前回までのまとめ…人の行く、裏に道あり、花の山
前回の連載では、一見合理的かつ王道に見える持続的イノベーションの道が、実は敵が多く、総力戦を強いられるレッド・オーシャンだというお話をし、そんな持続的イノベーションよりも破壊的イノベーションを目指す方が賢明だというお話をしました。そして、ブレイクスルーとなるアイデアを出すためには、チームのメンバーは多様である方がよいというお話しもしました。
スタンフォード“バイオデザイン・プログラム”の事例
デザイン・スクールで有名なスタンフォード大学には、医療機器分野のイノベーターを教育することに特化した「バイオデザイン・プログラム」というフェローシップ・プログラム(給費生制度)が設けられています。
バイオデザイン・プログラムは2001年の創立からまだ十数年しか経っていないにもかかわらず、既に米国内外でイノベーション人材育成プログラムとしての評価を確立しつつあります。バイオデザイン・プログラムを模したカリキュラムは、米国国内のみならず、シンガポール、インドといったイノベーションに敏感なアジアの国々や、アイルランド、デンマーク、フランス、スウェーデン、フィンランド、スペインといったヨーロッパの国々でも展開されています。
バイオデザイン・プログラムはこれまで26社のベンチャー企業を輩出し、2013年までに卒業した106名のフェローの43%が起業し、大学の教員や臨床医になった21%のうちの多くがスタートアップ企業のコンサルティングをしているそうです。
バイオデザイン・プログラムで生み出された技術は15万人以上の患者の治療に貢献し、バイオデザイン・プログラム出身のベンチャー企業はこれまでに計2億ドル以上の出資を受けて500人分の雇用を創出しているそうです。
このプログラムでは、
①メンバー選抜段階において、意図的に多様なタイプの人材を選び、異なる能力を一つのチームとして融合させる。
②臨床現場での徹底的な参与観察を通じて潜在需要を発掘する。
③思考の発散と収束を繰り返すことによってイノベーティブなアイデアを産み出す。
という一連のイノベーター教育プロセスが行われています(出典:ヤング吉原麻里子ほか、「学際性を重視したイノベーション教育の先進事例――スタンフォード大学Biodesign プログラム」、研究技術計画Vol.29、 No 2/3 pp.160-178、2014)。
「人の見える手」による多様な人材のチーム作り
このバイオデザイン・プログラムの大きな特徴の一つは、「多様な知識・考え方からなるメンバー(フェロー)を意図的に選抜し、人物属性に応じてチームを構成する」点でしょう。
もともとこのバイオデザイン・プログラムは、スタンフォード大学病院心臓内科医のポール・ヨック氏と、複数のベンチャー企業を立ち上げてきたジョシュ・マコゥワー氏が一緒にランチをしていた際、バイオ医療領域においてデバイス開発をリードする人材を育成することの必要性について意気投合したことから始まりました(とてもシリコンバレーっぽいエピソードですね)。
イノベーションに必要な4タイプの人材
ヨック氏は血管内の診断を革新した超音波搭載カテーテル“アイバス(IVUS)”の発明者として世界的に知られています。またマコゥワー氏はファイザーで医療デバイス開発に携わった後に複数のベンチャー企業を創業した経歴がある実力者です。彼らは、自身の経験から、イノベーションの創出に不可欠だと思われる4種類の人材属性として「リサーチャー」「ビルダー」「クリニシャン」「オーガナイザー」を導きだしました。
リサーチャーとは科学技術の知識を持ち、それを応用できる博士号保持者(トランジスタならバーディーン、電話ならベルが該当)、ビルダーとはプロトタイプが作れる手先の器用なエンジニア(トランジスタにおけるブラッテン、電話におけるワトソン)、クリニシャンとは臨床医療の経験がある、現場をよく知る医師(まさにポール・ヨック自身がこれに当たりますね)、オーガナイザーとは企業でプロジェクト運営の経験があるMBA(経営学修士)保持者をイメージしています。そして、「これら“4つの属性”を持つメンバーが揃っている」ことが、チームがチームとして機能し、目的を達成するために重要だとしているのです。
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