産前産後休業(産休)や育児休暇(育休)を取るなら「その後3年は働いてもらわないと」と会社の上司に言われた──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者の女性は、そんな制限を受けるのかと驚いたそうです。取得ルールがどうなっているのかと思い、就業規則を確認することにしました。相談者の会社では、就業規則は事務所に一冊備え付けられているのみで、配布などはされていません。そこで、相談者は必要な箇所のみ写真に撮りました。
すると、上司から「勝手に見るんじゃない。就業規則は閲覧は可能だが、持ち出しは禁止だ」「画像が出回ったらどうするのか」「就業規則は鍵をかけて保管することにした。あなたのせいでこうなった」「産休・育休なんてのは、子どもができてから労務士さんに聞いて教えるものだ」などと叱責されてしまいました。女性は自分に問題があったのかと悩んでいるようです。
産休・育休取得後に3年働くことを求める就業規則は有効なのでしょうか。また、就業規則の閲覧を制限することは問題ないのでしょうか。波多野進弁護士に聞きました。
●使用者には就業規則の「周知義務」がある
──産休・育休取得後に3年働くことを求める就業規則は法的に有効なのでしょうか。
産休・育休取得後に3年働くことを求める就業規則は、法的に無効になると思います。
産休や育休は法律の要件を充たせば当然取得できる休暇で、その取得した後に3年間は退職できないなどの不利益な措置・条件を使用者が一方的に設定しても、それは無効となると考えます。また、労働者には原則として退職する自由があるという観点からも許されないでしょう。
●従業員に周知しないことで使用者側が不利になることも
──就業規則の閲覧制限は法的に問題ないのでしょうか。
就業規則は使用者が一方的に作成するものであり、その内容に合理性があり、かつ、従業員に周知されていてこそ、従業員を拘束するルールとして認められます。
労働基準法106条も、使用者は就業規則を常時見やすい場所へ掲示する、備え付ける、または書面を交付することなどで労働者に周知させなければならないと定めています(周知義務)。
今回のケースで上司から言われた内容が事実であれば、もはや就業規則は何時でも閲覧できる状態にはないといえ、周知性は否定されることになる可能性が高いです。
使用者側において就業規則は見せない方が利益になると考えて従業員が閲覧できないようにしている場合がありますが、むしろ使用者に不利益となります。
いつでも閲覧できる状態にして従業員らへの周知性を確保することは、たとえば、懲戒処分などを定めている就業規則に基づき、一定の場合における懲戒処分を実効かつ有効たらしめるという意味では使用者の利益でもあり、閲覧制限は自らを不利にする行為といえます。
もし従業員が使用者の多額の金員を横領していた場合、懲戒解雇が認められるのが通常です。しかし就業規則が周知されていなければ、そもそも懲戒解雇などの懲戒処分について規定した就業規則が横領した労働者に効力が及ばなくなり、「懲戒」解雇処分を行うことはできなくなります。
仮に普通解雇を予備的に行わず、懲戒解雇処分のみを行った場合、その懲戒解雇は最終的に無効となります。