iPadの発売や、SIMフリー化に向けての動きが出るなど、大きな話題に押され、埋もれがちなニュースがある。KDDIがスマートフォン向けの人気アプリケーション「セカイカメラ」を開発する頓智・と協同し、新たなサービスを生みだそうとしているのだ。
セカイカメラは拡張現実技術(AR)を使ったアプリ。GPSで現実空間とつながった仮想空間上に好きな言葉や写真などを投稿し、ケータイのカメラを通じ「投稿したものを現実空間に『置いてある』ように眺める」というものだ(関連記事)。
KDDIは今回、自社のAndroidケータイ用のセカイカメラをリリースするとともに、スマートフォンではない「普通のケータイ」にも「セカイカメラZOOM」というアプリの提供を発表。2008年から自社開発していた「実空間透視ケータイ」というARアプリをグレードアップさせ、6月上旬から登場させることになった。
しかしなぜ今、普通のケータイなのか? 日本で言う「普通のケータイ」は、メールの絵文字機能を強化するなど、世界的にもかなり特殊な技術進化を続けたため、海外では類を見ない「ガラパゴスケータイ」と揶揄されることもある。そこでARアプリを展開していくことで、一体何が出来るのだろうか。
今回は「実空間透視ケータイ」を開発したKDDI研究所の小林亜令氏、「セカイカメラ」を開発した頓智・の井口尊仁氏の2人を招き、その開発姿勢や、今回のプロジェクトで目指すものについて話してもらった。
日本のケータイで目指しているのは「お釈迦様の手のひら」
井口尊仁(以下、井口) すいません、はじめにお聞きしたいんですが、亜令さんって「拡張現実」って概念から開発に入ってるんですか?
小林亜令(以下、小林) 違うんです。対話型のHMI※を作りたいと思ってたんです。
井口 あ、やっぱり! それが面白いんですよね。
小林 新しい技術を乗せた途端、ケータイはどんどんお客様の意識から遠のいてしまうって気がしてたんですよね。その最大の原因は、ケータイが「ボタンで操作をする対象だから」に考えが行き着いたんですよ。
新しい機能をつけても広告を打つ必要はある。ケータイがお客さんに話しかけてくれるわけではないですから。
そこでケータイを「対話をする対象」にしようと考えると、直感性な入出力手段が必要になってくる。そうして「かざす」という動きを使った直感的なインターフェースを開発することになり、そのとき親和性が高かったのが拡張現実だったんですよ。
※ HMI : Human Machine Interface。人間と機械の間でどのような情報のやりとりをするかという技術的方法のこと
井口 それはセカイカメラもそうで、ぼくらもARという言葉を知らずに作ってるんですよね。レッド・ツェッペリンがハードロックだって言われても「えっ!」って感じなのと同じで。
小林 そう。たまたまそういう分類されてるという、それだけですね。
―― では、直感的にまわりにある情報を可視化していくという狙いがあったと。
小林 要は「お釈迦様の手」なんですよ。ぼくはあれが究極のインターフェースだと思っていて。「西遊記」で孫悟空がお釈迦様の手のひらで踊らされるシーンがありますけど、あれ、手を広げるだけで孫悟空がどこにいるか分かるインターフェースなんですよね。
井口 すごいなあ。実空間透視ケータイのネーミング変えた方がいいですよ、「ブッダ2010」とかに。
小林 あ、実は秘密があって、社内でのコードネームは「シャカ」だったんですよ。それをCEATECに出す直前になって「実空間透視ケータイ」に変えたんです。
一同 へえー!