生成AI(人工知能)の発展に伴い、日本の著作権法が注目されはじめている。著作権者の許諾を得ずとも、AIによる著作物を使った学習が広く認められているからだ。海外諸国の多くが何らかの制限を設けている中、日本ほど自由にAIの学習が行える国は少ない。企業のAI開発にとってはありがたい規定である一方、「日本の著作権は緩すぎてクリエーターを保護できていないのでは」と懸念する声もある。

早稲田大学教授で著作権法を専門とする上野達弘氏は、2017年から「日本は機械学習パラダイス」と指摘してきた。生成AIが盛り上がる以前から日本の著作権法に着目し、国内外で「日本で機械学習ビジネスをやるのはどうか」と訴えてきたのだ。生成AIの普及で争点になることが多い著作権法について説明してもらうと同時に、クリエーターや企業がとるべき対応策について話を聞いた。

(聞き手は杉山翔吾)

1971年生まれ。94年に京都大学法学部を卒業、97年に京都大学大学院法学研究科の修士課程を修了。99年に同研究科の博士後期課程を単位取得退学。専門は著作権法を中心とする知的財産法。2013年から早稲田大学法学学術院教授。
1971年生まれ。94年に京都大学法学部を卒業、97年に京都大学大学院法学研究科の修士課程を修了。99年に同研究科の博士後期課程を単位取得退学。専門は著作権法を中心とする知的財産法。2013年から早稲田大学法学学術院教授。

上野教授は17年から「日本は機械学習パラダイス」と指摘してきました。

 日本では、機械学習が著作権法上、原則自由なんです。「情報解析」の規定といい、これによって著作権者の許諾なしに著作物をAIに学習させることができます。17年当時、このような規定は諸外国でなかなか見られないものでしたので、私も人工知能に関する国際学会でこの規定を紹介して、「機械学習をするなら日本で」とお話ししていたわけです。その後、欧州連合(EU)やスイス、あるいはシンガポールでも情報解析の規定が設けられましたが、依然として日本ほど強力なものではありません。今でも日本は「機械学習パラダイス」と言ってよいかと思います。

 ただし、この規定に関しては、誤解も少なくないようです。まず強調したいのは、学習と生成を切り分けなければならないということです。「著作権法30条の4」はAIによる学習を「情報解析」として適法としていますが、だからといって「生成」が適法とは限りません。

 例えば、任天堂の「ピカチュウ」の画像をAIに学習させるのは適法ですが、AIがピカチュウそっくりのコンテンツを生成したら、著作権侵害に当たり得ます。文章でも同じで、新聞記事を学習したAIが出力した文章に、AIが過去に学習した文章の創作的な言葉遣いが残っていると著作権侵害になり得ます。無名のイラストや風景写真、あるいは文章だと、生成されたものが他人の著作物と同じだとは気づかない場合が多いかと思います。それでも、私的な領域で出力されただけであれば適法ですが、企業の場合は私的と言い難いですし、また、少なくともそのようなAI生成物を公表すれば著作権侵害に当たります。

 クリエーターの中には、無断で自分のコンテンツをAIに学習させるのはやめてほしいという方もおられるかと思います。ただ、現状の著作権法では、情報解析の権利制限規定がある以上、著作権侵害を理由に学習自体をやめさせることはできません。これが、この規定に定められている現実であり、多少の温度差はあっても、どの著作権法学者も同じ理解のはずです。

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