レビュー

デノン、マランツ、WiiMで理想のデスクトップ環境作り。USB DACでPCオーディオをリッチに

左からマランツ「Model M1」、「WiiM Vibelink Amp」、「Denon Home Amp」

PC用に愛用していたオーディオアンプが壊れた。よって推しの声をスピーカーから再生できなくなり、毎日長時間のヘッドフォン装着を強いられることに。

元々の頭痛持ちも災いして、流石に生活にも支障が出始めたので、急遽注目の小型プリメインアンプを招集。WiiM「WiiM Vibelink Amp」、「Denon Home Amp」、マランツ「Model M1」の3機種をお借りした。

ところがこの3台、PCとの接続時に使いたいUSB DACは搭載していない。というか、この3機種に限らず、最近の小型プリメインアンプのほとんどがUSB DAC非搭載に。以前は搭載モデルが多かったのに、なんてこった。

筆者の目的は「PCから音を出すこと」。YouTubeなど、テレビ向けのアプリがあるサービスであれば、そちらのシステムで鑑賞できるのだが、PCのブラウザでしか視聴できないライブ配信や、複数の映像を同寺に見たい時は、PCが便利。そのためにはUSB DACが必要不可欠なのだ。

そこで、USB DACとヘッドフォンアンプ兼ね備えたiFi audioの「ZEN DAC 3」も用意。これらを組み合わせてPCの音を愛用のパッシブスピーカーで再生して、ちょっとリッチなデスクトップオーディオ環境を作り上げるのが今回の目的だ。

小型で使い勝手の良いUSB DAC「ZEN DAC 3」

iFi Audio「ZEN DAC 3」

USB DACにZEN DAC 3を選んだ理由は、サイズ感とUSBバスパワーでも使えるという点。音質をさらにグレードアップしたい時はACアダプタを買い足して給電もできるのだが、どちらでも使える点が嬉しいポイントだ。

写真でわかるように、非常にコンパクト。このサイズだったら、空きスペースが少ない机まわりの設置もそこまで苦労しないだろう。ACアダプタで給電していても、USBの通信が切れると電源が自動でオフになるところも使い勝手が良い。

PCM 768kHz/DSD 512の再生とMQAのフルデコードに対応。入力はUSB-Cで、ヘッドフォン出力も搭載。最大出力パワー390mWの4.4mmバランスと6.3mmシングルエンドに対応し、ヘッドフォンアンプとしても優秀だ。価格は44,000円前後。

小型でシンプルな見た目で使い勝手も良い

開放型ヘッドフォンの低域不足をアナログ回路で補正する機能XBass+や、ヘッドフォン・イヤフォンにあわせて適切なゲインを選択可能なPowerMatch機能も搭載しているが、今回はUSB DACの部分を使う。

ライン出力は固定・可変出力が切り替え可能で、4.4mmバランス出力とRCA出力を備えており、4.4mm to XLRケーブルなどを用いれば、XLR入力を搭載した機器にも使用できる。今回は3機種ともRCAで接続している。

ということで、このZEN DAC 3を軸にしつつ、3つのアンプを使ってみる。

合わせてるスピーカーは古いモデルだが、パイオニアのピュアモルトスピーカー「S-A4SPT-PM」だ。

シンプルで使い勝手は最高「WiiM Vibelink Amp」

WiiM Vibelink Amp

今回選んだ3機種で一番価格的にもお手頃(52,800円前後)なのが、WiiM Vibelink Amp。WiiM MiniやWiiM Proなど、パワーアンプ非搭載のストリーマーと接続することでパッシブスピーカーを鳴らせるようになるシンプルなパワーアンプ。

同軸デジタル、光デジタルのデジタル入力を備え、ESS製プレミアムDAC「ES9039Q2M」を搭載して、192kHz/24bitまでのハイレゾオーディオの再生に対応。TI製アンプチップ「TPA3255」、TI製オペアンプ「OPA1612」を6個搭載し、超低歪みと低ノイズを実現した解像度の高い音を再生できるのが特徴としている。

クラスDアンプを搭載しており、8Ωでチャンネルごとに100Wの電力を供給し、歪みを最小限に抑えた自然な音が楽しめるとのことだ。今回はZEN DAC 3とRCAでアナログ接続するので、実力を発揮してもらうのはこのアンプの部分だ。

スピーカー出力部分は、バナナプラグの差し込み口が搭載されているのだが、付属品の中にケーブルを挟んでバナナプラグで接続できるパーツが入っているので、バナナプラグを別途購入して、といったことはしなくて大丈夫だ。

スピーカー出力がバナナプラグのみ
スピーカーケーブルを挟んで使えるバナナプラグが付属している
付けるとこんな感じ

スピーカーとの接続を済ませて、ZEN DAC 3ともRCAケーブルで繫いだら、電源を入れて前面のボタンでRCAを選択すれば、あとはPCで音が出るコンテンツを再生すればそのまま音が出る。難しいことを一切考えなくて良いので楽だ。

デスクの上に置いても収まりが良い
前面はボリュームと入力切替のみ

筆者はよくYouTubeの配信をラジオ感覚で流しているのだが、人の声が明瞭に聴こえる解像感の良い音で、かつ中低域も厚めなので、女声も男声もしっとりとした聴きやすい。求めていた音がそのまま出てきて「あれ、これで良いのでは?」と一瞬即決しかけた。

今回使っているスピーカーが元々少し固めな音ではあるのだが、中低域までしっかり押し出してくれて、その旨味を引き出してくれているのを感じる。画面の中央から音が出ているような音場感もしっかりと持ち合わせていて、音楽再生もスピーカー再生ならではの全身が包まれるような音場感もしっかり味わえる。

WiiMのストリーマーとの組み合わせが想定されたパワーアンプではあるのだが、今回のようにUSB DACを繫いでPCと接続すれば、PCがプレーヤーの役割を果たしてくれるし、このあとの2機種と比べたらほぼ半額というコストパフォーマンスの高さが魅力だ。低価格ながら、デスクトップ上でのシンプルな使い勝手と、クオリティをしっかりと兼ね備えている。

ちょっと残念だったなのは、サブウーファーの出力がついていないこと。PCにDACとアンプを繫いでデスクトップ環境を作っている主な理由が、テレビ側で観られない配信ライブを観るときのためだったりする。普段の配信や、BGM的に音楽を流す際には全然問題ないのだが、ライブ映像となると、ブックシェルフスピーカーだけでは若干低域が物足りなく感じられた。そこを除けば、今回の条件だけで見ると最適解に感じるアンプだ。

見た目の高級感と部屋を包むような低域が良いマランツ「Model M1」

Model M1

次にAV Watchでは何度も取り上げているマランツ「Model M1」。今回の3機種では一番高価な154,000円。量販店では約120,000円程度になっているようだ。小型ながらフルサイズのHi-Fiアンプに負けない音質を実現したというモデルで、HEOS Built-inによるネットワークオーディオ機能、Bluetooth、光デジタル入力、RCA入力に加えて、eARC/ARC対応のHDMIも備えている。

オランダのAxignというClass Dアンプのソリューションを採用しており、2chアンプながらClass Dアンプを4ch分内蔵し、内部でBTL接続にすることで100W(8Ω)の出力を実現しているのが特徴。天板がステンレス製のメッシュになっているが、これは見た目だけでなく、高い放熱性と音質的にも「開放感に優れた空間表現を可能にする」とのことだ。

端子部。こちらはHDMIやUSBメモリからの再生用のUSB端子、LAN端子、サブウーファー出力も付いている

先程のWiiM Vibelink Ampと異なり、ネットワークプレーヤーの部分が主軸になっているので、セットアップもModel M1を有線かWi-Fiでネットに繋ぎ、HEOSアプリから行なう必要がある。

これがサクッと一発で完了すれば言うことなしなのだが、有線でネットワークに繋ぎ、アプリから促されたアップデートに従うと、途中で接続が途切れ、本体の黄色ランプが点灯。Webの取扱説明書で調べてみると、この黄色ランプの点灯は「ネットワークが見つからない」というサイン(有線で繫いでいるのだが……)。ちなみに黄色ランプが点滅の場合はアップデート中。そして薄暗い黄色ランプ点滅がネットワーク未接続のクイックスタートモード、ということで、ランプの光り方の意味を覚えていないと、現在の状況がわかりにくい。

こういう時は再起動だ。電源を一度抜いてみる。ケーブルを引っこ抜くのに一瞬ためらったが、電源ボタンがないので仕方ない。再起動したところ、問題なくネットワークに接続されて、アプリにModel M1が表示された。シンプルなデザインは良いのだが、利便性という面では本体にディスプレイも欲しい。

こちらもZEN DAC 3とRCAで接続しているため、HEOSアプリのソース選択でLine inを選択。これでPCの音がスピーカーから出力されるようになる。デスクトップ上に置いての使用でも、この辺りの操作はスマホから行なう必要がある。リモコンも欲しいというのが正直なところだ。

設定や操作は全てHEOSアプリから行なう。このあとのDenon Home Ampもここは一緒だ

だが音質面では、やはり再生される音のクオリティが段違いだ。このスピーカーってこんなに低域出たんだ? と思うほど、迫力のある音が出る。ライブ映像を再生しても、サブウーファー無しで満足できるほどの低域に包まれる。今回のような、デスクトップでのニアフィールドリスニングでは、ちょっと出過ぎとも思うくらいだ。

マランツのロゴが目立つのが良い
ちなみにZEN DAC 3は撮影のためにModel M1の上部に置いているが、使用時は移動させている

同じスピーカーで同じ配置なのに画面の奥から音が出ているように聴こえるので、YouTubeの配信を流しているだけでも、画面の向こう側の存在感が生々しく感じられる。そのため、これで好きなコンテンツを観ると、「やっぱりアンプにもちゃんとお金をかけてしっかりした環境を作ろう!!」という気にさせてくれる。そんな存在だ。

デスクトップ上だと便利なクイックセレクト「Denon Home Amp」

Denon Home Amp

結論から述べてしまうと、今回もっとも気に入り、実際に購入したのがこの「Denon Home Amp」だ。価格は121,000円だが、量販店などでは99,000円前後で販売されている。

Denon Home AmpもModel M1同様、AxignのClass Dアンプソリューションを使った、BTL接続の100W(8Ω)出力。だが、アンプ部の作りや基板のパターンも異なっていたり、国内の白河工場で作られているModel M1に対して、こちらはベトナムの工場で作ってコストを抑えているなどの違いがある。機能面はほぼ同じだ。

こちらは天面にロゴがある
レイアウトは違うが、搭載端子もModel M1と共通

HEOSアプリで操作や設定をするのもModel M1と同じだ。たまにネットワーク上で見失う事もあった。執筆中にもアップデートが来たので、適用したらネットワークに繋がらなくなったりもしたが、再起動したら繋がった。

ちなみにクイックスタートモードになってる場合、光デジタル接続やHDMI接続であれば自動的にアンプが起動して、音を出すことはできる。一方で、今回の筆者のようにアナログ側のRCAを使っている場合は、ボタンをタップするなどして、一度アンプを起動してからでないと音が出ない。この辺もModel M1とHome Ampで共通だ。

デスクトップでの使い勝手では、ちょっと難点もあるが、このアンプを選んだのは、やはり「音がしっくりきた」からだ。Model M1と、音質面でどちらが優れているというよりも、単純に「Denon Home Ampの音が筆者の好みだった」ということだ。

Model M1の方は、低域がずっしりとしていて、前述の通り、今回のデスクトップ上の環境では少し低域の圧が強いなと感じられた部分があった。逆に、スピーカーがある程度離れた位置にあれば、逆に余裕のある低域により、没入感のある音が楽しめそうだ。

Home Ampは、ニアフィールドでのバランスが良かったという点のほか、前に使っていたアンプがデノンの「PMA-60」だったので、同じサウンドマスターがチューニングした、似た雰囲気の音作りだったというのもある。かつ、その路線でさらに中低域がリッチに響き、音が画面の奥から聴こえるようなリアルな立体感も兼ね備えていた。これが、自分に刺さった要素だ。

そして、やはり“推しの声の聴こえ方”が決め手となった。もちろん、別人と思うほど変わるわけではない。それでもやはりしっくりくる聴こえ方があるのだ。ちなみに今回は写真の通り、おかゆん(猫又おかゆ)のカバー曲「少女A」を延々流し続けて聴き比べたほか、執筆期間中はおかゆんがちょうど2カ月のお休み期間に入ってしまっていたので、アーカイブをひたすら再生して聴き比べた上でHome Ampに決めた。

置いてみるとなんかシンプルに馴染んだ
こちらも実際の使用時はZEN DAC 3は別の場所に移動させている

推しの他にも、YouTubeの配信を複数同時に流していることが多いので、そこから出るたくさんの音がちょうど良く全て聞き分けられる音であることも、音選びの基準として考えている。ちなみに3機種とも解像感が良く、違いの聴き分けはすんなりできたのだが、その中でもとくに理想的に感じたのがHome Ampだった。

機能面でも、本体にクイックセレクトボタンを備えていることも刺さった。このボタンはアプリでカスタマイズ可能なのだが、ボリューム設定も記憶できるため、今回はソース分は全てLine inにして、ボタン「1」に夜でも聴ける小音量、「2」に普段の音量、「3」にライブ配信を聴くときの少し大きめの音量を設定した。これで、アプリをわざわざ開いたり、本体の±ボタンを連打しなくてもワンタップでそのときに合わせた音量にできて、これがけっこう便利だ。

アプリもHEOSなのでほぼ同じ。違いはクイックセレクトボタンで、「Quick Select 1/2/3」を長押しすると現状の設定を登録。本体の1/2/3ボタンで呼び出せるようになる

サウンドモードをDirectにしておくと、PCからAmazon Music unlimitedを排他モードで再生するのと、HEOSアプリから再生するのとで音質の違いも感じられない。音量を同じ数字にしていても、HEOSで再生したときの方が少し大きめの音で聴こえるというくらいだ。この辺はModel M1も同じだ。

実際にZEN DAC 3とHome Ampの組み合わせで購入して、しばらく使っているのだが、デスクトップ環境として満足度が高い。ZEN DAC 3はPCをシャットダウンすれば自動的に電源がオフになり、Home Ampも無音の状態が続くと自動的にスタンバイモードになるので、物理ボタンで電源を落とす必要がないところが結構気に入っている。

RCA接続では、信号入力で電源が入ってくれないので、本体のボタンに触れる必要があるが、そこはデスクトップ使用なのでそこまで手間には感じておらず快適だ。まあ、液晶タブレットも設置しているので、クイックセレクトボタンに触る時は一度立つ必要はあるが、全然許容範囲だ。

なお普段は手前に液晶タブレットがあるので、見栄えの点は全然影響しない。スピーカーの配置も一応液タブを考慮してセッティングしている

DAC+アンプで理想の推しの声が出る環境に!! そして……

数年前であれば、こういった机に置けるサイズ感のアンプやミニコンポには、USB DACが内蔵されており、手軽に買えた印象だったのだが、アクティブスピーカーも充実してきたためか、DAC内蔵のアンプの需要が減ってきているようだ。

一方で、ヘッドフォンアンプに関しては、スマホから直接繫ぐ目的もあって、基本的にUSB DACが内蔵されていることが多くなっている様子。ちょうど自分の求めている条件は、一般的にはもう層の薄い中途半端なものとなってしまったのだと思う。

アンプに求められる追加機能がUSB DACからストリーマーに変化している。「PCでハイレゾなどの音楽ファイルや配信の音楽を聴く」人が減り、「PCレスで音楽配信を楽しむ」時代に変わりつつあるのだろう。

ただ、お金をかけてUSB DACとプリメインアンプを個別に購入すると、その分、音もしっかりクオリティが上がるし、組み合わせを選ぶ楽しさもある。以前のプリメインアンプ「PMA-60」の音でかなり理想的な環境だと思っていたのだが、刷新した現在のシステムでは、気に入っていた“人の声の聴こえ方”はほぼそのままで、さらに低域まで出るようにグレードアップしたサウンドになり、永くこの音を楽しみたいと思っている。

ちなみにこのZEN DAC 3とDenon Home Ampの組み合わせでのスピーカーサウンドに満足していたら、今度はヘッドフォンアンプ「Q7」のバッテリーが膨張。バッテリーを通さないDCモードで使ってたのに!! ……ということで、次回はヘッドフォンアンプを選びます。

野澤佳悟