- 更新日 : 2025年2月20日
免税事業者は消費税を請求していいのか?個人事業主の場合も解説
間接税である消費税は、事業者が消費者から預かって納税するものです。ところで、事業者の中には消費税の納税を免除されている免税事業者があります。消費税の納税義務のない免税事業者は、消費税を請求できないのでしょうか?
本記事では、免税事業者における消費税の取り扱いについて説明します。消費税増税後に注意しておきたい点も含めて理解しておきましょう。
目次
免税業者(免税事業者)の条件は?
免税事業者となるためには要件があります。どのような場合に消費税が免除になるのかを知っておきましょう。
消費税のしくみ
消費税は、物やサービスを購入したときにかかる間接税になります。間接税とは、実際に税金を負担する人と納税する人が異なる税金です。
消費税を負担するのは消費者ですが、消費者が直接税務署に納めるわけではありません。物やサービスを販売する事業者が、消費者から消費税を預かって税務署に納税します。
なお、事業者が商品などの仕入れをする際にも、消費税を払っているはずです。そのため、事業者が消費税を納税するときには、消費者から受け取った消費税から仕入先に支払った消費税を差し引きすることができます。これを「仕入額控除」といいます。
消費税の税率
消費税には、国税である消費税と、都道府県税である地方消費税が含まれます。2019年10月1日に消費税率の引き上げと同時に軽減税率制度がスタートし、現在は次の表のような税率となっています。
標準税率 | 軽減税率 | |
---|---|---|
消費税率 | 7.8% | 6.24% |
地方消費税率 | 2.2% | 1.76% |
合計 | 10.0% | 8.0% |
消費税の免税事業者とは?
消費税の免税事業者とは、消費税の納税を免除されている事業者、すなわち納税義務のない事業者です。免税事業者になるかどうかは、基準期間の課税売上高により判定します。
基準期間とは?
基準期間とは、次のとおりです。
- 個人事業主の場合・・・その年の前々年
- 法人の場合・・・その事業年度の前々事業年度
上記の基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら免税事業者となります。例えば、個人事業主の2025年の消費税納税義務は、2023年の課税売上高が1,000万円を超えている場合に発生します。
特定期間とは
基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば納税義務は免除になりません。特定期間とは、次のとおりです。
- 個人事業主の場合・・・その年の前年の1月1日から6月30日までの6カ月間
- 法人の場合・・・その事業年度の前事業年度開始日以後6カ月間
新規開業時はどうなる?
新規開業から2年間は基準期間の課税売上高がないため、原則としてその課税期間の納税義務は免除されます。ただし、設立2年目については、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えると納税義務が生じます。また、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えるかどうかの判定については、課税売上高に代えて、特定期間の給与等支払額により判定することもできます。
なお資本金1,000万円以上の法人に関して、納税義務は免除されないため、設立1期目から消費税を納めなければなりません。
免税業者(免税事業者)の消費税請求について
免税事業者は消費税の納税を免除されているため、「顧客に対して消費税を請求できないのではないか?」と思うこともあるでしょう。免税事業者であっても、消費税を請求することはできます。
免税事業者も消費税を上乗せ請求できる
消費税法や国税庁の通達では、免税事業者は消費税を請求してはいけない旨は記載されていません。また、免税事業者も消費税を上乗せして請求しなければ、仕入れ時に払った消費税を自己負担しなければならないことになります。
免税事業者であっても、消費税を請求することに問題はありません。消費税が10%に引き上げられた2019年10月1日より「区分記載請求書保存方式」が導入され、その後、インボイス方式へと移行しました。
免税事業者が消費税を上乗せして請求する場合は、インボイス制度下に適合した対応が求められます。具体的に、インボイス制度で発行される適格請求書は、適格請求書発行事業者として登録しないと発行できません。適格請求書発行事業者になるということは、必然的に免税事業者でなくなることを意味します。免税事業者のまま請求書を発行する場合は、適格請求書と誤認されない請求書を発行する必要があります。
免税事業者からの仕入額控除が段階的廃止に
消費税率引き上げと軽減税率制度導入にともない、2023年10月から「適格請求書等保存方式(インボイス方式)」が開始されました。インボイス方式では、事業者は適格請求書(インボイス)に記載された消費税でないと仕入額控除ができません。
インボイス方式では、登録を受けた課税事業者のみがインボイスを発行できます。免税事業者が発行した請求書は仕入額控除の対象にならないため、免税事業者から取引先事業者への消費税の請求に問題が生じるようになりました。
取引先に消費税を請求できなければ、仕入れの際に支払った消費税を全額負担しなければなりません。また、取引先の事業者側がインボイスを発行できる課税事業者との取引を優先することも考えられ、免税事業者は取引の機会を失ってしまうリスクもあります。
一方、急激な変化にともなう混乱を回避するために、仕入税額控除に対する経過措置も設けられました。インボイス制度開始から10年は、段階的に仕入税額控除ができる割合が下げられる見通しです。適格請求書を発行できない免税事業者からの仕入れは、2026年9月までは80%、2029年9月までは50%が仕入税額控除の対象となります。
しかしながら、2029年10月以降は免税事業者からの仕入れについて仕入額控除が一切できなくなります。時期を見計らって、課税事業者になるかどうか検討すべきでしょう。
免税事業者の個人事業主が消費税を上乗せ請求しないメリットはある?
免税事業者の個人事業主が、消費税を上乗せして請求するかは個人の判断に委ねられます。消費税を上乗せできないことで売上高は下がるため、特筆すべきメリットはないといえるでしょう。
しかし、取引先との交渉材料として、消費税を上乗せ請求しない選択肢も考えられます。価格の面で競合と差をつけられる可能性があるためです。
なお、インボイス制度については、強い立場からの一方的な取引価格の変更など、公正取引の問題も生じています。個人事業主自らが消費税の上乗せをしないことを決めたのであれば問題になる可能性は低いですが、取引先から上乗せ請求の取消しを求められるようなケースでは、公正取引上の問題になる可能性があります。取引先とは、十分に話し合いを行い納得した上で、変更されることをおすすめします。
免税事業者の個人事業主が課税事業者になるかの判断基準
インボイス制度に適応するには、消費税申告に対応したシステムの導入などが必要です。コストや作業負担の増加の面で、免税事業者から課税事業者への転換は、メリットよりもデメリットが多くなる可能性もあります。
個人事業主が免税事業者から課税事業者になるかどうかは、取引先構成がひとつのヒントになるでしょう。
インボイス制度において、今後大きな影響を受けることになるのは、免税事業者から仕入税額控除が段階的にできなくなる課税事業者です。つまり、取引先に課税事業者が多い場合は、仕入税額控除の問題で、今後の取引に影響が生じる可能性があります。取引先の課税事業者の割合が高い場合は、課税事業者への転換を考える必要があるでしょう。
一方、取引先の多くが免税事業者または一般消費者の場合、仕入税額控除による影響は少ないと考えられます。免税事業者のままでいたほうが、消費税申告に対応するコストを考慮するとよい場合もあります。
「消費税転嫁対策特別措置法」について
消費税増税時に注意しておきたいのが、取引先による消費税の転嫁拒否といった不当行為です。消費税の転嫁拒否などを取り締まるため、消費税転嫁対策特別措置法が設けられました。
消費税転嫁対策特別措置法は、事業者間取引における消費税の転嫁拒否などを禁止する法律です。正式には「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」という名称になります。
消費税転嫁対策措置法が設けられたのは、2014年4月及び2019年10月の消費税増税時に、増税分の転嫁拒否が横行することが予想されたためです。なお、消費税転嫁対策措置法は、2021年3月31日に失効しています。
消費税の転嫁拒否は認められない
消費税転嫁対策特別措置法では、買い手である事業者による消費税の転嫁拒否が禁止されていました。
例えば、卸売業者がメーカーから商品を仕入れて小売業者に売る場合、卸売業者はメーカーに消費税込みの価格を支払い、小売業者には消費税込みの価格を請求します。消費税の増税があった場合には、消費税込みの価格が引き上げられるのが当然です。
しかし、買い手は売り手より強い立場なので、売り手に対して「消費税の増税分は値引きして」といった要求をすることが考えられます。このように、消費税の転嫁を阻害して売り手に不利益をもたらす行為は認められません。
消費税転嫁対策特別措置法による禁止行為
消費税転嫁対策特別措置法で禁止されたのは、次のような行為です。
- 減額
本体価格に消費税を上乗せした額を支払う契約をしていたにもかかわらず、支払う段階になって消費税の全部や一部を減額する行為は認められません。 - 買いたたき
買いたたきとは、消費税率引き上げ前の税込価格に増税分を上乗せした金額よりも低い対価を定めることです。増税前の税込価格をそのまま据え置きしても、買いたたきとなってしまいます。 - 商品購入・役務利用または利益提供の要請
消費税率引き上げ分を上乗せすることを受け入れる代わりに、特定の商品やサービスを買わせたり、その他の利益供与を要求したりすることも禁止されています。 - 本体価格での交渉の拒否
消費税抜きの本体価格で交渉したいという申出を拒否することも禁止です。 - 報復行為
(1)~(4)の行為が行われていることを公正取引委員会などに知らせたことを理由に不利益な取り扱いをすることも認められていません。
- 減額
なお、消費税転嫁対策特別措置法自体は失効したものの、考え方は独占禁止法や下請法に引き継がれています。消費税転嫁対策特別措置法の下ではなく、独占禁止法や下請法で厳しく対処することとなりました。
消費税の転嫁拒否をするとどうなる?
消費税の転嫁拒否については、公正取引委員会や中小企業庁長官が必要な指導・助言を行います。違反行為が認められた場合には、公正取引委員会が勧告を行い、その旨を公表することになっています。
もし消費税の転嫁拒否等に遭った場合には、公正取引委員会や消費生活センターなどの相談窓口に相談しましょう。
よくある質問
消費税の免税事業者とは?
消費税の納税を免除されている事業者、すなわち納税義務のない事業者のことを言います。詳しくはこちらをご覧ください。
免税事業者は顧客に対して消費税を請求できないのでしょうか?
結論から言いますと、請求できます。ただし、表示方法には注意が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
消費税転嫁対策特別措置法による禁止行為はなんですか?
減額、買いたたき、商品購入・役務利用または利益提供の要請、本体価格での交渉の拒否、報復行為などが禁止されています。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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