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仕事のレポートはこう書こう

ときおり、大学教育の意義は何だろう、と考える事がある。昭和の時代には大卒はホワイトカラー、高卒その他はブルーカラーという区分があったが、この境目は平成以降、次第に曖昧になってきている。それでも大学を出ることで、出なかった者と何ほどかの違いがあるとしたら、どのような点だろうか。まさか専門知識の有無ではあるまい。工学部を出たってすぐ設計はできないし、法学部や文学部で学んだ知識を企業が期待しているは思えまい。それでも、青年期の4年間を大学で過ごすことで、教育上得るものがあるとしたら、それは何か。

もしかしたら、それは多少なりともちゃんとした長さのレポートを、何度も繰り返し書かされることかも知れない。期末レポートや中間レポート、実験レポートから卒論まで、大学ではずいぶんレポートを書かされる。そして企業では、大卒の人間はそれなりに「考える仕事」を要求される。その“考える”ことの大事なプロダクト(成果物)として、レポートの存在がある。ならばレポートをきちんと書ける能力こそ、大卒に求められる資質の一つではないだろうか。

実際、ホワイトカラーの仕事においては、多種多様なレポートが頻繁に作成される。たとえば調査レポートである。これは市場調査や技術評価もあるだろうし、外部企業や生産現場の実地調査報告もある。出張に行けば必ず出張報告を書かされる。ひとつのプロジェクトが終わればプロジェクト完了報告もいる。遂行途上でもマンスリー・レポート(進捗報告)を要求される。トラブルが起これば問題報告と、とにかく何か“考えなくてはならない”状況があれば、必ずそれに付随してレポートが提出される。

誰に出すのか? 基本は上司である。Report to..という英語があるが、これは上司部下関係を示す意味で、I report to him/her.といえば、彼(彼女)はわたしの上司であることを表す。上司部下関係というのは、指示/報告関係なのである。

これだけレポートは重要なファンクションを担っているにもかかわらず、わたし個人は「レポートの書き方」について会社できちんとした教育を受けた記憶がない。大学を出たんだから、当然書けるだろう、という暗黙の論理で会社は動いていた。でも、昨今それでは動かなくなってきているのも事実のようだ。そこで、これから社会に出てレポートを書かされる立場になる人たちのために、内緒で秘訣を教えちゃおうではないか、というのが本稿の趣旨なのである。

レポートを書く時に一番大事なのは、構成である。といっても、「序論・本論・結論」という、国語の教科書にあった論文構成はお勧めしない(だってこれじゃ何書いたらいいか分からないじゃないか)。

わたしが代わりにお勧めする構成は、じつは中学一年生の時に習ったものである。今からxx年前、わたしは横浜市立万騎が原中学校というところに入学した。わずか12歳だった(当たり前か)。1年生の時の理科の先生は、とても偉かった。毎週1回、生徒に実験をさせ、そのレポートの書き方を教えてくれたのである。一番良くできたレポートは先生がB4横1枚のガリ版に手書きで写して印刷し、生徒全員に毎回、手本として配布した。手本に選ばれる生徒が羨ましくて、自分も選ばれたいと努力した。そして学年の最後の実験で、とうとう自分のレポートが選ばれた時の気持ちを、今でも覚えている。

その先生が教えてくれた実験レポートの構成とは、とてもシンプルで、以下の4つの節から成り立っていた。

1.目的
2.方法
3.結果(事実)
4.結論(考察)

この構成は、中学の理科実験のみならず、じつは自分がこれまでに書いたほぼすべてのレポートに共通に使える、きわめて汎用性の高いアーキテクチャーであった。大学のレポートも、卒論も、いや学位論文だって、この構成を基本として作成した(多少は複合し応用したが)。会社のレポートも、ほぼすべてこのフォーマットで書ける。無論、レポートの種類に応じて、これとは違う書式や構成で書くことはある。だが、事実と思考を他者に報告し共有するために、共通して依拠できるスタイルという点で、最も適した構成だと断言できる。

最初の「目的」は、明確に書く。何が問題なのか。何を明らかにしたいのか。その行為に至った背景と意図。自分の持っている仮説。そして、「何が明確になれば、本目的を達成したと言えるのか」を、きちんと定義する。そうすれば、「結論」のところで、成功したとか、失敗だったが教訓を得た、という風に書きやすくなるし、最初と最後がきちんとかみ合うので全体構成がまとまるのである。

次の「方法」は、調査なら調査の方法を、実験なら実験の方法を書く。どのように問題にアプローチしたか、どう事実を収集したかを書くのである。たとえば調査ならばネット検索で当たりをつけ、参考書や文献を読んで調べたとか、実地に訪問して見てきたとか、経験者たちをインタビュー調査したとか、あるいは実験してみたとかである。図などを利用して簡潔に書こう。適切に調査したのか、再現性はありそうか、が読む人に判断できればそれでいい。

結果」は、事実の記述である。普通は、予備的な調査の結果がまずあり、それから本調査のデータや記述が並ぶ。表や図などを使って、わかりやすくまとめることが肝心だ。レポートは長ければ良いというものではない(一部の官庁系の請負仕事をのぞく--あの分野には「100万円の委託業務だからレポートの厚さは最低10cmね」などといったナンセンスな要求が存在する)。もしもデータ量が多くて長くなりすぎるときは、詳細は「添付資料」にして本文を短くする。レポートの読み手は上司だったり顧客だったり関係者だったりするわけで、書き手を批評できる立場にある。だからわかりやすさが尊ばれる。

「結果」を書くときの注意点は、事実と意見をなるべく区別しようという態度で進めることだ。その一つの方法は、言葉(形容詞)ではなく、数字で記述するよう心がける事である。「大勢の人が感心した」と書かずに、「70%の参加者が『興味を持った』とアンケートに回答した」という具合だ。あるいは、「4人の著者のうち、3人がこの見解に賛同している」と書く。こうすることでレポートの客観性が増す。

むろん、哲学的に言えば「事実」と「意見」は厳密に分けられるものではない。どの事実を報告し、どの事実は無視するかを決める時点で、すでに書き手の価値観と評価が入り込む。しかしここでは、客観性を尊ぶ姿勢で書くことが、読み手の受容度を上げるポイントだと考えよう。なぜなら、同じ手順を踏めば、読み手も同じような結果を得られるはずだ、と思わせるからである。

結論」の部分は、前節とは逆に、自分の考察や評価、つまり意見を書く。このように客観的事実のセクションと主観的意見のセクションを分離することにより、「君の結論には賛成できないけれども、このレポート自体は役に立つ」という風に、有用性を認めてもらう可能性を高められる。モジュラリティを高めることで再利用性を確保するわけである。

考察を書く際に一番大事なポイントは「気づき」だ。単に数字やデータの並びを眺めただけでは気づかない点を「発見」できると、考察の価値が生まれてくる。そのために、数値をグラフ化して傾向や相関関係をつかんだり、あるいはエピソードを4象限のフレームワークでプロットし分類したりして、その「気づき」を伝えることだ。「目的」では意図と仮説を記述した。「結論」では、肯定的であれ否定的であれ、その仮説が検証される訳だが、ここに新たな気づきが加わることによって、考察の多面性が生まれる。結果として、最初の問題は解決したが別の問題に気づいた、となっても構わない。むしろそのような態度こそ、次につながる前向きな書き方だと言えよう。

このように考えてみると、良いレポートというものは全体として、ある一つのキーワードを軸に構成されていることが分かる。それは『検証可能性』である。「目的」で仮説を提示し、「結論」でそれを検証する。「方法」も追試検証が可能なように記述する。「結果」では誰でも真偽を判定できる客観的事実を並べる。このように、他者にとっても検証可能な形でレポートを提示することで、その再利用性と信憑性が高まるのである。

レポートとは、事実と思考を他者に報告し共有する道具だ。そこでは「自分の名札付きの意見」は珍重されない(自分が斯界の権威でない限り)。誰が行っても同じ結論に至る、無名の客観性が重要なのだ。では、レポートの質や創造性はどこに出るのか? それはスタイルにはない。「仮説」設定の上手さと「気づき」の深さで評価されるのだ。
by Tomoichi_Sato | 2011-05-08 12:18 | ビジネス | Comments(2)
Commented by Dora at 2011-05-08 13:30 x
こんにちは。いつも興味深く拝見してます。

レポートではないですが報告について同じような話を書いたので参考になれば。仕事では目的は共有してますので(怪しければそこに立ち返ることになりますが)こんな感じかなと。

http://dorablue.blog51.fc2.com/blog-entry-3486.html

下の方の「ヒント2」というところです。

ではでは。
Commented by Tomoichi_Sato at 2011-05-08 21:24
Doraさん、コメントありがとうございます。
そういえば、「忙しい読者のためにはExecutive summaryを冒頭につけるのが親切」と書くつもりだったのを忘れていました。思い出させていただき恐縮です。
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