西田宗千佳のRandomTracking
第571回
実はかなり違う! iPhoneやXperiaなどスマホ7機種の「スピーカーでの体験」
2023年12月26日 08:00
多くの人はスマートフォンで音楽を聴くようになっている。筆者も移動時間や外出時にはスマホから聴いている。
では、その時「なにから」音を出しているだろうか?
「いやいやヘッドフォンでしょ」
もちろん、ヘッドフォンを使うのが一般的。本誌読者の皆さんなら、どのヘッドフォンがいいのか、色々と思い入れやご意見もあることだろう。
では、「スマホの内蔵スピーカー」ではどうだろう?
「あれで真剣に音楽を聴くものじゃない」「どうせクオリティは低い」と馬鹿にしていないだろうか。
確かに、だいぶ課題のある製品も多い。
しかし、特に若い層であるほど「気軽に聴くため」「友人と一緒に聴くため」などの目的で、スマホの内蔵スピーカーで音楽を聴く人は多いという。これは、どのスマホメーカーに聞いても出てくる話だ。
一方で、スマホの内蔵スピーカーがそれぞれどう音が違うのか、製品を聴き比べたことがある人はほとんどいないと思う。
そこで今回、国内で手に入る主要な7製品を用意し、「音がどう違うのか」を聴き比べてみた。
狙いはランキングをつけることではない。
スマホによってスピーカーも大きく音が違うこと、そしてその差が機種やメーカーによって思った以上に大きく、1つの選択条件になり得ることを認識していただければ、と思う。
7機種で音質をチェック
今回用意したのは次の7機種だ。
- iPhone 15 Pro Max(アップル)
- Pixel 8 Pro(Google)
- Galaxy Z Flip 5(サムスン)
- Xperia 1 V(ソニーモバイル)
- Xperia 5 V(ソニーモバイル)
- AQUOS R8 pro(シャープ)
- AQUOS sense8(シャープ)
日本でもメジャーな機種で、メーカーも複数にわたるもので、テストの日に手元にあるものを用意した形だ。
前述のように、全メーカーのベストバイを決めるような意図ではない。違いをはっきりと認識したい、という意図での選択と考えていただきたい。
テストにはあえてYouTubeでのPVを使った。
若い層の利用状況により近いこと、コンテンツが多彩であることなどが理由だ。ハイレゾ対応のデータなどで試すことも考えたが、用途とはズレてくる。
今回は、音楽としてYOASOBI「勇者」公式PVとThe Beatlesの「NOW AND THEN」、映画の例として「マッドマックス:フュリオサ」と「ゴジラ -1.0」の予告編を聴き比べている。
ナチュラルな音の「iPhone 15 Pro Max」
まずスタンダードなところということで、iPhone 15 Pro Maxからいこう。
iPhoneの場合、上部の通話時に耳が来る部分と、本体下にオーディオ用のスピーカーがついている。下側は穴が左右にあるが、正面から見て右側だけがスピーカーだ。こうした構成はスマホとしては一般的なものと考えていい。
音を聞いてみると、くせがなくしっかりした音質だ。横持ち・フル画面再生で聞いた場合、ちゃんと左右に自然な形で音場が広がり、偏ったような印象はない。音場の広さはそこまで大きく感じないが、妙な誇張があるわけでもない。
ポップな音もアコースティックな音も比較的癖なく流してくれる。映画については音場の広さと定位が意外としっかりしていて聴き応えがあるが、音量は大きめにしたほうが良さそうだ。ただ、低音を中心とした迫力は弱いように思う。
アップル製品は全体的に、絵にしても音にしても「極端な誇張」をしない傾向にある。正確に言えば、「極端な誇張がないような印象を受ける」というべきか。実際にはそこそこいじっているのだが、それを強く感じさせない。
手に持って顔に対し「スマホを正面に向けた」ときと、机に置いた時では当然音の感覚が変わる。机への音の反射により、響きが強い印象になるので、これはイマイチである感触を受けた。
本体を縦に持つと音場の広がりは小さくなる。しかし、ステレオ感も「一応」という感じだが維持される。この辺も配慮した音響設計なのだろう。
強調気味だが悪くない「Pixel 8 Pro」
次にPixel 8 Proだ。
こちらも上部に通話用、下部(右側)に音楽用スピーカーが搭載されている。
聴いてみると、iPhoneほどではないが音場もちゃんとステレオ方向に広がっており、聴感は悪くない。「スピーカーで鳴っている」らしい音、とも言える。
音楽については少し「わざとらしい」誇張が気になる。低い方の出力を補うためだろうか。映画にはそれもプラスだが、メリハリ強めという感覚はある。音場の広さも、iPhoneより少し狭めだ。
机に置いて聴いた時との差はiPhoneに比べると小さくなっているようにも感じたが、これは元々の音が輪郭強調気味であるからかも知れない。
また、縦に持った時の音の自然さはかなり落ちる。ステレオ感はかなり小さい。
総じて音質は悪くないがちょっと極端……というところだろうか。特に映画では細かい音が聞き取りづらくなるのが気になった。
「Galaxy Z Flip 5」、二つ折りでも音質は健闘
二つ折りの代表として「Galaxy Z Flip 5」も用意した。二つ折りスマホは中身が詰まっているので、どうしても他のスマホよりも不利になりやすい部分はあるのでは……と思ったからだ。
聴いてみると、これも悪くない。音が平たく、音場的にも音色的にも広がりに欠ける印象は否めないものの、聴覚自体は良い。音質自体もPixel 8 Proに比べると自然だ。音楽を聴くならこちらの方がいい。
ただ、音の広がりやステレオ感は弱い。映画の場合、これが迫力不足に通じる。縦持ちにした時もモノラル的な印象が強くなり、ちょっと弱い。
全体的に、再生音質に対する配慮がかなり感じられるが、二つ折りゆえの課題も感じられるのとなった。それが同社のストレートでスタンダードなモデルでどうなのか、ちゃんと確認すべきではあった。またこうしたチェックを行なう機会があれば、「Galaxy S」シリーズや「Galaxy A」シリーズも用意したいと考えている。
音にこだわったXperia、音質・音場ともにさすがの体験
次は日本勢から「Xperia 1 V」と「Xperia 5 V」だ。
Xperia、中でも1 Vや5 Vは「横持ちでのスピーカー音質」にこだわった設計を謳っている。それぞれ均等かつ十分な大きさのスピーカーとハウジングを搭載している。
その効果は確かに明確。
音の広がりは圧倒的で、低音も比較的しっかり出ている。iPhoneのようなナチュラルさではなく、もう少し押し出しが強い印象なのだが、だからといって極端な誇張を感じることもない。
音楽での自然な音の広がりも良いが、映画での音場の豊かさが他と大きく違う。細かく調整された各音の定位がちゃんと聞き取れる。
机に置いたときの音響の変化も小さい。おそらく低音などの出方がハウジングに依存しているので、反響が影響しづらいのだろう。
縦に持った時にはステレオ感がかなり小さくなるものの、音質自体の素性の良さはそのままだ。
比べてみると「ああ、こうも違うのか」と驚いた。
AQUOS、スピーカー音質は「もうひとがんばり」
次に「AQUOS R8 pro」。
これはどうもイマイチだ。
ステレオ感も良くないし、音も痩せている。理由はシンプルで、音声が出ている時にボディが盛大に鳴っており、エネルギーが完全に逃げてしまっている。他のスマホはそうした「鳴り」はあまり見られず、音質にも影響している印象が強い。
ボディが大きめでコストもかかっているであろうAQUOS R8 proより、AQUOS sense 8はさらに課題が大きい。音がさらに痩せていて、スピーカーで聴くのはお勧めできない感じだ。
同社はスピーカーでの音質をほとんど重視していないのだろうが、人気の機種でもあるので、もう一声努力してほしい。
味付けはメーカー次第、購入時にはできれば確認を
最後にまとめだ。
スマホは大きなスピーカーも搭載できないし、均等な大きさのスピーカーを搭載しない機種も多いので、音質補正が必須だ。
どの機種もそこで一工夫ある印象で、以前に比べると比較的ちゃんとした定位で、広がりのある音が聞けるようになっている。
その中でもiPhoneはかなりチューニングがちゃんとしている。派手さはないので単体で聞くと「こんな感じか」とスルーしてしまいたくなるが、隠れた努力をしている印象は強い。PixelやGalaxyは「味付けの違い」という感触。スマホのスピーカーで聴くというニーズを反映した「濃いめ」「強調気味」である感じはする。
そんな中、Xperiaはさすがだ。というか、今回テストした機種の中では彼らだけが「スピーカーでもいい音」を謳った製品なので、当然とは言える。特に音場の自然な広がりと低音の豊かさは特筆すべきものがある。
もちろん、それでも「スマホ」なので、オーディオ的に最高なもの……とは言えない。だが、日常的に使うスマホでもいい音が卓上で聞けるなら、それは良いことだと思うのだ。
スマホのスピーカーでの再生音を、スマホを買う段階で確認する人はあまりいないかも知れない。店頭でも確認は難しい状況だ。
だが、「スマホによって音はかなり違う」ことは知っておいてほしいと思うし、そこが気になるなら、ぜひ店頭などでちょっとだけも確認しつつ選んでほしいと思う。
そしてメーカー側も、音に対する配慮をしっかりとお願いしたい。