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ライトノベル拡大のTakeOff期(2000年〜2003年)

ライトノベル論が盛んになってきています。ライトノベルは文庫市場の20%以上を占めるに至っているので、出版物としての影響力も無視できないレベルになってきています。


「美少女ゲーム年代記 - 結語――ライトノベルの揺籃」
http://rosebud.g.hatena.ne.jp/keyword/%E7%B5%90%E8%AA%9E%E2%80%95%E2%80%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%AB%E3%81%AE%E6%8F%BA%E7%B1%83?kid=43

 そのような状況が変化した時期こそが,ライトノベルをめぐる言説が急激に活発化した2004年前後のことであると筆者は見る。以降,美少女ゲームは「マイナー・メジャー」の立場を譲って一歩後退したため,相対的にライトノベルの地位は押し上げられ向上する。そして,新たに物書きを目指す新進クリエイターは,ゲーム業界に入門するよりもライトノベルの新人賞を狙うようになった――

ライトノベル拡大を考える上で2000年から2003年にかけての3つの潮流もポイントとして考えると面白いのではないかと思います。


①いわゆる「セカイ系」が注目

「セカイ系」作品とは具体的にどれか?という定義はとりあえず置いておきます。一般的(素人的と考えて下さい)には「ブギーポップ」「イリヤ」を中心に、「キノの旅」もグレーゾーンですが含まれるみたいです。
セカイ系は人間関係やコミュニティー(主に学園)の問題が世界の危機に直結するという「小さなセカイの肥大化」を特徴としている(と、言われている)事から「現代の子ども」の特徴を表していると、どちらかと言えばネガティブに捉えられています。しかしエヴァ以降(と、言うより「ソフィーの世界」以降か?)の「内面世界重視」とToHeart以降の「学園設定」の2大トレンドと見事に合致していた事から、商品力を発揮しました。
2000年「ブギーポップ」実写映画化から始まり、2003年「キノの旅」アニメ化。電撃のメディア化戦略も有り、ライトノベルの商品力を世間に見せ付ける事に成功したと思います。


②特典付・限定版拡大

2001年出版物の規制が一部緩和され、雑誌付録の形態が大幅に自由になりました。雑誌のマイナス成長が拡大していたため、各社がさまざまな付録を競うように付けていきました(折りたたみカサなんかも有った・・・)
それに伴いコミックにも限定版が現れ2001年には講談社が「ちょびっツ」限定版を発売。また2002年頃には雑誌付録にフィギュアが付くようになりました。代表的なところは「アフタヌーン」(ああっ女神さま)「電撃大王」(おねがいツインズ)などです。
広く一般的な人たちにまんべんなく行き渡る事を標榜としている出版物(だからいろいろ保護されている・・・)ですが、「一部の狭いターゲット」に「数量限定」で販売する手法が2001年〜2003年に拡大したのだと思います。そしてその「一部の狭い層」として最も購買力が強かったのが「オタク」だったのだと思います。ちなみに特典付が拡大したこの時期、エロゲーの発売前にプレビュー版を出版物として発売する「ファーストファンブック手法」が拡大したと記憶しています。


③キャラクターミステリーから新伝奇

もう変化も革新もないと思われていた古典。「ミステリー」はそんなジャンルと考えられていました。
2001年富士見書房から「富士見ミステリー文庫」が創刊。翌年には角川スニーカーでもミステリーアンソロジーが発売され、にわかにミステリーとキャラクターの融合が注目を集めました。また2002年には宝島「このミステリーがすごい」に「GOTH」が2位にランクインして注目を集めました。ちなみにネット上での人気では圧倒的に「GOTH」が1位だったと記憶しています。著者の乙一氏はライトノベル出身だった事からこの人気は「若い層を取り込んだ結果」だと考えられました。
2002年には一方で、西尾維新氏の「戯言シリーズ」が発売、こちらもメフィスト賞をとり注目を集めました。こちらはライトノベルとは言い切れませんが、キャラクター性とアニメ・コミックからの引用など従来の文芸とは違う若い世代向けの内容だったため「オタク」的な素養が含まれる作品と捉えられています。
2002年の2つの作品の成功を受けて2003年には講談社がファウストを創刊。またこの年に「ライトノベル完全読本」が発売されライトノベルへの注目が一気に集まったと言えます。
ちなみに②③の流れを受けて2004年には「空の境界」5000部限定版が発売。瞬殺して注目を集めました。

総括

①「セカイ系」をキーワードにライトノベル自体が一般的な存在となった
②限定版商法によって「オタク」を大っぴらにターゲットとする事が当たり前になった
③従来の枠に当てはまらない人材が出現して、文芸とライトノベルの境目が曖昧になった


これらの変化が2000年〜2003年におきたと考えています。つまり現在のライトノベル全盛の基礎を築いた時期だったのではないでしょうか?そこで、この時期をライトノベルのTakeOff期と命名したいと思います。つまり「離陸」したのです。
さて2003年と言えば「涼宮ハルヒの憂鬱」が発売になった年でもあり、ザ・スニーカーリニューアル+創刊10年(もちろんスニーカー文庫15周年)の年でもあります。2006年「涼宮ハルヒ」のヒットによってライトノベルが全盛期を迎えた、とするならば、それに至る2000年〜2003年の「前ハルヒ期」に基礎が出来たと言えるのかもしれません。






ちなみに、このライトノベル研究はまた続けます。これより前の時代がもっと重要だから・・・。