
(こういう匿名報道のままで何か不都合がありますか)
1981年に起こったロスアンジェルスでの銃撃事件について、故三浦和義氏に共同正犯の疑いありと、週刊文春が「疑惑の銃弾」という連載を始め、マスコミが三浦氏を犯人と決めつけて過熱報道をしたのが1984年のことでした。
当時、法学部生だった私は帰省すると、まだこの事件は裁判にもなっていないのに、実家の家族が三浦氏を犯人だと断罪しているのに愕然としたことをよく覚えています。推定無罪もへったくれもありゃしない!
20年近くたった2003年に最高裁で、三浦氏の無罪が確定するのですが、このことを知る人は少ないことでしょう。一度真犯人として報道されたら取り返しがつかない良い例といえます。
このような風潮に警鐘を鳴らすため、同年、共同通信記者で後に同志社大学の教授になられた浅野健一氏が有名な「犯罪報道の犯罪」を出版され、我が意を得たりの思いでした。
犯罪報道の犯罪 [単行本] 浅野 健一 (著)
この名著で浅野氏が提唱した匿名報道主義とは、「権力の統治過程にかかわる問題以外の一般刑事事件においては、被疑者・被告人・囚人の名前は原則として報道しない」というものです。
スウェーデンでは、メディア界全体で自主的に定めた「報道倫理綱領」で匿名報道主義が取られています。つまり、メディアが守るべき報道基準として、大多数の一般市民(私人)の事件では名前を知る必要はないので匿名報道をするという考え方を取っているのです。ただし、政治家、上級公務員、警察幹部、大企業経営者、労働組合幹部など社会的に大きな影響力のある「公人」が、その地位や職務を利用して罪を犯したと疑われた場合、市民はその公人の名前を知る必要があるので実名による顕名報道がなされます。
「犯罪報道の犯罪」はスウェーデンの匿名報道主義を紹介して、日本でもこれを導入すべきだと大胆に提言したのでした。
実名報道は逮捕された人に対する社会的制裁となり、場合によっては刑罰そのものよりもその人にダメージを与えます。しかし、それがえん罪事件だった場合、取り返しがつかないという問題があります。
それに、そもそも、一般市民が殺人事件を起こしたと疑われ、それが事実であって本人も認めていたとしても、市民がその被疑者の名前を知る必要があるでしょうか。本当は、市民が被疑者名を知る公益性は実は大きくありません。それに引き替え、実名で報道された人や家族に対する社会的制裁は大きすぎるのです。もし、真犯人だとしても、犯した罪に対する処罰は刑罰によってはかられるべきであって、実名報道で制裁すべきではないのです。
ところが、日本のマスメディアはいまだに「犯罪報道は実名が原則」との立場を取り続けています。その理由として、
①個人の特定は犯罪報道の基本要素
②誤報になった場合は、名誉回復の報道をする
③匿名では報道の信用性が損なわれる
④匿名報道になると記者の緊張感が薄れ、取材も甘くなる
⑤匿名報道では警察が逮捕した被疑者の名前を発表しなくなり、権力行使のチェックができなくなる
などということが説明されています。
しかし、
①公人・私人を区別しない個人の特定重視は、売らんかなという販売優先が実態で、報道被害を軽視したメディアの身勝手といえる
②実名による誤報の被害は取り返しがつかず、名誉回復報道も実際には行われていないのは明らか
③報道の信用性は、情報源の明示、記者の署名で確保すべきで、報道の信用性を持ち出すのは屁理屈
④匿名報道で緊張感が薄れる方が問題で、記者の取材姿勢は社内教育の問題
⑤警察には実名発表をさせ、マスメディアはそれをもとに公人・私人の区別をして実名・匿名報道の区別をすればよい
という反論が可能で、マスメディアの主張には全く理がないのですが、要は記事の迫力がなくなって新聞が売れなくなり、視聴率が上がらなくなるという営利目的が理由で、いまだに実名報道と報道被害が続いているのです。
本当は、報道の消費者である我々が実名報道なんて本当は必要ない!という声を上げればいいのですが、これだけメディアスクラムとさえ呼ばれる報道被害が続いても実名報道がやまない我が国で、匿名報道が原則となる日は遠いのでしょう。
というわけで、実名報道が原則ならば、せめて我々市民がマスコミの報道に乗せられない賢さを持つことが必要だろうということで、松本サリン事件を例にとりたいと思います。
「疑惑の銃弾」と「犯罪報道の犯罪」から10年後の1994年。
長野県松本市で、猛毒のサリンが散布され、死者8名と重軽傷者660人を出すという大惨事、松本サリン事件が起こりました。
当時の長野県警は、付近に住む河野義行さんが妻を殺害するために農薬で化学反応を起こしてこの事件を起こしたとマスコミにリークし、マスコミはまたもその線に沿って過剰報道を繰り広げました。
そのころすでに弁護士になっていたわたしは、ある日事務所に出勤すると、事務員さんたちがみんなで「妻を殺そうとして他人を巻き込むなんて恐ろしいことだ」と話し合っているのを耳にして、法律事務所に働くものとして、これではいけないと思いました。そこで、妻を殺すために夫が毒をという話は、二時間ドラマや推理小説としてはわかりやすいが、一個人がそんなに大量の毒ガスを発生させられるだろうか。だいたい、そんなに毒ガスを出したら、河野さんが無事でいるのがおかしいではないかと疑問を呈しました。そして、
「たとえば、化学兵器であるサリンを運搬中の米軍機ないし自衛隊機が誤って化学爆弾を投下してしまったという可能性もある。そういう可能性をも裁判で排除されて、はじめて「合理的な疑いをいれない程度の証明」=「確信」となり、裁判所が有罪判決を下せるというのが『推定無罪』の原則だ。法律事務所の事務局としてはそういう考え方をしてほしい」
と述べたのですが、一顧だにされなかったという思い出があります(苦笑)。
そこまで、想像の翼を広げたわたしでも、まさかオーム真理教と言う宗教団体がサリンをまいた、それもその動機は自分たちの土地の争いが裁判所に係属しているから、裁判官を殺すために裁判官官舎を狙って毒ガスをまいた、などということは夢想だにしませんでした。そんなにも狂った集団がいるだなんて想像もできなかったのです。
その官舎には、私の同期の裁判官も住んでおり、お連れ合いが被害に遭われました。
他方、たとえば週刊新潮には「毒ガス事件発生源の怪奇家系図」という記事まで書かれた河野さんは、意識不明の状態が続くお連れ合いを看護しながら、えん罪事件、報道被害の問題に果敢に取り組んでいかれました。
人の究極の狂気と、健やかな魂の両方を見せつけられた事件でした。
ともかく、サリンをホースで噴射するという宗教集団さえいるのですから、警察の見立てを無批判に垂れ流すマスコミの報道をうのみにしてはならないという良い例だと思います。
「疑惑」は晴れようとも―松本サリン事件の犯人とされた私 (文春文庫) [文庫] 河野 義行 (著)
いま、多数のえん罪被害者を出したPC遠隔操作事件の容疑者が逮捕され、またも実名・顔出し報道が大量になされています(ウィキペディアの「遠隔操作ウィルス事件」の脚注に私の書いたPC遠隔操作なりすましウィルス事件 容疑者逮捕 えん罪事件がさらに起こらないよう厳重な監視を!という記事が、「この逮捕については新たな誤認逮捕である可能性も指摘されている」として引用されていてびっくりしました。あの記事はちょっと主旨が違うのですが光栄です)。
とにかく、あれだけ警察が誤認逮捕をして、それを鵜呑みにして実名報道(少年事件を除く)をしたマスコミが、全面否認事件であるにもかかわらず実名報道することに怖さを感じないのかと、慄然とする思いです。
PC遠隔操作なりすましウィルス事件は自白強要による冤罪が問題だ
PC遠隔操作事件 家裁の異例の保護観察取り消し処分にあたり、お父さんがコメントを発表されました
だいたい、松本サリン事件で、化学兵器が降ってきたのかもしれないとさえ想像したわたしに言わせれば、他人を犯人にでっちあげることに関しては天才的な卑劣極まる真犯人が、容疑者とされる人の携帯に猫の画像を残すことなどお茶の子さいさいではないのかと思うのです。
真犯人が容疑者に、猫に首輪つけてやってって報酬を送金して依頼するとか。
他方で、自分の派遣先の会社で犯行しながら、犯行の過程で発信元を隠し忘れるミスをして、派遣先で使用していたパソコンからの接続記録が残っていた、なんていう間抜けなことが本当に起こるのだろうかとも思います。捜査機関は、遠隔操作ソフトを取り付けた日と防犯カメラの日付が合わないのは偽装だと説明しているようですが、そこまでやる犯人がソフトを使い忘れるなんてことがあるんでしょうか。
というのが、わたしのお勧めする、えん罪事件に加担しない思考訓練です。
他方、猫好きだとか小太りだとかPCを組み立ててたとかネットカフェに入り浸っていた。。。。。から犯人に違いないと言わんばかりのマスコミ報道は拙劣極まりないのですが、何回も何回も報道されるとその気になりかねません。
今回のPC遠隔事件の容疑者が真犯人かどうか云々ではなく(真犯人でないとむしろ困りますし、万一、真犯人でなかったら捜査機関もマスコミも本当に立往生させないといけません)、どんな犯罪でも、警察情報を疑うという姿勢をメディアが持つこと、マスメディアの報道を市民が疑ってかかる姿勢が、絶対に必要だと思う次第です。
なかなか常識が常識になりませんね。
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匿名化忘れ掲示板接続か パソコン遠隔操作事件
- 2013/2/13 1:15 日本経済新聞
パソコンの遠隔操作事件で、威力業務妨害容疑で逮捕されたIT関連会社社員、片山祐輔容疑者(30)が遠隔操作に利用した無料レンタル掲 示板に、同容疑者の派遣先のパソコンから匿名化ソフトを使わずに接続した記録が残っていたことが12日、捜査関係者への取材で分かった。警視庁などは同容 疑者が匿名化ソフトを使い忘れた可能性があるとみて、押収したパソコンの解析を進めている。
片山容疑者は昨年8月9日午前10時40分ごろ、名古屋市の会社のパソコンを遠隔操作し、インターネット掲示板「2ちゃんねる」に大量殺人予告を書き込んだ疑いで逮捕された。同容疑者は容疑を否認している。
捜査関係者によると、片山容疑者はウイルスに感染させたパソコンを遠隔操作する際、無料レンタル掲示板に指令を書き込んでいたとみられる。
無料レンタル掲示板への書き込みの大半は発信元の特定を避けるため、海外のサーバーを自動的に経由する匿名化ソフト「Tor」が使われていたが、一部にTorを使わずに接続した記録が残っていた。
警視庁などの合同捜査本部が発信元を識別する「IPアドレス」を調べたところ、昨年8月の大量殺人予告の書き込みの前後の時間帯に、同容疑 者の派遣先のパソコンから直接、接続していたことが判明した。捜査本部は派遣先から押収したパソコンを解析し、接続状況の確認を進めている。
また、片山容疑者が1月3日に江の島(神奈川県藤沢市)で猫にSDカード付きの首輪をつけた後、この猫の画像が保存された携帯電話を売却していたことも分かった。
画像はすでに消去されていたが、捜査本部がデータを復元した結果、真犯人が報道機関などに送ったメールで示した、首輪を付ける前の猫の画像 1枚と同じ画像が見つかった。撮影日時は不明だった。捜査本部は片山容疑者が証拠隠滅を図ったとみて、画像が撮影・入手された経緯を確認している。
捜査本部は江の島の防犯カメラ映像などから片山容疑者を特定し、今月10日、威力業務妨害容疑で逮捕した。無料レンタル掲示板への接続記録や携帯電話の画像から関与が裏付けられると判断したとみられる。
遠隔操作事件 犯行掲示板に接続記録
2013年2月13日 朝刊 東京新聞
パソコン(PC)の遠隔操作事件で、威力業務妨害容疑で逮捕されたIT関連会社員片山祐輔容疑者(30)=東京都江東区=の派遣先の会社(港区) のPCから、事件で使用された掲示板への接続記録が確認されたことが、捜査関係者への取材で分かった。一連の事件の大半は、発信元の特定を困難にする匿名 化ソフト「Tor(トーア)」が使われていたが、警視庁などの合同捜査本部は片山容疑者がTorを使い忘れ、この掲示板に接続した疑いがあるとみている。
片山容疑者は、昨年八月、名古屋市の会社のPCを遠隔操作し、江東区で開かれたイベントでの殺人予告をネット掲示板「2ちゃんねる」に書き込んだとして逮捕された。「全く身に覚えがない」と容疑を否認している。
一連の事件で真犯人は、2ちゃんねるとは別のネット掲示板に、脅迫文の送信を指示する暗号を書き込むことで、あらかじめウイルスに感染させた他人のPCを操り、2ちゃんねるなどに脅迫文を送っていた。
これらの犯行の大半はTorが使われていたが、捜査本部が暗号文を書き込んだ掲示板を調べたところ、名古屋市の事件に絡み、片山容疑者の派遣先の会社PCから接続が確認されたという。
一方、今年一月五日に江の島(神奈川県藤沢市)の猫の首輪から見つかった記憶媒体に保存された文書に、横浜市のホームページへの小学校襲撃予告について、「セキュリティーが甘いので狙った」と書かれていたことも分かった。
横浜市の事件は、真犯人が関与を認めた十三件の犯罪予告事件のうち、最初に発生し、大学生が誤認逮捕されている。捜査本部は、防犯カメラの映像か ら、猫に記憶媒体を取り付けたのは片山容疑者とみており、自宅や派遣先の会社から押収した計十五台のPCの接続履歴を分析し、横浜市の事件などへの関与を 調べる。
犯行声明通りのウイルス、殺人予告のPCで確認
名古屋市の会社のパソコンが遠隔操作され殺人予告が書き込まれた事件で、パソコンに残っていたウイルスなどの特徴が、男性4人が誤認逮捕されたパソコン遠隔操作事件の「真犯人」による犯行声明メールの内容と一致していたことが、捜査関係者への取材でわかった。
警視庁などの合同捜査本部は、名古屋市の会社の事件で、威力業務妨害容疑で逮捕された片山祐輔容疑者(30)が、犯行声明を送った疑いがあるとみて関連を調べている。
4人が誤認逮捕された事件の「真犯人」を名乗るメールは昨年10月、報道機関や都内の弁護士に届き、この中には犯人しか知りえない秘密の暴露が含まれていた。
メールでは、4事件を含む13件の犯罪について手口などを詳細に説明。このうち、名古屋市の件については公表されていなかったが、「今回のウイル スからパソコン内のファイル送信機能を付けた」などと記載していた。さらに、感染させたパソコンを使う社員の実名を明かし、そのパソコンの中に保存されて いたファイル名一覧まで示していた。
その後、捜査本部がこの会社のパソコンから検出したウイルスを解析したところ、犯行声明通り、他人のファイルを盗み見る機能が付けられていたことが判明。また、中に保存されていたファイル名も一致したという。名指しされた社員も実在していた。
(2013年2月13日08時24分 読売新聞)
パソコン(PC)遠隔操作事件で、威力業務妨害容疑で逮捕されたIT関連会社社員片山祐輔容疑者(30)が報道機関などに送り付け、猫の首輪の発見につ ながったメールで、首輪を取り付けた日付を実際より後だったように偽装したとみられることが12日、関係者への取材で分かった。片山容疑者が派遣先の企業 のPCを使って遠隔操作したとみられることも判明。警視庁などの合同捜査本部は押収したPCを解析し裏付けを進めている。
事件の「真犯人」を名乗る人物から1月5日に届いたメールの「パズル」を解読すると、神奈川・江の島の猫に首輪を付けたとするメッセージが読める仕組みで、実際にこの猫の首輪から遠隔操作ウイルスのデータが入った記憶媒体が発見された。
[ 2013年2月13日 06:00
記事の趣旨をどうやって社会全体に波及させるか、非常に重要な命題ですね。誰かが音頭を取っていろいろな戦略を立てないといけませんね。
電話番号から、携帯電話の未送信のメールや、電話アドレス・掛け直し・カメラ盗撮・電話盗聴を、ショップ店員の先輩に教えてもらった女子高生が、レンタルサーバに個人メールやブログ・個人情報を、データベース化して。
高校卒業生の奥さんや、兄弟・姉妹を通じて、小中学校の後輩まで、配布されているのですが。
これも、遠隔操作と同じですか?
新聞の『Tor』記事で、小中学生が、『ばれた!』と騒いでました。
広範囲で、公開される場合があります。
『大津のいじめ事件』と同じで、ターゲットにされると。
個人情報でなく、関連検索で対象者が叩かれます。
『出る杭!』
あと、『池田小学校事件!』以後の、変質者を地域の子供と大人で集団で対応する世代が、大人に成ってます。
自分達の『規格に合わない人』は、『変質者』としてターゲットにされやすいです。
それが、全国的な同調に成って、『伝書鳩』のように個人情報が集まる傾向に在ると感じます。
1.逮捕された容疑者が真犯人の場合。
この場合、逮捕は彼のミスではなく彼自身が意図したものだということ。
自分の犯歴と行った犯行を考えれば、警察にマークされるのは当然想定されるので、江ノ島の猫の件はわざと捕まるためにやっているとしか思えない。
この犯行を犯した人間が、防犯カメラやNシステムを考慮せずにミスを犯すなんてことは到底考えられません。
ならばなぜわざと捕まったか?
それは多分、無罪を勝ち取る算段をつけた上で、警察、検察、裁判所、マスコミなどをあざ笑い復讐するためでしょう。
一連の犯行が、この事のみを目的に行われていて、彼が真犯人ならば、一連の不自然なミスも説明がつきます。
2,別に真犯人がいた場合。
真犯人は、例の遠隔操作ウィルスを使い偶然彼を知ったかあるいは元々彼を知っていた人物。
一連の情況証拠は、彼の行動や趣味を知っていれば、後付で証拠を捏造することができます。
真犯人がコンピューター犯罪に以前から傾倒していたならば、逮捕された容疑者の前科を当時から知っていた可能性は十分あります。
この犯人は、時間をかけ何人もの被害者のPCを乗っとり犯行を続けながら、世間の注目を集めるまでじっと待っていました。
非常に用意周到で用心深い人物です。
派手なフィナーレの為に、話題になりそうな人物を犠牲者として選定し、以前から観察していたとしても不思議ではありません。
だとすれば、必ずこの後に真犯人の種明かしがあるはずです。
多分、一審判決の前後になるのではないかと思います。