こんにちは、森和恵です。ここのところ、オンライン・イベントへの登壇が続きました。リアルでお目にかかれないからこその、コミュニケーションのむずかしさを感じています。
今回は、本業のインストラクターがどんな風にセッションの内容を組み立てているのか? について、実例を交えてお話します。
●先日の登壇のようすから
まずは、どんなイベントだったのか、というところから紹介しますね。
Adobe XDユーザーグループ大阪の10回目の勉強会において、「地味だけど大事な、XDドキュメントの管理とコーディング補助について語ろう」というテーマで50分の登壇をしました。
オンラインイベントだったため、そのようすがアーカイブに残されています。
準備したスライドは、約30枚でした。実際にアプリケーションを使って機能を紹介する『デモンストレーション』が中心だったため、いつもより少なめの枚数です。
https://speakerdeck.com/r360studio/xdug-osaka10-session2
今回選んだテーマは、Adobe Creative Cloud ストレージを用いる「クラウドドキュメント」にまつわる機能についてで、ストレージ上に保存したドキュメントに対して、履歴を確認したり、他者とデータを共有する操作についてお話しました。
当日のセッションでは、セッションが始まって1/3ほど過ぎたところ(19分32秒あたり)で、ストレージの共有機能が正常に動かないという、トラブルにみまわれました。
ストレージの共有機能を用いた内容がほとんどだったのに、ストレージがうまく動かないという状況で、冷や汗だらだらでなんとか最後まで終えました。
……ほんと、心臓がギュッとなりましたよね。
登壇が終わってすぐにクラウドの状況を確認したところ、昼間にクラウドストレージでトラブルが起こっていた形跡があったので、それが元となって起こった不具合のようでした。
ちなみに、アドビのクラウドの稼働状況については、「Adobe System Status」というサイトで確認できます。
https://status.adobe.com/
デモンストレーション形式の登壇では、トラブルがつきものです。どれほど事前に準備していても、トラブルが起こるときは起こります。これは、仕方がないことです。
わたしは、万が一、システムが止まった場合の保険として、動いている状態のスクリーンショットをスライドに掲載するようにしています。今回も、それを使って乗り切りました。
また、止まってしまって見せることができなくても、視聴者に「いまなにが起こっているか、自分は何を見せるつもりでいて、ここで伝えたい大事なことはこれだった」という3点を、忘れずに伝えることにしています。
それをすることで最低限の情報発信はできますし、視聴者の方も最低限は納得してくれると思います。
後は、心の中でひたすら「落ち着けー、落ち着けー」と念じてやり過ごしました。
後日談ですが、動かなかった部分だけのデモをまとめた、フォローアップ動画を公開しました。
これは、イベントの翌日に、クラウドサーバーが落ち着いてから録画したものです。フォローアップ動画は、自分がデモの操作を忘れてしまう前に録画しておくのがベストです。
動画を見てもらうとわかりますが、当日と同じ衣装、機材のまま、当日のようすを交えながら補足部分のデモをしつつ、補足を加えました。
●セッションは双方の意見を踏まえて組み立てる
さて、今回どんなふうにセッション内容を決めたのか、それを書き起こしたいと思います。
まずは、セッションの持ち時間のから始まります。セッションの組み立ては「時間ありき」です。セッションに何分の時間を費やせるかで、組み立ての方法も変わります。
セッション時間でよく見かけるのが「5分(ライトニングトーク・LT)」、「15分(ライトニングトーク長め)」、「30分(短めセッション)」、「50分(長めセッション)」です。
ライトニングトークでは、「自分の話したいこと」をストーリーにのせて話します。5分だと無駄話ができずに終わりますし、15分なら深掘りをするための余談を混ぜて話せます。
『初心者なら、ライトニングトークから始めるとよい』とよく言われますが、私的には5分のライトニングトークが一番むずかしいと思っています。
話したいことに対して圧倒的に時間が足りなくて、ギュッと絞り込んでシナリオをまとめる技術と、スピーディに話し続ける技術を要求されます。
対して、15分の持ち時間なら、余裕を持って進めることができます。いずれにせよ、ライトニングトークは「自分が話したいことを話して終わる」という、一方的なプレゼンテーションとなります。
今回は、先日登壇したのと同じく「50分セッションの作り方」でお話します。
50分の持ち時間があれば、起承転結、補足や余談も組み合わせて、話したいことを十分に伝える時間があります。セッションを授業と捉えた時に、一番効果が出やすい時間量だと思います。
次にセッションのタイプなのですが、「テーマに対して、自分の考えや取り組みを述べる」タイプと、「テーマに対する情報を伝える」タイプがあります。
TEDのようにテーマに対する有識者が自分の考えを述べる場合は、「テーマに対して、自分の考えや取り組みを述べる」方法がとられます。
これは、自分の考えや語りたいテーマが決まっていて弁論していく、プレゼンテーションの王道です。
今回は、後者の「テーマに対する情報を伝える」タイプのセッションについてお話します。
これは、セッションを聞いてくれた方が関心のあるテーマについて語り、そこから情報を得て知識を向上させ、仕事に役立ててもらうのが狙いです。
勉強会の主催者さんからのオーダーは、「最近のAdobe XDの機能に関して説明する」というもので、何を話すのかは自由に決めてOKでした。
ということで、さっそくテーマを検討することにしました。
わたしがいつも注意しているのが、ひとりよがりの内容にならない、ということです。「聞く人が本当に知るとよい内容はなんだろう?」を考えます。
まずは、Adobe XDの「機能概要(主だった機能を紹介したページ)」と「ユーザーフォーラム」をを眺めつつ、今回のテーマを決めることにしました。
機能概要 | Adobe XD
https://www.adobe.com/jp/products/xd/features.html
Adobe XDユーザーフォーラム
https://community.adobe.com/t5/adobe-xd%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%A0/bd-p/xd-jp
機能概要では、アプリケーションに搭載された機能を知るだけでなく、メーカーがいまどの機能を推しているのか? という意図もみてとれます。
メーカーが、機能をユーザーのどのシーンで活用してもらいたいと考えているか、ということもわかります。アプリケーションの特長をメーカー目線で知ることは、広い範囲の方々に利便性を紹介するときにとても大切なことです。
次に調査したのが、ユーザーフォーラムのページです。ここには、実際にアプリケーションを使ったユーザーの声が、良し悪し混ざって集約されています。
・使ってみて、何に困っているのか?
・どんな機能が必要とされているのか?
など、ユーザーの生の声を知ることができます。
こうして、メーカーとユーザーの双方から調べ、今回のセッションテーマを決めました。
「地味だけど大事な、XDドキュメントの管理とコーディング補助について語ろう」というテーマでは、クラウドドキュメントの活用を盛り込んでいます。
この一年半ほどのAdobe XDの新機能を振り返ると、クラウドドキュメントにまつわる機能の強化が頻繁におこなわれています。
また、これはアドビに限った話ではなく、マイクロソフトもまた然り、ここ数年のアプリケーション進化をみていると、いずれも「クラウドベース」にシフトしています。
そのことから、このタイミングで「クラウドドキュメント」というテーマを扱いたいと思いました。
使ってみて実感しましたが、データをクラウドに置くのはたいへん便利な機能でした。
しかし残念なことに、ユーザーの声に耳を傾けると、クラウド利用が浸透していない感じを受けました。ともすれば、「クラウドはダメだ」みたいな意見もありました。
その気持ちは理解できました。人は慣れ親しんだワークフローから、新しい形式に切り替えることに恐怖を感じるものです。よほどの得がないかぎり、古いままでもよいと思うものです。
新しく使い方を学んだり、やり方を変えてトラブルに巻き込まれたり……を乗り越える苦労を鑑みると、当然といえば当然です。
かくいう私も、古いやり方のまま変えることができないワークが多く残っています。例えば、請求書をずっと手計算(電卓!)とWordで発行していますが、もっと便利なツールがたくさんあることを、知っていても利用していません。
「変化するのは、めんどくさい」のです。
今回はここに目をつけて、「クラウドドキュメントを使うと、こんな利便性があるよ」を伝えるセッション内容に決めました。
テーマが決まれば、あとは紹介したい内容をひたすら調べていきます。
マニュアル(ユーザーガイド)を熟読しつつ、実際に自分で機能を使ってみながら、その利便性を検証していきます。
Adobe XD のクラウドドキュメント-Adobe XD ユーザーガイド
https://helpx.adobe.com/jp/xd/user-guide.html/jp/xd/help/cloud-documents.ug.html
マニュアルにすべて目を通しながら、アプリケーションを使って動作を確認していきます。
また、気になるキーワードが出てくれば、Googleで検索してみて、関連ブログがないか調べ、利用状況を確認します。この過程におおよそ2~3日ぐらい費やします。
これはと思う機能が出そろったら、今度はそれをストーリーでつなげていきます。仕事のどんなシーンで利用すれば、現状が改善されるかを考えます。
アプリケーションの機能をばらばらと細切れに紹介するだけでは、ユーザーに利便性を伝えることはできません。知識が素通りされていき、視聴者の心に何も残らないセッションになってしまいます。
ユーザー自身が思い描くワークフローの中に、使ってみたら便利になるだろうか? ということを想像させるように、ストーリーを組み立てます。
今回の場合、ストーリーはこんな感じでした。
◇起(みんなが、日頃使っていて感じる疑問の定義)
「最近のXDは、クラウド保存が前提なのはなぜ?」
「クラウド保存した時のデータの仕組みについて」
◇承(答えに対する回答)
「クラウドに保存する利点は、履歴が残ったり、他者と共有できること」
「ネット回線が切れても(オフライン)編集ができて安心」
◇転(あまり知られてない、さらなる利便性の紹介)
「ドキュメントだけではなく、デザインパーツ単位でも他者と共有管理ができる」
◇結(さらにもう一段階、利便性の紹介)
「デザインを作るだけじゃなく、その後のコーディングも便利にしてくれる機能がある」
みんなが感じている疑問を解消し、なんとなく知っていても具体的な使い方がわからずに置いておいた機能を紹介することで、使ってみようという気持ちになってもらえたら、それが今回のセッションのゴールでした。
●毒を食らわば皿までの精神でカリキュラムを組む
今回の登壇をきっかけにして、一年半ぐらい遠ざかっていたAdobe XDの追加機能をすべて調べました。
せっかく調べたのだから、どこかで発表しておこうと、全4回のライブ配信を行いました。サボってた一年半分の新機能を洗い出し、解説しています。
https://www.youtube.com/playlist?list=PL7LtdGFp5DwRJtpw33lobenHK07s7HYqI
「レイアウトとデザイン」「プロトタイプとアニメーション」「共同作業とハンドオフ」という、三つのテーマに分けましたが、実は公式の「機能概要」と連動しています。
こんなふうに、系統立ててカリキュラムを組むのは、しんどい作業ですが、これを使って学習した方に知識をすんなりと組み入れてもらうためには、とても大切な作業だと思います。
テーマに沿ってカリキュラムを組むという作業は、やらないとどんどん腕が鈍ってしまうので、「毒を食らわば皿まで」の気持ちで、今回は Adobe XDについて徹底的に調べました。
昨年末から始めた作業だったので、一か月ぐらいかかりましたね。いやはや、勉強になりましたが、たいへんな作業でした。
というわけで、今回はこのへんで。
暖かい週の初めとなりましたが、信じられないことに予報では、この後グッと気温が下がるそうです。体調を崩さないように、日々過ごしてまいりましょう。
ちなみに、腹巻きで内臓を温めるのって、いい感じですよ。
ではまた、次回お目にかかりましょう!
(^^)
【 森和恵 r360studio ウェブ系インストラクター 】
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YouTube:https://youtube.com/r360studio
サイト:https://r360studio.com/