Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

ウチョウラン・イワチドリ・オキナワチドリの販売

今回は「チドリ類って、どこで購入すれば良いの?」という問いにお答えする。

上の画像5点は、市販されているオキナワチドリ選別実生の一例。改良が進んでいるウチョウランやイワチドリと比較すれば、とりたてて騒ぐような花ではない。

 が、これらは完成段階の商品ではなく、ここから先に進めるための遺伝子資源である。

 野生ではこういう花々は探しても絶対に見つからない。どれも栽培下でのみ存在している系統。オキナワチドリは商業生産者がいないので、維持しようとする趣味家がいなくなった時点で永久に失われる。

 

06-03-2006,Onna village,Okinawa island

 ちなみに沖縄で見かけるオキナワチドリの野生個体は、上画像のような花である。選別実生とはだいぶ印象が異なる。沖縄個体群では、典型的な個体の地色は白に近い。

 

上画像も野生個体だが、地色がやや濃くて斑紋が大きめ。奄美群島の個体群は地色がこれよりももう少し濃く、斑紋が小さくて数が少ない。

 

で、地色が濃くて斑紋の大きい個体を選んで交配育種していくと、こういう花になる。少し「くどい感じ」もする。未改良の個体とどちらが好みかは趣味の問題。

 

  

 こちらは沖縄本島・国頭村の自生地が道路工事で消滅する時に、現地で採取した種子から育成した実生苗。未選別寄せ植えなので株ごとに微妙な差異はあるが、基本的にはどれも同じような顔をしていた。

 これはこれで魅力的だと思うのだが、「普通の花」は誰も維持してくれない。管理人が病気入院した時に何人かの草友に託したが、すべて消費栽培されてしまい、この個体群の血統は失われた。

 

 一番上の画像個体を殖やして、まとめ植えしたもの。オキナワチドリは1~2本植えだと地味で、ある程度まで寄せ植えしたほうが見栄えがする。しかし選別改良個体だと厚化粧っぽい印象になってきて、野生ランとしての清楚な魅力は失われてくる。どの程度を良しとするかは個人の美意識による。

 

 いわゆる「チドリ類」はこのようにバリエーションが豊富である。昭和時代末期にはこれらの収集栽培ブームがあって、栽培愛好会が多数存在していた(過去形)。個人育種も盛んで、珍しい形質の個体は交配親として取り合い状態だった。

 が、小型のランは栽培管理がものすごく面倒臭く、目を離すとすぐ枯れてしまう。近年の異常高温で寒冷地以外では上作が望めなくなってきたこともあって、園芸界ではチドリ類の栽培に対する熱気はすでに立ち消えている。

 現在のウチョウランは維持栽培できるハイアマチュアの新規加入が途絶え、プロ生産者と消費者がいるだけの一般花卉になっている。数少ない生産者も高齢化してきて、いつまで流通が続くか判らない。

 というか今の時代、一般生活者には手間暇をかけて苗を作りこむ生活的・時間的余裕が無くなっている。試行錯誤して栽培技術を学ぶほどの暇は無く、学んでも多忙すぎてわずかな隙間時間では世話がしきれず枯らしてしまう。「消費者」に必要なのは買ってきてすぐに飾れる植物であって、苗の育成は自分でやる事ではない。

 世話を続ける根性があっても、関東以南の市街地の屋外自然気象下では、デリケートな植物のコレクション的栽培は現実的に見てもう無理だろう。(冬緑性のオキナワチドリでも、低温期が来るのが遅くなったため生育期間が短くなってしまって不具合が出てきている模様) 

 よって「どこで購入すればいいの」と誰かに問われれば、管理人はこう答える。

「探す必要は無いです。もし売っている場所を知ってしまったら、育てられもしないのについ買ってしまったりするじゃないですか。面倒臭い草は、ネットで画像だけ見ていればそれでいいんです」

 とはいえ専門生産者が「根のついた切り花」として、消費されることを前提に売っている苗については、買ってあげなければ生産者が困る。どこかでそういう苗をたまたま見つけたら「消費者」は遠慮なくそれを購入して、日本経済を回していただきたい。

そんなものが手に入るのも、今のうちだけだから。

遺影

 サギソウ「八月(はづき)」の実生後代、3系統。変異は潜性(劣性)遺伝。ホモ個体の性質は弱く、作出者が引退した後に維持できた人はいなかった模様。

 これらの個体と同じ変異遺伝子を持つヘテロ個体は、2024年春の時点では生存を確認しているが現在の状況は不明。いずれにしても現栽培者にとってヘテロ個体はただの並サギソウにすぎず、実生して後代を育成するという発想は無いようだった。

 

 こちらは上3系統と別個体。

「八月(はづき)」系の典型的な花は、この画像のように萼片が2枚で、2枚の側花弁が唇弁化した「2蝶咲き」の花になる。(希に、上から2つ目の画像のような「3蝶咲き」になることもある)

 しっかりした花粉があり、奇形化してはいるが柱頭もある。子房がある程度まで発達していて、交配母体にもできる可能性を秘めていた。

 ここからさらに交配を進めて体質強化していけば、普通に育てられる品種を作ることも可能だっただろう。栽培可能地域にお住まいの方は、現存しているヘテロ個体だけでも保存栽培して、将来につなげていただきたいとは思う。だが「鷺草保育会」の顛末を見る限りでは、一般趣味家は1000人いても(略

 

 ちなみに「八月」変異は発現が不安定で、見て判るように個体ごとに、あるいは花ごとに違う形の花が咲く。

 株に力が無いと唇弁と側萼片が欠落して、萼片が1枚、花弁が2枚のみの珍妙な花になることもある。

 

 こちらは「唇弁」が3枚、萼片が見当たらない。向かって左の唇弁が緑色を帯びているので、これがおそらく萼片である。 萼片・花弁が合わせて3枚の「珍妙な花」が総唇弁化しているっぽい。なんというか、もはやバグの多重合成という感じである。ぱっと見た印象は獅子咲き品種の「飛翔」に似ている。

 

 参考までに、比較用の獅子咲きサギソウ「飛翔」実生後代の画像。こちらは萼片が花弁化・唇弁化する変異個体。形質発現は安定しており、誰が育てても同じような花が咲く。

 真祖の「飛翔」は通販で入手可能。飛翔系の交配種も趣味家の間で何種も流通しているので、その気になれば入手可能。

「飛翔」の獅子咲き変異は顕性(優性)遺伝なので交配親に使えば50%の確率で獅子咲き個体が得られる。ただし片親に「玉竜花(4倍体)」などを使用した3倍体実生は稔性がものすごく低い。(ゼロではない)

 

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サギソウの栽培解説には嘘しか書かれていない

今回は過去画像の供養と、入門者のためのサギソウ総論。

 上画像は本土で撮影した、選別品種「輝」(かがやき)。

 後暗み(あとくらみ:斑入り葉だが、生育期後半になると斑の部分に葉緑素が乗ってきて斑が目立たなくなる)の黄覆輪(この品種の場合は薄いクリーム色)。

 戦前に選別されたと伝えられており、確認できただけでも40年以上前から栽培書籍に紹介され続けている、古参の普及品種。

 逆にいえば何十年も絶種せずに栽培下で維持できるほど育て易い個体・・と言いたいところだが、そういう情報はすべて時代遅れになっている。すべての植物愛好家はサギソウに関する知識を最新知識にアップデートしなければならない。

「輝」の花のアップ。端正で花弁のヨレが少なく、嫌味が無い花である。

 

 でまあ、サギソウの造形美は万人受けするので、栽培したがる方が多い。栽培に関する解説記事も検索すれば山ほど出てくる。

 ところが、である。ネット上にあるサギソウの栽培記事は昭和時代に書かれた園芸書の孫引きばかりである。8月の平均気温が26度だった時代の栽培解説が、令和の炎熱気候で通用するわけがない。将来的には本州北部でも最高気温44℃がありうると、学者先生が真顔で語りはじめている状況である。

 現在、本州の市街地でサギソウを栽培する難度は、昭和時代のアツモリソウ栽培に匹敵する。要するに「素人が手を出せば一年持たずに枯らしてしまう植物」にランクアップしている。冗談でも何でもなく、冷房の効いた室内でLED照明をつけて育てなければ長期維持はもう無理、という気候になってきている。

 こちらは某蘭展で展示されていた、サギソウを「水槽水の流し掛け」&「LED照明」で栽培した作例。

 LEDが小型なのでサギソウ栽培には光量不足。肥料を効かせると容器内に藻類が発生するので、こういうアクアテラリウムでがっつり肥培して育てるのは難しそうだ。一般論としては、冷房の効いた部屋で湿度保持を工夫しながら普通に鉢栽培したほうが無難ではあろう。

 とはいえ水耕栽培とLED照明の組み合わせは室内冷房栽培に適した栽培方法の一つではある。サワランやダーリングトニアのような湿地性好冷植物を育てる場合には、冷水魚飼育に使う水槽用クーラーで水温20℃以下に冷やすことも技術的には難しくない。(なお、冷水槽は結露が激しいので、断熱二重アクリル水槽を使うなどの工夫が必要になる。そこまでやるならワインセラーの中にLED照明を引き込んで育てるほうが簡単)

 まあ、ここまで手間暇かけて育てる必要があるのか? と問われれば「無いよ」と答えるしかない。しかし屋外の自然気候でサギソウが夏を越せないなら、栽培を諦めるか、こういう変態栽培に移行していくかの二択になる。

 

X:サギソウは育てやすい植物です

〇:あなたが寒冷地の住人なら話は別ですが、関東以南の都市部であれば、趣味に命をかけている異常者がいろいろ創意工夫して、ギリギリ維持栽培に持ち込めるかどうかというレベルの植物です。市街地の熱風ふきすさぶ環境で、日除けした程度で夏が越せると思ったら大間違いだ。

 

X:園芸店などで入手できますので、興味を持ったら買い求めてみましょう

〇:商業的生産者がほとんど全部廃業したため、ガーデンセンターなどに入荷することはもうありません。今はまだ存命中の個人栽培者が増殖苗を業者に卸しているので、専門業者の通販などで送料込2000円以上払えば入手可能です。しかし、この状態もいつまで続くか判りません。ちなみにメ〇カリで素人が売っているような安い苗は不治のウイルス病に感染していたり、苗に体力が無くて夏を越せずに枯れたりします。

 

X:植え付けはミズゴケが適しています

〇:ミズゴケの輸入量減少、価格高騰により、良質のミズゴケは入手がものすごく難しくなっています。100円ショップで売っているような粗悪なミズゴケを使うと苗が腐って枯れます。国産生ミズゴケ? 野生オオミズゴケは絶滅危惧種ですけど、野外採取モノを盗掘者から買うんですか?

 

X:栽培には平鉢が適しています

〇:展示会などに出品する場合、鑑賞的には平鉢植えが高評価です。が、栽培場所の環境や用土の種類によっては普通の深鉢を使ったほうが生育が安定する場合もあります。令和の環境下で実際に育て比べてから適不適を語ってください。時代遅れの資料でコタツ記事を書くな。

 安価な量産球根を展示会用に植え捨て消費することが許されていた時代とは違うんですよ今は。新規加入者が賞味期限切れの情報を信じ続けていれば、希少品種は保存栽培している趣味家が引退したら絶種しますよ?

 

X:戸外に置いてください

〇:雨避け施設の設置に一言も触れていませんね? 梅雨がある地方では長雨に当てているとあっさり腐ります。というか室内冷房LED栽培のデータを収集しろ。誰もやってないから我々が自分達でデータを集めるしか無い。

 

X:種子からの育成は難しいです

〇:が、実生更新できないと耐病性・高温耐性のある個体の育成選別、ウイルス感染個体からの系統更新は不可能です。

 それと、無菌播種であればサギソウの実生は温帯産地生蘭としてはシランの次ぐらいに簡単、ウチョウランよりも易しい学生実習用の入門種。検索すれば小学生が成功させている報告すらあります。それを難しいとぬかすような奴は野生ランに関わるな。お遊びの消費栽培がしたいなら商業量産品のある植物でやってくれ。

 

X:初心者向きです

〇:寝言は寝て言え。昭和の価値観を持ち込むな。

 

あとは画像いろいろ。まずは無銘青葉、5系統の花。いずれも異産地間の交配実生で、野生由来ではない。

 

「サギソウの観察と栽培」(昭和55年、木村なほ著)より引用「花の型のいろいろ」

 上記のようにサギソウには個体差がけっこうあり、特徴のある個体は選別されて栽培増殖も試みられている。しかし、地域個体群としてまとまった原資個体を個人で保存栽培している例は聞いたことが無い。個体寿命に限界があり、なおかつ自家受粉では近交弱勢が出てしまうサギソウの場合、特定の1個体だけ栽培しても永続的な系統保存は不可能。

 昭和38年、東京都立神代植物公園の山田菊雄氏によって「鷺草保育会(注:岡山のサギソウ保育会とは別団体)」が設立され、一時は会員数2000名を越える日本最大級の栽培団体となった。木村なほ氏はその中心的スタッフとして積極的に活動し、日本全国の野生サギソウの収集保全を試みておられた。(管理人もご存命中に一度だけお会いした事がある)

 しかし山田氏、木村氏などの中核メンバーが亡くなってしまうと一般メンバーは保全栽培などという面倒な事を続けることができず、会は雲散霧消して栽培品も散逸した。管理人は「趣味家の手で保全栽培を」という創設者の熱意が、どのような結末を迎えたかをリアルタイムで見聞きしてきた。

 現在では社会情勢的にも趣味人口的にも環境気候的にも、当時とは比較にならぬほど栽培状況が厳しくなっている。植物園なども予算が削られていて何かを期待できる状況では無い。これから育てようという方は、そういう状況にわざわざ首をつっこむという認識だけは持っていただきたい。

 余談だが野生由来の個体は、性質が弱くて育てづらい場合が多いそうだ。増殖されて普及している品種と同程度だと思っていると、痛い目を見る模様。

 

 斑入り小輪「新銀河」。花は「銀河」に似ているがやや小さく、葉がすっきり伸びるのが差異だというが、かなり似ていて本当に別品種なのかどうかよく判らない。

 

「新銀河」の花

 

大輪花(おそらく4倍体「玉竜花(ぎょくりゅうか)」

 

「玉竜花」と「新銀河」の比較

オキナワチドリ♀ X イワチドリ♂

種間交雑種。サンダーズリスト未登録。

この交配では実生に夏緑性と冬緑性の個体が混じる、というか、芽出しが不定期になって生育に不適当な生育サイクルの個体は淘汰される。画像は本土で栽培されている、春咲き夏緑性個体。沖縄では栽培不適。

母親はオキナワチドリだが、草姿はほぼイワチドリ。

 

下画像は姉妹株。

 

参考までに両親の顔写真。オキナワチドリ大点 X イワチドリ紅一点。

 

冬緑性個体については過去記事参照。開花期以外に違いは無い。

 

オキナワチドリ三蝶咲き

オキナワチドリ三蝶咲き「小角」の実生苗。洋ラン用語で言うとトリラベロ個体。

世界らん展2024で苗が売っていた模様。

 当年芸(その年だけの偶発的な変異)で複数の唇弁ができた花はたまに見かけるが、毎年こういう花が咲く個体は、オキナワチドリではこの系統のみ。

 シランやサギソウの唇弁化変異は顕性(優性)で、他品種と交配するとF1(実生第一世代)で親と同じ変異が出現するが、この品種の遺伝性はきわめて弱い。他株と交配するとすべて標準花となり、F2でも分離してこない。セルフ実生でも三蝶咲きはごく希にしか出ない。

遺伝子組み換えコチョウラン

世界らん展2024にて販売

・カルタヘナ法(正式名称:遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物多様性の確保に関する法律)に基づく商業使用申請が承認されたため、この品種は合法的に一般販売できるようになった

・すでに通販でも売られている

・オリジンは、ツユクサ栽培種(オオボウシバナ)の色素遺伝子を組み込んだバイオ個体(沖縄でも過去に海洋博公園で展示された事がある)

・メリクロン増殖中に出現した整型個体を、さらに増殖して商品化

・品種登録出願公表中、および特許取得済みのため、商品名を変えての販売、再増殖販売などは禁止

・(開発元の企業以外は)非営利であっても交配使用は禁止。ナゴランやコエルレア系コチョウランと交配しようなどと考えてはいけない。交配するなよ? 絶対するなよ?

・国外輸出禁止。まあ花をチョン切れば普通のコチョウランと区別がつかないし、絶対に誰か(略)

・詳しくは販売元ホームページの動画を参照

 

 おまけ画像。これは別の業者が売っていた、遺伝子組み換えされていない原種カトレアの見本画像。個体名はドイツ語のごく一般的な単語だそうだが、管理人には詳しい事はよく判らない。

  Fernは見つけられなかった模様。

世界らん展2024

今年の世界らん展(東京)の特別企画展示は「南西諸島に咲く蘭」。

「今回は約1000株の『オキナワチドリ』を集め、自生地に群生する様子を再現します」

という宣伝記事を見た管理人は、取材班を現地へと派遣した。

 デジタル絵っぽいが、入り口看板の実写画像。下半分には入場者が写っているのでプライバシー保護のためトリミングした。

 

会場内の解説パネル。

 

会場内、海岸の自生地を再現した展示会場。約1000本のオキナワチドリが植栽されている。(画像クリックで拡大)

 純白、酔白、無点、濃色無点、紅大点、多点、純白紫点、細弁、大輪などなど。ここに植えられている変異個体は、野生であれば数万本に1本しか見つからない、あるいは一生探しても見つからないような、きわめてレアな個体ばかりである。

 自生地でこのようなカラフルな群生は絶対に無い。亡き師匠が半生をかけて探索収集した変異コレクションよりもバリエーションが多い。やべぇ植栽である。

 某業者がバックヤード在庫を放出して作ったものらしい。日本産野生ラン栽培家が絶滅に近づいている現在、このコレクションが引き継がれていく可能性はゼロである。散逸した時点で永久に消滅するので、まとまった品種を手に触れられる距離で実際に見られる機会は、これが最後になると思う。が、そういうものだと気がついている来場者はおそらく一人もいない。

 

・・・で、ここまでの記事だと、けっこう面白げな展示だから見に行こう! とか思ったりしませんか?

 

以下はネタバレです。現地取材班は思いっきり脱力してました。

 

展示場の全体像がこちらになります。(来場者が写っている部分は黒塗り)

 

おわかりいただけただろうか。

 

要するに写真パネルの前に、畳一枚も無い展示スペースが設置されているだけである。

 

おまけに開花調整が間に合っていなくて、全体の3分の1ぐらいしか咲いていない。

 

写真撮影すればそれなりの画像になるが、もはや特撮である。

 

 いやまあ、「1000本のオキナワチドリで自生地再現」って、嘘じゃないけどさあ・・

1m離れただけでこのビジュアルですからね?

「日本にも鮮やかで綺麗な蘭が自生している事を知るきっかけになればと考えています」とか、これを見てそうは思わねーだろ常識的に考えて。

 

 周囲に100万本のド派手なランが飾ってある場所で、誰がこんなもん見ます?

 パンダの檻の横で、地下水棲の眼の無いゲンゴロウが1匹だけ水槽に泳いでます、みたいなもんですよ? それが何なのか判らない人にとっては、ただのゴミですよ?

 

 素人が求めているのは知識ゼロでも判る、奇抜でかっこよくてでっかい草ですよ? さもなければ100万本のヒマワリとかコスモスとかラベンダーとかの物量作戦であって、絶滅危惧種であっても雑草に用は無いんですよ? 沖縄の希少種自生地をブッ潰して園芸ユリ公園にするのが民意ですよ? 

 希少な植物なら認められるなどというナイーヴな考え方は捨てろ。珍しくなくていいからウケる花だけ飾っとけ。一般社会で求められているのは「ファッション」なんだから、ハイコンテクストな話題はやめろおおおぉ!(泣)

 いや頑張っているのは判る。主観的に見れば凄い。自分でやってもこれ以上の展示はたぶんできない。それは判るんだが。判るんだけどもさあああああぁ!

 

 取材班の話では、どこも撮影者で押すな押すなの盛況だったけれど、このコーナーだけはガラッガラで、ほぼ全員が素通りしていたとの事。

 たまに足を止める人があっても、

「こんなの庭に生えてきたら抜いて捨てちゃうなぁ」とか、

「野草なのに、わざわざ採ってくるなんて可哀想」とか、ネガティブな会話しか聞かれなかった模様。

 

 あとは余談ですが、レッドデータ調査に「この地域には1000本ほどのオキナワチドリがあります」とか書いてあったら、絶滅する危険は無いと思ったりしませんか?

 皆さんいいですか、1000本の自生地って、この程度の面積ですからね?

「100株程度の自生が確認できた」だったら、どれほど危ない状況か判ります? 書類だけ読んでる役所の人にはそれが判らないし、判ったところで何もできないしする気も無い。

 台風で崖が崩れるとか、近くにあった木が育って日陰になったとか、今年は野良ヤギが入り込んで全部食べやがりましたとか、そういうちょっとした変化だけで1000本程度ならいきなり絶滅しますからね? 沖縄本島の自生地はものすごい勢いでどーんどん消えていて、野生のオキナワチドリは、もう一般人が見るのはほぼ不可能になってますからね? 

 沖縄本島産オキナワチドリの栽培個体って、野生絶滅個体群ですからね? フィールド情報のラベル、捨てたら駄目なんですよ?

 なのに、ほとんどの人はただの雑草だと思ってて、存在を教えても保護するどころかこんなもん保護する意味があるの?と言ってくるわけで。加えてマニア連中は育てられもしないのに盗掘だけはする。うん、もう何もできる事は無いです。

 

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