VTuberはまだ「一部の盛り上がり」に過ぎないのか?しかし一般化へ向けての動きは加速中

VTuberの一般化について考えてみる。ただ、僕はホロライブ中心に見ているので、他事務所や個人勢の方の事情はあまり存じ上げない前提でお話しようと思う。
2023年5月、ホロライブの生みの親のカバー株式会社は上場後、初の決算を出した。
売上高は204億5100万円(前年同期比+49.7%)をマーク。営業利益34億1700万円(同+84.2%)、経常利益33億8500万円(同+82.6%)、純利益25億800万円(同+101.6%)と、大幅な成長を果たした。
“ホロライブ生みの親”カバー谷郷社長が語る上場の意義「VTuberは、より一般化した存在になり得る」 | Business Insider Japan
2023年~2024年はホロライブが飛躍した年
2023年はホロライブの星街すいせいさんが一発撮りで有名な『THE FIRST TAKE』への初出演を果たした。これはVTuber界初の出来事であり、大きな話題となった。
さらに2024年に公開した「ビビデバ」の再生回数が1億回を突破。
そして、さくらみこさんが東京都観光大使に任命された。あのみこちと小池都知事とのツーショット。いま見てもスゴイ絵面である。
さらにホロライブは大谷翔平がいる「あの」メジャーリーグ、ロサンゼルス・ドジャースとのコラボも行った。
現状ではまだ「一部の熱狂的なファン層の中で盛り上がっている」段階に過ぎないように思うこのVTuber界隈。だが、ホロライブやにじさんじといった大手事務所が次々とメディア展開を進めており、YouTubeを中心とした人気は高まっている。
記憶に新しいところでは、兎田ぺこらさんが「The Game Awards 2024」のクリエイター部門にノミネートされた。残念ながら受賞まではいかなかったが、とてつもない偉業を成し遂げた。
ホロライブ・兎田ぺこら「TGA2024」受賞逃すも、「新しい夢ができたぺこ!」と意気込み―新たな目標をファンも応援(インサイド) - Yahoo!ニュース
これのどこがすごいのかという点については、ざっくり言うと「日本語でしか活動していない兎田ぺこらさんが世界中の配信者に混じってノミネートされた」という点。しかも票は英語圏からも入ったということで、これは快挙である。
女性配信者において2023年総試聴時間、最大同時視聴者数世界1位という輝かしい実績はあったが、登録者数では世界のストリーマーやYouTuberたちよりも少ないぺこらさんが…いや、ここからは敬意もこめて(敬称略)で呼ばせていただく。
ぺこらが並みいる世界のYouTuberやストリーマーの中でこの賞にノミネートされた事自体がすごいことだったのだ。
個人勢としてはTwitchでゲーム配信を中心に活動しているVTuberの赤見かるびさんが、2024年9月29日、プロeスポーツチーム『Crazy Raccoon』のストリーマー部門に新加入した。
【新メンバー加入のお知らせ】
— Crazy Raccoon (@crazyraccoon406) September 29, 2024
この度、赤見かるび(@AkamiKarubi)がSTREAMER部門に加入したことを発表致します。
皆様の応援、何卒よろしくお願い申し上げます!
引き続きCrazy Raccoonを宜しくお願い致します! pic.twitter.com/cpDJ18fx20
いろいろなエンターテインメント界へ進出しているvtuberだが、これらの偉業が一般層に完全に浸透するにはまだ時間がかかるのではないだろうか。
音楽業界の変化に見るVTuberの一般化
音楽業界の変化を例に挙げると、2010年代前半は特定のアイドルグループがランキングを席巻していた。個人的な気持ちだが、「早く他の歌が聞きたい…!」とずっと思っていた。
そして2020年代に入り、ニコニコ動画やYouTube出身のアーティストが音楽業界の中心へと移行してきた。Adoさんはその象徴で、彼女は元々はニコニコ動画で歌ってみたを投稿していた人である。
■Adoさんのニコニコ動画ユーザーページ
「アド音」 Adoさんの公開マイリスト - ニコニコ
さらには「歌ってみた」からは初音ミクからボーカロイドを始めた人たちがプロになり、音楽業界に入るようになった。昨今、若い人たちが聴くような音楽に早口言葉やメロディーの上下がすごい曲調の曲が増えたのは、明らかにこれらの影響がある。昔、学生時代にボーカロイドで曲を投稿していた人や若者が大人になり、本格的に業界の中心へ来ているからだ。流行り曲がなんとなくボーカロイド調なのはもう「流れ」としか言いようがない。
最初はとっつきづらかったこれらの流れだが、いまではテレビやラジオでも自然に受け入れられる存在になっている。この流れを見ると、VTuberも同じような道筋をたどる可能性があると感じる。
ホロライブの星街すいせいさん、すいちゃんはVTuber初の日本武道館公演を実現させたし、
Hoshimachi Suisei 日本武道館 Live "SuperNova"|ホロライブプロダクション
星街すいせいさんの歌で魅せるライブは圧巻。武道館ライブも決まり、スターの原石にはもうとどまらない。最高のスタートを切ったライブツアー埼玉公演のリポートをお届け | ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com
同じくホロライブのさくらみこ、みこちも自身のソロアルバムをリリースした。その中の「SUNAO」という曲は、あの『いきものがかり』の水野良樹氏が作詞と作曲を手がけている。
VTuberが一般化して受け入れられるのは2030年ごろではないか
しかし、VTuberが一般化して普通に受け入れられるようになるのはまだ先の話であり、2030年頃ではないかと予想する。現在、VTuberを熱心に応援している若者が大人になり、社会の中で影響力を持つことが必要だからだ。
いまはまだどうしてもVTuberは「イロモノ」みたいな扱いをされることが多い。FNS歌謡祭に宝鐘マリン船長が出てきても、それが普通に受け入れられるようになるには、もう少し時間がかかるような気がする。
もっとも、これに関しては歌謡祭自体がゴールデンタイムのお祭り番組的な位置づけということもあり、船長自身も「マリンが呼ばれた以上、マリンは求められるイロモノを徹するのみ。真面目なのやってほしいなら、すいちゃん(星街すいせい)呼ぶねん。」というコメントを残している。
こういう歌謡祭に普通にVTuberが出てきて歌い、それが世間一般に受け入れられる。そうなったらVTuber界はますます発展していくと思う。
ファミコン世代向けのリメイクやアニメ増えるのと同じ理屈で、そのうちVTuber関連のコンテンツももっと増えていくのではないか
たとえば現在、20歳の人がVTuberをよく見ていて、その人があと5年後に25歳になる。社会人としてまあまあの位置に来たあたりで、VTuberをテレビに出そうとか、もっともっと一般化していこうという企画を出して、現在のファミコン世代が中心に来ている時代よりももっと先鋭的なものを打ち出してくるのではないかと思うからだ。
企画や番組制作を担う世代が自身の文化を押し出していくことで、VTuberが本格的に社会の中心に位置づけられるようになると思う。
実際、ファミコン世代のおじさんたちが業界の企画の中心になったことで、テレビCMや対談番組にレトロゲーム要素が増えた現状を見れば、その流れは想像に難くない。ゲーム業界に限って言えば名作ソフトのリメイクが続くのもそうだし、アニメのリメイク作品が次々と制作されるなか、そのほとんどがいわゆる「1980〜90年代に子供時代を過ごした人たち」の作品が多いことからもそれは明らかだろう。
「一部だけが盛り上がっている」ように見られるVTuber界ではあるが、それが世間一般に浸透してきたら、それは新たなエンターテイメントの幕開けと言えるのではないだろうか。
明石家さんまとVTuberのコラボがゴールデンタイムに流れたという事実
2024年12月1日、『誰も知らない明石家さんま 第10回記念』(日本テレビ系 午後7時~9時54分)で、明石家さんまが新企画「さんま VTuberになる」に挑戦したもようがテレビで放送された。
新進気鋭の謎のVTuber、「八都宿ねね(はつどまりねね)」が実は明石家さんまであることが明かされ、現役VTuberたちがその正体を知らされないまま、数度の配信を重ねていたことが明らかになった。
思えばあの企画は最初から錦鯉の渡辺さんがMCとして絡んだりしていたことで、「中身は(あえて中身という言葉を使うが)、かなりの大物なのではないか」という予想は早い段階からファンの間でささやかれていた。
■現在の『八都宿ねね(はつどまりねね)』チャンネルに残っている動画。これまでのアーカイブや動画はすべて非公開となっている。
その模様はテレビのゴールデンタイムで放送されたが、この番組は「VTuberの一般化」という歴史にくさびを打ち込んだ番組であったと思う。VTuberが地上波のゴールデンタイムで放送されるということがどれだけすごいことか。しかもあの明石家さんまがVTuberになって配信するという、ファンにとってはこれ以上ない波及効果があったことも確かだ。
あの放送を見た人は「VTuberってこういう人たちなのか」と理解をしただろうし、全国放送でああいう内容のコンテンツを提供したテレビ局もずいぶん思い切ったことをしたものだと思う。
テレビ界の中でもレジェンドの明石家さんまとVTuberが絡むだけでなく、壱百満天原サロメや宝鐘マリン、さくらみこなどのトップVTuberが「あの」さんまとボケやツッコミを入れながら話しているという図式は、ああいう世界を知らない人にとっては未知との遭遇だっただろうし、刺激的に映ったと思う。
そこを笑いに変えながら番組を構成させていったのは、間違いなくさんまさんの力量、さらにはVTuberでも雑談や双方向コミュニケーションに慣れている人たちだったからこその「奇跡のコラボ」だったからにほかならない。
昔の配信の空気を感じたければ個人勢を見るべし
…と、ここまで書いては来たが、僕はvtuberとか配信者と呼ばれる人たちは「一部だけが盛り上がっていればいいジャンル」だと思っている古い人間だ。
その昔、ピアキャストで本当に一部の変わり者(失礼)が細々と放送していたり、ニコニコ生放送が始まったとき、一部の人が生放送をやっていたり…そんな雰囲気が良かったのに、いつの間にか「ネット配信」というものが一般化し、なんだかあれよあれよという間に「配信者」という人たちが一般化していった。
VTuberが出てきた2018年頃、あの頃はまさに「VTuber=ネット配信者」だった。特にあの頃はにじさんじが強かった印象がある。いや、僕がにじしか見ていなかったせいなのか?月ノ美兎、、キズナアイ、ミライアカリに始まり、そしてにじさんじが出てきて、その後、ホロライブがだんだんと大きな影響力を持ち始めた感じだが…これで合ってるのかな。
企業Vは企業がついているという強みがあり、パフォーマンスや個人のキャラクターにも一定の水準以上のものを提供してくれるという安心感がある。逆に、昔ながらの個人配信者みたいな感じで見たければ、VTuberの個人勢を見るといい。そこにはまだ昔の空気が残っている。
だが、企業Vの活動力は超人である
現在、ホロライブはアイドル路線に舵を切っているのではないかと言われているが、そもそもアイドル事務所である。ネット配信だけではなく、株式上場した以上、さまざまな利益を生む方法を常に模索していかなければならないし、それは企業として当然のこと。
それだけに、演者?と呼んでいいのだろうか。所属しているVTuberの方々は、体力的にも精神的にもすごい仕事をこなしながら先頭を走り続けている。日々、レッスンや収録などで疲れていながらPCの前で配信することは欠かさない。もはや昔のネット配信みたいに、PCの前に座って喋っているだけではいけないのだ。
おそらくだが、配信画面に乗る時間はVTuber全体の仕事量と比べてもほんの一部だろう。提出物やレッスン、配信前の素材・サムネ準備やいろいろあると聞く。
自分のブログに置き換えてみたら、記事を公開する前の準備段階だけでかなり大変なのに、それを毎日やるとなるとずっと家にいてもかなり大変だし、毎日のネタ探しだけで相当疲れるだろう。だから毎日、あれだけ配信している人たちは超人だと思っている。
どこか自分の好きなプロレスラーにも通ずるタフさを感じるし、「好きこそものの上手なれ」という言葉はあるが、あれだけ人の目に触れることをやっていて、アンチコメントも来るだろうし、誹謗中傷とにも対応しなければならない。それで配信以外の活動もしているのだから、とんでもないというほかはない。
こうういった「VTuberの厳しさ」について知りたい人は、VTuberアナリストの河崎翠さんの動画がおすすめ。
ただ、VTuberという新しいタイプの表現はこれからも進化を続け、僕たちの想像を超える可能性を広げていく存在になると思っている。技術の進歩や文化の変化に伴い、VTuberはさらに世界を広げ、より多くの人々の目に触れ、心をつかんでいく存在になるはず。
これからの未来、VTuberが僕たちの生活やエンターテインメントにどのような影響を与えるのか、そして新しい感動をどのように生み出していくのか。
2016年にキズナアイが初めて「バーチャルYouTuber」という名前を使い、その存在が世に出てきて10年近く。いまこそその成長と可能性をともに見届け、ファンはそれを支えていく時期ではないだろうか。
時代は「バーチャルYouTuber」からさらなる進化を遂げた「バーチャルタレント」が求められる転換期に来たのかもしれない。
最後に、今年の年末はホロライブでカウントダウン番組『年末ホロライブ ~ゆくホロくるホロ 2024▷2025~』がある。見よう!
ホロライブの年末特別番組「年末ホロライブ ~ゆくホロくるホロ 2024▷2025~」やカウントダウンライブの配信が決定 - ゲームウィズ
関連リンク
▶ホロライブプロダクション
▶にじさんじ
▶赤見かるび - Twitch
▶河崎 翆 ch / Kawasaki Sui ch. - YouTube
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