日沼諭史の体当たりばったり!
第24回
音を聞きながら走りたい2018。ソニー左右分離イヤフォン+GARMINスマートウォッチ
2018年8月28日 08:00
たるんだ体を引き締めるべく、ソニーのイヤフォン型トレーニングデバイス「Smart B-Trainer」を購入したのは3年前のこと(記事はこちら)。屋外・屋内にかかわらず、ランニングするときはいつも一緒で、その便利さを存分に堪能してきたけれど、やっぱり不満がないこともなかった。
一番ショックだったのは、販売開始から2年で製品自体の生産が終了してしまったこと。一度、新色が追加発売されたものの、最初から予測していた通りプロトレーナー監修トレーニングメニューのコンテンツ追加もなかったし、他社トレーニング管理サービスとの連携も終了するなど、このまま静かにフェードアウトしていく予感バリバリの過去の遺物になりつつある。
GPSとその他センサーを内蔵するワイヤレス完全防水イヤフォンとして、Smart B-Trainerはほとんど唯一無二の存在だった。今同じようなものを探しても、同等の機能を持つ単独製品は見つけることができないだろう。生産完了したからといってサポートがすぐに打ち切られるようなことはないだろうけれど、ソニー自身が後継製品をいまだリリースしていないことから考えると、ニューモデルの登場は今後も望み薄。人類はGPS搭載トレーニングイヤフォンというアーティファクトを永遠に失うことになるのだ。さみしい限り。
しかし、悲しんでいる暇があるくらいなら1kmでも多く走って脂肪の1gでも燃やせ、という話である。ソニーをはじめイヤフォンメーカーは、スポーツ向け製品にいろいろ機能を詰め込むのではなく、一定の防水性能をもたせたうえでシンプルに音楽が聞ける完全ワイヤレスイヤフォン(左右分離型ワイヤレスイヤフォン)にフォーカスし始めている。であるならば、筆者としてもそろそろトレーニング用デバイスをアップデートする頃合いだろう。
単独でSmart B-Trainerと同等の機能を実現するのは、今や不可能。なので、せめてイヤフォンと組み合わせる形でもう1つデバイスを追加し、従来とできるだけ変わらない機能・性能を目指したい。スマートフォンを携帯する必要がなく、GPSで走行ルートを記録でき、心拍を読み取って、音楽を聞きながらランニングできる、というのが最低条件だ。
この条件に当てはまりそうなデバイスとして今回試してみたのが、ソニーの完全ワイヤレスイヤフォン「WF-SP700N」(ソニーストア価格は22,880円)と、GARMINのスマートウォッチ「vívoactive 3 Music」(GARMIN ONLINE STORE価格は39,630円)。果たして、筆者の期待通りの使い勝手は実現できるのか。
ノイズキャンセリング対応イヤフォンとライフログ対応スマートウォッチ
最初に、今回の2製品がどういうものか紹介しておきたい。まずはソニーのイヤフォン「WF-SP700N」。IPX4準拠の防滴性能をもつ左右分離型の完全ワイヤレスイヤフォンで、スマートフォンなどのBluetoothデバイスと接続することで、デバイス上で再生しているサウンドを聞くことができるものだ。
ストレージは内蔵していないので外部デバイスを組み合わせる必要はあるけれど、その分サイズはコンパクトで軽量。左右合わせて約15.2gで、Smart B-Trainerに比べると3分の1ほどの重さだ。軽量なうえにスタビライザーで耳にしっかり固定できるので、ランニング時に脱落する不安はなさそう。
音楽再生時のバッテリ持続時間は3時間で、フルマラソンを走るユーザーには十分ではないかもしれないが、そこまでのレベルではない筆者にとっては十分だ。付属充電ケースはイヤフォン本体を2回満充電できる容量のバッテリを内蔵しており、旅先での使用も安心できる。
ポイントは、ノイズキャンセリング機能を搭載していることだろう。専用スマートフォンアプリ「Headphones Connect」と接続するか、イヤフォン本体のボタン操作でノイズキャンセリング機能のオンオフを切り替えられ、「外音取り込み」も可能になる。これは、音楽を再生していても周囲の会話やクルマの走行音などに気付きやすくするもの。ランニングで使う際、周囲の音を聞けるのは言うまでもなく安全面で大きなメリットがある。
もう1つのデバイスとなるGARMINの「vívoactive 3 Music」は、さまざまなトレーニングのロガーとして機能するスマートウォッチ。盤面は直径30.4mm、240×240ドットのタッチディスプレイで、スイミングにも使える防水性能をもつ。通常の時計になるのはもちろんのこと、光学式心拍センサーによるリアルタイム心拍計測ができ、温度計や気圧計も搭載している。位置計測はGPSとGLONASSに対応し、スマートフォンなどの外部機器とBluetooth接続することも可能だ。
ランニングの他にウォーキング、サイクリング、スイミング、筋力トレーニングなどのログ記録に対応。容量は少ないながらも約3.6GBの内蔵ストレージを搭載し、専用のPCソフト「Garmin Express」を介して音楽ファイルを時計本体に転送できる。Bluetoothイヤフォンと接続すれば、スマートフォンなしにトレーニングしながら音楽を聞くことができるわけだ。
Smart B-Trainerと機能を比較してみる
今回目的としているのは、WF-SP700Nとvívoactive 3 Musicの2製品が主にランニング用途で快適に使えるかどうかの検証だ。そこで、ひとまずSmart B-Trainerも含めた3製品について、ランニング用途に関係しそうな機能と仕様を以下の表にまとめてみた。
この表で見る限りは、WF-SP700Nとvívoactive 3 Musicを組み合わせることで、Smart B-Trainerと同等以上の機能を実現できることがわかる。前者の組み合わせの優れているところとしては、もちろんディスプレイを備えており、時計として使えること。vívoactive 3 Musicはトレーニング以外でも普段から身に付けていて違和感がなく、現在の歩数や心拍、過去のトレーニングの記録を好きな時に画面上で確認できるのがメリットだ。
WF-SP700Nはノイズキャンセリングと外音取り込みが目玉機能で、これについてはSmart B-Trainerの太刀打ちできない部分。しかし、内蔵メモリの大きさはSmart B-Trainerの圧勝で、保存可能な楽曲数の目安は3,900曲。PCで管理している音楽ライブラリをそのまま丸ごと保管できそうだ。とはいえ、vívoactive 3 Musicも500曲保存できるとしているので、ランニング中に聞くという用途に限れば十分と言える。
防水性能は、完全に水没させても問題ないスイミング対応のSmart B-Trainerに軍配。vívoactive 3 Music単体であればスイミングも可能だが、防滴性能に止まっているWF-SP700Nは使えないのでトレーニングを記録するだけとなる。まあ、今回の場合そもそもスイミングで使うことは想定していないわけで、汗が付着しても問題なく、軽く水洗いできる防水性能さえあればそれでOKなのだが。
なお、この表にはないvívoactive 3 Musicの注目の機能として、時計をかざして決済できる「Garmin Pay」が挙げられる。できるだけ現金などかさばるものを持ち運びたくないランニング中、休憩で飲み物なんかを買いたいときに時計をかざすだけで購入できる姿は理想的だ。けれども、今のところ「三菱UFJ-VISAデビット」のみの対応で、ほとんどのユーザーにとってはメリットがないのが残念だ……。
ランニング前の準備におけるメリットとデメリット
では、実際にWF-SP700Nとvívoactive 3 Musicを同時に使ってみてどうだったのか。1つ目のポイントとなるのは、「ランニングを始めるにあたって準備が面倒ではないか」という点。
筆者の普段の用途は、30分間のランニング。このトレーニングをこなすことを前提にすると、Smart B-Trainerでは、あらかじめスマートフォンアプリからトレーニングの内容(30分間のランニング)を本体に転送しておく必要がある。ただトレーニング内容はほとんど変えることがないので、一度転送してしまえば、その後は電源を入れて本体を耳に掛け、スタートボタンを押して走り始めるだけ。それだけで、30分間のログ計測と、内蔵メモリに保存している音楽の再生が同時にスタートする。
一方、WF-SP700Nとvívoactive 3 Musicでは、デバイスが2つになるため準備の手間は少し増えることになる。装着自体は気になるほどではないけれど、ランニング中に音楽を聞くには走り始める前に2つをペアリング(再接続)しておかなければならない。
一度ペアリングすれば、その後切断されてもvívoactive 3 Musicの画面上で楽曲再生ボタンを押すだけで再接続されるのだけれど、ペアリング設定がまれにリセットされたり、直前までスマートフォンと接続していると再接続がうまくいかないこともあって、なかなかランニングを始められない、なんてことになったりする。
また、あらかじめ登録したワークアウトの設定でトレーニングを開始するには、本体側面のボタンを押し、表示されるアクティビティ一覧から選んでもう一度ボタンを押す、といった操作も必要。しかもトレーニング開始に合わせて音楽が自動再生することはないので、トレーニング開始前に手動で音楽を再生する必要がある。これは正直、面倒だ。
ただし、vívoactive 3 Musicでは、何も操作しなくても一定時間ウォーキングやランニングすることでそれを自動認識し、トレーニングを自動的に記録する機能も備えている。例えば1分間ランニングすれば、トレーニングしているかどうか画面に確認ダイアログが表示され、画面タップで了承するとトレーニングが1分前からスタートしたとみなされる。音楽はいずれにしろ手動再生する必要があるとはいえ、この自動記録のおかげで、空いた時間に短い距離でもランニングしてみようか、という気分になる。
ランニングの最中から終了するまでに感じた問題点
位置計測は、vívoactive 3 Musicがかなり高速だ。屋外に出たばかりでも、長くて十数秒程度で位置計測の準備が整うため、先述の手間はあっても結局のところ走り始めは早い。Smart B-Trainerの時は、設定や状況によってGPS電波をつかむまで数分間待つこともあり、ゆっくり準備運動してからスタートしても、後からデータを見ると走行ルートが途中から始まっていた、なんてことが何度もあったのだ。
しかし、ここで問題になったのがWF-SP700Nのノイズと音切れ。どうやらvívoactive 3 Musicが位置情報を取得する際にBluetooth通信、あるいは左右イヤフォンの通信が不安定になるようで、盛大にノイズが混入したり左右交互に音が途切れたりする。トレーニング開始前、もしくは開始後1〜2分の間にも数十秒間この現象が発生することがあった。機器の相性もあるのかもしれないが、気になるところだ。
それを過ぎれば、あとは快適そのもの。WF-SP700Nは、小柄なボディに似合わず輪郭のくっきりした低中音域が印象的だ。ノイズの多い屋外でもかき消されることはなく、バランスの良いサウンドを聞かせてくれる。Smart B-Trainerの内蔵メモリから再生したときほどのダイナミックレンジの広さはないが、屋外で一生懸命ランニングしている間にそれを感じることはない。
ノイズキャンセリングをオンにすれば音楽に集中してひたすら走れる。ただ、屋外の場合はできるだけ「外音取り込み - ノーマルモード」を選んだ方が良いだろう。曲を楽しみながらも、後方から近づく車両の音や気配も感じることができ、昼も夜も安全にランニングをこなせるはずだ。
装着しているのを忘れてしまいそうになるほど圧倒的に軽いのもうれしい。スタビライザーでしっかり固定されているので、汗をかいても振動で脱落する不安は感じないし、小さな左右分離型のイヤフォンということもあって、タオルで汗を拭くときも耳周りまで遠慮なくゴシゴシできる。
Smart B-Trainerだと、汗を拭くときに左右をつなぐケーブルに触れてズレてしまい、イヤフォンに内蔵している心拍センサーが正しく心拍を検出できなくなって装着し直す、というトラブルが幾度となく発生していた。一時的とはいえ計測が途切れるのは気持ちのいいものではない。
vívoactive 3 Musicも、ランニング中に気になる重さを感じることは一切ない。一定距離または一定時間経過ごとに通知される走行ペースは、Smart B-Trainerのような音声ガイダンスではなく、時計盤面への表示のみとなる。最初は少し戸惑ったけれど、再生中の音楽が中断(フェードアウト)されず、バイブレーションで気付けるので、使っているうちにvívoactive 3 Musicの方が断然違和感が少ないと思うようになった。
30分のランニングが終了したときの挙動も、Smart B-Trainerとvívoactive 3 Musicとで違いがある。Smart B-Trainerでは記録が自動継続されるため、実際にランニングを終了するときにボタンを押して終えることになる。vívoactive 3 Musicの方は30分経過時に一時停止されるため、まだゴールが先のときはボタンを押して継続しなければならない。
この点は、個人的には自動継続して欲しいところだった。屋内ならともかく、屋外でランニングする際、自宅を出発後30分きっかりのタイミングで戻る絶妙なルートとペースで走れることはまずないからだ。自宅に向かう途中で30分経過しても、いずれにしろ自宅までは走らなければならず、その間記録されないのはもったいない。30分+α走り続けるのがデフォルトであることを考えれば、記録を再開するのにいちいちボタン操作しなければならないのは面倒なのだ(自動で一時停止した後、手動で再開するまでの数秒のロスも気になる)。
高機能な1台よりも機能を絞った2台で、普段使いにも活用したい
位置情報取得時のノイズや音楽の手動再生、ランニング終了時の処理など、いくつか細かい部分で気になるところはあっても、WF-SP700Nとvívoactive 3 Musicの組み合わせは、デバイスが2個に増えるという点を考慮に入れても、最新デバイスなりの使い勝手の良さが感じられる。
ランニングの結果は走行ルートやペース、ピッチなど、これまでとほとんど同じように記録される(もしくは、より詳しく分析できる)ので、機能面での不足はない。vívoactive 3 MusicはWi-Fi接続も可能で、ランニング終了後は自動で自宅Wi-Fi回線からインターネットに接続しデータを同期(アップロード)してくれるのもすばらしい。わざわざスマートフォンとBluetoothで接続する必要すらないのだ。
こうしたデバイスはバッテリ持ちが不安要素の1つではあるけれど、vívoactive 3 Musicは30分のランニング1回でだいたい10%の消費。心拍数や歩数を計測するのに普段から身に付けていたとしても5日間は充電なしで動くし、電池残量をあまり気にせず長くライフログを残せるのもありがたい。
WF-SP700Nはとにかく小さく、軽量で、耳への固定力も高いのが利点。ランニング中に汗をかいても滑って脱落する不安が少なく、心拍などのセンサー類もないシンプルなイヤフォンなのでズレも気にならず、余計な体力を使わずに済むからストレスもない。ペースやタイムを意識しながら走りたい人にとっても、装着感の薄い低ストレスなWF-SP700Nは最適な製品ではないだろうか。
2つのデバイスでできることを、ほとんど1台でまかなっていたこれまでのSmart B-Trainerは、ずいぶん高機能だったのだなあと改めて感じたりもする。けれども、1つの統合された製品にこだわって不都合が増えたり陳腐化が早まるよりは、機能を分散させて複数のデバイスでリスクヘッジするのもアリなのかもしれない。
特に今回のようなイヤフォンとスマートウォッチは、それぞれ単体でも普段から便利に使えるアイテムだ。Smart B-Trainerはバッテリが切れればそこでランニングの記録も、音楽再生もできなくなるが、2つのデバイスに分かれていれば、当然ながらどちらかのバッテリが残っている限り、何かしらの機能は使える。ランニング用としても普段使い用としても、WF-SP700Nとvívoactive 3 Musicのセットは今のところベストの組み合わせではないかと感じているところだ。
WF-SP700N | vivoactive3 Music |
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