローンや360度カメラの「Insta360」のカメラ、比亜迪(BYD)の電気自動車といった製品は、特に近年のものほど先進国にはっきりしたコピー元がない。藤岡氏が話しているように、こうしたモノを作る人たちはデジタル化以前の深センの製造業時代を支えていた人たちとは異なり、海外の大学の出身者を含むエリートたちが深センに移ってきてイノベーションを先導している。

 一方、デジタル化以前の長年のパートナーとして深センの成長を支えてきた日本の大製造業は、デジタル化された新しい世代の深センのスタートアップとうまく協業ができずにいる。藤岡氏や岩佐氏のように中国のやり方に合わせて新しいビジネスを生み出すことが苦手で、現地では疎まれてしまうこともある。

 日本でも、デジタル技術とインターネットの発展に合わせた新しいスタートアップとそのエコシステムを生み出そうという動きは業種を問わず始まっているが、トライすることに対して不寛容という日本独特の壁にぶつかることが多いようだ。

 以前にも触れたように、ライドシェア大手の滴滴出行(DiDi)は中国社会の中でもタクシー会社と衝突を繰り返している。また、ドライバーによる犯罪が起きたことにより、DiDiは、アプリ上で乗車中の会話を録音したり、ユーザーに緊急連絡の登録を促したりするなど、機能を増やしている。同時に運転手の精査や資格の厳格化など、信頼性向上を続けている。

 シェアサイクル大手のofoのようなスタートアップ企業の経営不振や倒産も相変わらず発生している。ただ、そうしたサンドボックス(砂場、ここでは特定の領域で試験的に導入することで、危険かどうかを判断する意味で使用している)的な成長を許す社会が、多くのスタートアップを助けてもいる。その意味では深センが与えられた「経済特区」という立場は今も生きていると言える。

スタートアップ企業が普及させた中国のQRコード決済

 最近、日本でも注目されている中国のスマホ決済や信用システムも、開発しているアリババやテンセントといった企業内の試行錯誤と、政府のルール作りが並行して進んでいる。現在は中国のフィンテックの代表例になっているQRコード決済について、中国当局は2013年に安全性の懸念を公表した。

 政府系の色が強い銀聯はそこで関係省庁へのオーソライズや法制度整備に軸足を置き、開発速度を落としたが、スタートアップであるアリババは開発を続けた。結果として、安全性含め使い勝手が向上したアリペイなどのサービスが銀聯を置き去りにして普及し、結果的には懸念が払拭された状態になった。

 日本のスタートアップ(特に金融にからむもの)に頻繁に行政指導が入り、成長が止まるのを見ていると、中国の融通を利かせた対応には感心するばかりだ。テクノロジーを基盤にした社会になるということは、ムーアの法則の速度で進化するさまざまなものを受け入れていくということだ。それは日本の大企業だけでなく、社会全体の問題でもある。

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