東芝の不正会計問題に関連して、日経ビジネスオンラインでは企業のコンプライアンス(法令遵守)についてアンケートを実施しています。通常の方法では達成不可能な業務目標(チャレンジ)が強制されてきた東芝と同様な経験をお持ちではないでしょうか。率直なご意見をお聞かせください。
回答はこちらから(アンケート回答サイトが開きます)
司会:「よろしいですか。それでは、以上を持ちまして…」
7月21日の午後5時から東芝本社で行われた会見。この日、不正な会計処理の責任を取るため田中久雄氏は社長を辞任した。1時間以上続いた質疑応答を終わらせようと司会が切り出した時、田中氏は自ら手を挙げ、発言を求めた。
田中氏:最後に一言だけ、私の方から申し上げます。2013年6月25日、社長に就任以来、2年と1カ月弱、メディアの皆さん、そしてアナリストの皆さま方には大変多くのご支援、そしてご指導をいただきました。そのご期待に応えられることはできないばかりか、大変な事態を生じさせたことにつきまして、改めてお詫びを申し上げたいと思います。この2年間、皆さまのご支援、心より感謝を申し上げるとともに、引き続き東芝を、ご支援、ご指導、いただきたく、私の最後のお願いとさせていただきたいと思います。2年間、大変ありがとうございました。
カメラのフラッシュの嵐を浴びながら、深々と頭を下げる田中氏。謝罪会見の定番の光景である。社長を辞任した田中氏が公の場に現れるのはおそらく最後。それを自覚しているからこそ、最後の最後に記者や証券アナリストに別れの挨拶をしたかったのだと思う。
律儀な人柄が表れていると感じる。私自身は田中氏に直接取材したことはないが、「日経ビジネス」に掲載されたインタビュー記事を読んで、田中氏はとても正直な人であると思っていた。
問:社長就任1年目を終えましたが、自己採点は何点になりますか。
田中氏:60~65点でしょうか。大学の単位の優良可で言えば、「可」のギリギリ。落第はしないが、「良」ではない。
昨年6月に社長に就任してから、8月の経営方針発表会で「ヘルスケア」を(半導体と電力システムに次ぐ)第3の事業の柱にすると表明し、10月には大規模な組織変更を実施しました。(中略)
問:では、35~40点の減点部分はどこになるのでしょうか。
田中氏:僕自身、これまで有言実行スタイルを貫いてきましたが、昨年は3つほど実現できなかった約束があります。
一つは最終利益の目標をクリアできなかったこと。原子力発電事業を筆頭に重電事業のリスク管理も甘かった。さらに、既にお話に出た株価を上げられませんでした。僕が社長就任時の株価から、この1年でほとんど上がっていません。
(以上、「日経ビジネス」2014年8月25日号86ページから引用)
誰だって自分の非を認めるのは辛いものだ。にもかかわらず田中氏は、社長1年目の自己評価を「可」のギリギリと認定。至らなかった点も包み隠さず、語ってくれた。
東芝の社長任期は通常であれば4年。今回の不祥事で、その半分しか勤め上げられなかった無念は推して知るべし。ヘルスケア事業など、自らまいた種が芽を出すところを見届けることなく、表舞台から引きずり下ろされることになった。
田中氏は「社員は仲間だ」と連呼した
この日の会見でも田中氏の律儀な一面が垣間見えた。それは従業員に対する配慮だ。9月に予定されている臨時株主総会まで社長を務める選択肢もあったはずだが、第三者委員会の報告書を受け取った翌日に辞任した。その理由を田中氏はこう話している。
田中氏:今回、本日をもって、取締役および代表執行役社長を辞任するに至ったことは、一刻も早く新しい体制で。先ほどもご指摘いただきましたように、大きく毀損した東芝のブランドおよび最も私が重要だと思っておりますのは、20万人の従業員です。
日々、業務に誠実に対応している従業員に、一刻も早くきちんとしたけじめを示し、そして新たな気持ちでさらに今まで以上の業務に精励をしていただきたいという思いから、昨日、第三者委員会の報告書を受け取ったことを踏まえて、本日、辞任をさせていただきました。
会見も半ばにさしかかると、田中氏は「社員は仲間だ」と連呼した。
田中氏:本日をもって辞任をすると、これはもちろんわれわれの大切な仲間である20万人の従業員のみならず、株主さま、そして投資家の皆さん、そして全てのステークホルダーの皆さまに対する今回の当社の不適切な会計処理が行われていたと。その経営責任という意味で辞任をさせていただくと。一刻も早く新しい体制で次の一歩を踏み出すためということでございます。従いまして、もちろん仲間である20万人、大変重要ですけども、従業員だけという意識ではございません。
要するに、辞任を決めたのは社員のためだと言いたいのだろう。自分と佐々木則夫氏、そして西田厚聰氏という歴代3人の社長のクビは差し出すから、どうか社員だけはお助けください…という極めて日本的なお詫びで事態を収拾しようとしている。
だが、今回の不正な会計処理が誰の指示で、いつから始まったのか。それを明らかにしない限り、問題解決に向けた一歩すら踏み出せないはずだ。なぜなら2008年度から7年の間に1518億円もの利益が水増しされていたのだ。「会計の知識が乏しかった」などという言い訳ですまされるレベルではない。
1518億円だって、第三者委員会が調査した期間だけの水増し額だ。原因のいかんによっては、2008年度よりも前から不正な会計処理が東芝では常態化していた可能性だってある。そうなれば責任の取り方まで変わってくる話だ。
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