弟になりすまして兄が消費者金融から借りていた金銭なのに、弟が返済しないとダメなのか──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者の夫がこの弟で、消費者金融から見覚えのない金銭の督促状が突然届き驚きました。消費者金融に連絡したところ、「契約時に免許証で顔の本人確認はした」「お兄さんと協力して借りたのでは?」などと言われ、返済を要求されたそうです。
契約の名義が弟の名前ですが、契約時に書類に記載された勤め先や連絡先は兄の情報で、筆跡も兄のものでした。本人確認書類は確かに弟の運転免許証でしたが、当時同居していた兄が弟の免許証を勝手に持ち出して利用したと考えています。
兄は既に亡くなっており、弟は相続放棄をしています。それでも弟にはお金の返済義務があるのでしょうか。池田誠弁護士に聞きました。
●弟が「返済する義務はありません」
──兄が勝手に弟の名義を利用したとして、それでも弟に返済義務があるのでしょうか。
返済する義務はありません。
相談内容からすると、仮に訴訟になっても、弟さん自身が借りたものではないと判断される可能性が高いと思います。
実際に私が同種の相談を受けた際も、依頼者を通じ、消費者金融に対して支払いを拒否してもらいました。
そうしたところ、2社あった消費者金融のうち1社は、筆跡等の事情を総合して、依頼者自身が借りたものではないと判断し、請求を取り止めました。
一方、もう1社は、頑なに請求を維持する姿勢をとりました。私からは、裁判外で減額和解を目指す方法や訴訟で戦う方法を提案しましたが、最終的には、金額がそれほど大きくないことも相まって、両親が返済資金を出し、依頼者名義で返済し解決されました。
──消費者金融側と交渉する余地はありますか。
交渉によって減額を受けられる可能性も十分にあります。
また、交渉の場として訴訟を選択する場合、こちらから債務がないことの確認を求める訴え(債務不存在確認訴訟)を提起する方法も考えられます。
ただ、消費者金融側としても、お兄さんが名義を勝手に使った可能性が高く、請求額もさほど大きくない事件であれば、訴訟をしてまで請求する意欲を持っていない可能性もあります。
その場合には、あえて訴訟提起も、交渉もせず、時効期間の経過を待って時効を援用するという方法もあります。
──兄が存命なら、法的責任を問われる可能性もあったのでしょうか。
お兄さんが存命であれば、私文書偽造罪・同行使の罪、詐欺罪に問われるおそれがあります。