米国では最近、自分の車にガソリンを入れに来てくれるオンデマンドの給油サービスがいくつか登場している。とても便利なサービスなのだが、その安全性について当局が目を付け始めている。
これは「給油オンデマンド」とか「モバイル給油」とか「ガソリンのUber」と呼ばれるもので、「WeFuel」「Yoshi」「Purple」「Filled」「Booster Fuels」といったスタートアップがアメリカ各地でサービスを展開している。
スマートフォンのアプリケーションをタップするだけで、自宅にいても、会社で仕事をしていても、ショッピングをしている最中でもガソリンタンクを載せた小型トラックが駐車場にやってきて、給油をしてくれる。事業者によっては1時間以内に対応するといったところもある。
確かにガソリンの給油というのはやっかいな作業だ。通勤などでよく車を使うならば、週に何度もガソリンスタンドへ向かわなくてはならない。急いでいる時にガソリンがなくなりかけているのに気付くことほどがっかりすることはない。その上ガソリンスタンドが混んでいたりすると、本当に腹立たしい。給油のオンデマンドサービスは、確かに便利だと感じる。
問題は消防上の安全性だ。ガソリンスタンドとして営業許可を受けているわけでもないこうしたスタートアップが、大量のガソリンを方々へ運んでいる。事業者によっては、自動車100台を満タンにできるほどのガソリンをトラックに積んでいる。特に問題なのは、そうしたトラックが都市部を走り回って、アパートや病院、オフィスビルなど人々が密集している場所へやってくることだ。
田舎ではOKのガソリン移動販売だが…
日本では消防法などの規制により、ガソリンスタンド以外でのガソリンの販売は認められていない。一方の米国では、ガソリンスタンドから遠く離れた場所に住む人々などに対するガソリンの移動販売が既に行われている。しかし都市部におけるガソリンの移動販売は規制の想定外だ。
米国ではこのような給油オンデマンドサービスを許可するか否か、現在は各州や各郡/市の規制当局がバラバラに検討している状態だ。米Bloombergの報道によれば米サンフランシスコ市などが給油オンデマンドサービスは規制に反するとの見解を示し始めているとのことである。
給油オンデマンドサービスの内容は、事業者によってそれぞれ少しずつ異なっている。毎週定期的に同じ場所に給油に来てくれるもの、サービスエリアならばどこでもオンデマンドで来てくれるものなどがある。ガソリンの減り具合をモニターしたり、ついでにタイヤの空気圧もチェックしてくれたり、車の窓を拭いてくれたりといった追加サービスを提供するところもある。また企業と契約して、会社の駐車場で従業員向けにサービスをするものもある。
料金は会員制で会費に加えてガソリン代を支払うもの、あるいは毎回5ドルなどのサービス料を支払うものなどの種類がある。どの事業者もガソリン代自体は「その地域で最も安い価格に合わせる」としているところが多いようで、従来のガソリンスタンドとの正面からの競合をもくろんでいる。
ガソリンスタンドは建設や運営に大きなコストがかかり、エネルギーの浪費にもなっている、というのが、給油オンデマンドサービス事業者の言い分。もう100年以上も続いているガソリンスタンドで給油するという習慣をディスラプト(破壊)することに臨んでいるわけだ。
このような給油オンデマンドサービスが便利さと価格、そして安全性をうまく舵取りして、ビジネスとして成功できるのか。興味深いことである。
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