あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【ネタバレ有】映画「孤狼の血」感想・考察と10の疑問点を徹底解説/オススメ!日本産ノワール映画の新境地を開く大傑作!!

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かるび(@karub_imalive)です。

5月12日に公開された映画「孤狼の血」。古き良き東映の「実録ヤクザ映画」が元気だった頃の原点に立ち返った、気合の入った傑作だ!という声に押されて見に行ってみたのですが、想像を遥かに上回る素晴らしい大傑作でした!

ということで、これはがっつりブログに感想を書き残しておかねば、と思い、急遽感想や考察を書いてみました。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「孤狼の血」の予告動画・基本情報

▶映画「孤狼の血」公式予告動画
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【監督】白石和彌(「日本で一番悪いやつら」「凶悪」他)
【配給】東映
【時間】126分
【原作】柚月裕子「孤狼の血」

本作は、柚月裕子の原作小説「孤狼の血」をベースに実写映画化されました。第145回直木賞(2015年度下半期)にノミネートされた原作小説には、出版後に映画制作会社からのオファーが殺到したそうです。

そんな中、映画化権を獲得したのは、1970年代に実録ヤクザ映画シリーズ「仁義なき戦い」で一つの新しいジャンルを打ち立てた東映でした。そして、映画化にあたって東映が指名したのが、実話をベースとした社会派サスペンスを得意とする白石和彌監督です。

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白石和彌監督といえば、同じく汚職悪徳警官をコミカルなタッチで味付けした「日本で一番悪い奴ら」や、凶悪な事件を生々しく描いた「凶悪」、一風変わった個性的な登場人物たちの恋愛ミステリー「彼女がその名を知らない鳥たち」など、どの作品もコアな映画ファンから高い評価を受けている若手監督の代表格。同年齢のライバルに、熊切和嘉監督(「武曲」「私の男」他)や、西川美和監督(「永い言い訳」他)などがいますね。

小説、映画で描かれたのは広島県呉市をモデルとした架空の都市、呉原市。広島弁がバリバリ飛び交う地方都市で、荒くれ者たちが活躍する映画といえば、必然的に東映の黄金時代を飾った70年代の「仁義なき戦い」を連想してしまいますよね。

実際、原作者の柚月裕子氏は、「仁義なき戦い」シリーズにインスパイアされて原作小説を書いたと公言していますし、「日本の映画をもっと元気にしたい」と公言する白石和彌監督も、映画化にあたっては「仁義なき戦い」他、東映の歴史あるプログラム・ピクチャーの映画シリーズに最大限のリスペクトとオマージュを払っています。

ところで、Youtubeで映画解説動画を漁っていると、よく出会うのが映画コメンテーター”赤ペン瀧川”氏です。実は今回の映画で、”赤ペン瀧川”氏こと、瀧川英次さんが、呉原東署のキャリア組署長として出演していました。実際に映画にキャストとして参加しているだけに、普段よりさらに解り易い解説動画は必見!映画を見る前にこれだけでも見ておくと、かなり理解が進みますよ。

▶映画「孤狼の血」”赤ペン瀧川”氏の解説動画!
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2.映画「孤狼の血」主要登場人物・キャスト

呉原東署・大上章吾巡査部長(役所広司)f:id:hisatsugu79:20180522155922j:plain
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube
映画作品でヤクザ(厳密には警察官ですが)を演じるのは、1996年「シャブ極道」以来久々となりました。名実ともに日本No.1の役者である役所広司が、一生懸命演技をしている現場を見るだけで、他の俳優陣も気合がはいって良い撮影現場になったのだとか。荒くれ者のヤクザ刑事、文句なしの熱演でした。

呉原東署・日岡秀一巡査(松坂桃李)f:id:hisatsugu79:20180522155934j:plain
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube
ここ数作で、一気に役者としてのポテンシャルを開花させ、一流の俳優へと急成長している松坂桃李。白石監督作品では「彼女がその名を知らない鳥たち」以来、間をおかず2度目の起用となりました。2018年も、「不能犯」「娼年」と個性的な役柄を難なくこなし、安定感抜群。そうそう、ベッドシーンもかなり上手だったらしい(笑)

尾谷組若頭・一ノ瀬守孝(江口洋介)f:id:hisatsugu79:20180522160830j:plain
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube
トレンディドラマにロン毛で出ていた時代、江口洋介は何を演じても江口洋介・・・的な感じはありましたが、それも一昔前の話。今回のヤクザ若頭役は、厳しさと冷徹さが全面に出た新境地で、役所広司との丁々発止のやり取りは見応え充分。

加古村組若頭・野崎康介(竹野内豊)f:id:hisatsugu79:20180522160918j:plain
引用:「孤狼の血」×千鳥コラボスポット - YouTube
全盛期のトレンディドラマ俳優時代に比べると、ここ最近、エンドロール等では3番手、4番手にクレジットされるなど、徐々に扱いが下がってきています。ただし、ここ数作は「ラストレシピ」「彼女がその名を知らない鳥たち」など、個性的な悪役で新境地を開拓。完全に一皮むけた感があります。本作でも、ヒステリックなまでにキレキレの悪役は見どころ抜群でした。

クラブ「梨子」のママ・高木里佳子(真木よう子)f:id:hisatsugu79:20180522161246j:plain
引用:赤ペン瀧川の映画添削 映画『孤狼の血』 - YouTube
終始胸の谷間を強調し、男性陣から触られまくるなど、体を張った熱演が印象的でした。そこまでやるんならいっそ脱いでしまったら・・・という意見もネットでちらほら見ましたが、80年代に女手一つで一人息子を育てる「強い女性像」を見事に表現できていました。そして、36歳になるとは思えない若さもさすが。

五十子会会長・五十子正平(石橋蓮司)f:id:hisatsugu79:20180522161353j:plain
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube
直近のヤクザ映画では北野武監督の「アウトレイジ」でも同じような立ち位置の悪役を見事に演じていた石橋蓮司。本作では呉原市のヤクザ抗争に裏で糸を引く悪役中の悪役ですが、妙に人間臭い柔和な表情が、役者の貫禄を感じさせてくれます。通り一遍等ではない、リアルなヤクザ像に近い親分を演じてくれました。

全日本祖国救済同盟代表・瀧井銀次(ピエール瀧)f:id:hisatsugu79:20180522161411j:plain
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube
白石和彌監督作品では、「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」「サニー/32」に続いて実に4度目の起用となります。顔だけ見ていると完全に悪人ヅラですが、意外にコミカルな役柄もこなせるのがピエール瀧の強み。「アウトレイジ最終章」シリーズでもどこか3枚目の憎めない一面を持つキャラを演じていましたが、本作でもストーリーの中核部分を担う主要キャラでありながら、コミックリリーフ的な立ち位置で時折笑わせてくれました。

ーーーーーー

その他にも、滝藤賢一、田口トモロヲ、中村獅童、音尾琢真、嶋田久作、中村倫也、伊吹吾郎、阿部純子、MEGUMIなど、錚々たるメンバーが勢揃い。これだけ良い役者が揃って悪い作品になろうはずがありません!

3.途中までの簡単なあらすじ

昭和63年夏。今から30年前、ヤクザが最もヤクザらしかった時代、広島県呉原市を中心として、新たなヤクザ同士の抗争が始まろうとしていた。発端となったのは、呉原市に本拠を置く、加古村組の経営する高利貸し店舗「呉原金融」において、経理を担当する上早稲二郎が行方不明となったことだった。

上早稲二郎の妹、洋子が、呉原東署の大上章吾巡査部長に相談へと訪れたことで事件が発覚。大上は、対暴力団において違法スレスレの捜査を行うなど、ヤクザ顔負けの強面警官だった。その名は、呉原市だけでなく、広島県全域において、 暴力団組織から一目置かれる存在だった。

大上は、この春広島大学を卒業したばかりのキャリア組新人、日岡秀一を連れて早速調査に乗り出した。日岡を使い、偶然パチンコ屋にいた加古村組の中堅・苗代広行を脅しつけて上早稲の消息を引き出そうとしたが、苗代は口を割らない。これは、裏になにかあるかもしれない、と考えた大上は、次の手に打って出ることにした。

次に大上が向かった聞き込み先は、呉原市において加古村組と敵対している尾谷組本部だった。その日大上に応対したのは、服役中の組長・尾谷憲次の留守を預かる若頭・一之瀬守孝だった。一之瀬は、現組長引退後、尾谷組の看板を背負うとされている最有力の人物だった。ひとしきり打ち合わせた後、日岡は、大上が一之瀬から金の入った封筒を受け取るところを目撃し、酷くショックを受けた。

実は、日岡は広島県警の直属の上司、嵯峨大輔から、呉原東署で大上の部下として赴任する際、隠れた任務として、大上の素行監視をすることになっていた。大上は対暴力団捜査において大変優秀な刑事だったが、手段を選ばない強引な違法捜査や、アラっぽい言動は県警内でも問題になっていたのだ。

やがて、呉原市内の尾谷組のシマにあるクラブに、加古村組と、その後ろ盾である広島市内に本拠地を置く五十子組のメンバーが公然と出入りするようになり、にわかに抗争の機運が高まってきた。

加古村組内での上早稲殺害事件を解決し、加古村組を潰すことで抗争を未然に防ごうとした大上は、さらに違法捜査をエスカレートさせていく。大上は、親友である広島市内の右翼団体・全日本祖国救済同盟の代表・瀧井銀次を使って内偵を進めた。判明したのは、上早稲殺害は、加古村組の組員が深く関わっているということだった。加古村組のメンバーが尾谷組との抗争準備のため、金庫番だった上早稲を脅して組長の許可なく勝手に金を引き出していたが、組長への引っ込みがつかなくなったため、上早稲が使い込んだことにして上早稲を殺害して死体を埋めて隠したのだった。この情報を元に、加古村組の吉田を脅して死体遺棄現場を突き止め、加古村組構成員による上早稲の拉致映像テープを入手た大上は、加古村組への一斉捜査に取り掛かろうとした。

しかし、加古村組は捜査を撹乱するため、尾谷組との抗争を強引に仕掛けていく。尾谷組の若手構成員・タカシが加古村組の吉田に射殺されたのだ。これに逆上した尾谷組・一ノ瀬は、すぐにでも報復しようとしたが、市民生活への影響を最小限に抑えたい大上は、一ノ瀬を必死で説得し、3日以内に加古村組の組員を逮捕すると約束し、報復を思いとどまらせた。

加古村組構成員から聞き出した情報を元に、上早稲の死体を発見した大上達だったが、いよいよ一斉に加古村組を検挙するその直前、大上は謹慎処分を課されてしまう。日岡が広島県警の嵯峨に報告した、大上が行った一連の強引な違法捜査の状況が問題とされたのだ。広島県警上層部と癒着している加古村組の後ろ盾、五十子組が、五十子組お抱えのジャーナリストを使い、大上の違法捜査についての事実を呉原東署長へ突きつけさせたのだ。

大上抜きでの加古村組への強制捜査は空振りに終わり、大上謹慎の事実を察知した尾谷組は、加古村組との全面戦争へと踏み切った。こうして、尾谷組と加古村組の抗争は、いよいよ激化していくことになった。

それでも大上は、謹慎処分中も必死で尾谷組と加古村組との抗争を終わらせようと、最後の望みとして、加古村組の後ろ盾にいた五十子組会長・五十子正平の居場所へ単身乗り込み、抗争集結に向けて直談判に向かった。しかし、それはあまりに危険すぎる行動だった・・・。案の定、大上はその日を境に出勤しなくなったのだ。その果たして大上の運命は?大上不在の中、その部下・日岡はどう動くのか?

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4.映画内容の簡単なレビュー!(感想・評価含め)

久々に骨太で見応えのあった、純日本産フィルム・ノワール映画!

映画を見る前に、最初に柚月裕子の原作「孤狼の血」を読んでから見に行ったのですが、原作を読んだ段階で、すでに「これは面白い映画になりそうだな」という予感はありました。ただ、フタを開けてみたら、面白いなんてものではありません。もう、最高でした!映像・脚本・演技等々、どれを取っても惚れ惚れするような素晴らしさでした。一体、どのあたりが素晴らしかったのか、4つに絞って説明してみます。

良かった点1:ディテールまできっちり描ききる映像へのこだわり

本作は、今から約30年前の1988年、広島県の架空都市「呉原市」を舞台としています。本作は、呉原市のモデルとなった呉市でオールロケを敢行したそうですが、画面を見ていると、完全に30年前に戻ったような錯覚になるんですよね。

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署内にはパソコンなどもなく、昔のオフィスを完全再現。
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

例えば映画内で出てくる呉原東署の署内の様子。質素なねずみ色のオフィス机の上には、黒電話と書類だけ。パソコンなど一切置いてありません。さらに警察の捜査用車両は、当時の白のマークⅡ。携帯などもなく、重要なメンバーとのやりとりは、ポケベルや黒電話を通して要件を伝える時代でした。さらに、お店の内装や、夜の街の風景、自動販売機で売られているジュース、落ちている雑誌など、誰も見ないような細かいところまで1980年代当時を忠実に再現されているのです。毎回毎回、詳細まできっちりこだわりを持って画面づくりを丁寧に行う白石和彌監督らしいプロの仕事でした。

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

また、制作陣もインタビューでしばしば言及していましたが、ロケ地となった呉市が、奇跡的に80年代の香りや雰囲気を残した街だったことも、映画の雰囲気作りに大いに貢献していました。(要するにバブル期以降停滞してるってことなんですが・・・^_^;)これが京都の映画セットではここまでリアルな雰囲気は絶対出せないはずですから、呉でのオールロケに踏み切ったのは結果的に大成功でしたね。

良かった点2:R15+指定作品らしく、目を背けたくなるようなシーンも愚直に取り切る

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

原作「孤狼の血」はさすが女性作家が書いただけあって、スマートなハードボイルド作品に仕上がっています。それはそれで端正な作りでかっこいいのですが、本作では「かっこよさ」よりも、どちらかというと目を背けたくなるような生々しいシーンがてんこもりに!

暴力シーンの激しさや流血描写は当然のこと、度肝を抜かれたのが上早稲の死体を掘り返すリアルな映像や、水ぶくれして変色した、大上の腐乱死体映像です。汚いところ・気持ち悪いところもきっちり映像としてディテールを見せる姿勢は、正直なところ賛否両論あるかと思います。美しさとは対極にあるグロ映像も、敢えて詳細まで見せることで、登場人物たちが現場で受けた衝撃やショックを伝えようとする。R15+映画でしか実現できない演出であることは間違いありません。プロ意識を感じました。

良かった点3:熱演!新境地を開拓した俳優陣

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

もちろん、本作が素晴らしいのは俳優陣の頑張りも大きいのです。主演・役所広司は抜群の安定感でしたが、相棒を務める松坂桃李も、ここ1~2年で本当に成長を見せました。本作でも、いわゆるエリート臭のする青臭い新卒警官から、短期間のうちに葛藤・苦悩を経て、大上の持つ独特の倫理観・価値観へと徐々に感化されていく「変化」を見事に表情や演技で表現できています。

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

さらに驚いたことに、90年代ではテレビのトレンディドラマ俳優だった竹野内豊や江口洋介も、本作では狂気を眼に宿した、狂犬のようなキレキレのヤクザを見事に演じていた点です。特に竹野内豊は、ここ最近は3番手、4番手の立ち位置に下がることが多くなってきましたが、変人や悪役などを積極的にこなし、演技の幅を確実に広げている印象。その他、コメディリリーフ役を見事に務めたピエール瀧、若手俳優なのにベテランの貫禄があった阿部純子、露出が多く、劇中ではセクハラされまくるなど、体を張った好演が光った真木よう子、大上への嫉妬・対抗心に燃える小心者を見事に演じた田口トモロヲなど、どの出演者もみどころたっぷりです。

良かった点4:原作ファンも納得の、映画オリジナルのどんでん返し

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桃子は実は大上の放った美人局だった・・・
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

もちろん、脚本の練り込み方も素晴らしかった!原作のプロットにほぼ忠実な作りながら、後半にいくつか仕込まれた映画オリジナルの後日譚やどんでん返しには、唸らされました。原作の世界観を壊さず、映像でしかできないケレン味たっぷりのサプライズ演出には、原作読了済みの人でも満足感を得られたかと思います。

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5.映画「孤狼の血」に関する10の疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:物語の前身となった「第三次広島抗争」とは何なのか?

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

1974年5月、広島県呉原市を舞台に、呉原市の暴力団・尾谷組に対して広島市の暴力団・五十子会が発砲したことにより発生した抗争です。この抗争では多数の死傷者が出たが、6月に尾谷組の賽本友保が死亡し、7月に五十子会幹部・金村安則が死亡したことをきっかけに、約3ヶ月で収束。結果は痛み分けに終わりました。これが、今回の抗争の遠因となった「第三次広島抗争」です。

疑問点2:物語の発端となった「上早稲二郎失踪事件」とはどんな事件なのか?

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「呉原金融」社内で上早稲を脅す加古村組メンバー
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

上早稲二郎は、加古村組が経営する高利貸しのフロント企業「呉原金融」に経理職として勤務するカタギの社員でした。加古村組の若頭・野崎康介ら数名は、近日中に計画していた尾谷組との抗争に向けて、上早稲を脅しあげて加古村組の組長に無断で金庫から金を引き出していました。

しかし、加古村組長に金を使い込んだのが露見します。困った加古村組メンバー達は、すべて上早稲がやったことにして、彼を脅迫した挙げ句、農場で虐待後殺害し、上早稲の口封じを図ったのです。

彼の失踪に気づいた上早稲二郎の妹、洋子が不審に思い、呉原東署の大上へと行方不明の相談を行ったことで、上早稲二郎失踪事件の捜査が開始されました。

疑問点3:加古村会の後ろ盾となっていた五十子会は何をしようとしていたのか?

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

五十子会会長・五十子正平は、14年前に呉原市で起こった尾谷組vs加古村組の抗争(通称:第三次広島抗争)での結果に不満を持っていました。そこで、尾谷組組長、尾谷憲次が服役中の今をチャンスと考え、実質上支配下に置いていた加古村組を使って尾谷組を潰そうと、抗争を起こしたのです。これにより、広島から呉原へと進出を図ろうとしたのですね。

疑問点4:里佳子と大上の関係とは?14年前の事件とどう関係があるのか?

里佳子と大上は、過去に何回か肉体関係があったことは小説や映画においてセリフから示唆されますが、現在は男女関係にはなく、どちらかというとお互いの秘密を知り合う古くからの戦友のような関係なのです。

里佳子は、14年前の第三次広島抗争において、婚約中だった尾谷組の構成員・賽本友保を、卑劣な手段で五十子会の幹部・金本安則に殺害されました。これを恨んだ里佳子は、後日復讐を決行。ホテルで油断させたところをナイフでめった刺しにして金本を殺害しました。この現場に居合わせたのが大上でした。

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動揺する里佳子をかばう大上
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

里佳子に深く同情した大上は、賽本の子供を妊娠中だった里佳子をかばい、金本の死体処分や事件処理を全て担当し、里佳子の起こした殺人事件をもみ消したのでした。それ以来、大上は里佳子を情報源やおとり捜査に活用したり、大上の広島県警上層部の秘密を記録したノートを里佳子に預けるなど、深い信頼関係で結ばれてきたのでした。

疑問点5:映画では語られなかった大上の過去とは?

小説版だけで掘り下げられて描かれているのですが、大上には清子という妻と、その間に1歳になる子供がいました。当時広島北署にて第三次広島抗争の対応に追われ、多忙を極めていた大上は、自宅へ帰れない日々が続いていました。そんな留守のある日、彼の妻子が盗難されたダンプカーによって撥ねられて死亡したのです。ハネた運転手は逃亡し、事件は未解決のままとされましたが、五十子会による捜査への嫌がらせというのが警察の仲間たちの共通見解でした。

疑問点6:映画タイトル「孤狼の血」の意味するところとは?

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

本作で言う「孤狼」(=一匹狼)とは、もちろん大上章吾のことを指しています。カタギを守るためならヤクザも利用し、ヤクザ顔負けの違法捜査も辞さない、その独特な倫理観や正義感で、組織内で一匹狼として生きてきた大上。

本作では、大上の死後、彼に感化されて、抗争を通して成長を見せるとともに、大上の「血」(=倫理観や正義感)を迷いと葛藤の末に受け継ぐことを決意する日岡を生々しく描きました。月間シナリオ6月号で、脚本を担当した池上純哉氏は、脚本を書くに当たりこのように語っています。

[・・・]この『孤狼の血』という題名はとても重かった。一匹狼の先輩刑事から後背へと<血>が受け継がれる・・・言うのは簡単だが、<血>ってもんはそんな簡単に他人に引き継がれるものなのか。<血>と銘打つからには、主人公たちがまさに血縁のように抗いようのない枷に絡め取られ、どうにも身動きが取れなくなるような、吐き気を催すような汚れた血と知りながらも、それを窒息寸前になりながらも飲み込んでしまわなねばならないような、そんな苛烈な瞬間を描かなければならないと思った。

なるほど、「孤狼の血」に制作陣が込めた思いがよく伝わるコメントですよね。

疑問点7:なぜ五十子会は、大上を殺害したのか?

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

加古村組と尾谷組の抗争をなんとか食い止めようと、単身五十子会のアジトへと乗り込んだ大上でしたが、大上は殺害されてしまいます。ヤクザ同士の抗争の中、カタギ以上の存在である「現職警官」を殺害した五十子会。なぜ、五十子会は広島最強のヤクザ警官を殺害するという大胆な手を打てたのでしょうか?

その理由は、五十子会と、ズブズブにつながっている広島県警上層部が、共に「大上排除」で利害が一致していたからです。五十子会にとっては、尾谷組との抗争に勝利するため、抗争の原因や上早稲次郎殺害事件の真相を知る大上を排除する必要がありました。そして、広島県警上層部は、大上にそれぞれ不祥事の弱みを握られていました。

そこで、両者は手を組み、五十子会が大上を殺害する代わりに、広島県警上層部は大上の死亡原因を「事故死」とマスコミへ発表し、五十子会による拉致・殺害を見逃したのでした。

疑問点8:右翼団体の代表・瀧井銀次とは何者なのか?

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引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

映画本編では、妻に完全に知りに敷かれた恐妻家で、コメディリリーフ的なキャラクターでありながら、大上に事件解決への決定的な情報を与えたり、大上亡き後、覚醒した日岡の作戦を手助けしたりと、重要な人物だった瀧井銀次。

彼は、高校時代の大上の同級生でした。互いに番長格だった二人は、田んぼの真ん中で気を失うまで殴り合い、そこで意気投合。大人になってから、キャリアは正反対の道を選びましたが、友情はその後も続き、立場の違いを越えてお互い助け合う間柄でした。

瀧井銀次が所属する右翼団体・全日本祖国救済同盟は、五十子正平率いる五十子会と同じく、広島における暴力団組織・広島仁正会の傘下団体です。同じ仁正会同士なので、五十子とは表面上穏やかに付き合っていますが、心情的には大上が肩入れする尾谷組にシンパシーを抱いています。

疑問点9:ラストシーン・結末の考察~なぜ日岡は一之瀬を逮捕したのか~

自分が広島県警から密偵として大上の下に送られていたことを知っておきながら、日岡を高く評価し、自らの後継者として選んだ大上。大上の死後、銀次や里佳子から大上が違法捜査やヤクザとの付き合いを「必要悪」と認識した上で、市民の生活を第一に考えていたことを聞かされた日岡は、大上の生き方に深く共感します。

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トイレに隠れていた五十子に襲いかかる一之瀬
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

そこで、日岡は瀧井銀次と計画し、五十子会の上部団体、広島仁正会の主催イベントにおいて、尾谷組の一之瀬守孝を扇動して五十子正平を殺害させます。殺害現場を現行犯で抑えた日岡は、一之瀬をかばって殺害を自己申告した舎弟ではなく、一之瀬を現行犯逮捕します。

なぜ、日岡はここで一之瀬を逮捕したのでしょうか?これには2つの解釈があります。

まず、1つ目は尾谷組を潰さないため、一之瀬を刑務所へ入れて身柄を保護しようとしたという解釈。大上は、ヤクザの存在を「必要悪」と考えていました。彼らを根絶やしにするのではなく、互いの勢力を拮抗させてパワーバランスを取ることで、市民の平和を守ろうとしました。その考え方に沿って、将来の尾谷組復興を狙っての「保護」を図ったと考えられます。

もう1つは、一之瀬に対する日岡なりの「復讐」と考えることもできます。追い詰められた大上が、五十子との危険な交渉に臨まざるを得なかったのは、一之瀬の強情な姿勢が原因の一つであったことは間違いありません。

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自重を促す大上の説得に応じなかった一之瀬
引用:映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

そこで、大上を殺害した主犯である五十子正平を一之瀬を使って殺させ、一之瀬にも長い懲役を科すことで、日岡なりの一之瀬に対する「ケジメ」だったとも解釈できますよね。

この答えは、もし続編が製作された時、明かされるはずです。原作の数年後を描いた続編「凶犬の眼」においては、一之瀬が普通に日岡と会話するシーンがあります。映画続編では、一之瀬と日岡の関係はどのように描かれることになるでしょうか?次作があるとしたら要注目です。

疑問点10:続編制作の可能性はあるの?

時期はまだわかりませんが、今回の映画「孤狼の血」がそれなりにヒットすれば、まず確実に続編が制作されると思われます。すでに原作者・柚月裕子は映画公開に合わせて続編「凶犬の眼」を上梓しましたし、各種取材記事や公式ガイドブック等において、原作者・監督・プロデューサー全てが「是非続編を作りたい」と希望しています。

続編「凶犬の眼」のクオリティも素晴らしかったですし、是非次作も白石監督でお願いしたいです!

6.まとめ

古き東映実録ヤクザシリーズに最大限のリスペクトを払いつつ、白石和彌ワールド全開の、個性豊かなキャスト陣と時に目を背けたく成るようなリアルな情景描写が素晴らしい作品。まさに大傑作でした。ディテールまでしっかり計算された演出も味わい深く、何度見ても新たな発見がある素晴らしい映画でした。是非劇場の大画面で味わってみてくださいね。

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

原作小説「孤狼の血」

警察VS組織暴力の抗争劇を緻密な構成力で描き、第154回直木賞にもノミネートされた大傑作。小説ならではのプロット上の工夫や心情描写はぐいぐい引き込まれますし、映画とは違うラストのサプライズも文句なしの原作小説です。映画が気に入った人は是非!

続編!成長した日岡が活躍する「凶犬の眼」

出版社や読者の声に推されて、大上の後を継ぎ、成長した日岡の「その後」を描いた第2弾。大上から受け継いだ「正義」を悩み、苦しみながら継承する日岡に対して、彼を成長させ、試練を与える「国光寛郎」というヤクザの大物が登場します。ストーリーは、広島ローカルから、暴力団のメッカ(?)神戸など舞台は全国に。前作同様、印象的なセリフの応酬、しびれるような立ち回りに、気づいたら徹夜で一気読みするほど没入できました。映画が気に入った人なら、文句なしの後日譚です。

孤狼の血「ガイドブック」

今回は、映画パンフレットよりも、こちらの公式ビジュアルガイドブックを購入したほうが絶対お得です。松坂桃李、役所広司をはじめ、主要キャスト10名以上、監督・原作者へのロングインタビュー、ストーリーの徹底解説、人物相関図、名場面集、設定資料集、ロケ地マップなどオールカラーで盛りだくさん。なのに、価格は980円と非常に抑えられており、コスパ抜群の優れたガイドブックでした。これはおすすめ!

白石和彌監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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ハードボイルドな実話系作品や、ひとひねりした社会派エンターテインメント作品で、毎作必ず映画ファンに高い評価を受けている白石和彌監督作品。美術やセットのディテールまで作り込まれ、個性豊かな登場人物が、迫真の演技を繰り広げる各作品は、見返すたびに新しい発見があります。

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