10月13日、出光興産と昭和シェル石油は2017年4月に予定していた経営統合を無期限に延期すると発表した。混迷を極める両社だが、この両社ともに深いつながりを持つ企業がある。福岡に本社を持つ「新出光」だ。

 新出光は出光弘氏が1926年に創業した。弘氏は出光の創業者である出光佐三氏の弟であり、出光ののれん分けのような形で始まった。新出光が掲げる経営姿勢には「我社の一番大切な財産は、人であり、一番失ってはならないものは信頼である」など、出光と共通する部分が多い。出光が上場する際に一部の株式を引き受けた株主でもある。

 新出光はグループ会社が運営する販売店などを含め、約400ものガソリンスタンドを運営する。実はその大半が昭和シェルブランドであり、同社との付き合いも深い。いわば、出光創業家と昭和シェルの間に立つ存在だ。

「驚きと、創業家の矛盾を感じた」

 そこで今回、弘氏の孫で、新出光の代表取締役社長である出光泰典氏に、今回の経営統合に出光創業家が反対している問題について、率直な意見を聞いた。

Q.出光と昭シェルの経営統合について、どう思ったか

A.唯一解かは分からないが、ベターな選択だと思った。ガソリンの消費量よりも供給量が過剰であるという問題を石油業界は抱えており、過剰在庫が安売りに回り、これが価格競争を生んで業界が疲弊している。私は石油販売店の業界団体「全国石油業共済協同組合連合会」の副会長でもあるが、会員の7割を占める中小規模のガソリンスタンドはどこも経営が苦しく、廃業も相次いでいる。統合すれば、供給量の調整など現状の改善は可能であり、それは販売店としても望ましいものだ。

Q.その中で出光創業家が統合反対を表明した。どう感じたか。

A.驚きと、出光創業家の矛盾を感じた。出光昭介名誉会長の文章を見ると、昭和シェルは異質で相容れないと書いてあるように読める。しかし、出光の大家族主義からすると、異質なものを含め家族が増えたらふつうは喜ぶものだ。ここに矛盾を感じる。

 私は仕事上で昭シェルの社員との付き合いも多いし、出光を姓に持つ関係で出光の文化も少なからず知っている。両者とも同じ日本人であり、考え方などに大きな差はない。必ず分かり合える。出光はLPガス事業を三菱商事と統合してアストモスエネルギーを立ち上げた。ドイツの化学会社BASFとも合弁会社を持っていて外資系ともうまく事業を成り立たせている。異質だから一緒になれないというのは、当てはまらないのではないか。

 さらに言えば、同じ大家族主義の出光経営陣と話し合いの場を持っていないこともおかしい。大家族主義なら、創業家と経営陣という家族同士でよく話をしないといけないのに、代理人を通してしか話せないという状況は矛盾を感じる。

Q.破談の可能性も出てきているが。

A.これが破談になったとしたら、社員から創業家に対する尊敬の念は失われる。離反や廃業する出光販売店も出てくるだろう。昭介名誉会長は年齢的にも(89歳)、これからの石油業界に関わる人ではない。(昭介氏の代理人の)浜田(卓二郎)氏に至っては、石油業界や出光がどうなろうが全く関係がない。未来に携わることがない人達が、未来を大きく左右する決定をする。未来を生きていく者にとって、これほど禍根を残す振る舞いはない。

正しい方向に進む努力を

 次の世代である息子の正和氏や正道氏は、石油業界がどんな厳しい状況にあるか知っているはずだ。その二人には父親に追随するのではなく、出光と出光創業家が存続していくためにどうすべきかを気づいてほしい。

Q.出光泰典社長が、出光の創業家側と経営側を仲介する可能性はあるのか。

A.そもそも仲介に立つような立場でもないし、力もない。ただ、出光の名前をもち、かつ昭和シェルの特約店の社長でもあるという特異な立場であるのは私ぐらいだ。石油業界にとって正しい方向へ進むべく、できる努力はしていきたい。

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