東南アジア最大級のポップカルチャーイベント「Anime Festival Asia Singapore 2024」(AFA SG 2024)が2024年11月29日から12月1日までシンガポールにて開催。日本や世界で人気の作品が集まる「AFA SG 2024」2日目のデイステージにはTVアニメ【推しの子】よりアクア役の声優・大塚剛央とルビー役の声優・伊駒ゆりえ、プロデューサー・山下愼平が登壇した。
アニメ!アニメ!では今回、AFAに出演した山下プロデューサーにインタビュー。AFAに出演した感想やアニメ【推しの子】制作の裏側を聞いた。
[文・取材=降月海弥]
■ “【推しの子】だから”人気に― その理由は?
――【推しの子】ステージはすごい熱気でしたね! AFAに出演してみてのご感想はいかがですか?
登場するまで会場はどのような様子になっているのかなと思っていたのですが、いざステージに上がって見たら後ろの方までお客さんがびっしりで、なんだか客席が無限に続いているように思えてびっくりしました。北米やヨーロッパのコンベンションは過去に行ったことがあるのですが、個人的にアジアは初だったので、AFAのデイステージの2000キャパが埋まるくらいのお客さんが来てくれて本当にありがとうという気持ちでしたね。
―― 海外の視聴者と日本の視聴者との反応の違いや共通点について、感じたことがあれば教えてください。
反応の違いという面では、トークショーをやったとして、日本の方は拍手や笑いが起きることはあっても歓声が上がることはあまりないですよね。静かに噛みしめながら、頷きながら聞いてくださるファンが多い印象です。海外の方は盛り上げてくださるというか、自分の感情をわかりやすく表現してくださるので、トーク慣れしていない私たちスタッフにとっては助かります(笑)。
共通点でいうと、推しキャラに対する愛みたいなところは 一緒だなと思いますね。サイン会を見ていても、“痛バッグ”を持っていたり、コスプレをして好きなキャラを表現していたり、いろんなグッズを身につけて、 私はファンですよとアピールしている。そういうところは全世界共通なんだなと思って嬉しかったです。
僕は15分程しか展示会場を回れませんでしたが、【推しの子】のコスプレの人が歩いているのを見ながら1人喜んでいました。
―― 海外で日本の芸能界にスポットを当てた作品が人気になっているということについて、どのように捉えてらっしゃいますか。
日本の芸能界だから人気になったのではなく、【推しの子】だから人気になったというところがあるのかなと勝手に思っています。もちろん日本の芸能界の話が主軸ではあるものの、アイというお母さんが子どもたちを思う気持ちなど、作品の中では人間ドラマが描かれています。
例えば、ステージに立つ人がどういう思いで、実はどんなトラブルがあった上でステージを作っているのかや、第2期で言うと原作者と脚本家の問題など、日本だけでなく全世界のエンタメに当てはまるような制作現場の裏側が作中で見られますし、キャラクター同士のラブコメ要素も入っています。サスペンス、ラブコメ、アイドルなど、それぞれのジャンルでのファンを獲得した結果、【推しの子】ファンの方が多くなったのではないかと思います。
―― 原作からのエッセンスの抽出・選択などはどなたかお一人が担当されているのでしょうか。
チーム全体で決めています。元々、原作にある要素はアニメで全部やろうという話をしていて、アイドルだったらライブシーン、舞台だったら舞台シーンをちゃんと描くし、その裏側もきちんと描く。そういった形で、それぞれの路線でどんどん発展させて描いていって、監督や我々プロデュースサイド、原作の先生方も含めみんなで同じ方向をむいて、全てのジャンルを丁寧に表現するということをアニメでは意識しているし、そこがうまくいっているのかなと思います。
■海外への宣伝も自分たちの手で行う
――【推しの子】の制作過程で、特に海外市場を意識して取り組んだことはありましたか?
本編を作る上ではあまり意識しませんでしたが、宣伝面では全世界的に頑張っていこうという方針はありました。
「【推しの子】公式チャンネル」というYouTubeチャンネルを自分たちで開設して、そのチャンネルで海外向けの動画を作ったり、最初から英語の字幕をつけた状態のコンテンツを作ったりしました。そのおかげもあってか、ありがたいことに登録者数も108万人となっています。
また、海外用のXアカウントを作成し、それを作品側でコントロールするかたちで運用しています。
原作の反応などを見たときに【推しの子】が海外でも人気が出ることはある程度予測できていたので、アニメ化発表直後から、日本だけでなく海外に向けたYouTubeチャンネルの動画制作やXの運用を行いました。
―― Xのアカウントを作品側で運用することはあまりないことなのでしょうか?
作品側が自ら英語のアカウントも運用するのは珍しいと思います。英語をはじめとした日本語以外の言語も扱える人がいないと運用は難しいと思いますので。
そういう意味でも、アニメ【推しの子】は最初から海外の言語も扱えるメンバーをつけて進行しようという方針でした。
■第2期は「アニメーション史に残る映像を」
―― 今年1年を振り返って、2024年は【推しの子】にとってどのような年だったと評価されますか?
2023年の【推しの子】第1期のタイミングは、YOASOBIさんの「アイドル」が全世界的に人気となり、現在ではMVが5.5億回再生されるなど、これ以上なく作品が大きく広がった年だったと記憶しています。偶然の面もありますが、音楽やアニメとの親和性を含めて、どんな宣伝をするよりも「アイドル」のMV制作に力を入れたほうがいいだろうということになり、制作現場も本編作業があるなか頑張って作ってくれました。結果的にすごくよかったなと思っています。
そして、第1期で大きく広がったコンテンツを第2期でどうやって盛り上げようかと考えたときに、劇中劇「東京ブレイド」のシーンに力を入れ、さらに映像にあわせて曲を作る「フィルムスコアリング」を取り入れるなど、アニメーション史に残る映像を作ろうということになりました。
第2期の序盤は、原作者と脚本家の対立といった、少し地味めな展開なのですが、映像の作画の面でも演出の面でも、ストーリーが進むにつれて、アニメーションとして「おお、これ面白いじゃん。すごい動き」といったような部分を入れていこうねという方向で進めていました。実際に放送されてから海外の反応を見たとき、第17話のメルトが活躍する回から急に人気が高まっていて、その思惑が良い形で反映されたのかなと思いました。
宣伝面でいうと、「第2期に関しては、第1期のキャラクターよりも、第2期のキャラクターを見せた方が良いのでは?」という意見もありましたが、作品をさらに広げていくにはアニメ【推しの子】を見たことがないという人たちにまず第1期を観てもらわなければいけないと考えていたので、第1期と第2期を区別せずに、全体の宣伝プランを組み立てていきました。単純に仕事量が2倍になって大変な部分もありましたが、それをみんなでやりきって、「【推しの子】ってやっぱ人気だよね、面白いよね」というところに繋げられたのではないかなと思っています。
―― 最後に、今後のアニメの展望やファンに向けたメッセージをお聞かせください。
実写映画や2.5次元の舞台などアニメ以外の展開が増えるなかで、私たちも変わらず原作の良いところをうまく丁寧に描き、発展させながら、アニメを作っていきます。原作と同じ内容を描いていても、原作とアニメでは受ける印象がちょっと違ったかなと思うのですが、アニメを観てくださっている方が、アニメだけでもちゃんと完結できるような、丁寧な作りを引き続き心掛けていきます。
【推しの子】は制作スタッフ全員が強い情熱を持って1枚1枚人の手で描いているということを考えると、もしかしたら少しお待たせしてしまうことはあるかなと思いますが、できるだけ早く皆さんにお届けできるよう調整しているので、第3期の放送を楽しみにお待ちください!
■Anime Festival Asia Singapore 2024(AFA SG 2024)
2024年11月29日~12月1日
シンガポール「Suntec Singapore Convention & Exhibition Centre」
11月30日 15:15~【推しの子】ステージイベント
出演:大塚剛央(アクア役)
伊駒ゆりえ(ルビー役)
山下愼平(プロデューサー)
(C)2024 SOZO Pte Ltd. (C)Anime Festival Asia
(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会