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「ITって、何?」 第19問 私でもネットにお店を開けるかしら?(2/2)

<< 電子商取引の成功条件 >>

--それにしても君、いったい何のお店を開くんだい?

「それはこれから考えるのよ。何か少しは人に役立つものがいいわね。商品を届けることで、買ってくれた人に少しでも幸せな気持ちを届けられるようなもの・・。ねえ、これまで、どんなものがネットで売られているの?」

--そりゃ、いまや森羅万象あらゆるものが取り引きのテーブルにのせられているよ。でも、成功した商品と、そうでないものとがあるね。たとえば、旅行とか、あるいは書籍とかはB2Cで成功している代表的なものだ。

「ふうん。なぜかしら? あ、待って。自分で考えてみるわ・・えーと・・もしかして、検索とかがポイントなの?」

--いい線をついているね。書籍や旅行の予約なんかでは検索はとても大事だ。そして検索が自由に瞬時にできるというのが電子データのメリットだからね。

「ふんふん。だったら、商品のバラエティがすごく多いようなものはネットのお店に向いているかもね。あ、株式なんかもそうよね、きっと。音楽なんかも良さそう。あと、不動産仲介なんかもそうかしら。衣料品だとか・・でも、そうしたら、これまでの通信販売とどこが違うのかしら。」

--さっき言ったように、店頭在庫や流通在庫の必要性がポイントのひとつだ。売買に実物の移動や納品が伴うかどうか、それがどれくらい即座に行われなければならないか。

「そっかあ。ネット上の取引は瞬時に行えても、実際の品物をえんえん列車やトラックで運ばなくちゃないんじゃ、利用者のメリットは小さいものね。」

--そう。それでは単に発注の手間が若干効率化されるだけだからね。衣料品や嗜好品のたぐいは数日間なら納品まで待てる。だからセンターに在庫しておいて宅配すればいいんだけれど、これは君の言うように既存の通販カタログをウェブにのっけただけで、すごく画期的とはいいにくい。
 不動産仲介は契約までひどく時間がかかるから、ネットは情報を取るだけで、発注は外側でやることが普通だ。これも電子商取引とはいいがたい。
 それから逆に株式や商品先物取引は、権利の移転だけを瞬時に行う必要があって、これは一応ネット向きではあるけれど、これまでも専門家は電話注文やオンライン取引のサービスを使ってきた。おまけに、みんな自分がどの銘柄を買うかはよく知っているから、あまり検索機能は必要とされない。電話やFAXのかわりにインターネットがあるというだけでは、こちらもあまり革新的とは言えないと思う。

「じゃあ、どうして書籍と旅行だけは成功例といえるの? これだって通販の延長なんじゃないの? ・・たしかにこれまで本やホテルの予約って、通信販売はなかったけれど。」

--なぜだと思う?

「なぜって、本とかは実際に自分の目で見てみないといやじゃない。それを読んだ知り合いの意見でも聞ければ別だけど、友達の輪なんて限られているし・・え? もしかして・・?」

--そう。その『もしかして』さ。

「そうか、本屋とか旅行代理店のサイトに行けば、それを読んだり、ホテルに泊まったりした、よその人の意見が見られるからね。」

--そこがポイントさ。成功したサイトは、利用者の意見がたくさん書き込まれている。他の人の書評や、ホテルに泊まったときの感想なんかが蓄積されている。そのレビューが多ければ多いほど、そのサイトの価値も高まる。

「で、それを見て自分で決めることができるのね。たしかにうまいモデルだわ。本の注文やホテルの予約て、以前はちょっとだけバクチみたいだったもの、大げさにいうと。でも、それはほかの人の意見をきく機会がなかったからだわ。知らない人同士が意見を披露し合う場所なんて世の中になかったし、その習慣もなかったのよ。」

--それがインターネットで可能になったのさ。

「たしかにそれは革新的といってもいいと思うわ。新しいコミュニティの創造みたいなものだもの。」

--そこまで大げさなもんじゃない。ユーザのフィードバックの仕組みを作っただけだ。

「でも、これまでの商売ってすべて一方通行だったでしょ? 町の個人商店をのぞけば。消費者が自分の意見を返す場所も方法もなかったのよ。いつも供給者側の押し込みみたいなものだったわ。」

--でもね、インターネットで公開されている個人の意見は、内容についてはどこにも保証がないということも忘れちゃいけない。だれかの意見を参考にしてひどいホテルに行き着いたからといって、それで文句をいうことはできないんだ。

「自由にはリスクは付き物だわ。自分の頭で判断すればいいだけじゃない。お仕着せの公式機関の格付けや権威付けなんて、今のこの時代には願い下げだわ。」

--そこまでユーザの皆さんの覚悟が決まっているならば、ネットの商売も意義があるだろう。実はネットの取引に不向きな商品はかなりたくさんある。

「たとえば?」

--たとえばね、ビールなんかがそうだ。理由は考えてみればわかる。

「えーとねえ・・まず、他人の意見なんかいらないわよね。商品の数は限られているし、繰り返し飲んでるから味は知ってる。だからカタログ検索も不要。おまけに、買いたいときはすぐに飲みたいわけだから、宅配なんて待ってられない。あ、だから全国のコンビニや酒屋さんに店頭在庫が必要なわけね。」

--流通在庫というものは、商業の機能と切り離せないものだった。
 もともと商業の機能は、需要と供給のギャップを埋めることにある。生産地と消費地の地理的ギャップを埋める輸送機能、生産の時期と消費の時期の時間的ギャップを埋める保管機能、そして大口の供給と小口の消費の数量的ギャップを埋める小売り機能。もしさらに付け加えるならば、納品時点と支払い時点のギャップを埋める与信機能、かな。
 在庫というのはこのうち、時間的ギャップと、一部の地理的ギャップとを埋めるために存在する、いわば必要悪だ。これを解決できなければ、電子商取引の存在意味はうすい。単なる電話注文か通販カタログの代用に終わってしまう。

「もう一つあるわよ、商業の機能。」

--なんだい?

「情報のギャップを埋める事よ。消費者が必要としている情報を、生産者側からもってくる仕事。こんな商品があります、こういうニーズに合います、ということを教えてくれる機能。検索機能なのかもしれないし、提案機能というべきかもしれないけれど、それが今の大量生産時代には、お仕着せの情報をばらまくだけになっていたの。」

--必要な情報を必要な人に届ける、情報のロジスティックス業務か。それはまさにぼくのいうITの中心機能じゃないか。

「だからね、ネットのお店は、それを改革するだけの可能性があるんだわ。情報の流れを、逆に消費者側から生産者側に返すこと。そうすれば、きっと需給のギャップだっけ、それは埋まると思うの。そして、大量生産時代のバカげた資源の浪費を、きっと止めることができるはずなのよ。」

(つづく)
              [この話の登場人物はすべて架空のものです]
by Tomoichi_Sato | 2011-05-05 23:36 | ITって、何? | Comments(0)
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