三越伊勢丹ホールディングスが、新社長発表記者会見を行った。4月1日就任予定の杉江俊彦新社長は、構造改革の大枠は踏襲しながらも、数字重視の経営方針に舵を切る。それは、過去、大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJ.フロントリテイリングが取り組んできた戦略とも重なる。

 三越伊勢丹ホールディングス(HD)は、3月13日に記者会見を開き、新しい経営体制を発表した。記者会見には、4月1日に社長に就任予定の杉江俊彦取締役専務執行役員が出席。今後の構造改革や成長戦略について説明した。

4月1日に三越伊勢丹ホールディングスの社長に就任する杉江俊彦氏(写真:北山 宏一、以下同)
4月1日に三越伊勢丹ホールディングスの社長に就任する杉江俊彦氏(写真:北山 宏一、以下同)

 三越伊勢丹HDは、3月7日に大西洋社長が月内に辞任することが決まった。労働組合との摩擦や、経営陣との不協和音が背景にある、突然の辞任だった。杉江氏は、百貨店事業の収益性を高める改革を続けながら、百貨店以外の新規事業を育成していくという、大西体制の戦略の方向性は維持する。

 一方で、大西洋社長について「成長基軸を伸ばしていくことが先行していた」(杉江氏)と述べ「私はどちらかというと、構造改革を先に進め、その余剰をもって、次に投資するというスタイルでやっていく」と話した。「2017〜18年度はしゃがみこんで、引きずってきた負の部分を正すということをやる。そのあとで19〜20年度で成長に向けてやっていきたいと思う」と、まずは構造改革を中心に経営を進めていくことを明示した。

 大西体制下で、すでに進行している外食や婚礼事業、旅行業などの新規事業は止めないとしたものの、「現時点で未発表のものについては、従業員や企業体力に合わせて選択と集中をしていくべき」(杉江氏)と、未発表の新規事業や多角化については一度精査するとした。案件を絞り込む可能性もある。

 事業構造の改革については、「一番変えていくべきポイント」(杉江氏)とし、説明に多くの時間を割いた。特に、百貨店事業は本業として続けるものの、今後大きな成長は望めないと位置づけ、2016年度の業績悪化も、百貨店に事業が集中しすぎていることが要因と述べた。

 「同業他社のJ.フロントや高島屋は、不動産事業でしっかりとした基盤がある。そうした基盤が弱いと、業績がぶれる」(杉江氏)という。三越伊勢丹HDも優良な不動産が多数あり、一方で活用されていないという見方を示した。「一番確実にできるのは不動産。持っているものを最大限活用するのが一番大事だと思っている」(杉江氏)と力を込めた。同じ多角化事業でも、大西社長がコト消費を重視し、旅行やエステなどのサービス業への関心が高かったのに対して、杉江氏は、より手堅い不動産を強調したように見える。

 自社不動産を百貨店事業以外に生かしていく方法は、すでにJ.フロントリテイリングや高島屋が実践済み。特に、J.フロントリテイリングは「脱・百貨店依存」を鮮明にして、不動産事業にいち早く取り組んできた百貨店だ。4月20日に銀座にオープンする「ギンザシックス」は典型的で、不動産事業の一環として、旧松坂屋銀座店を新たな商業施設として蘇らせる。M&A(合併・買収)戦略でも、専門店ビルのパルコを買収するなど、積極的に事業の幅を広げてきた。

 J.フロントリテイリングは、2007年に松坂屋と統合する前、当時大丸の経営トップだった、奥田務氏が、百貨店の構造改革を断行。百貨店事業の潮目を読み、国内外の店舗閉鎖などを推し進めた。松坂屋と統合後も、両社の店長クラスの交流人事を一気に推し進めるなど、スピード感を持って改革を進めた。結果、現在のパルコ買収や不動産事業の成長につながっている。現在、J.フロントリテイリングの連結売上高に占める百貨店事業の割合は約65%。同じ時期に統合して、未だに90%を超える三越伊勢丹HDと比べると、その差は歴然だ。

杉江氏がトップになるのは時代の流れ?

 杉江氏は、5月に予定する2017年3月期決算の際に、新たな経営指標を発表するとした。2020年度までに営業利益500億円としている数値目標については「今後精査していきたい」(杉江氏)とし、引き続き目標値としてコミットするかどうかの言及は避けた。「経営指標となる数字が営業利益だけでは問題があると思っているので、ROE(株主資本利益率)など今後どういう形で目標設定をするかを明確にしたい」と数字で経営指標を明確に管理していく意向を示した。

 三越伊勢丹HDの中堅幹部は、杉江氏の社長就任について「今までの伊勢丹は衣料品などのMD(商品政策)を中心でやってきた人がトップをやってきた。杉江氏は、それとは違うタイプの人物。Jフロントの奥田(現相談役)、山本(良一、現社長)ラインは、商品系のトップではなく、経営の仕事をしてきた人だ。ある種、経営戦略本部長の杉江氏がトップになるのは、時代の流れなのかもしれない」と話す。一方で、不動産の活用は、他百貨店と比べれば、周回遅れとも言える手法。社内からは「経営者のタイプが変わったとしても、事業構造としてJフロントのような企業にはなるべきではなく、百貨店らしさを追求するべきだ」という声も聞こえる。

 杉江氏は大西社長について、マネージメント層や中間管理職との「対話」や「コミュニケーション」が不足していたと指摘する。「若手とのコミュニケーションはしていたが、マネジメント層や中間管理職との対話が足りなかった。実際に動かしていくのは、マネジメント層や中間管理職。そこが理解していなければ、組織は動かない」と述べた。その上で、「私は執務室などもいつもフルオープン。対話とコミュニケーションを大事にしていきたい」と会見では強調した。

 一方、社内には杉江氏を「調整型の人間ではない」という意見もある。「自分の考えでばさっとやる人。大西のような情の人ではなく、理のタイプだ」(前出の中堅幹部)。構造改革を断行すれば、痛みを伴うのは当然だ。それを「対話」で乗り越えていけるか、杉江氏の手腕が問われる。

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2ページ本文中
旧松屋銀座とあったのは
旧松坂屋銀座店
の誤りでした。お詫びして訂正いたします。
本文は既に修正済みです。 [2017/3/15 12:30]
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