@kyanny's blog

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第二次CTOブームから技術顧問ブームへの流れについての考察

  • 「エンジニア組織のトップには最も技術力が高い人が立つべき」という価値観にもとづいて、多くのWeb事業会社においてエース格のスターエンジニアがCTOないし類似の肩書と地位と権力を持つポジションに就いたゼロ年代のムーブメントを第一次CTOブームと呼ぶことにしよう
  • それを踏まえてテン年代に入り、「スタートアップのような小さな組織ではそれで問題なかったけど、組織が大きくなり成熟していく過程では、経営者の視点からエンジニア組織をマネジメントできる人がいないと組織力を発揮しきれないのでダメだよね」という価値観を後ろ盾に、そこそこ年齢を重ねて気力体力的に現場の第一線がつらくなったりライフステージの変化によって以前に比べパフォーマンスを発揮できなくなった元エースや、技能ではエースに及ばないがそれ以外の格(社歴など)で勝るシニアな人材などの思惑が重なり、「次のキャリア」としてCTOという役職に再びスポットが当てられたムーブメントを第二次CTOブームと呼ぶことにしよう
  • その後、事業会社の役員という立場でフルコミットするCTOではなく、外部のアドバイザーとして参画する技術顧問というポジションが注目されはじめ、元CTOだったり、CTOをやっていてもおかしくない格の実績と実力を有するスターエンジニアたちが、Web事業を営むスタートアップ企業を中心に技術顧問に就任するムーブメントが起こっている(ここまで前置き)
  • 外部アドバイザーである技術顧問とはつまりコンサルタントのことであり、その人らが提供するのはコンサルティングサービスである
  • コンサルティング業という仕事は、有能なコンサルタントにとっては単位時間あたりの報酬を最大化しうる効率よい働き方だといえる。また、有能なコンサルタントが利益を最大化しようとすると、「最大多数の最大幸福」のような状態に帰結しそうである。よって、世界がその人から受ける恩恵の総量が最大化されて、世界にとっても良いことである可能性が高い
  • 有能なコンサルタントがコンサルティング業ではなくスタートアップのCTOをやったとすると、スタートアップはCTOがどれほど有能であってもだいたい失敗するので、有能な人材の稀有な能力が何年分も無駄になり、世界の損失が大きくなる可能性もまた高い
  • コンサルティング業は時間を切り売りして広く浅くコミットする性質があるのでフリーランスのような働き方と相性が良い。よって、第二次CTOブームを影で支えた「有能な人材のワークライフバランス問題」の解決にもプラスに働く。したがって、コンサルティング業を選ぶ動機は高まる
  • 今年に入って「元どこそこの誰それがどこそこの技術顧問に就任」のようなニュースを頻繁に見かけるようになった背景には、上記のような事情もあるのではないか、ということを考えた。もちろん「技術顧問」というポジションへの認知度が高まり、Web事業会社がそういうニーズに気づいて受け入れる体制を整えてきた、というのもあるだろう
  • 「技術顧問」という肩書はいわゆるバズワードである可能性が高い。コンサルタントを雇っただけではニュースにならないし、対外的に格好良くも見えないので、Web事業会社、特に資金の乏しいスタートアップはコンサルタントを雇うことにためらいがあるはずだ。しかし実際にはそういう組織にこそコンサルティングサービスのニーズがあり、そこに目をつけた頭の良い誰かが新しい名前をつけて、顧客がその商品を買うときに感じていた抵抗感をなくしてあげたため、顧客は安心して商品を買えるようになった、というからくりなのではないか
  • バズワードはすぐに飽きられて死語になる宿命を持っているので、「技術顧問」という名称自体は遅かれ早かれ廃れることが予想される。しかしコンサルティングサービスへのニーズはなくならないので、いずれまた新しい呼び方が発明されるであろう。Web業界のエンジニアの高齢化とともにコンサルタント予備軍の人数も増えていくので、おそらく新しいラベルが作られるタイミングで新人コンサルタントが増え、しかし仕事の性格上コンサルティング業を廃業する人は継続する人に比べて少数であろうから、結果的にコンサルタントの総数は増加していくであろう

追記: はてなブックマークのコメントで「本文中の人称代名詞が「彼女」なのはなぜか」という意図のものがあった。根拠の説明になっているかわからないが、性別がわからない場合の三人称(英語) - 対象の性別が定かでない状況で、その... - Yahoo!知恵袋にあるような、特に性別を限定しない意図で、「英語圏では人称代名詞に he を使うのは性差別的だとする考え方があると聞いたので、それに配慮してここでは「彼女」を用いることにしよう」と考え、そのように記述した。なので、特定の女性(たち)のことを指す意図は元々なかった。しかし誤解を招く表現であったと思い直し、本文中の「彼女」を、より性差を感じさせない「その人」に変更した。