「神様なのに、何しているんだろう」
——今回の映画化のお話を聞いた時、どう思いましたか?
松山ケンイチ(以下、松山):映画になるからといって特に構えることもなく、いつも通り演技すればいいかなと思っていたのですが、まさか演技プラス「我慢」や「忍耐」が必要になるとは思っていなかったです。
染谷将太(以下、染谷):クランクインの前にアクション練習が結構あったんです。たくさんの人がアクションの練習をしていたので、その時に「あ、これは映画なんだな」と思いました。と同時に「神様なのに、何しているんだろうな」とも思いましたけど(笑)。
松山:実写化するとき、最初は少し不安なところもあったんです。イエスとブッダって、それぞれの宗教の代表的な方でもあるわけだから、表現の部分がどれだけ許容されるんだろうと。映画になって、例えば海外の人が見たらどういう反応をするんだろうなというのは多少気になったので、ちょっと真面目にやろうと思っていたんです。
染谷:我々は真面目にやろうと思っていても、(佐藤)二朗さんとか、暴れ散らしていましたからね。時々「映画ってなんだろう」「お芝居ってなんだっけ?」と思いながらも、刺激的な日々でした。キャストも豪華で、何をするかわからない方々が毎日のように我々の前に現れてくださったので、笑うのを堪えながら撮影していました。
いい意味で「やばいぞ」
——今作は原作者の中村さんが映画化のために描きあげた「スクリーンへの長い途(みち)」(原作単行本19、20巻)をもとにしています。ストーリー全体のおもしろさをどんなところに感じましたか。
松山:これまでは部屋の中でストーリーが展開していたけど、今回はイエスとブッダが外に出ます。そもそも、神と仏が一緒に日本に来てバカンスするなんて、僕は考えたこともない発想でした。そこから天界の人がいろいろ出てくるわけですが、神的な価値観と人間の価値観のギャップみたいなものがすごくおもしろいんですよね。そのストーリーのおもしろさプラス、福田組ならではの現場のわちゃわちゃ感、何が起こるか分からないバラエティー的な要素もあって、普通は笑ったらNGだけど、今作はそのまま使っているんです。そういう意味でも、いろいろな価値観が混ざり合っているのがおもしろいですね。
あとは、宗教や神話に絡んだことも出てくるので、神話に興味がある人も楽しめるところも魅力だと思います。
染谷:今回はイエスとブッダの日常的な会話から始まり、「ニチアサ」(日曜日の朝に放映されるアニメや特撮番組)までやるということを台本で知った時は、いい意味で「やばいぞ」と思いました。キャストの皆さんが演じるキャラクターも役者の皆さん自身も豪華でカラフルで、それが結果として豊かでおもしろい作品になったなと思います。
——映画では個性豊かで強めな、そうそうたるキャスト陣が登場します。特に印象的だったのは?
松山:全員がすごかったですよ。みなさん台本から想像する以上の、それを超えちゃうくらい暴れていました。僕はまだ本編をちゃんと見られていないんですけど、聞くところによると「堕天使・ルシファー」を演じた(藤原)竜也さんがラストを全部持っていっているという話なので、すごく楽しみなんです。
染谷:僕は本編を見ましたが、ものすごい爆発力がありましたよ。竜也さんの出演シーンがオールアップだったそうで「ルシファー」終わりっていうのもまたいい締めくくりですよね。いろんな出来事があって、イエスとブッダが奮闘しているけど、最後はそういうのを全部ルシファーにぶん殴られた感じでした(笑)。
——藤原さん演じる「ルシファー」と松山さんの対決は胸アツでした! ルシファーが出すネタについてお二人はご存知だったのですか?
松山:あれは福田さんが急にひらめいて取り入れたことだったので、僕たちは知らなかったです。もうやりたい放題ですよ。
染谷:上層部がざわついていましたからね(笑)。僕もあのシーンのお二人のやり取りは胸アツでした。そこに対して、ブッダが「南無三!」(ブッダの決めぜりふ)と言えたことも光栄でした(笑)。
アドリブ長回しは「宇宙旅行の感覚」
——佐藤さん演じる「戦いの仙人」との長回しシーンでは、途中から「これはアドリブなのか、脚本内のことなのか」と想像しながら楽しく拝見しました。
松山:僕はあのシーンの記憶がないんですよ。「佐藤二朗の宇宙旅行」に一緒に連れていってもらった感じで、時空が歪みまくっているんです。撮影時間は10分~15分くらいだったと思うけど、段取りもなかったし、重力なのか引力なのかよくわからない、いろいろな力に耐えていたので後になって体が痛かったですが、間違いなく注力したシーンですね。
染谷:僕はあのシーンを着地させなきゃいけない役割だったんです。なので、台本には決まっているセリフがあって、ある程度経ったらそこに戻すという役割をもらっていたので、がんばって何回かトライしたんですけど、全然着地できませんでした。
松山:その宇宙旅行で思ったのは、やっぱりこういう時に人間が出るということでした。いろいろ振り返ると反省することがあって「これが自分なんだ」と思わされたというか。それは今までやってきた本番の中で感じたことがないものでした。
染谷:あそこのシーンを着地させるセリフは僕じゃなくて、二朗さんでした! 二朗さんが終わらせたくて着地させる言葉をちゃんと言っているのに、我々が続けていたんですよ。それで二朗さんが「おいっ、お前ら!」みたいになっているのもそのまま使っているので、そこも楽しんでいただけたら幸いです。
お互いの愛おしい部分を例えると
——イエスとブッダの会話のユルさや平凡な日常を愛おしく感じますが、お互いに「人」として愛おしいと思うところをそれぞれ教えてください。
松山:染谷くんって目が印象的で魅力的だなと思うのですが、先日、同じような目を見つけたんです。草みたいなもので亀の目をつつく悪さをしている人がいて、やられた亀が手で目のあたりをぬぐうようにしていて。僕はそれ見て、申し訳ないけど「めっちゃかわいいな」って思ったんです。きっと染谷くんに同じことをやっても「やめろや~」っておっとりした感じで言ってくれるような気がしたんですよね。それに亀って、見方によっては狂気的にみえる目でもあるけど、その時のような穏やかで聖なる目の持ち主なところが愛おしいなと思います。
染谷:亀の目は初めて言われたので新鮮です(笑)。僕から見た松山さんは、柔軟性があってとても自然に気を遣ってくれる方なので、一緒にいてもすごく居心地がいいんですよね。そんな自然体な人が、お芝居になると、それこそ狂気的になったり柔らかい人になったりするのですごいなと思います。基本的に自分が松山さんとお会いするときは「イエス」と「ブッダ」なので、他の作品でお見かけすると「知らない人がいる」と思うんですよ。普段の松山さんとの乖離感が半端ないです。
そんな松山さんを何かに例えるなら「本物よりも俊敏なナマケモノ」ですかね。全然スローペースではないのですが、穏やかさがあって堂々としているし、人に癒しも与えてくれるんです。
松山:ナマケモノって言うかなと思っていたら、本当にそう言ったからびっくりした! 自分でもそう思うので、ぴったりだなと思います。
今さらドハマリしているアニメ作品
——今回は漫画が原作でしたが、お二人が最近読んだ本や面白かった作品を教えてください。
松山:僕は今『ダンダダン』(龍幸伸著)にハマっていて、アニメも漫画を見ています。幽霊の存在を信じる女子高生と、UFOの存在を信じる少年が怪奇現象と戦う物語なのですが、宇宙人と妖怪も出てきて、それぞれの関わり方や善と悪がごちゃ混ぜになっている感じがとても現実的だなと思いました。
悪だった人間が味方になる「昨日の敵は今日の友」といったように、利害が一致するような時は一緒にいるけど、つかず離れずな時や敵対することもあって。でもそれって我々の日常でも当たり前にあることじゃないですか。それぞれの都合で動いているところが見事に描かれているので、勉強になります。
染谷:松山さん、結構アニメや漫画を見ていますよね。
松山:子供が好きだから一緒に見ることが多いかな。今ドハマリしているのが「Re:ゼロから始める異世界生活」っていう昔からやっているアニメなんだけど、これも今さらハマっているし、「推しの子」も好きです。
——以前、染谷さんには『そしてミランダを殺す』を教えていただきましたが、最近はどんな本を読みましたか?
染谷:最近読んだのは『歩山録』(上出遼平著)という小説です。主人公の男性が奥多摩の山に登っていって、長野の県境から山梨の方まで向かうのですが、途中で遭難して気づいたらどんどんその人の精神世界に入っていくんです。途中で人と出会うのですが、途中からその人の様子がおかしくて、多分自分が作り出した幻覚が見えてしまっているんです。最終的に行きつく先があるんですけど、知らず知らずに自分も主人公と一緒に迷子になっていく感覚になって、状況が分からなくなる瞬間がたくさんあっておもしろかったです。