口コミで年間150社以上の新規顧客が集まる、人気抜群の会計事務所が東京・江戸川区にある。その代表社員、古田土満氏が勧めるのが、経営計画書の作成だ。会社と社員の明るい未来像を経営計画書の中に具体的に描くことで、社員が高いモチベーションを持って仕事に取り組む、いい社風の会社に変えることができるという。連載第3回は、社長や管理職のあり方について語る。社員に嫌われても「うるさく、細かく、しつこく」するべき理由とは?

 会社には、優秀な社員が2割、普通の社員が6割、優秀でない社員が2割いると言われています。大きなミスや失敗をするのは、ベテラン社員と優秀な社員、小さなミスや失敗を繰り返すのは優秀でない社員です。良い組織をつくるためには、社員のモチベーションを上げることと、業務ミスやクレームをなくすことであると思っています。

 まず社員のモチベーションを上げるには、給与や人事制度、社員教育よりも、仕事を通して社員がお客様からほめられたり、感謝されたり、自分の成長を実感したりできること、そして何より社長や上司が自ら立派な人間になる努力をして、社員から尊敬されることであると信じています。

 社長が尊敬されるためには、公私混同しないこと。社長だけが高級車に乗ったり、借金をして豪華な家を買ったりしないことです。

 社長の私生活が派手になると、社員の心が離れていきます。社員の給料では生活するのが精いっぱいです。社長として世間より2割、3割高い給与を社員に払っているという自信がないかぎり、私生活を慎むべきだと思います。

<b>こだと・みつる</b> 法政大学卒業後、公認会計士試験に合格。監査法人にて会計監査を経験し1983年に古田土公認会計士・税理士事務所を設立。企業の財務分析、市場分析、資金繰りに至るまで徹底した分析ツールを武器に様々な企業の体質改善を実現。中でも年商50億円、従業員100名以下の中小企業オーナーに絶大なる信頼を得ている。著書に、『社員100人までの会社の「社長の仕事」』(かんき出版)など
こだと・みつる 法政大学卒業後、公認会計士試験に合格。監査法人にて会計監査を経験し1983年に古田土公認会計士・税理士事務所を設立。企業の財務分析、市場分析、資金繰りに至るまで徹底した分析ツールを武器に様々な企業の体質改善を実現。中でも年商50億円、従業員100名以下の中小企業オーナーに絶大なる信頼を得ている。著書に、『社員100人までの会社の「社長の仕事」』(かんき出版)など

自分のことは棚に上げて、うるさく細かい人になろう

 業務ミスやクレームをなくすことには私もいつも悩んでいて、解決策がありません。社員の数が増えるほど、ミスとクレームが増えていきます。

 しかしある会社の経営計画発表会で「これだ」という言葉に出会いました。

 会社力研究所代表の長谷川和廣氏のお話にあった、「優秀な課長や係長の共通点は次の3つ。うるさい人、細かい人、しつこい人です、と断言します」という言葉です。

 私は自分の会社を含めた多くの中小企業を見てきて、物事が徹底されないもどかしさを感じていました。社員を社外研修にも出しましたが、ほとんど効果はありませんでした。

 「仕組みをつくる」ということでマニュアルを作成しチェックしましたが、一部の人間は形だけでやっているので大きなミス、クレームが起きています。

 何が欠けているのか、それは、リーダーがうるさく、細かく、しつこく指導してこなかったからだとこの言葉を聞いて気づきました。

 「うるさく、細かく、しつこく」すれば当然、周囲から嫌われますから、多くのリーダーはやろうとしません。また、部下を厳しく指導するなら、「自分に実力と実績があってこそ言える」と思っている人も多いと思います。

 しかし、組織をよくしたい、社員を育てたいという愛情があれば、「自分もまだ全てはできているわけではないけれど、自分のことは棚に上げて、これからは、うるさい人、細かい人、しつこい人になります」と宣言したらどうでしょうか。

 社長、役員、幹部が愛情を持って人を育てるのに一番必要なことは、自分と人に対する厳しさです。

 古田土会計の仕事は会計と税法が基本です。会計が正しく、美しい貸借対照表、損益計算書を作成する。それを受けて、税理士が正しい申告をする。私たちの仕事は尊く、社会にとってなくてはならない仕事です。この仕事にはやりがい、生きがいが持てます。それだけに、ミスは許されません。

細かいミスを見逃せば、大きなミスを生む

 私は役員、部長、リーダー、サブリーダーに言っています。

 「私と共にうるさい人、細かい人、しつこい人になりましょう。実行しない人は、仕事と部下に対する愛情のない人です」と。

 古田土会計では、パートさんを含む全社員181人に、毎月10日までにグループ全社の損益計算書と貸借対照表が配布されます。経営数字を公開し、社長である私の給料もオープンにして、私自身が公私混同をしないようにしています。この公私混同が、社長にとっては「そのくらい」という細かなことでも、中小企業の経営にとっては大きなテーマだからです。

 昔は中小企業で、公私混同している経営者を多く見かけました。もっとも、昔は社員もそれを気にしませんでした。社員の給料が毎年上がっていったからです。経営者が、実際には会社で働いていない奥さんや子供に給料を出していても、大目に見てくれました。

 今は、社員の給料が昔のように上がりません。経費の使い方も厳しく言われます。このような時代に経営者だけが多くの交際費を使い同族のみを優遇していたら、社員の心は離れていきます。

 経営者として大事なことは、事業のためや、社員の生活を豊かにするため、働く環境をよくするためにお金を使うことがあっても、社長個人の生活のために会社のお金を使わないことです。少なくとも、社員の目から見て、「社長だけが得をしているのはないか」と思われないようにすることです。

細かいルールがないと、不信が大きくなっていく

 例えば誤解を受けやすいものに、出張に伴う日当と宿泊費があります。

 日当は世間相場があり、あまり高額だと税務署から否認されます。否認されない額でも、社長と一般社員の差が大きいと、社長だけが得をしていると思われます。さらに問題なのが宿泊費です。人によって宿泊するホテルは様々ですから、実費で精算するのは問題ありません。

 ところが、1日5万円をもらいながら、実際は1万円のホテルに泊まったとしましょう。社長は4万円儲かったと思うでしょうが、社員はどう思うでしょうか? 多くの社員は自分も同じようにと、社長のまねをします。

 1万円の宿泊費をもらいながら、3000円のカプセルホテルに泊まったり、車の中で寝たりする社員も出てきます。定期代をごまかす社員も出てくるかもしれません。

 定額支給にする場合でも領収書を添付させて、差額は20%以内というルールをつくり厳しくチェックする体制にしないと、やがて社員は不正を起こすようになるのです。

 例えばこれが、細かいことがどれだけ大切かということです。

 経営者の行動は、全社員にいつも見られています。特にお金の使い方は厳しく見られます。社長が社員に「ご馳走する」と言ってお金を支払い、社員にお礼を言わせ、それを会社の経費にしたら社員はどう思うでしょうか?

 魂は細部に宿ります。些細と思われることのお金の使い方で尊敬もされ、信用もなくします。会社の他のことも同様です。

・凡事徹底。
・日常の細事を大切にすること。
・挨拶は笑顔ですること。
・掃除は毎日やり、身の回りをきれいにすること。ゴミが落ちていたら即拾うこと。
・電車の中では年配者等に席を譲ること。
・女性は電車の中で化粧をしないこと。このような行為は恥ずかしいと思うこと。

 会社では社長が細部にまで気を配り、率先して公私混同をしないように心がけ、社員の公私混同にも厳しく対処すべきです。

 小事を大切にすることによって、大事が成し遂げられます。自分の会社を立派な会社にしようとしている社長は、「魂は細部に宿る」、この言葉を戒めとすべきだと思います。

(構成:菅野 武、編集:日経トップリーダー

著者、古田土満氏の新刊を発売しました

 著者自身が経営に取り入れている、社長と社員が目標に向かって一丸となる経営計画書の作り方と、その実践方法についてまとめた新刊書『ダントツ人気の会計士が社長に伝えたい 小さな会社の財務 コレだけ!』を発売しました。財務のどこに手を打てばいいのかが分かる未来会計図、利益の出し方とお金の残し方が分かる月次決算書など、著者が長年の経験からつくり上げた小さな会社のための財務ツールについても丁寧に解説しています。詳しくはこちらから。

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