イヤホンは一般的には音楽を聴くアイテムだが、「語学学習用」をうたうユニークなイヤホン「ちょんまげ君」が、2015年11月に発売されて話題を集めている。販売しているのはイヤホンブランドの「茶楽音人(さらうんど)」、実売価格は4500円だ。

 茶楽音人は、元ソニーの技術者、山岸亮氏が立ち上げたメーカー「音茶楽(おちゃらく)」が技術協力し、TTRが展開しているイヤホンブランド。音茶楽はどんぐりそっくりのデザインで、シャープで切れ味のあるサウンドを実現した「Donguri」シリーズで有名だ。(関連記事は「今のイヤホンの弱点を解消! 元ソニーの技術者が作った「マニアックイヤホン」のスゴさとは?」)

 高音質イヤホンメーカーとして知られる音茶楽が、なぜ語学学習用イヤホンの開発に至ったのだろうか。

「茶楽音人」が2015年11月より発売している語学学習用イヤホン「ちょんまげ君」。実売価格は4500円
「茶楽音人」が2015年11月より発売している語学学習用イヤホン「ちょんまげ君」。実売価格は4500円
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技術を担当する音茶楽の山岸亮氏(左)と、設計・製造を手掛けるTTRの篠塚順正氏(右)
技術を担当する音茶楽の山岸亮氏(左)と、設計・製造を手掛けるTTRの篠塚順正氏(右)
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東京五輪のために新開発

 語学学習用イヤホン開発のきっかけは、ちょんまげ君と同時期に発売された高音質イヤホン「Chonmage -3号」(税込み1万9000円)の開発時へとさかのぼる。

 耳穴にねじ込むようにして装着するカナル型イヤホンは、ダイナミック型のユニットを使用した場合、音抜き穴が必要なためにどうしても音漏れが生じる。そこで音茶楽では、穴からの音漏れがほとんどないイヤホンの製品化を検討していた。

 その際に、イヤホン内部の前の部屋と後ろの部屋をつなげて、わずかな空気が行ったり来たりする経路を作るアイデアが出た。そして「この構造を作ったときに、低音が聞こえにくくなるということが分かりました」と山岸氏。

「ちょんまげ君」のモデルである「Chonmage -3号」。実売価格は税込み1万9000円
「ちょんまげ君」のモデルである「Chonmage -3号」。実売価格は税込み1万9000円
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 Chonmage -3号は低音が出て音漏れも防げる高音質イヤホンとして作ったが、低音が聞こえにくくなる構造は別の役にも立つのではないか。こうしたきっかけと「2020年の東京五輪で語学の勉強をする人が増えるだろう」という思いがあいまって開発されたのが「ちょんまげ君」だ。

「人の声」以外の音域をカット

 語学学習用の「ちょんまげ君」は一般的なイヤホンと何が違うのか。それは人の声の帯域以外の音が大幅にカットされていることにある。

 その仕組みは、先に紹介したChonmage -3号の開発で生まれた、イヤホン内部の前と後ろをつなげた、低音の出ない構造だ。

語学学習用に人の声のみを聞き取りやすくする「ちょんまげ君」
語学学習用に人の声のみを聞き取りやすくする「ちょんまげ君」
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「音茶楽」の山岸亮氏からレクチャー
「音茶楽」の山岸亮氏からレクチャー
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 製品パッケージには音が出やすい帯域は表記されていないが、「100Hzから200Hzあたりの低音域はかなり音がカットされ、人間の声が聞き取りやすい中音域から3kHz〜4kHzまでの高音域が聞こえやすい構造になっている」(TTRの篠塚順正氏)と、声の帯域のみへのマッチを狙っている。

 開発にあたっては、設計・開発にあたったTTR社内の英語ネイティブの人の協力を得て、英語で使われる周波数帯域でも聞こえ方に支障がないかどうかの確認もしているとのことだ。

実際に英語教材をリスニングしてみた
実際に英語教材をリスニングしてみた
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BGMすらカットされてしまう

 実際、取材時に英語のリスニング教材を聞いてみると、声のみにフォーカスした効果は驚くほどであった。

 通常のイヤホンと比べるまでもなく、人の声のみがくっきりして聞き取りやすく、外音の遮音性にも優れている。一方、学習教材で挿入されるBGMやシーン切り替えの音楽さえもカットされてしまうほどで、まさに「人の声に特化したイヤホン」という効果をすぐに実感できた。

 逆に一般的なJ-POPを聞くと、ボーカルはクリアに聞こえるが、バンド演奏、特に低音はほとんど聞こえない。ボーカルが聞こえるので曲は分かるが、音楽としてのバランスは好ましくはない。まさに語学学習に特化しているイヤホンだ。

落語や通訳業界でも話題に

 ちょんまげ君の発売以来、販売元の茶楽音人にはさまざまな反響が寄せられているという。

 まず、ターゲットとした語学学習以外に、トーク番組を聞いている人から聞きやすいという反響があったということ。また、東京にある山野楽器銀座本店では落語コーナーに置かれ、喋りの声だけを集中して聞きたい人から支持されているという。

 もうひとつ、プロフェッショナルの立場からぜひ使いたいという声が上がったのが同時通訳の分野。同時通訳では、騒音もあるイベント会場などで瞬時に声を聞き取り翻訳しなくてはいけないため、ちょんまげ君の持つ「外音カット」と「人の声のクリアさ」が生かせる。

 語学学習という限られたターゲットに向けて作られたちょんまげ君は、音楽リスニングには向かない特殊なイヤホンだ。だが語学学習に本気を出したい人や、普段は音楽プレーヤーで語学学習をしているが音楽をついつい聞いてしまうという人は、ちょんまげ君なら語学学習に集中できることだろう。

(文/折原 一也)

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