カーシェアリング、乗り捨て解禁へ――。2014年3月、国土交通省が出した通達は、カーシェアリング事業にとって大きな転換点となるはずだった。それまでレンタカー事業では可能だった「乗り捨て」をカーシェアリング事業でも解禁にしようとする解釈を国交省が発表したのだ(参考:いわゆるワンウェイ方式のレンタカー型カーシェアリングの実施に係る取り扱いについて)。
レンタカー事業では、利用された車は車庫法で規定された「保管場所」に戻す必要があった。乗り捨てられた場合、事業者が保管場所に戻すことによって、乗り捨てが可能になっている。一方、無人での営業かつレンタカーの拠点よりはるかに多い数の駐車場で運営するカーシェアリングにおいては、必ず保管場所に戻すという法律により、乗り捨ては不可能だった。それを国交省が解禁し、各車をITで管理できることを条件に、必ずしも保管場所に戻す必要はないことを明示したのだ。「かなり踏み込んだ解釈の発表だった」(業界関係者)と、業界からは評価する声が多く聞かれた。
乗り捨てが解禁となり、多くの事業者が「実証実験」として乗り捨て事業を開始した。2014年9月にはカーシェアリング事業大手のオリックス自動車が、メルセデス・ベンツ日本とアマノの3社でタッグを組み「smaco(スマコ)」という乗り捨てサービスを開始。「なんとしてでも(国交省が解禁を開始する)9月に開始すべく調整した」(オリックス自動車のレンタカー本部カーシェアリング部 磯貝彰氏)という力の入れようで、途中実証実験の期間を延長してサービスを続けた。
業界1位のタイムズ24も、翌年2015年4月からトヨタ自動車の「TOYOTA i-ROAD」を使って乗り捨ての実証実験を開始。横浜市と日産自動車は別の国の支援事業として乗り捨て型のカーシェアリング「チョイモビ ヨコハマ」をすでに開始していたが、2014年9月にそれまで1年を予定していた実施期間をさらに延長することを決めた。
あれから1年。smacoとチョイモビはサービスを終了。両社とも今後継続するかどうかを検討するとしながらも、現時点で今後については白紙だ。タイムズ24はサービスを続けているものの、実証実験の域を出ない。
チョイモビは、超小型電気自動車「日産ニューモビリティコンセプト」を使い、横浜市内約100カ所のステーションで利用できるサービスだった。乗り捨てのみのカーシェアリングサービスで、車種や乗り降りできるステーションが限られている中、最終的に1万3000人以上の会員を集めたようだ。smacoも「一定ニーズはあり、受け入れられているという実感はあった」(オリックス自動車の磯貝氏)。にもかかわらず、なぜ事業を本格展開に踏み込まなかったのだろうか。そこにはまだ行政の壁があった。
首を絞める「専用スペース」
それは「専用駐車スペースの確保」というハードルだ。乗り捨てを提供するには、「乗り捨て専用」の駐車スペースを複数台分確保する必要がある。利用者は原則専用スペースにのみ駐車が可能で、逆に専用スペースに一般車が駐車することはできない。さらに事業者側にとっては、利便性も考慮すると「台数の1.5~3倍の駐車スペースを用意する必要がある」(タイムズ24のタイムズカープラス事業部長 内津基治氏)。
その専用スペースが各社の首を絞めている。専用スペースは、乗り捨てのクルマが駐車されるされないに関わらず常に確保しておく必要がある。そのため、クルマが停まっていない時間は実質“カネを生まない駐車スペース”に対してコストを払い続けることになる。
専用駐車スペースを設けず、決められた駐車場の範囲内で自由に停めてもらうといったことはできない。それができれば、利用者は駐車できる選択肢が増え、事業者にとっても余分なコストを払う必要がなくなるはずだが、それが現行のルール上は難しいのだ。
国交省ではこのルールを、乗り捨てを提供する事業者との間の「確約書」で各事業者に求めている。数として1台につき何台分とは明記されていないものの、「何台か分のスペースは用意してください、ということは伝えている」(国交省)。
結果、「事業性を考えると、今のままではサービスを継続するのは厳しい」(オリックス自動車の磯貝氏)ということになる。
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