さらに経験を盗め

さらに経験を盗め

 糸井重里さんと、ゲストのお二人が、いろんなテーマについて語る・・・、だいぶ前に出版されたものですが、面白かったです。

 

P170

糸井 緊張は筋肉を動かすためにはよくないんでしょう。

ライカ・今井 いや、緊張は必要で……。

今井 同時に言っちゃった。(笑)

ライカ いい緊張だったらいいんですよ。だけど、なんであんなにガチガチになるのか……。だから、本当のところ、相手はあまり関係ないんですね。それより弱い自分に勝ちたい。体が思い通りに動いてくれないんじゃないかという怖さ、それに打ち勝ちたいんです。

今井 そういう時って、実は体は動いているのに、思いが先走ってることが多いんですよ。頭のほうが「体が動かない」と思い込んでる。

ライカ えっ、体はちゃんと動いているんですか。

今井 動いているの。山の場合は、登ろうとする山が大きく見えても小さく見えてもだめですね。ちょうどの大きさに見えるのがいい。

糸井 カッコいいなあ、そういうセリフ。

今井 大きく見えるのは自信のなさだし、小さく見える時は、自分を過信してるんですね。ライカさん、そういうこと、まだない?相手が小さく見えることって。

ライカ 今のところ、ないですね。

今井 そのうち、あるからね。(笑)私の場合は、チョモランマが小さく見えましたね。

糸井 自信がある時は、恐怖心もないんですか。

今井 いや、恐怖心は常にあります。自然相手だから、いつどういうふうに状況が変わるかわからないし。それで、自分の恐怖心が何に対してのものかを分析して、撤退するか行くかを決めるわけです。

糸井 そのへんは経験ですね。

今井 そう、経験則で分析する。

糸井 僕はお二人と商売は違いますが、仕事に準備は必要だけど、「これで大丈夫」と思ったら、絶対にだめですね。本能が弱まってくるみたいで。

今井 山の場合はまず、最大限で必要十分な計画を一度、全部組み立てます。どういう形で登っていくか、タクティクス(戦略)を組んで、それに合わせて食料はどれほどいるか、装備はどれくらい持っていくか細かく計算する。だけど、いざ登る段になったら組み立てたものを全部頭の中で白紙にします。というのも、実際には、天候も体調も変わるし、状況は違ってくる。だから、いったんバラして一からもう一度、「この場で必要なものは何か」を考えつつやっていく頭の働かせ方をしていかないとね。

糸井 準備してたものをただ実行するだけじゃ、その時、頭は働いてない、と。

ライカ その切り替えはボクシングでも、必要ですね。一度あったんですよ、相手が予想してたイメージとまったく違ってたという経験が。「あれっ」と、しばらく戸惑いながらやってしまって……。途中で吹っ切れましたけどね。だから、あまり考えすぎたらだめというか、いざ試合になった時には、逆に頭を真っ白にしたほうがいいかもしれない。スタミナ配分とかも、あらかじめ考えへんかったほうが、かえっていい動きもできるし。