インダストリアル・インターネットの特徴は、顧客企業にコスト削減などのメリットを提供する一方で、省エネやCO2削減といった環境負荷削減に貢献している点にある。例えば、航空機の燃費改善により、マレーシアのエアアジアは2014年の1年間で1000万ドルの燃料費を削減。ブラジルのゴル航空は、2015年から5年間の累計で9000万ドルを削減できる見込みだという。
GEの創業事業である照明事業でも、今年から中国・天津でセンサーを搭載した街灯を導入するなど、IoTを活用したビジネスを本格的に展開し始めた。蛍光灯の生産を中止すると発表し、大きな転換期を迎えている照明事業でどんなシナリオを描いているのか。GEライティング・ジャパンの木村朋聡社長に話を聞いた。
インダストリアル・インターネット関連事業としては、2012年に航空機の燃費改善サービスを提供開始し、既に米ユナイテッド航空や豪カンタス航空など十数社と契約を締結するなど先行しています。このサービスでは、GEのエンジンに搭載したセンサーから収集したデータの他、様々な飛行データや整備データ、気象データなどを解析、燃費改善や省エネにつなげていますが、照明事業ではどんなデータをどう活用しているのですか。
木村:現在、展開しているのは屋外に設置する街灯を対象にしたサービスです。昨年、米カリフォルニア州のサンディエゴとフロリダ州のジャクソンビルでサービスを開始し、今年から中国の天津で展開し始めました。
照明器具の上部に「ライトグリッド」というセンサーを搭載し、照明の稼働状況を遠隔から監視しているほか、街灯周辺の明るさやGPS(全地球測位システム)を利用して位置情報も把握しています。例えば、サンディエゴでは、3000台の街灯を蛍光灯からLED(発光ダイオード)に切り替え、WiFiを使ってネットワークにつないで集中管理しています。
夜12時以降は明るさを3割に
3000台の街灯を集中管理する目的は何でしょう。
木村:目的は省エネとメンテナンスの効率化の2つあります。省エネについては、まず、LED化によって消費電力を従来と比べて5~6割削減しました。さらに、時間帯や場所に応じて明るさを調節して電力の無駄遣いを減らしています。具体的には、人通りの少ない道路は、夜12時から翌朝5時までの間は照明の明るさを通常の3割まで落とすようにしました。
一方のメンテナンスの効率化では、寿命が切れた照明器具を把握して素早く修理・交換できるようになりました。GPSによって、どの場所の何番目のポールに設置した照明器具かまでピンポイントで特定できます。従来は、自治体が住民から「街灯が切れている」と連絡を受けてから対応していました。そのため、住民が連絡するまで街灯が消えたままになっていたり、修理・交換が必要な照明がどこにあるかを探すのに時間がかかったりしていたのです。
人を介さずに3000台の照明器具の中から点灯しなくなった照明器具を特定できるのは便利ですね。実際にどの程度の効果が出ているのですか。
木村:2015年2月から運用を開始し、1年間で電気代と補習費合わせて約35万ドルを削減できました。
電気代や補修費の削減だけにとどまりません。GEは、街灯を通して街全体の経済性を高めようとしています。世界では大都市に人口が集中する傾向にあります。交通渋滞や大気汚染といった課題が深刻化する中、都市であれば当たり前に設置されている街灯が課題解決に重要な役割を果たせると考えています。
空いている駐車場へ誘導
将来的には照明器具にカメラを搭載する予定です。映像から交通状況を把握することで、渋滞の解消に役立てられます。サンディエゴで発生する渋滞の約3割は、駐車場を探しているクルマが要因だといわれています。例えば、カメラの映像から渋滞が発生しそうだと判断した場合、時間貸し駐車場の運営会社が空いている駐車場を運転車に知らせて誘導すれば渋滞を軽減できるでしょう。
渋滞が解消されて人がもっとスムーズに移動できるようになれば、街で買い物をしたり、食事をしたりする時間が増えて、大きな経済効果を期待できそうです。
木村: 欧州で渋滞が激しい都市では、人口1人当たり年間63時間も損失しているという報告もあります。2030年には、英国、フランス、ドイツ、米国の4カ国の渋滞による損失額は現在と比べて約5割増えるとも言われています。日本も例外ではありません。国土交通省によれば、渋滞による損失は国民1人当たり年間約30時間で、金額に換算すると国全体で約9.5兆円にも上ります。
照明器具がテロ対策の要に
渋滞解消のほかにも考えているサービスはありますか。
木村:照明器具にマイクを搭載して防犯に利用するアイデアもあります。例えば、銃声を検知したら、直ちにその場所を特定して警察に連絡するといったことが考えられます。クルマが急ブレーキをかけたり衝突したりする音をとらえて、交通事故に素早く対応するといったこともできるかもしれません。
2020年に東京オリンピックを控えている日本でも、テロ対策など防犯は重要な課題です。現在、セキュリティー関連会社と組んで、カメラに怪しい人物が映ったら警告を出すなど、サービス内容を検討しています。
照明器具とは離れてしまいますが、オーストラリアでは地域のゴミ箱にセンサーを取り付ける試みを始めようとしています。ゴミの重量を検知して、ゴミが一定量たまった時点で回収するという取り組みです。こうすることで、月・水・金などゴミの量にかかわらず定期的に回収しにいく現在の方式に比べてゴミ収集車の走行回数を減らせます。
GEが展開しているインダストリアル・インターネット関連事業の中で照明器具は部品の一つと考えています。GEは既に、全社売上高の約7割を製品の販売ではないサービス事業などが占めています。これまで照明事業は「モノ売り」にとどまっていて、サービスの展開が遅れていました。昨年末、蛍光灯の生産を中止すると発表しましたが、今後は、極端な話、照明器具は自社で作らなくてもいいというぐらいの気持ちで、振り幅を大きくして事業を展開していきたいですね。
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