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玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

「射殺」・SWAT・ネゴシエイター・スナイパー

2008å¹´06月21æ—¥ | æ­»åˆ‘制度
警官の発砲・「犯人射殺」問題の三回目。とりあえずこれでおしまい。
例によって30年近く前のGun誌からの引用が主になる。なぜ古いGun誌なのかというと、

1 「体感治安」が悪化した現在の日本でも70年代末~80年代初めのアメリカよりよほどマシ
2 最近(といっても10年以上)Gun誌を買ってない
3 子供の頃に読んで強い印象が残っている

といったことが理由だ(2番はちょっとなさけない)。
威勢よく「凶悪犯は射殺せよ」と煽る人たちは、銃器愛好家の雑誌において「アメリカでは犯人をバンバン射殺している」「日本もそうすべきだ」という考え方が「フィクションの世界の話」として否定されていることを知ってほしい。


79年10月号 「ダラス市警特殊武装戦術チーム ダラス・スワットの装備」 ターク・タカノ

 今やダラス・シティは(中略)周辺衛星都市を含めると人口200万を軽く越し、かつ増加の一途をたどっている。
 (中略)
 ダラス・シティ・ポリス・オフィサーの総数は約2.000名、その中に今レポートで紹介するSWATが含まれる。
 (中略)
 SPECIAL WEAPON AND TACTICSを日本語に訳せば、特殊武装戦術とでもなるのだろうか?
 普通の警察力では対抗出来ない特殊犯罪、例を上げるなら重武装組織化されたもの、これには当然、銀行ギャング、テロ行為、武装暴動、誘拐などが含まれるが、これらに対抗するために組織されたのがSWATチームということになる。
 武器で対抗するのは最終手段であり、犯人に対する説得力、忍耐力を必要とされる。映画のようにバンバン射ちまくるのとは話が違う。
 退院は希望者から選抜するのであるが、2年以上のポリス・オフィサー(警察官)歴、抜群の勤務成績、射撃もPPCコースで95%以上射てなければならない。
 同時に、すぐカッと頭に血がのぼる人には向いていないし、この点、人選には大変に気をつかうと聞いている。いわば肉体的、精神的に健全でなければ隊員にはなれない。エリートということから米陸軍のグリーン・ベレーに似てないこともない。
 (中略)
 読者が気になる訓練だが、SWAT隊員となるための養成コースはもうけられておらず、毎日時間を決めて体力の維持、例えばマラソン、体操などに汗を流しているということだった。隊員のほとんどが軍隊経験者なら別に養成コースはなくても良いのかも知れない。
 射撃は休日を利用、自分自身で射場に行き練習しているとか……。ようするに市警の予算に限りがあり、弾の配給が十分でないから、うでを維持するのに必要な射撃練習が出来ないということらしい。
 射撃は身を守るための手段、しっかり練習していないと万が一の時に困るのは本人自身、近々ダラス・ポリス・オフィサー専用の射撃場が完成し、射撃練習にもっと力を入れるということである。
 さて装備武器について触れよう。M16フル/セミ付きを筆頭にウージーSMG、スナイパー・ライフルとしてレミントンM700、口径6mmレミントン、レミントン・ポンプ(12番)、ガス銃。M16、レミントンM700.ウージー、ガス銃は各分隊に各一丁ずつ装備されている。
 ハンドガンはリボルバーが主であるが、コルト45ガバ、ブローニングHPも見られる。
 (中略)
 以上の装備を見ると、凄い銃撃戦を予想しがちだが、実際は平和そのもの。資料によれば1892年以後市警での殉職ポリス・オフィサーは今までで39人、この12年間を見ても12名、最近の2年間に殉職したポリス・オフィサーはいない。
 恐らく読者には信じられないと思うのだが、1968年にスワットを創設したというから今日で11年目をむかえるが、今だかつてM16をはじめ、ウージーSMG、スナイパー・ライフルを射場以外で撃ったことがないという輝かしい記録を持っている。非常に結構な話である。
 銃撃戦はできるだけ避けて通り、犯人の説得に多くの時間をかけ、それが10時間にも及ぶことがあるという。しかし、いざ必要とあればM16、ウージーSMGが火を吹くことはいうまでもない。いかなる状況の変化にも十分対処出来るのがこのスワットなのだ。
 (中略)
 スワット・アクションとしての出動回数は、月1~2回程度それも小事件ばかりだということである。
 (中略)
 米国という国は事が起こった場合どうするか?という点を非常に重要視している。ドロナワ式ではないわけだ。
 (中略)
 いかなることにも対抗出来うる装備、能力を身に付けておくことが必要だ。何もなければ無駄かもしれない。この種の無駄は必要無駄だと筆者は思うのだが……。

人口200万というと、日本でいえば名古屋(約220万)や札幌(約190万)に相当する。
仮に名古屋市で12年で12人の警察官が殉職するような状況になれば大問題(03年~06年の全国の警察官殉職者数は24人)だが、アメリカでは「平和そのもの」。さすがアメリカ(悪い意味で)というか何というか。
そんな治安状況でもSWATが簡単に犯人を射殺したりしないことに注目してほしい。


80年2月号 「SELF-DIFENCE GUN」 ヒロシ・アベ

LAPDの発表によれば、79年1月だけでも犯罪件数は2万件を超え、殺人事件は65件起き、その検挙数は46人となっている。犯罪の増加は著しく、78年1月と比較して、強盗36.2%、強姦28.2%、暴行20.8%、こそ泥20.1%、窃盗15,4%と増えている。
 ポリス・オフィサー(約7.000人)の発砲件数は1月中に12件あり、4人の死者が出ている。ちなみにLA市内のオフィサーの発砲による死者は、77年中は32名、78年中は20名であった。

平成18年における警視庁の殺人認知件数は135件。2006年の一年間で東京で起きた殺人は1979年のロサンゼルスにおける二か月分に相当する。警官の発砲による犯人死亡をロサンゼルス(30名)の6分の1にすると「年間5件」となり、さらに日本とアメリカの銃器普及率(アメリカ=二億三千万丁 日本=30万丁)の違いを考慮すれば、「日本で(東京で)犯人射殺の事例がほとんどない」のが当たり前である。



83年6月号 「USAドキュメント ポリス・ストーリー8”SFPDホステジ・ネゴシエーター”」 ミエコ・ワトキンス

犯人説得のテクニック
 サンフランシスコでは、1974年から現在まで、70件のホステジ・シチュエーション(犯人が人質をとった状態)が起こっている。そして、そのうちのどれもが無事にネゴシエーション(交渉)が成功し、死傷者を出していない。これは、こうした事件が起きたときに働く、ホステジ・ネゴシエーターの努力の賜物なのだ。
 サージャントのバレンタインも、有能なネゴシエーターの一人だ。時には、ネゴシエーションが長時間、いや何日にもわたることも珍しくない。ネゴシエーターはまず、犯人が何者であるかを知らなければならない。そして、犯人が何を望んでいるか、どんな条件を要求しているかを見きわめる。その上で、こちら側がどこまでその要求をのむことができるかを決め、ネゴシエーションを進めるのである。
 人質にとられている人達はもちろん、犯人の生命の安全も、慎重に考慮しなければならない。ネゴシエーターの肩には重い責任がかかり、ストレスと緊張がつきまとう。
 (中略)
 では、ネゴシエーター側で利用できるテクニックには、どんなものがあるのだろうか。
 まず、その場の状況をよく見きわめることが大事だ。例えば、夏の暑い日に、犯人のたてこもっているビルディングの冷房を止める。犯人は暑さでのどが渇き、耐えられなくなって、ネゴシエーターの申し出た冷たいビールを得ることを条件に、人質を自由にする可能性がある。
 また、食物を利用することもできる。空腹になるにつれて、犯人はイライラとしてくる。そのとき、ハンバーガーと人質の一人を交換するのに成功した例もある。
 食物は、犯人に人間らしさを呼び起こさせる。たとえば、ハンバーガーひとつにしても、マクドナルドのハンバーガーが好きかとか、よく焼けたのがよいか、ピクルスもつけようか、と話しかけるネゴシエーターの心づかいは、犯人の気持を柔らげ、ほぐすのだ。
 あるポリス・デパートメントでは、非常用の大型車に台所が備えつけてあり、いつでも食事の用意ができるようになっているという。
 場合によっては、ベーコンを料理し、送風機でその匂いを犯人のほうに送る。アメリカでは、ベーコンを料理する匂いは、最も食欲をそそる匂いなのだ。とにかく、最悪の状態を避け、人命を尊重するためには、このような手段も必要なのだ。ネゴシエーションが長時間にわたっても、最善をつくして、犯人を説き伏せるのである。
 ホステジ・ネゴシエーションが、どんなにうまく運ばれているときでも、SWAT(SFPDではタクティカル・ユニット)は、いつでも現場のすぐ近くにいて、攻撃の態勢にある。最悪の場合には、現場に踏み込み、人質を救出しなければならないからだ。

あくまでも、人命の安全が、第一だ!
 1979年、サンフランシスコ市役所の近くで事件が起こった。勤めの終わる午後5時頃である。22歳の男が、女性秘書を人質にしてオフィスにたてこもった。男は2丁のライフルと、200発の弾、手榴弾で武装していた。
 (中略)
 ネゴシエーションは25時間にわたって続けられ、ついに犯人は捕らえられた。人質だった秘書は無事救出された。犯人が捕らえられる前の6時間の間、犯人を説き続けたのは、女性のホステジ・ネゴシエーターだった。
 女性ネゴシエーターの柔らかく、やさしい呼びかけは、犯人の気持をほぐし、眠りまでさそってしまったのだ。救出の人々が室内に踏み込んだとき、犯人はうとうとと眠りに入っていたという。
 この事件の際、オフィサーのフルトンは、スナイパーとして働いた。25時間、休みなしのぶっ通しである。すべてが終わったとき、心身ともにくたくたになっていた。
 スナイパーには、ネゴシエーションの過程は知らされない。すべての行動は、上司の指示でのみ行われる。もちろん、危急の場合、自分の判断で行動しなければならにこともありうる。
 現場から目を離さす指令を待つその長い時間、「どんなことがオフィサーの心の中をよぎったか、何を心配したか?」と聞いてみた。
 オフィサーは、「とにかく、だれにも怪我がなく、無事にすむようにとだけ思っていた」と答えた。
 「犯人の命もですか?」と言うと、オフィサーは、「犯人の命も人命に変わりないから」と言い、ニコッと笑う。
 このときの犯人は、捕らえられた夜に、拘置所で自殺をした。オフィサーによると、人質をとる犯人の約80%は精神異常者だそうだ。
 物語や、映画では、犯人が人質をとった場面になると、重々しく武装したSWATチームがすぐに踏み込み、人質を救出し、犯人は手を上げるか射殺されるという結果になるのが多い。いざというときのために、もちろんSWATチームの任務は重大だ。
 だが、実際においては、まず犯人を説得するという大事なことを忘れてはならないのである。よく訓練されたホステジ・ネゴシエーターが、精神に異常をきたした危険な犯人をなっとくさせ、犯人に武器を捨てさせ、人質を無事に救出するケースは、数知れないのである。
 今、このとき、アメリカのどこかで、誰かが人質にとられ、ネゴシエーターが現場に駆けつけているかもしれない。現場に向かうネゴシエーターの両肩には、あくまでも人命を救うという重い責任が、どっしりとかかっているのだ。

アメリカでも人質事件解決の基本は「説得」であり「射殺」は最後の手段である。



81年7月号 「FBIスナイパー! レミントンM700ライフル」 イチロー・ナガタ

スタックホーム・シンドローム
 あるビルの一室に犯人がたてこもったとする。例によってスワットは出動し、スナイパーはなるべく近くに忍び寄って、スコープごしに犯人の一挙一動を観察する。FBIからは熟練したネゴシエイターがやって来て懸命に説得し、やがて、犯人のお母さんまで呼ばれてきて長々と悲しいやり取りが始まる。人殺しとはいえ、根っからの悪人ではないものだ。この文明社会のひずみ、貧富の差、政治の貧困などが原因となって、アリジゴクに落ちた虫のようにズルズルと悪の道に落ち込み、ちょっとしたハズミに運命のツメに引っかけられて、気が付いたら人を殺していた……。そんな例が一番多く、そんなドラマの終結を目のあたりに見せつけられたら、「死ぬべき奴はこの男ではなく、私腹を肥やしてばかりいるある大臣か誰かじゃないのだろうか? この男は社会から疎外された被害者なのだ……」と、感じるのが思考力のある人というものだ。
 スコープを通して犯人の顔を見ながら待機するスナイパーにも、6時間、8時間と経つうちに犯人の貧しい生いたちや家族の悲しみなどがヒシヒシと伝わってくる。現場に到着した時は、「ヨーシ、俺が撃つ!」と自信を持っていたスナイパーでも、そういったストーリーを全部知ってしまうと、さすがに犯人に対する同情を禁じ得なくなる。そうこうしているうちに、錯乱した犯人は説得に応ずるどころか、ますます狂暴化し、あきらめたネゴシエイターはスワット隊長にそれを告げる。
 隊長は、突撃隊かスナイパーか、どちらを使うべきかと考え、場合によってはスナイパーに“GO”サインを送る。その瞬間、スナイパーの心は動揺し、どうしてもトリガーを引けなくなることがある。この心理的状態をスタックホーム・シンドロームと呼ぶわけだ。
 「スナイパーはスイッチをONにされたマシーンのように動かなければならない……」と、先に書いた。これはカッコ良く聞こえるだろうが、それがどんなにスサまじいことかを、たまには劇画の世界から抜け出して考えてみようではないか。

犯人も人間、スナイパーも人間である。
気軽に「撃て!」「殺せ!」と煽るのはフィクションを見ているときだけにしてほしい。


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