リリース: 2015/12/31 (コミックマーケット89)
試聴: ニコニコ動画
販売: 会場限定

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前作「Works 11-14」より1年4ヶ月、コミケ3回分というHSPとしては比較的短いスパンでリリースされたニューアルバム。オリジナル曲「Isotext」「Shiro」とリメイク「Incarnation(2015 Remix)」、そして恐るべき再生数を記録したス◯夫Remix(EDM)は既にニコニコ動画とYouTubeに投稿されたトラックだ。さらにClean Tearsリミックスアルバム参加音源である「Inverse Relation(HSP Remix)」を含め既出音源は5曲、新曲・新リメイクを4曲加えた計9曲60分、HSP流のプログレッシブトランスを存分に堪能できるアルバムとなっている。




前作「Works 11-14」では、最も得意としていたプログレッシブトランス/プログレッシブハウスのほかに、ドラムンベースやEDMといった他ジャンルを強く意識した楽曲が多く収録されていた。元々”鼻そうめんP”名義としては1ジャンルにこだわる姿勢は見せておらず、「YOUTHFUL DAYS GRAFITTI」「Stop Me」など80年代ディスコ・ミュージックへ舵を切った楽曲も投稿している(一応同じダンスミュージックではあるのだが)。その一環で、今までリリースして来なかった様々なジャンルを行ったり来たりして遊んでいるかのように見えたのが2013~2014年であり、その活動歴がおおむねカバーされているのが「Works 11-14」なのだ。なのでサウンドは同一人物が作ったものとは思えないくらいバラエティに富んでおり、これはこれで楽しいのだが裏を返せば各曲がまるでばらばらで、一枚のCDにまとまっている意味を感じさせないものとなってしまっていた。

前置きが長くなったが、今回の「Works 15」は前作よりはるかに”HSPらしさ”を実感できたアルバムだった。今作ではアルバムの随所にEDM(狭義)の要素を感じさせるトラックが多く、特にブレイクのあざとさはEDMの教科書に載せられそうなほど分かりやすい。しかし、よくよく聴いてみると曲の骨格はHSPの十八番であるプログレッシブトランス/ハウスである事が分かるのだ。しかもただ繋げただけではなく、トランス・ハウスを引き立てる調味料としてEDMをちょっと混ぜている、といった塩梅となっており、HSPなりの試行錯誤・創意工夫が見て取れる。以前、Tr.4「Incarnation (2015 Remix)」が投稿された際に、定期寄稿しているフリーマガジン「DAIM」にてレビューをしたことがあるのだが(→Twitter)、その中で自分は”トランスの骨格を持つ曲でさえもEDMを匂わせてくる辺り、完全に路線変更したんだなと思わされた。”と記述したのだが、今なら言える、そんなことはないと。これは路線変更などではなく、もっと高い次元での融合だ。ただ繋ぎ合わせただけではない、音に対する並外れた好奇心と技術、そしてセンスを持ち合わせたHSPならではこその、自らの作風の進化した形を示していたのである。

アルバムを通して聴いていると、ジャンル融合の取り組みは全体として成功しているという印象を受けるのだが、中でもTr.6「Shiro」が素晴らしい。9割方がHSP得意のプログレッシブトランスであり、歌モノならではのクサいまでの叙情性で自称音楽おじさん達を軒並み黙らせる美しさなのだが(特にBメロがいいぞ)、ブレイクで一旦落としてからの展開は見まごうこと無くEDMなのだ。そこから何の違和感もなく再びトランスへと繋いでいるという構成に気が付いてからは、自らの外部にあったジャンルを完璧に自分のものとしたHSPの神業にただひれ伏すしかなかった。

ネタ枠であるTr.3「Su◯eo 2015」とTr.8「Miku-San-Noise」は頭の先から爪先まで思いっきりEDMなのだが、それを除くと今作は収録曲のジャンルが大きく乖離しておらず、最後まで安心して聴けるところもGood。Tr.6「Shiro」の美しさは言わずもがな、Tr.2「Isotext」も先ほど述べた”融合”を高いレベルで実現しており気持ち良い。Tr.7「Inverse Relation(HSP Remix)」はClean Tears作詞曲だが、たとえHSPのビートが鳴っていても歌の節回しはまさにClean Tearsであり、とても新鮮に聴こえる。Tr.9「Acrossgust (2015 Remix)」は今回が初のリメイクとなるが、ハウス色を強めておりこちらもまた新鮮な印象を受ける。最初から最後まで通して聴いて大いに満足できるだけでなく、各曲のキャラがいい具合に立っており完成度の高いアルバムだった。