働き手が「いつか直面するが今ではない」と目を背けがちな介護。いざその時が来ても「個人の問題」「仕事を外されるかも」とひた隠しにする。ニーズがつかめず動きが鈍い企業とのすれ違いが事態を複雑にしている。
「日本の公的介護支援システムは世界一と言っても過言ではないレベル」。企業の介護支援策づくりを手助けするチェンジウェーブグループ(東京・港)の創業者、酒井穣氏は指摘する。
2000年4月1日に施行された介護保険法で、我が国の介護の主体は家庭から公に変わった。介護を社会全体で支え合うために設けられた介護保険制度によって、40歳になれば保険の掛け金を支払い、それを使って親の介護を公的に支援してもらう。
子は、自分で介護に関わる時間をできるだけ短くする。それで得た余裕を生かして働き、経済を回す──。それが日本の介護保険制度の根幹を成す考え方だ。ここまで公が介護を支援する制度を持つ国は非常に少ない。
ならば、企業が「介護は自分でやるな、公的介護に頼れ。一刻も早くプロの支援につながれ。窓口は地域包括支援センターだ」と助言するだけでも、社員のストレスは大きく軽減するはずだ。介護が始まる前に社員の介護リテラシーを高めておけば、仕事との両立はもっと容易になるだろう。
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何の情報ももらえない
ところが介護経験者へのアンケート調査の結果が映し出す、社員から見た支援の印象は寒々しい。
「東証プライム上場企業に勤務しているが、介護に関する社員へのアナウンスはない」(50代男性)。「母を介護したが、勤務先からは何も情報がなく、問い合わせても要領を得ない」(60代男性)。「介護中、会社に支援制度があること自体を知らなかった」(50代男性)──。介護経験者は自らの勤務先に厳しい視線を向ける。
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