藤本健のDigital Audio Laboratory
第977回
新生aiwa“誰でも演奏できちゃう”電子楽器「aiwa play RX01」って何モノ?
2023年3月20日 09:19
aiwaブランドのユニークな電子楽器「aiwa play RX01」が、3月15日に37,800円で発売された。楽器が弾けない人や音楽的な知識が全然ない人でも、2~3分練習すれば自由に弾けるようになるため、最新のヒット曲だって本格的サウンドで伴奏を演奏できてしまう、まさに大発明といっても過言ではない楽器だ。
開発したのは作曲家・ミュージシャンである“ゆーいち”こと永田雄一さん。「あれ? この楽器、見たことある?」と思う人も少なくないと思うが、実は2020年にクラウドファンディングを行ない7,900万円を集めて成功した「インスタコード」という楽器がベースになっている。
先日、このaiwa play RX01の発表会に行ってきたので、このaiwa play RX01とはどんな楽器で、なぜaiwaが製品を発売しているのか。そして、すでに発売されているインスタコードとは何が違うのか? などを紹介してみよう。
aiwaはaiwaでも、テレビやラジオの会社とは別な“aiwaデジタル”
まず、細かい説明する前に、ゆーいちさんがaiwa play RX01を演奏する、こちらの動画をご覧いただきたい。
いかがだろうか? これは机の上に置いて弾いていたわけだが、ギターのように抱えての演奏がこちら。
2つの動画を見て、「こんなの難しそうで、自分に弾けるわけがない…」なんて思ったかもしれない。しかし、参加した発表会「aiwa play RX01プレス体験会」には、さまざまなメディアの記者が集まっていたが、その人達も2~3分の練習で、The Beatlesの「Let it be」が弾けるようになっていた。
それほど、誰でも簡単に弾けるようになるのは、まさにこれが発明品といえる証拠(そのUIは国際特許を取得しているらしい)。では、何がどう発明なのかというと、曲の進行に合わせて1、2、3といった指定された番号のボタンを押して右のパッドをジャラ~ンと弾いたり、叩いたり、つま弾いたりすれだけで演奏できる仕組みになっているからだ。
楽器の演奏は、完全自動=シーケンサを使うという手法が確立されているが、これだとユーザーは演奏している感覚は得られない。しかし、このaiwa play RX01は、左手でボタンを押して、右手でジャラ~ンとすることで音を鳴らすことができるため、まさに弾き語り体験を実現でき、自分で演奏している感覚を得られるのだ。
実は筆者自身はこのaiwa play RX01の前身というか、上位機種であるインスタコードを2020年のクラウドファンディングで購入しており、お気に入りの楽器として頻繁に使っている。筆者個人的にも、まさに大発明だと思っており、使っているのだが、今回そのインスタコードの弟分が誕生した、という恰好だ。
そのインスタコードはホワイトかメタリックグレーの2色だったのに対し、aiwa play RX01はグレー。色は異なるが、見た目も形も大きさもほぼ同じだ。
リチウムイオンバッテリー内蔵で電源を入れれば、内蔵スピーカーで、すぐ演奏できるのも、そして使い勝手もまったく同じ。価格的にはインスタコードが(当初から何度かの値上げが実施された結果)42,900円なのに対し、aiwa play RX01は37,800円と、5,100円安くなっている。この5,100円の違いの詳細は後ほど紹介するが、一部機能差が設けられている。
実際の機能の話に入る前に、aiwaブランドについて少し現状を紹介しておこう。ご存じのとおり、aiwaは歴史ある日本の会社で、設立は1946年。1969年にソニー傘下に入っていたので、ソニーの子会社として、手軽な価格で買えるオーディオ機器メーカーとしてご存じの方も多いはずだ。
しかし、2002年にソニーに吸収合併されて、会社としては消滅。ソニーの1ブランドという扱いになったものの、2008年にはいったんブランドとしても消滅した。
が、その後2015年にアメリカでaiwaブランドが、まったく別会社によって復活。さらに2017年に、日本の十和田オーディオが北米・南米以外のほぼ全世界でのaiwaブランド商標権をソニーから取得。現在は十和田オーディオの子会社としてアイワ株式会社が設立され、AV機器などがaiwaブランドで発売されている。
が、そのアイワ株式会社が2022年にデジタル分野でのaiwaの商標利用権を、JENESIS株式会社に付与。その結果、JENESISがaiwaデジタルブランドでタブレットPCなどを発売していたが、今回新たにaiwa play RX01を発売した形だ。
つまり、現在aiwaブランドとしてラジカセやテレビ、Bluetoothスピーカーを出しているメーカーとは、まったく別会社の製品だし、もちろんソニーとは資本的にも、人事的にも、技術的にも関係なく、aiwaというブランド名とロゴを引き継いでいるというわけなのだ。
発表会であいさつに立ったJENESIS 取締役COOの栗原理氏によると「JENESISはJNSホールディング株式会社の100%子会社で、IT・電子機器の設計開発、製造を行なっている会社です。約300人の社員がいるなか、代表を含め、200人が中国の深センにおり、各社へのODM事業を中心に、メーカーとしての事業展開をしています。ODM事業で、広く知られているのがソースネクストが販売するAI翻訳機『ポケトーク』。また回転寿司オーダー端末やタクシー専用デバイスなどの開発も行なってきました。そうした中、2022年にaiwaブランドを引き継ぎ、新生『aiwaデジタル』として始動。今回のaiwa play RX01も、そのaiwaデジタルブランドでの発売となりました」と話す。
でも、なぜ、ゆーいちさんが手掛けてきたインスタコードの弟分がaiwaブランドで発売となったのだろう? 実は、2020年のクラウドファンディング実施のときから、JENESISに製造を委託しており、クラウドファンディングでの返礼品として機材はもちろん、その後ネット直販、楽器店経由での販売なども含め、インスタコードはすべてJENESISで製造されてきた、という経緯がある。
ゆーいちさんとはクラウドファンディングスタート前のタイミングから、いろいろとやりとりさせていただいていたが、コロナ禍の中、電子部品の極端な供給不足で製造にかなり苦労されていた話は伺っていたし、JENESISとのやり取りの話も聞いていたので、ついにメジャーデビューのところまでやってきたんだな、という思いもある。
アコースティックギターやピアノ、シンセサイザなど20音色で演奏可能
さて、ではそのaiwa play RX01、インスタコードの機能、使い方についての話に戻ろう。
番号を押して、右のパッドを弾くという弾き方を前述したが、実はコードを数字に置き換えている、というのが基本原理としてある。ここで下図をご覧いただきたい。
左のように歌詞にC、F、Gm…といったコードが振られていると、ギターや鍵盤での演奏ができるわけだが、楽器に慣れていない人にとっては、そこが難しい。
そこで、インスタコードでは、これを右のような数字に置き換えている。この際、Key設定というものを行なうのもポイント。この数字のことをKANTANコードと呼んでおり、これを世界的に広めていきたい、とゆーいちさんは話す。
もっともこのKANTANコードの数字自体、荒唐無稽に出てきたものではない。普通に音楽でも使われているものだ。
小中学校で、Iの和音、IVの和音、Vの和音…などと習ったことを覚えている人も多いと思うが、CのコードがIの和音で1、FのコードがIVの和音で4…としているだけなのだ。もちろん、コードはメジャー、マイナーがあるほか、7th、9th、sus4、dim…といったものがあるが、1のボタンを押しながらsus4のボタンを押せばC sus4になるなど、幅広いコード展開が可能になっている。
また1~9のボタンは電卓などと同じテンキー配列なので、わかりやすいし、デフォルトでは1~7がCメジャースケールのダイアトニックコードとなっているので、何も知らずに、適当に押して弾いても、それっぽい音楽になるというのも楽しいところ。
しかし問題は、CとかFとかのコードを1や4といった数字のKANTANコードへ置き換えるのは誰がするのか、置き換わった情報をユーザーはどうやって入手するのか、ということ。
この点も非常によく考えられており、最新のヒット曲も含め、著名な楽曲はほぼどれでもKANTANコードが入手できるようになっている。「KANTANコード」(旧名称InstaChordizer)というiPhone/Androidアプリおよび、Chrome/EdgeおよびFirefox用のプラグインが出ており、これをインストールの上、「U-フレット」、「楽器.me」、「J-Total Music」、「ULTIMATE GUITAR TABS」の各コード譜サイトに行くと、自動でKANTANコードに変換してくれるようになっている。
そのほかにも、誰でも簡単に楽しめるように逆カラオケというKANTANコードが表示されるYouTube動画が数多く用意されていたり、楽譜やコード譜からKANTANコードに変換するための説明が用意されているなど、かなり丁寧なフォローがされている。
そしてaiwa play RX01のユニークなところが、さまざまな音色で演奏できる事。具体的にはアコースティックギター、エレキギター、ウクレレ、ピアノ、オルゴール、オルガン、シンセサイザ……など20音色での演奏が可能になっている。
音色によってパッド部分をはじくのか、叩くのか、押さえるのか、触れるのかなど奏法が異なるのも楽しいところ。またボタンを押すとシンセサイザが鳴り、さらにパッドを弾くと重なる形でエレキギターが鳴る…といったプリセットも用意されている。
この音色部分がaiwa play RX01とインスタコードの違いが出ることの1つ。インスタコードのほうは、標準で128音色備えているので、より多くのバリエーションの音を鳴らすことができるのだ。
さらにインスタコードには演奏モードの選択という機能がある。右利き、左利きの人に合わせてボタン、ディスプレイの配置を変更したり、ギターのように抱えて弾くか、デスクトップに置いて演奏するかの選択ができるようになっているのに対し、aiwa play RX01のほうは右利きでギター風に弾くモードのみとなっている。
そしてもう一つ異なるのが、MIDI機能。インスタコードをUSB Type-CでPCと接続すると、PC側からはMIDIポートとして見えるため、DAWと連携して使うことができる。さらにBluetooth-MIDI機能も装備しているので、Bluetooth経由でのMIDI接続も可能なのだ。
ちなみにインスタコードは、リリース時から今日までの間、ファームウェアのアップデートを繰り返すとともに、さまざまな機能を追加して進化してきている。実は、このaiwa play RX01が発売された3月15日にも新バージョンとなるファームウェア、1.7.0が公開されている。今回のバージョンは大型アップデートという位置づけでコード演奏だけでなく、メロディ演奏に対応するとともにドラム演奏も可能になっている。こうした機能もインスタコードのみの機能で、aiwa play RX01には備わっていない。
こうした違いが5,100円の違いなので、どちらを選ぶかはユーザー次第だろう。
DTM系のユーザーであればインスタコード一択だとは思うが、これまで楽器を弾くことに憧れていたけれど、自分には才能がなくて……なんて思っていた方なら、手ごろな価格で買えるaiwaブランドのaiwa play RX01はお勧めの楽器だ。