レビュー
「AVアンプでオーディオ」から、ラックスマン2chアンプ買ったら“たまげた”
2022年1月7日 07:30
スピーカーで音楽を聴くとき、どんなアンプを使っているだろうか。筆者は、オーディオを好きになってかれこれ24年、ずっとAVアンプでのみ鳴らしてきた。リアルな話、単品のスピーカーを購入しても、鳴らすのは小型のデスクトップオーディオ向けのアンプか、AVアンプという方も多いのではないだろうか。
昨今のAVアンプはフロント2chの音楽再生能力も高く、ネットワークに対応していたりと機能性も高い。筆者も長らくAVアンプでのドライブに大きな不満もなかったのだが、その他のシステムが古く、最新のハイレゾフォーマットにも対応できない状況で、そろそろ大胆にリニューアルしたいと思っていた。
そこで、オーディオラックを購入し、リファレンスとなるUSB-DACを新規導入し、Soundgenicを直接接続。どうせなら、フロントスピーカーをよりハイグレードな音で鳴らしてみたいと考えた。
そこでプリメインアンプである。それも、ハイエンドオーディオの入り口に足先を突っ込むくらいの背伸びをしてみたい。ハイエンドの世界は数百万円から、中には数千万円する製品すらある。価格に対しての印象は人それぞれだが、ハイエンド製品は「いつかは所有したい夢の世界として存在する」ことに意味があり、市場の活性化や製品の性能底上げには欠かせない存在だ。
筆者は世界中の製品が集まる展示会で音を聴いてはウットリし、優麗な外観に見とれながら20代~30代を過ごしてきた。そんなハイエンドの世界に憧れてきた私が選んだアンプは、国産高級プリメインアンプでは有名ブランドのひとつ、ラックスマンの「L-505uXII」だ。ラックスマンのプリメインアンプでは、最も手の届きやすいスタンダードモデルである。
L-505uXIIとは?
ラックスマンは1925年のラジオ放送の開始と共に創業したというから、その歴史はとても古い。戦前から存在する超老舗のメーカーだ。L-505uXIIは、2011年に発売されてロングセラーとなったL-505uXの後継モデルとして2017年に発売された。価格は税抜き26万8,000円。4年以上経った現在でもラックスマンのエントリークラスのプリメインアンプとして高い人気を誇っている。
入力端子はアナログライン(RCA)×4、Phono(MM/MC)×1、XLRバランス×1、録音入出力×1、セパレート入出力×1。スピーカー端子はA/Bの2系統あり、2種類のスピーカーを切り替えたり、バイワイヤ接続のスピーカーにも対応。ヘッドフォン出力も備えている。
定格出力は100W×2ch(8Ω)、150W×2ch(4Ω)で、消費電力は270W(無信号時:85W スタンバイ時:0.4W)。
L-505uXからの進化点として主なものは、独自の増幅帰還回路ODNFがODNF2.3からODNF4.0にバージョンアップ。プリアンプ回路の出力段を同社プリアンプのトップエンドモデル「C-900u」と同等のディスクリートバッファ回路にグレードアップ。低抵抗値の大型スピーカーリレーをパラレル構成で搭載し、配線パターンの低インピーダンス化と合わせて、ダンピングファクターを従来の180から210に向上させた。
これらの変更により、SNが改善され、音の立ち上がりの鋭さが向上、スケール感やスピーカーのドライブ能力もさらに磨きを掛けたそうだ。
また、ユーザーとして嬉しいポイントは、ラックスマン独自のプレミアム延長保証制度があること。標準2年間のメーカー保証が延長保証登録により5年追加され、計7年間に延長される(トランジスターアンプ、DAコンバーター、クリーン電源システムが該当製品)。
製品購入後、延長保証登録申請書をメーカーに送付すると、クラブラックスマンカードというメンバーズカードが送られてくる。アンプは、故障があまり発生しないと思うのだが、それでも7年間というのは驚きだ。顧客へのサービス精神はもちろん、製品への高い自信の表れだと思う。
なぜL-505uXIIを選んだのか
簡単にL-505uXIIの概要を説明したが、このアンプを選んだ“決め手”は何だったのか。筆者がプリメインアンプに求めた必須機能は以下の通りだ。
- USB DACからXLRケーブルでバランス接続ができる
- オーディオインターフェースからのバランス接続(TRS⇒XLR)を受けられる
- AVアンプ(AVR-X6300H)からのプリアウトを接続できる(パワーアンプ部に直接入力できる)
1点目は、USB DACの「NEO iDSD」がXLRのバランス出力を備えており、メーカーが推奨する接続をしたいため。2点目は、同じ部屋にある音声録音のためのDAWシステムからモニターアウトを繋げるため。3点目は、同じスピーカーを音楽に映画、ゲームとあらゆる用途で共有するためだ。
2点目を満たすためには、XLR入力が2系統ある製品を選ぶ必要があるが、価格面から早々に妥協することになった。そもそもXLR入力を1系統備えつつAVアンプのプリアウトを接続できるプリメインアンプが結構なお値段なのだ。国内主要メーカーを調べたところ、税込みでA社は66万円、B社は36万円、C社は46万円、D社は38万円……と、当初の予算である20万円台を超過していた。
XLR入力が2系統あるアンプは、当然のようにどのメーカーでもまったく手が出ない価格帯。やむを得ず、オーディオインターフェースからの出力は、従来通り同軸デジタルを使うことし、将来の課題とした。ちなみにXLR入力さえ妥協すれば(RCA入力のみにすれば)、手の届きやすい価格帯にラインナップが存在する。AVアンプとの併用は各社とも重視しているようだった。
3点目の「AVアンプからのプリアウトを接続できる」については、ほとんどのAVアンプにPRE OUTの機能が備わっているので、AVアンプをご利用の方は、「使ったことはないけど存在は知っている」機能として認知されているかもしれない。PRE OUTの端子は、AVアンプのマニュアルを見ると「外部パワーアンプを接続して音のグレードアップを図る」みたいな用途で書いてある。AVアンプによっては、内部パワーアンプではチャンネル数が足りないスピーカーを鳴らすためにPRE OUTを活用するケースもあるだろう。
今回、筆者が実現したいのは、フロントchのクオリティ底上げだ。音楽のみならず、映画やゲームまでマルチに使う環境において、プリメインアンプとAVアンプが連携することは自然な流れだった。AVアンプからはPRE OUTのみが出力として存在しており、LINE OUT(固定出力)ではない点に注意が必要である。簡潔に言うと、ボリュームはあくまでAVアンプ側で調整する。それもそのはず、マルチチャンネルで鳴らすAVアンプにおいて、フロントスピーカーだけLINE OUT(固定出力)で出力したら、他のサラウンドスピーカーとのボリュームのバランスはどうやって取ればいいのか。極めて困難になるはずだ。
基本をおさらいすると、プリメインアンプは“プリ機能を有したメインアンプ”だ。メインアンプとはパワーアンプの別名で、プリ機能は入力セレクターとボリューム調整機能のことと解釈してくれればよい。そんなプリメインアンプに、ボリューム調整が済んだ信号が送られてきたら……上手く音量が取れない事態になってしまう。
よって、メーカー各社は「MAIN IN」や「POWER AMP IN」や「EXT.PRE」といった専用の入力を設けて、プリメインアンプのプリ部をパスして直接パワーアンプに信号を送り込むための機能を設けているのだ。この機能は、パワーアンプダイレクトとか、メインダイレクトとか、プリ/パワー分離とか、いろんな名称で呼ばれていて、初めての人はちょっと混乱するかもしれない。
チェックポイントは、ボリュームをパスしてパワーアンプに直接信号を送れる入力端子が存在するかどうか。製品説明や公開されているマニュアルを見るとわかるはずだ。ちなみにL-505uXIIは、「セパレート」という名称のスイッチがあり、このボタンを押すと、入力セレクターやボリューム、トーンコントロールなどをバイパスして直接パワーアンプにMAIN INからの信号を送ることができる。
ということで、各種必須機能を頭に置いて、国内メーカーを中心に検討したところ、縁あってラックスマンのアンプを事前に試す機会に恵まれ、そのサウンドに納得。導入に至った。
いよいよ自宅で鳴らしてみる
自宅に届いた外箱を見てびっくり。たった2つのスピーカーを鳴らすための機材が今まで買ったどのオーディオ機器の箱より大きい。アンプの外形寸法は440×454×178mm(幅×奥行き×高さ)だ。ノンツイスト構造のラックスマン標準電源ケーブル「JPA-10000i」も付属する。
本体のルックスは、ハイエンドのオーディオアンプという佇まい。正直、渋いなと思ったが、各部の質感はとてもリッチで、ツマミやボリュームの操作は手応えもしっかりしていて満足感はある。
正面の2つの針式パワーメーター、これはプリメインアンプに馴染みのない方には新鮮だろう。ボリュームに応じて、針がリアルタイムに振れる。出力パワーのメーターなので、スピーカーから音を大きく出すとその分揺れ動く。LED照明はブルーの穏やかな光でムードがある。もちろんON/OFF可能だから暗室利用にも安心だ。
裏面は、スピーカーターミナルがシンメトリーに配置されていてグッド。しかも横配置で接続性にも優れる。リモコンは、対応CDプレーヤーの操作も可能な上位機種と同一のアルミ製リモコン。高級感のある作りだが、ボタンが小さくすべて同じ形なので、どれがどのキーか分かりにくい。個人的には日本メーカーのよくある普通のリモコンがいいかと思った。ともかく、ラックに設置し、各種ケーブルを接続して準備を整えた。
ちなみに、オーディオインターフェースからのXLR接続は妥協したと書いたばかりだが、DAWシステムからの音声はL-505uXIIで聴く前提は変わらない。USB DACのNEO iDSDは同軸デジタルの入力を備えており、筆者のオーディオインターフェースから接続が可能だった。もともと、AVアンプに接続していた同軸デジタルケーブルをNEO iDSDに繋ぎ替えるだけなので、簡単である。
筆者は音声専門に音響エンジニアの仕事をしているので、自宅で収録したり、外部で録った音源を加工することもある。制作目的で正しく音声をチェックできる事も重要なのだ。基本的にモニターヘッドフォンでチェックはしているが、タイミングのチェックやBGMなどとのミキシングバランスはスピーカーも鳴らして確認する。
モニタースピーカーではなくリスニング用のスピーカーなのでそもそも無理筋であるが、あまりに個性的な音色や質感を持ったアンプだと困ってしまう。例えば海外ブランドにたまにあるような“元気すぎる音”とか“甘ったるい音”では判断を誤るし、逆に寒色系過ぎても普段使いではつまらなくなるのだ。
仕事で扱う音声をL-505uXIIで鳴らしてみると、やや中低域が出過ぎている印象。しかし、BASSのトーンコントロールを10時くらいまで少しカットしてあげると違和感がほぼ無くなった。純度への影響も非常に小さく、実用に耐えると判断。音色や質感などで気になる点もなく、純粋に音のクオリティに感激した。
音質チェックは約200時間程度のエージングを行なった上で実施。防音スタジオの利点を活かして夜中鳴らしっぱなしにした。最初は、「電気のにおい」というか、使い始めの電気部品によくある匂いが窓のない防音室を満たしていたが、それが鳴らしているうちに消えていった。
なお、オーディオアクセサリーは、最初から筆者愛用のアコースティックリバイブ製品を随所に活用している。
まず、デノンのAVアンプ「AVR-X6300H」との併用、セパレート機能からチェックした。AVアンプのみで全てのスピーカーを鳴らした場合と、L-505uXIIを用いてフロントスピーカーを鳴らした場合でサウンドの違いを体験する。
Blu-rayソフトは、洋画から「ミッドウェイ」、アニメから「ガールズ&パンツァー最終章 第2話」をセレクト。
改めて思うのは、AVアンプ単体で鳴らした音も悪くない。ミドルハイクラスのAVアンプならではの大迫力が楽しめる。「え? 何か不満なの?」と自分に問い掛けたいくらいだ。
だが、L-505uXIIに変更すると、予想していた音質向上とは一風変わった違いが見えてきた。
例えば、ガールズ&パンツァーで、BC自由学園の安藤・押田部隊が大洗の戦略にはまって同士討ちを始めるシーンから試合終了までを視聴すると、今までスルーしていた音に気付かされる。
トランジェントが劇的に向上したことで、戦闘中の砲撃音や弾が装甲をかすめる金属音など、特に素早く収束する効果音のリアルさにハッとさせられる。もちろんAVアンプでもそれらの効果音は鳴ってはいるのだ。しかし、L-505uXIIに変えるとセリフや効果音がスイスイ頭に入ってくるのだから驚いた。難しい表現になってしまうが、「脳が音の内容を認識するハードルが下がった」ようなのだ。
分離もすこぶる良好で、音声に脳内のフォーカスが合ったかと思ったら、すぐに効果音や劇伴に注意が向く。かすかな音と爆音が同居しても、小さな音が埋もれないので臨場感も大きく向上した。聴感上のSNの高さも特筆しておきたい。
ミッドウェイは、ベスト大尉ら艦上機部隊と空母飛龍との最終決戦を中心に視聴。本作は、日本人俳優の音声がとても聞き取りづらいのが難点であるが、L-505uXIIに変えると、耳を澄ませても内容が分からなかった台詞がはっきりと聴き取れたのには感動した。
山本五十六から飛龍に届けられた電報を山口少将が読むシーン。電報を読んだ後、思わず握りつぶしながらポロッとこぼす一言は、スピーカーからの音で初めて内容を聞き取ることが出来た。大きなダイナミックレンジの中で、臨場感を重視してミックスされていると、台詞の内容が聞き取りづらくなることがある。家庭では音量もなかなか上げられないから、L-505uXIIの解像度の高さと音の粒立ちの良さはありがたいメリットだ。
ちなみに、AVアンプ単体では音量上げていくと、だんだん“やかましさ”が気になってきてしまうが、ラックスマンの場合は歪み感が少なく音量の幅に余裕があるため、グイグイボリュームを上げたくなる。台詞やBGMなど音数が集中しているフロント側のトランジェントや解像度が向上し、SNも高まることでこれほど映画全体の雰囲気が変わるというのは驚きだった。
ゲームの音も激変する
次にゲームもプレイしてみた。2chで音声が制作されている「黎の軌跡」。サウンドステージがクリアになって、奥行き感も鮮明になる。映画と同じく、効果音の臨場感が抜群だ。音声のディテールも克明でスタジオのようなリッチな音に思わず聞き惚れる。一つ一つの音が素早く立ち上がって収束も早いのが影響しているのだろう。
続いて、度肝を抜く超絶ビジュアルで話題となったPS5用技術デモ「The Matrix Awakens: An Unreal Engine 5 Experience」をプレイ。概ね映画を見たときと同じ傾向だが、劇伴の生演奏が本来のダイナミックレンジで再現されたと感じた。ラストシーンで大爆発とともにカメラが上空にパンして街を俯瞰するカット。管楽器の突き抜けるようなハイトーンが高揚を誘うのだが、AVアンプではイマイチ伸びきらず、音量の振幅も上がりきらない物足りなさがあった。
L-505uXIIの余裕のある電源部と大出力のアンプ部は、悠々とソース本来のダイナミズムを表現してくれた。電源部は、高レギュレーションの電源トランス(540VA)と大容量ブロックコンデンサー(10,000μF×4本)を組み合わせている。11chものパワーアンプを搭載している我が家のAVアンプは、15,000μF×2本なので、その物量差に圧倒される。
ここまで映像コンテンツを鑑賞した所感を述べてきた。マルチチャンネル再生でフロントスピーカーだけクオリティを上げても意味があるのか。試してみて核心に変わった。明確に価値があると言える。
まず大前提として、AVアンプのプリアウトの出力が優れていなければならない。ハイエンドのアンプは、ソースの粗い面も忠実に再現してしまうので、イマイチなプリアウトが送られてきたら、スピーカーからの出音もイマイチになる。筆者が聴いたところ、AVR-X6300HのプリアウトついてはL-505uXIIに組み合わせるに遜色ないクオリティを持っていると感じた。
映画やゲームは、フロントスピーカーに割り当てられている情報量が格段に多い。それらを正確にかつリアリティをもって表現するためには、プリメインアンプの追加によるクオリティアップは有益といえる。
音楽も聴いてみる。AVアンプは使わず、L-505uXII単体で絶対評価とした。
NEO iDSDはiFi-audioの中では特にナチュラルなサウンド傾向の機種であり、リファレンスとして気に入っている。SoundgenicからのPCMからDSD、MQAまであらゆるデジタルファイルをデコードしてアナログ変換できるため、曲をとっかえひっかえ試聴。ラインストレート機能は有効にしている。
いやはや、これはたまげる。まるでスタジオで聴いているかのような圧倒的な再現度にひたすら感動する。筆者のスピーカー「RUBICON2」は、6.5インチウーファー搭載の中大型ブックシェルフだが、「こんなに鳴るの?」ってくらいワイドレンジかつ高密度、エネルギッシュな出音にしばし呆然とした。
今まで自分はRUBICON2の本領をどれほど体感してきたのか。これもオーディオの面白い側面ではあるが、ちょっと悔しい思いもある。
ハイレゾ音源を次々に再生。女性4人組のインストバンドFabrhymeから「Windflower」。サックスのふくよかながら克明なディテール描写、ベースの密度感や色気、ピアノのリバーブの消え際のクリーンさに酔いしれる。
クロマチックハーモニカの奏者 南理沙による初のオリジナルアルバムから「サイクリングロード」。ピアノとベース、ドラムが奏でるリズムパートは、余裕のあるドライブ力もあって聴き心地いい。なんというか、”アンプが頑張ってない感“って自然と判るものだ。L-505uXIIに「まだまだ音量上げても余裕だぜ」って言われているようだ。
女性ボーカルから藤原さくらの「また明日」は、声の実在感が未体験の領域に入った。音の良いアンプに出会うといつもこれを思うのだが、さらにいくつも上のステージに飛び級したような感覚だ。イメージで言うと、口元だけで発音しているメロディーと言葉だけの声が、喉・胸・体全体の共鳴が伝わってくる様な声に変化。まさに本当の人の声になるのだ。
ホールで録られたオーケストラ録音のアルバムを何枚も聞いてみたが、意外や意外。純粋な臨場感や音場表現力も素晴らしいのだが、録音やミックスの違いが気になり出した。ステージマイクをメインにするのか、楽器パートごとの個々のマイクにフォーカスが移るのか、またその度合いの違いもよく見えてくる。響きの質の違いも、これまで何となくしか伝わらなかった特徴が壁材の質感まで伝わってくる様なリアルさだ。無性にクラシックを聴きに行きたくなった。コロナ前はよく通っていた、ホールの生の響きの気持ちよさを思い出す。それほどアンプの再現力が高いのだろう。生演奏はいいなぁと心から思える。
他にもいくつかジャンルを変えて試聴を繰り返したが、贅沢な鳴りっぷりを聴いていると、もっと広い部屋に引っ越したくなってしまうので困った。左右の広がりも余裕を感じるし、音量もまだまだ上げて差し支えない。RUBICON2の底力に触れて、将来の希望まで芽生えてしまった。
ちなみに、プリメインアンプにとってボリューム調整機能は、各メーカーが知恵を絞り独自の技術でしのぎを削るフィールドだ。L-505uXIIは、高純度電子制御アッテネーターLECUA(Luxman Electric Controlled Ultimate Attenuator)」が採用されている。2003年プリアンプのC-70fに初搭載されて以降、改良を続けているもので、微小音量域における左右のレベル偏差や音量ポジションにおける音質差を極小化しているという。
最新モデルの抵抗素子を使った「新LECUA1000」とは違い、ソリッドステート(IC)方式のため、大幅なコンパクト化を果たしているのが特徴。0~-87dBの88接点を持ち、きめ細やかな音量調整が可能という。
実際に、平時と小音量の音質を比較すると、筆者が普段聴く音楽では、適当な音量感を得られるボリュームが約56dBだった。それを約10dBずつ2回に渡って音量を下げて比較してみる。つまり、約46dBと約36dBだ。下げていくに従ってさすがに音の太さや力強さは弱まるものの、もともとサウンドステージに“モヤ”や“濁り”がなく聴感上のSNが高いので、小さな音量の中でより小さな音で収録されている楽器が埋もれないのに感心した。
音の繊細さやシャープに聴かせる傾向も通常音量とほとんど変わらない。そもそも、プリメインアンプにおける音量調整というのは、入ってきた信号に手を加えることなので、極力信号の劣化や変質を発生させないことが重要だ。CDプレーヤーなどからLINEレベルで入ってきた信号をそのままパワーアンプ部に入力できれば理想的とはいえ、それはつまるところ音量最大ということであり、爆音でスピーカーと耳を破壊するだろう。音量調節機構は、音質の要になるわけだ。
L-505uXIIには、便利な機能も搭載されている。トーンコントロールとバランスコントロールはプリメインアンプの定番で、低域用は、300Hz以下を減衰・増強できる。結構上の方の帯域まで減衰させることができるので、中低域がブーミー気味の環境では重宝するだろう。高域用は、3kHz以上を減衰・増強できるので、高音が耳に刺さるような音響環境あるいはスピーカーの場合は減衰方向で使ってもいいかもしれない。左右のバランスコントロールは、センター定位がうまく決まらないような環境で使うのはアリだ。調整にはLECUAを使用しているため、音質への影響は最小限に抑えられている。
ラウドネス機能は、小音量時の低域と高域の聞こえ方の変化を補正するもの。試してみると、聴覚による個人差はあるだろうが、筆者の場合、80dBくらいまでグッと下げてからラウドネスを有効にするとちょうどいいバランスの結果となった。
高域が聴きやすくなり、数kHzといった高音域の中で特にプライオリティが高い周波数を中心に効果が分かりやすい。また低域が増強される。低域の補正は、最初やりすぎかなと感じて、通常音量まで戻してみたら意外と印象は近いので絶妙なバランスでチューニングされている模様。ただし、中途半端な小音量の時はバランスが不自然になるので使わない方が無難かもしれない。
原音再生を追求したい人にはラインストレート機能が嬉しい。バランスコントロールやトーンコントロール回路などをバイパスして音質を高められる。これは最後の一押し、究極の純度を楽しみたい方にお勧めだ。具体的には、リバーブ減衰時の濁りが減ったり、ボーカルのアタックがリアルになったりと、OFF時と比較すれば進んで使いたくなる。
しかし、小音量時にはラウドネス機能を使ってもいいだろうし、低域をカットするなど部屋の特性に合わせてトーンコントロールを調整するのも有意義だ。これらは音の劣化も少ないため、“ラインストレート機能至上主義”にはならなくてもいいと思う。
以上が、筆者が初めてのプリメインアンプを選んだ経緯と、L-505uXIIの特徴だ。AVアンプだけでオーディオを楽しんでいる方や、アンプのグレードアップを考えている方などに、参考になれば幸いだ。
30万円前後や、それ以上の価格帯の製品は、オーディオの世界では珍しくない。とはいえ、一般的な感覚からすれば、相当高額の製品だ。「いつかは我が家に……」と憧れる反面、どこか遠い世界のように敬遠してしまっている方もいるのではないだろうか。おいそれと買える製品ではないが、これまで体感したことの無い新世界が開けるのは間違いない。ハイエンドアンプの入り口としてラックスマンは、魅力的な選択肢のひとつであり、音楽や映像をもっと豊かに楽しくしてくれるだろう。