ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

久住四季「神様の次くらいに 人の死なない謎解きミステリ集」(創元推理文庫)

図書館の新着案内ページで見かけて、面白そうだと思って借りてみました。

タイトルにある通り、人の死なない、日常の謎系ミステリばかりを集めた短編集。

はじめましての作家さんですが、なかなか読みやすくて面白かったです。もとは

電撃文庫からデビューされた方らしい。この作品集からは、あんまりラノベっぽさ

は感じませんでしたが。ノンシリーズばかりなのかなと思ったけど、そうじゃない

作品もいくつか入ってたようです。本編があるなら、そっちも読んでみたくなり

ましたね。

 

では、各作品の感想を。

 

『さくらが丘小学校 四年三組の来週の目標』

この春から四年三組の担任を任されている新米教師の成田。ある日、児童の一人

が持っている高額のトレーディングカードが紛失した。生徒たちの前で謎を解く

と宣言してしまった成田は、先輩の花先生に相談するのだが――。

成田の推理通りだったら、ちょっと腑に落ちないままだったでしょうが、そこから

先があって溜飲が下がりました。真犯人を当てられた人物は意外でしたが。将来は

名探偵キャラかな?

 

『ライオンの嘘』

文化祭を間近に控えたある日、男子サッカー部の部室からノートパソコンが紛失した。

生徒会副会長の五十嵐は、文化祭実行委員会の副会長も兼ねているため、後輩の

高嶺と共に調査に乗り出したのだが。

パソコンを盗んだ犯人は、謎解きを聞いて、なるほど、と思いました。まぁ、身勝手

な動機ではありますけども。謎解き云々よりも、生徒会長と副会長と後輩の高嶺、

三人の複雑な恋愛ベクトルの行方の方が青春していて良かったな。会長の黛の

真意はわからないままでしたが。作者が言うには米澤さんの古典部シリーズを

意識したとおっしゃってましたが、個人的にはそれよりも似鳥さんの市立高校

シリーズの方に似てると思いましたね。黛会長のキャラとかね。

 

『神様の次くらいに』

意中の人である榛子さんを思い切ってデートに誘った花房。しかし、それに対する

相手からの答えは、なぜか『家電量販店に行こう』だった。榛子さんは新しい

テレビがほしいという。当日、限定10個のセール品のテレビを買う為、花房は

持っていなかった冷蔵庫を買う為、二人は整理券を求めて早朝から行列に並んだ。

無事整理券をゲット出来た二人だったが、開店まではまだ時間があった。その後、

トイレの為に一時行列を離れた花房は、一人の少女から話しかけられるのだが――。

これはもう、榛子さんの言動がとにかく可愛かったし、素敵だった。少女の為に

したことも優しくてかっこよかったけど、ラストの一言で全部持って行かれて

しまった。可愛すぎんか。お話としては、これが一番好きだったかな。

 

『小さいものから消えよ』

同居人の探偵・凛堂が、知り合いのフリージャーナリストの子供を一日預かる

ベビーシッターの依頼を受けて来た。なぜか一緒に世話をすることになった推理

作家の月瀬は、当日、当の子供を連れて凛堂と三人で近くの公園に行くことに。

そこで出会った主婦から、奇妙な話を聞く。ここ数日、なぜかこの公園から一日

ひとつづつ、物が消えているのだという。しかも、消えて行くものは、一日ごとに

大きくなっているというのだが。

うーん、謎解きを聞いて、そんなものでアレが通るようになるものなの?と少々

疑問を覚えました。実験してみたい気もするけど。リサイクルボックスを移動する

のはダメでしょう。いくら犯人が◯◯だからって、ダメなことはダメと教えないと。

微笑ましいで済む問題じゃないと思うけど、と月瀬の反応に首を傾げてしまったな。

これはシリーズものの一作だそう。凛堂のキャラは気に入ったので、機会があったら

本編の方も読んでみようかな。

 

『デイヴィッド・グロウ、サプライズパーティを開く』

友人のデイヴィッドから、彼の父親のサプライズ誕生会に招待された弁護士の

サンドラ。一人一つ誕生日プレゼントを用意することが条件らしい。当日

プレゼントを持ってデイヴィッドの家に行くと、たくさんの親戚たちが集まって

いた。パーティが始まって、一つつづプレゼントが開けられ、誰が送ったもの

なのか名乗りを挙げて行ったが、なぜか一つだけ誰も名乗りをあげないプレゼント

が紛れ込んでいた。一体これは誰が送ったものなのか――。

これも違う作品のスピンオフだそう。本編は主人公が違うみたいですが。友達の

父親にアイフォンをプレゼントするって、なかなかすごいな。相手がセレブだし、

本人も弁護士だからってのもあるだろうけど。日本じゃ考えられないような。

海外ものは基本的には苦手だけど、これは読みやすかったのですんなり世界に

入っていけました。デイヴィッドはおちゃらけた軽薄なキャラなのかと思った

けど、父親のためにとっさにこういう行動が取れるんだから、心根の優しい

とてもいい奴なんだろうなと思いました。

 

瀬尾まいこ「そんなときは書店にどうぞ」(水鈴社)

瀬尾さんの書店への愛が溢れたエッセイ集。めっちゃ面白かった。瀬尾さんって、

こんな面白い人なんだなぁ。エッセイは以前にも読んだことあったけど、こんな

ノリツッコミみたいなの入ってなかった気がするんだけど。敏腕編集者で、

オヤジギャグ好きのSさん(後に結構な大物になる)と出会ったことが影響

しているのか・・・いやまぁ、もともと関西出身ってのも大きいんだろうけど(

大阪出身で、現在奈良在住らしい)。

激減していく書店をなんとか救いたい、という気持ちから始まった連載を

まとめたものらしい。書店と瀬尾さんの繋がりがたくさん描かれています。

どれもがとても微笑ましいし、私も本屋大好きだから読んでてとっても楽しかった。

でも、ここに出て来た書店も現在は三つほどが閉店してしまったそう。確かに、

我が街の書店も、昔はたくさんあったけど、現在は駅ナカに比較的大きいのが

一店残ってるくらいだもんなぁ(探せば小さい書店はまだいくつか残っているの

かもしれないけど、知ってる個人書店はほぼ潰れました)。

瀬尾さんが、こんなに書店巡りをしているとは知らなかったなぁ。書店側も、

突然人気作家がやってきてびっくりするだろうな。嬉しいでしょうけど。瀬尾さん

ご自身は謙遜しまくってますけど、相当な有名人気作家だと思いますよ?特に、

近年は本屋大賞やら映画化やらでネームバリューも大分上がってますしねぇ。

本屋大賞受賞はかなり大きかったそうで、ママ友からも一目置かれるようになった

もよう(それまで、瀬尾さんだと知られてなかったそうな。知り合いが瀬尾まいこ

だったら、目ん玉飛び出るほど私だったら驚くし、誇らしくなるだろうな)。

先述した編集者のSさんは、その後独立して水鈴社を立ち上げ、社長として辣腕を

振るっているそう。その記念すべき第一作が、瀬尾さんの『夜明けのすべて』

だったというのは驚きの事実でした。確かに、記事書いた時、馴染のない出版社

だなぁと思ったんですよね。Sさん(社長)は、大事な立ち上げの一作を任せる

ほど、瀬尾さんのことを買っていたんでしょうね。そして、その読みはズバリ

当たっていたわけで。いかにSさんが慧眼かがわかりますね。実際、『夜明けの

すべて』は本もヒットしたけど、映画化で大成功しましたもんね。映画の現場

にも立ち会ったそうで、その様子も書いて下さってます。上白石萌音ちゃん、

画面から観ててもいい人感満載だけど、実際やっぱりいい人なんだなぁ。ストーンズ

の松村北斗君は、特にファンではないけど、確かにきれいな顔してるなぁと

思ってました。性格もいいんだ。天は二物も三物も与えるんですね・・・うらやま。

監督さんのこともべた褒めでしたねー。映画、めっちゃ観てみたくなりました。

アマプラでやってないかな(結婚してから、この手のサブスクは一切入らずにやり

過ごして来たけど、去年いろいろあって、結局加入する羽目になった^^;)。

そして、この『夜明け~』が、実際パニック障害を患っている瀬尾さんご自身の

体験から書かれたものということも初めて知りました。瀬尾さんも障害と向き合って

生きてきた方なんだなぁ・・・。だから、あんなに生きづらい人たちの側に立って

物語を描くことが出来るんだな、といろんなことが腑に落ちました。

だから瀬尾さんの物語は優しくてあったかいんだな。いい人しか出て来ないと

指摘されたと言うけど、実際瀬尾さんの周りにいる人がみんないい人だから、

こういう物語になるんだろう、と思いました。普段ほとんど映画を観ないのに、

三度も映画館に足を運んで泣いたという優しい旦那さん(顔濃い目らしいw)も、

瀬尾さんの本屋巡りやトークショーについて来てお手伝いしてくれる、おしゃまで

可愛い秘書さん(娘さん)も、瀬尾さんのことを知りつくしてくれているS社長も、

おしゃれな編集者のS姉さんも、書く書店員さんたちも、みんな素敵な人ばかり。

どの人とのエピソードも、瀬尾さんの人柄が伺い知れて、ほっこり温かい気持ち

にさせてもらえました。もちろん、瀬尾さんご自身が優しくて温かい人柄だから

こそ、なのですけどね。娘さんとのエピソードは、ほんとにどれも可愛らしくて

くすりと出来ましたね。娘さんご自身も、身体的に辛いことを抱えているのに、

母親の障害の辛さを理解して、健気に寄り添ってあげるところにぐっと来ました。

まだ小学生ですよね?しっかりしていて忘れそうになっちゃうけど。偉すぎる。

巻末に収録されている短編も素敵な作品だったなぁ。『幸福な食卓』の6年後

らしいけど、あとがきで触れられてなかったら、全然気付かないままだったと思う。

どんな作品だったか、片鱗も覚えてない^^;;今度図書館行ったら確認して

みようっと。

ほっこり優しい気持ちになれる、瀬尾さんそのまんまって感じのエッセイでした。

ますます瀬尾さんファンになっちゃった。私も書店で瀬尾さんに会ってみたい~。

町田そのこ「コンビニ兄弟4 テンダネス門司港こがね村店」(新潮文庫nex)

シリーズ第四弾。ある理由から夫と別れて門司港で一人暮らしを始めることに

なった百合。人付き合いが苦手で友達もいない百合だったが、ふと見つけて入った

コンビニで出会ったのは、なぜかアルパカの着ぐるみを着た、とんでもなく美形な

店長と親切な従業員に、賑やかな客たちだった――。

この記事を書くにあたって、覚えていない登場人物がちらほらいたので(いつもの

ことだが)、なんとなく前の記事を読み返そうと思って過去記事検索してみたら、

恐ろしい事実に気づいてしまいました。

 

・・・3巻読んでないじゃん!!!

 

検索しても記事がないから、多分読んでない(はず)。読んでたら記事絶対

短くても書いてるはずなので・・・。

あーあ、やっちまった^^;そりゃ、覚えてない人物がいて当たり前だよ!

てか、なんで一冊飛ばしちゃったんだろ。図書館の新刊情報欄に載った時

見逃しちゃったんだろうなぁ・・・。くぅ。

ま、まぁ、もう4巻読んでしまったものは仕方がない。改めて折を見て3巻を

借りることにするとして、気を取り直して4巻の感想を。

今回は、大好きだった夫と別れて、傷心の中一人暮らしを始めた百合と、子供

の頃からヒーローになりたかった青年・舞人のふたりがテンダネス門司港こがね

村店のいつものメンバーたちと知り合ったことで、心の澱が溶けて一歩を踏み出す

物語。

百合の方は、毒親が原因で大好きな夫とすれ違い、別れることになってしまいます。

百合の両親の言動にはムカムカしっぱなしでしたね。でも、こういう親いるよね。

きっと、どこまで行っても平行線のまま、わかり合うことは出来ないんだろうな、と

思いましたね。まぁ、この先両親が年老いた時に、少しは譲歩し合える日が来ない

とも限らないけどさ。うーん、でもあの父親の性格じゃなぁ。永遠にそんな日が

来ない気もするが・・・。百合が電話で両親に最後通牒を突きつけるシーンは、

彼女の勇気に拍手を贈りたくなりました。頑張った!両親と縁を切っても、味方に

なってくれる兄がいるからまだ救われますね。兄経由で両親の情報も手に入れる

ことも出来るしね。これからは自分の思う人生を歩んでほしいですね。

後半はヒーローになることに憧れる舞人の物語。親友の高木との友情物語にはぐっと

来たなぁ・・・。舞人は、ほんとに、よくもまぁ、アナタこんなに真っ当に真っ直ぐ

育ちましたね!?って言いたくなるくらい、良い子ですね。他人を思いやれるし、

他人のために何かが出来る人。さすが、ヒーローに憧れるだけあるよ。もう、誰

かのために動けるってだけで、誰かのヒーローだよ。なんであんなに謙遜してる

んだか。でも、ヒーローになりたいって人が、アルパカの着ぐるみ着るのはなんか

違っているような気も・・・しましたけど、まぁ、人命救助も出来たんだから

いいのかな。アル・パカッションくん、妙に愛嬌のあるキャラクターですね。

しかし、志波店長があんなに絶望的なまでにダンスが出来ないとは意外でした。

着ぐるみに執着するところにはウケましたけど(笑)。志波兄弟の周りに集まる

人はみんな、いい人ばかりでほっこりしますね。こんなコンビニあったら私も

通いたい!ツギさんのノンアルカクテル飲みたい!店長の美形に癒やされたーーい!

とりあえず、早めに3巻を読まなくては・・・。ちなみに、5巻は来年(2026年)

の2月頃発売予定らしい(おおよそ決まっているのもすごい)。それまでには読で

おきたいなぁ。

 

有栖川有栖「砂男」(文春文庫)

有栖川さんの文庫新刊。単行本未収録の短編ばかりを集めた短編集。単行本未収録

とはいえ、文庫のアンソロジーで既読の作品も入ってましたね。御本人のまえがき

にも書かれてますが、一冊の本に江神シリーズと火村シリーズ両方の短編が収録

されているのは、なかなかに貴重なんじゃないでしょうか(この間読んだ、他作家

さんたちによる有栖川さんのトリビュートアンソロジーではありましたけどね)。

ノンシリーズ作品も収録されているので、久しぶりにシリーズもの以外の有栖川

作品を読んだ感じがしました。

 

では、各作品の感想を。

『女か猫か』

江神シリーズ。

密室状態の部屋で一晩明かした男の顔には、なぜか翌朝になって爪痕のような傷が

ついていた。猫の子一匹入れる隙間はなかったはずなのに・・・一体なぜ?

江神さんの解説読んだら、かなりシンプルな謎解きだった。意外性はあんまり

ないけど・・・現実の謎の真相なんて、こんなものだよねっていうようなリアリティ

はあったかな。ただ、バンドの女性メンバー三人が猫にまつわる名前って、そんな

偶然ある?とツッコミたくなってしまった(^^;)。そっちの方はリアリティは

なかったかも(笑)。

 

『推理研 VS パズル研』

江神シリーズ。

望月と織田がチェーンの居酒屋で隣合ったのは、同じ大学のパズル研のメンバーたち

だった。二人は、そこであるパズルを出されたのだが――。

これはアンソロジーで既読でしたね。緑色の目の村人と青い目の村人のやつ。江神

さんの解説読んでも、なんでそうなるのかいまいち理解出来てないんですが・・・

(アホ)。この手のパズル的問題は苦手だーー^^;;推理研のメンバーたちが、

パズルの答えとは別に、問題のその先を考えるところが面白かったですね。

 

『ミステリ作家とその弟子』

ノンシリーズ。

本格ミステリ作家の家に原稿の進捗状況を伺いに行った編集者の明夏。時間通りに

伺ったが、作家の方が時間を間違えていたらしく、一時間ほど待たされた。その間

作家は、ミステリ作家志望の弟子にミステリに関するレクチャーをしている

ようなのだが――。

これもアンソロジーで既読でした。うさぎとかめの考察とか興味深かったですね。

ラストの反転よりも、作家と弟子の童話考察の方が印象に残るお話かも。

 

『海より深い川』

火村シリーズ。

海に身を投げた男は、生前、『海より深い川を渡る』と口走っていたという。この

言葉には、一体どんな意味があるのだろうか――。

法律が変わり、単行本収録を見送っていた作品だそう。確かに、真相の一部には

現行の法律とは食い違っているところがありますね。でも、そこはあらかじめ注意

書きとかしておけば問題なかったような気も。隣人が聞いた四人が諍い合う声の

真相や、冒頭の『海より~』の言葉の意味など、細かい伏線がきれいに繋がって

すっきりしました。既存の火村シリーズの中でも出来の良い作品のひとつと云える

のでは、と思いましたね。

 

『砂男』

火村シリーズ。

最近巷で噂になっている『砂男』の都市伝説を研究していた社会学者が殺された。

遺体には、壊れた砂時計の砂がばらまかれていた。

火村から要請を受け現場に赴いたアリスは、野次馬の中に、『砂男』にそっくりな

風貌の大男を見かけるのだが――。

犯人は意外といえば意外ではあったかな。あとから考えると、かなりあからさまに

伏線が張ってあったわけなのですが。なんとなく、言動が気になる人物ではあった

のですけどね。動機は納得いきかねるものがありましたが。完全に独り相撲って

感じで。被害者の生前の行動は嫌悪しかなかったので殺されても同情は出来な

かったけど、報復するとしても、やるのはアンタじゃないでしょ、とツッコミたく

なりました・・・。

 

『小さな謎、解きます』

ノンシリーズ。

商店街の中ほどに位置する<街角探偵社>。祖母から居抜きで物件を譲り受けた

樋間直人が始めた探偵社だ。推理小説ファンの直人が、ドアに<小さな謎、

解きます>という文言を書いて張ってみると、その通り、小さな謎を抱えた

依頼人がちょこちょこやってくるようになった。便利屋的な依頼が多いのは

不満だが。しかし、ある日やってきた若い男の依頼は、『サークル仲間が書いた

推理小説の犯人を当ててもらいたい』というものだった――。

これ好きですね。短いけど、設定自体が好きです。謎自体はなんてことない内容

だけど。直人と甥の健斗くんとの関係がいいですね。ラストもほっこり。大人に

なった健斗くんと二人で探偵業やってる続編とか読みたいなぁ。

 

 

講談社編「だから捨ててと言ったのに」(講談社)

書き始めが「だから捨ててと言ったのに」で始める、ショートショートを集めた

アンソロジー。会員制読書クラブ<MRC(メフィストリーダーズクラブ)>の

有料会員限定コンテンツ「MRCショートショート」で公開された作品を集めたそう。

そんな会があるとは初めて知りました。とにかくジャンルミックスというか、

小説家だけではなく、いろんなジャンルの方々が寄稿されています。同じ書き出し

で、これだけいろんなバリエーションの作品が書けるんだなぁと興味津々でした。

ショートショートなので、しっかりオチが決まってる作品と、ぼんやりして終わる

作品といろいろでしたね。不思議な設定の作品も多かった。作者のカラーが出て

面白い。始めましての作家さんもたくさん。当然ながらメフィスト賞出身の作家

さんが多いけど、一体どういう経緯で原稿の依頼したの!?と不思議になる方も

ちらほら。個人的には、YouTubeのクイズコンテンツで人気を博している、

QuizKnockの河村さんが寄稿していることにびっくりしました。QuizKnockの動画

大好きで、めっちゃ観てたので。河村さんの名前、最初同姓同名の作家さんが

いるのかなと思ってました(笑)。河村さん、作家活動もされていたとは(驚)。

作品自体は不思議な話で、正直いまいちピンと来なかったけど(すみません^^;)。

あとは、いきものがかりの水野さんが別名義で書かれていたり。アーティストは

もう一人いたな(Chevonというバンドのボーカルの方だそう。知らなかった^^;)。

書き始めから不穏なセリフなので、ちょっとぞっとするタイプのお話が多かった

ですね。そっち系の方がオチがつけやすいでしょうしね。自分が捨てられるオチ

とかね。短いから、あんまり強烈に印象に残ったって話はないんだけど、記憶に

残ったのは、五十嵐律人さんの『累犯家族』、荒木あかね『重政の電池』、

似鳥鶏『その。をよく見ろ』、金子玲介『恋文』、高田崇史『吊るし柿の家』、

背筋『こわくてキモくてかわいい、それ』、多崎礼『海に還る』辺りかな。

それぞれに、記憶に残った理由は違うけど。読書メーターの他の方の感想読んで

たら、金子さんと背筋さんのが人気みたいでしたね。納得は出来るかな。金子

さんのは、付き合っていた人間にこんな仕打ちうけたら絶対人間不信になりそう

だけど、最後、そうならないところが面白い。ぷにょぽん、ぴにゃぽんって呼び合う

恋人同士、やだけどね^^;背筋さんのは、筆名そのままに、最後背筋が寒く

なるようなオチが印象的でしたね。

全部で25編もあるので、読んだ人それぞれにお気に入りの作品が違いそう。

ショートショートだから、すぐに一作のオチまで読めるところがいいですね。

まぁ、それだけに、記憶に残る作品を書けるかどうか、作者の力量が試される

気もしますが。

これで面白かったら、長編を読んでみるっていうのもありかも。金子さんの

『死んだ山田の教室』、好きな読書系ユーチューバーの方がめちゃくちゃお薦め

していたので予約中。人気あるみたいで相当待たされそうですが。ここに寄稿

されているメフィスト賞出の作家さんも、読んでない人が多かったので、結構

読み逃しているなぁと思いましたね。五十嵐さんもメフィスト賞作家なんだね。

これから読んでみようかな。

同じ書き出しで始まるというのも、なかなか面白い趣向のアンソロジーでしたね。

ちなみに、以下が寄稿作家(敬称略)。

潮谷 験
真下みこと
須藤古都離
黒澤いづみ
岡崎隼人
砥上裕將
河村拓哉
五十嵐律人
荒木あかね
似鳥 鶏
皆川博子
清志まれ
金子玲介
舞城王太郎
高田崇史
伊吹亜門
背筋
芦沢 央
にゃるら
多崎 礼
柾木政宗
谷絹茉優
夕木春央
最果タヒ
麻耶雄嵩

青山美智子「人魚が逃げた」(PHP研究所)

青山さん最新作。本屋大賞候補にも挙がったようです。青山さんもう常連ですね~。

これだけ毎回ノミネートされてるってことは、書店員さんが、なんとしてでも

一度は獲らせてあげたいと思っている証拠なんでしょう。いいところまでは行く

けど、一位にはなれてませんものね・・・(二位が多い!惜しい!!)。

うーん、でも、今回もちょっと厳しいかもしれないなぁ。当然ながら良い作品では

あったけど、ものすごく強烈に心に残るってタイプの作品ではないかも。読み終えて、

良い本読んだなぁって温かい気持ちになれたのは間違いのないところですが。

これだけ続けて毎年出る作品が本屋大賞の候補になってること自体、すごいこと

だと思いますしね。それだけでも、当たり外れのない、筆力の高い作家さんだと

いう証明になっていると思う。

今回も、ちょっぴりファンタジックで、人と人との繋がりが感じられる素敵な

作品でした。三月の週末、真っ昼間の銀座に突然、人魚姫に逃げられた王子が出現

するって設定には面食らわされましたが・・・。この王子の存在が、妙に非現実的

なだけに、本物なのか、はたまた単純に自分を王子と思い込んでいるアブナイ人

ってだけなのか、最後の最後まで翻弄させられました。たまたまこの時に銀座に

いて、この王子と多少なりとも関係を持った人々の悲喜こもごもが連作形式で

描かれます。12歳年上の恋人との恋愛に悩む元タレントの青年、もうすぐ

ニューヨークに旅立ってしまう二十歳の娘と銀座に買い物にやってきた主婦、

定年退職後に、絵の蒐集癖のせいで妻から離婚されてしまったコレクター、文学賞

の結果報告の電話を銀座のカフェで待つ中年作家、大好きな年下の彼氏にフラれる

ことを恐れる銀座の高級クラブのママ・・・それぞれの思惑を抱えて銀座にやって

来た彼らが出会ったのは、人魚姫に逃げられ悲嘆にくれる王子姿の青年。謎の王子

の正体とは――?

銀座も最近は全然行ってないなぁ。若い頃はちょいちょい行く機会があったの

だけれど。そういえば、結婚指輪は銀座のちょっとマニアックな宝石店で買った

んですよね~。あの店まだあるのかな・・・指輪のクリーニングは永久に無料

サービスなはずだから、行きたいなぁとは思っているのだけど。

出て来る銀座の風景は馴染のあるものが多くて、ああ、懐かしいなぁと思いながら

読みました。資生堂パーラー、鳩居堂、銀座和光、三越、木村屋本店・・・どこも

銀座といえば、って感じの場所ですね。まぁ、あの大通り自体が銀座といえば

って場所なんですけどもね。

一話目の主人公のお話を読み終えた時点で、間違いなく後で彼の恋人視点の話がある

だろうな、と思いましたが、案の定でしたね。そして、思った通り、二人の間には

壮大なるお互いへの思い違いがあった。片方の視点から読んでいるだけでは、

相手がどう考えているかなんてわかりませんからね。青山さん、こういう流れ

好きですよね(笑)。本当はお互いに大好きなのに、思いがすれ違ってしまうという。

でも、王子のおかげで、思い切って、自分の思いを打ち明ける勇気を持つことが

出来て良かったと思います。実際打ち明けた様子は描かれていないのがちょっと

残念ではありますが。その先は読者に委ねるって形ですね。

王子の正体に関しては、お伽噺で片付けるのかなと思いきや、5章で現実的な

説明が出て来て、なるほどそういうことだったのか!と納得しかけたのですが

・・・最後の最後でやっぱりひっくり返されましたね。この辺りの仕掛けはお見事

でしたね。現代のお伽噺を表現したかったのかな。人魚姫の解釈もいろいろと考え

させられました。私は、原典はあんまり好きな話じゃなくて、王子、勝手なやつ!

ってプンプンしてたクチなんですけどね。王子は王子で思うところがあったのかも

と、この作品で思わされましたね。まぁ、それでも、人魚姫をフッて違うひと

と結婚したのは間違いないですからね。今更泣かれても、とは思っちゃうけど。

3話に出て来たギャラリー『渦』は、『鎌倉うずまき案内所』に出て来たあの

案内所みたいなところだなぁと思いました。渦だし。店主はあの双子のおじいさん

と関係ある人だったりして。青山さんの作品はちょいちょいいろんなところで

繋がっているからありえなくはないかなと思いました。このギャラリーに置いて

ある作品の中に、『青と赤とエスキース』に出て来るあの人のものがあったり

したしね。

細かい伏線が最後に効いて来るところもさすがでしたね。エピローグで明らかに

なる、花冠の秘密にはほっこりしました。みんながみんな完全なハッピーエンドって

わけではないけれど、それなりに本人たちが前向きになれたのは間違いなく、

心温まる気持ちになれました。

青山さんらしい一作だったんじゃないかな。面白かったです。

 

『このミステリーがすごい!』編集部編「やっぱり好き!京極夏彦サーガ」(宝島社)

作家デビュー30周年を記念したファンブック。百鬼夜行シリーズや巷説シリーズ、

書楼弔堂シリーズや江戸怪談シリーズ、「 」談シリーズなど、キャラクターや

内容紹介を混じえた徹底解説に加え、綾辻行人や水木しげるといった錚々たる人物

との対談などを再録した、豪華ムック本。

これは、ファンなら絶対手元に置いておきたいムック本だと思う。私は図書館で借り

ちゃったけど、買って手元に持ってたいなぁと思いましたね。でも二千円近くする

んだよね^^;こまめに古本屋チェックしよう・・・と心に誓いました(笑)。

まずね、百鬼夜行シリーズとか巷説シリーズの、一作ごとのあらすじがとっても

簡潔かつ詳細にかかれているので、すっかり内容忘れている私でも、ざっくりと

した内容思い出せてありがたかった。あと、膨大なキャラクターたちも、メイン

のところはほとんど紹介してくれているのも嬉しい。名前は覚えてるけど、

どんな役割で出てきたっけ?ってのがほとんどなもので^^;あと、それぞれの

シリーズの人間関係なんかも、結構細かく解説してくれていて、ほんと、京極

ワールドって繋がってるんだなぁというのがよくわかりました。全然気づいて

なかった関係性も知ることができたりして。あの膨大な作品郡を、この薄いムック本

にまとめるのはさぞかし大変だったことでしょう。作品数も多いけど、それ以上

に一作のページ数も多いんだから。情報量としては、普通の作家の何倍ってレベル

じゃない?私も、せめて百鬼夜行シリーズだけでもいつか再読したいとは思うけど、

なかなかね・・・^^;でも、今回それぞれのあらすじ読んでいて、めっちゃ

再読したくなりましたよ。また一から、あの感動を味わいたい・・・!!ってね。

さすがに、読んでそこまで時間が経っていない『鵼の碑』だけはだいたいは覚えて

いたけどね^^;

あと、特筆すべきは、綾辻さんとの対談と、水木先生との対談ですよ。多分綾辻

さんのはどこかで読んだことがあると思うんだけど、水木先生との対談は初めて

読んだんじゃないかな。本当に貴重で尊い対談内容だと思いました。京極さんの、

水木先生への敬愛っぷりがダダ漏れ過ぎてて、微笑ましいです。水木先生が何

をおっしゃっても感心してる感じ。でも、水木先生は、京極さんが若くて

容姿も良いから、女性にもモテてることにちょっぴり嫉妬してたりして。なんか、

ほんと水木先生って可愛らしい人だなぁって、ほんわかした気持ちになっちゃった。

綾辻さんとの対談の時の京極さんは、三十過ぎなんですよね。デビューしたばかり

だからね。若っか!でも、話してる内容は、今と全然変わってなくて、この頃から

老獪って言葉がよく似合う方だったんだなぁと改めて感じさせられました。

デビューの頃から、作品に対するスタンスも、文学に対する主義主張も全然ブレて

ない感じ。後半に比較的最近のインタビューも載っているのだけど、キャラクター

に対する思い入れなんかも全然ブレてなさそう。思い入れがないって意味で^^;

百鬼夜行シリーズも、そろそろ5~6人殺そうかな、とか恐ろしいことをさらっと

おっしゃってるし。頼むから、それだけはやめてくれぇーーー(><)。まぁ、

ファンサービスも旺盛な方だから、読者の気持ちを汲んで、メインキャラを殺す

ことはしないでくれると・・・思いたい・・・でも、巷説シリーズの例もあるから

なぁ・・・^^;

過去に出た作品のおさらいもできて、本当に京極ファンとして、読めて良かった

一冊だった。改めて、私は京極さんの文章と世界観が大好きなんだと再認識させて

もらえたような気がしましたね。