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「ひぐらしのなく頃に」タイトル縦書きにみる、コミック売り場獲得作戦

<縦書き?横書き?>
ひぐらしのなく頃に解罪滅し編の2巻が先日発売されました。いよいよコミックシリーズも残すは「皆殺し編」と「祭囃し編」の2つを残すのみです。個人的にはこれ以外のシリーズ(鬼曝し編etc)はアニメのみ見ている人を混乱させる様な気がするので、映像化しない方が良いと思います。ましてや投稿アンソロジーとかは・・・。「礼」もできれば映像化しないで欲しいかな。こちらはゲーム版をプレイした人の最期のアドバンテージとして残しておいて欲しいという個人的な思いからですが・・・。

さてコミック版の表紙を見ていてチョットした「違和感」を感じました。ずっと気にはなっていたのですが、やっとその「違和感」の正体に気が付きました。
それは「ひぐらしのなく頃に」のタイトルが縦書きなのです。
ゲームは全て横書きに統一されています。スクウェアエニックスのコミック以外も全てタイトルは横書きで一致しています。つまりスクエニ版のコミックだけが何故か縦書きのタイトルなのです。



<デザインの統一感>
言うまでも有りませんが、コミックの表紙はタイトルと表紙イラストがあります。何となくタイトルはいつも同じ場所に有ると思われがちですが、意外と巻によってまちまちです。


画像上段の「涼宮ハルヒの憂鬱」コミック版は3巻までは左上縦書きですが4巻は右上に変わっています。3巻がストーリー的な節目という訳ではありませんが、SOS団3人娘が揃ったので表紙デザインを一新したとも言えます。
画像中段の「ひとひら」は3巻から縦書きに変わっています。物語的には1巻=春、2巻=夏、3巻=秋冬でとりあえず作品世界と同期が取れていたのですが、4巻は何故か夏服になっていて、6月発売を意識しているのかな?と思われます。どちらにしても3巻でタイトル配置を換えた物語的な意味づけは感じられません。
画像下段ゆびさきミルクティーに至っては毎回バラバラ。統一感はありません。
ここではあくまでもシリーズの「統一感」についてのみ述べています。実際は各巻毎の内容を表紙が表現出来ていれば良いものだと思います。また統一感を優先する余り、表紙イラストが単調になってしまっては元も子もないでしょう。

つまりタイトル位置が表紙イラストによって変わる事は特段珍しい事ではないと言うことです。そう考えると別に「ひぐらしのなく頃に」のタイトルが縦書きでも全然問題なさそうです。しかしあくまでタイトル配置が変わるのは原作者にあたる漫画家の描いた表紙イラストの構図を考えるとタイトルの位置を変えなくてはならない場合だと言えます。一方で「ひぐらし」は既に原作が存在していて、その原作のタイトルが横書きに統一されています。
あえて縦書きにしなくてはならない理由があったのでしょうか?


<多層世界を伝える為に>
「ひぐらしのなく頃に」は同じキャラクターが同じ環境の中で似たようなストーリーを展開しています。多少のネタバレを覚悟で表現すると「多層世界」だと言えます(本当に多層世界かどうかは、是非プレイしてみて確認してみてください)。つまりコミック版で連載された最初の3作品(鬼隠し・綿流し・祟殺し)は別々のコミック、別々の作者、別々の掲載誌ですが、同時に一つの同じ世界観の元に展開している「一つ作品」でもあります。その事を誰の目にも明らかにする為には、デザインを統一した方が都合が良いと言えます。
しかしタイトル横書きデザインでは、イラストにタイトルが掛かってしまい、表紙イラストに大きくデザイン的な制約を与えてしまいます。通常のコミックならば、多少のデザイン変更を行う事で対応も可能ですが、「ひぐらし」の場合にはデザインの統一感は絶対条件です。そうしないと、同じ世界観の作品だという事が伝わりにくくなってしまいます。
今後の表紙イラストにデザイン上の制約を与えない為に、あえてタイトル縦書きを選択したのではないでしょうか?それによって今後の表紙の統一感を確保し、作品の持つ多層世界を視覚的に表現しているのではないかと感じます。



<さて誰に世界観を伝える必要があるか>
多層世界の世界観を伝える為に表紙のデザインの統一感を確保したのですが、これには一つの前提条件があります。その表紙が見えないと仕方がありません。つまり実際販売される書店の売り場で、表紙陳列(以降は面陳)されないとデザインの統一感が伝わらない訳です。
「ひぐらし」は異なる雑誌、異なる作者による同一の世界観に基づいて作られたコミックです。非常に珍しいものなので、書店の担当者としては是非売り場でその作品世界を伝えたいと考えるのではないでしょうか?そして統一された表紙デザインは「何となく」全部見せたいと感じるのではないでしょうか?例えば下図の3つの例の場合、1アイテムだけ下げるのは「何となく」気が引けませんか?



書店で面陳する場所は「平台」とよばれる、売れ筋を置く場所になります。一方あまり売れなくなってきた商品は1冊程度在庫を持っていれば良いので棚に背差しされます。背差しされてしまうと目立たないので、ほとんど売れなくなってしまいます。つまり面陳されやすくする事は、良い売り場を確保し易くなる効果があります。
もう一つ「ひぐらし」の特徴は同時に3作品が発売された事です。これは一度に大きく売り場を占有する事が出来ます。つまり売り場を面で支配する事ができます。2007年06月現在「ひぐらし」スクエニ版コミックは12冊発売しています。しかも続々新刊が刊行される為、売り場を撤去するタイミングがないのもポイントです。仮に出題編の動きが悪くなり、そろそろ平台から撤去しようと考えても、「デザインの統一性」と「多層世界設定」の効果から「なんとなく」撤去しづらいのではないでしょうか?
この「なんとなく」撤去しづらい事から平台を占有し続けると、消費者に対して長期間「ひぐらしのなく頃に」というコンテンツをアピールし続ける効果があるのです。おそらくこの広告効果は計り知れないと考えられます。

デザインの統一性は多層世界という世界観を消費者に視覚的にアピールする為のものだと言えます。しかし同時に長期的に書店の売り場を獲得する為にも効果があるのではないかと考えられます。

<コミック市場は大きく変化した・・・>
現在のコミック市場は決して楽観できる状態にはないそうです。それはコミック雑誌が売れなくなってきているからです。コミック雑誌はいろいろな作品を1冊に収める事で、新人や有望作品を多くの未読者に読んでもらうことができます。しかしコミック雑誌が消費者に読まれないと、なかなか新しい作品が生まれない環境になってしまいます。現実問題としてアニメ化など大きなプロモーションを仕掛けたコミック以外は非常に苦戦しているのが実情だそうです。

今回の「ひぐらしのなく頃に」は、確かにメディア化作品なので決して無名なものではないのですが、デザインなどを工夫する事で売り場に踏みとどまろうとする「貪欲な姿勢」の表れではないかと思います。また大きく売り場占有する事で広告効果が生まれ、「ひぐらしのなく頃に」というコンテンツ全体の成功にも貢献できるとも考えられます。
タイトルの横書きを縦書きに変える。これを原作改変として忌み嫌うか、ちょっとした創意工夫と考えるか。まだまだいろいろな事ができそうな気がしてきます。